あなたの言葉が、誰かの“目”になる——「ディスクライバー」という、もう一つの言葉のプロ
映像の情景や人物の動きと表情を言葉で解説し視覚障害者をサポートする「音声ガイド」。JVTAの講座を修了し、2026年「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」のユニバーサル上映作品『彼方の声』(野上鉄晃監督)などを手がけるディスクライバーの浅本由梨子さんは、作中のセリフを訳す字幕や吹き替えの翻訳とは異なり、セリフや音の合間に一から言葉を紡ぐ難しさと日々向き合っている。今回は浅本さんに、作品の熱量を届けるための情報の取捨選択や、独自の言葉選びのこだわりについてお話を伺った。
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◆制作者の想いや画面に込められた伏線を見落とさないために
「たくさんの方が長い時間をかけて作り上げた作品の魅力を、より多くの人に伝えたい。その思いから、細かな演技や小道具、カメラワークなど、画面に込められた意味を見落とさないよう気を付けています。特に、視覚情報によって伏線や人物の感情が表現されている作品では、重要な要素を取りこぼさないよう意識しています。」(浅本由梨子さん)
音声ガイド制作に携わるまでは、同じ作品を何十回も観ることはなかったという浅本さん。今は、繰り返し観ることで、新たな発見や気づきが生まれる面白さがあり、作品に対するリスペクトの気持ちも、見る度に深まっていくという。
◆短編映画『彼方の声』で意識した「鑑賞者の想像の余地」
『彼方の声』は、庄司浩平さん演じる主人公、尚人がAIとして再構築されたかつての恋人・澪(みお)と1日だけの再会を果たす物語。約22分の短編だ。同作は、明確に答えを提示するというよりも、鑑賞者それぞれに解釈が委ねられている作品だと浅本さんは感じたという。そのため、音声ガイドが解釈を誘導したり主観を入れたりして鑑賞者が想像する余地を奪ってしまわないように意識した、と振り返る。

「セリフや声色、間の取り方はもちろん、風景や視線の動き、距離の取り方といった視覚的な情報によって生まれる空気感も大切にされていると感じました。そうした細やかな部分が、鑑賞者それぞれの感じ方につながっていくと思ったので、制作側の意図した表現をきちんと受け取っていただけるよう、丁寧にガイドすることを心掛けました。テーマやシチュエーションが難しい作品でしたが、とにかくこの素敵な世界観を壊さないように、という一心で取り組みました。」(浅本由梨子さん)
◆詰め込みすぎは禁物。ディスクライバーを悩ませる「余白」のさじ加減
音声ガイドのディスクライバーは、映像翻訳者と同じように、多くのリサーチを重ね作品を深く解釈したうえで、ガイドづくりに臨む。学習を始めたばかりの人は「あれもこれも伝えなければ」と多くの情報を詰め込みがちだ。しかし、視聴者はセリフや音のない“余白の部分”も楽しんでいることを忘れてはならない。音を聞いていれば分かることまですべてガイドしてはうるさいと感じさせてしまう。そのさじ加減がディスクライバーにとっての悩みどころだ。
「仕事を始めたころは、そのシーンだけをじっくり見てガイドをつくろうとしていました。しかし、実写ドラマやアニメなど様々な作品に取り組むうちに、ストーリー全体の中で監督さんが大事にしていることや人物同士の距離感などを見極めて、それを軸にしてガイドすることも大切なのだと気づきました。また、音声ガイドの原稿を書くのはディスクライバーですが、監修や当事者のクオリティチェック、収録現場でのご提案などさまざまなご意見をいただきリライトしていくので、最終的にはチームとしてつくりあげるものだと実感しています。」(浅本由梨子さん)
◆主観を排し、「映像で見分けられる情報」をニュートラルに伝える難しさ
複数の意見を取り入れることは重要だ。例えば、古い建物の壁の色一つにしても『クリーム色』ではおしゃれな北欧風をイメージするとの指摘で『黄ばんだ壁』にリライト。夕景の車のライトの流れに「キラキラした」という表現を使った際には、この場面の意味を考慮し、よりニュートラルな表現に変えたこともあったという。また、表情は「悲しい目」「嬉しい顔」といった主観的な表現ではなく、目や眉や口の動きなどをガイドするのが基本だ。浅本さんは日本、韓国、アメリカなどさまざまな国の作品を担当する中で表情の演技にも違いがあり、その伝え方にも工夫が必要であると気づく。とはいえ、映像ではわからないのに、リサーチで得た情報までガイドに盛り込んではならない。結局は、「映像で見たまま」を伝えるという原則に立ち返り、「一度聞いただけで理解できる表現は何か」を追求していく。
◆未来のディスクライバーへ:多面的な視点と視野を広げることの大切さ
浅本さんが「音声ガイド」に興味を持ったきっかけの一つが、視力を失っていくカメラマンと音声ガイドディスクライバーとの交流を描いた映画『光』(河瀬直美監督 2017年)だったという。昨今は声優や俳優がガイドのナレーションを担当するケースも増え、『彼方の声』の音声ガイドのナレーションを、声優の佐々木望さんが担当するなど、幅広い層に認知され始めている。浅本さんは「鑑賞したい映画を、誰もが諦めずに楽しめる社会であってほしい、そのためにも、より多くの人に音声ガイドの存在を知っていただき、利用してもらいたい。」と話す。
「音声ガイドを書く時は、なぜその言葉を選んだのか、どうしてその表現をしたのかを、常に自分に問い続けています。これは、監修者さんや他のディスクライバーさんからいただいたフィードバックに自信をもって返答できなかった経験から、意識していることです。特に、登場人物の感情に触れるシーンでは、伝えるべきことはきちんと伝えながらも、主観に寄り過ぎていないか、いつも悩みます。一つの視点に偏らず、さまざまな可能性を想像しながら言葉を選ぶことが大切なのだと感じます。私自身も多面的に物事を捉え考える力を磨くためにも、多くのガイドを聞き、さらに本や舞台、音楽などさまざまな表現活動に触れながら、興味や視野を広げていきたいと思っています。作品やジャンルによってもテイストが違うので、今後ディスクライバーを目指す方は、日ごろから多くのガイドを聞いてトーンや言葉の選び方、間の取り方などに注力しておくと良いと思います。自分の好みの音声ガイドを見つけることもおすすめです。」(浅本由梨子さん)
映像を見なくても音声だけで映像を楽しめる音声ガイドは、緻密な作品解釈や工夫、検証のもとに作られており、晴眼者にとっても見逃したポイントに気づかせてくれる魅力的なツールだ。映像翻訳者にとっては「言葉のプロとして作品を伝える」という原点を追求する大きな学びがある。まだ利用したことがない方はぜひ、積極的に音声ガイドを利用してほしい。今後、さらなる普及のためにもJVTAはディスクライバーの養成を続けていく。興味のある方はぜひ挑戦してみてはいかがだろうか。

◆「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」
ユニバーサル上映会~ Cinema is Inclusive ~
日時:2026年6月5日(金)16:20-18:10
会場:LIFORK HARAJUKU
料金:無料 ※誰でも参加可
※『彼方の声』を含む3作品が音声ガイドとバリアフリー字幕付きで上映されます。
※声優の佐々木望さんのトークショーがあります。
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