映像翻訳者なら読んでおきたい! メディアリテラシーを学べる絵本が発売
「映像翻訳には、膨大な調べもの(リサーチ)が必要なことに驚いた!!」
これは、多くの受講生・修了生の皆さんから聞く言葉だ。
映像翻訳者を目指す人にぜひ読んで欲しい1冊、絵本『それって本当?メディアリテラシーはじめよう フェイクニュースとクリティカルシンキング』(岩崎書店)が発売された。翻訳をJVTAの受発注部門MTCの片柳伊佐ディレクターが手がけている。
同書は、カナダで子供向けに発売された絵本。ニュース記事ができるまでの過程やインフルエンサーや釣り見出し、信頼できる媒体を判断するポイント、嘘の情報を見抜く方法など現代社会の中での情報との向き合い方を具体的に解説している。編集を手がけた岩崎書店の吉岡雅子さんによると「フェイクニュース」や「メディアリテラシー」という言葉を耳にするようになった2年前に、オリジナル作品を見つけたという。
「電車に乗ると多くの人がスマホの画面を見つめていますが、インターネット上の情報量が爆発的に増えたなかで、大人でさえも情報を上手く取捨選択できているかわからないのに、本書の対象である児童にとってはなおさらだろうと思います。非常に大事な問題ですが、説明や例を挙げるのは簡単ではなく、本書のような、全編イラストの本であれば少しとっつきやすくなるかなと思ったのも刊行を決めた理由のひとつです。海外の本の翻訳なので、取り上げられている事例も客観的に捉えられるのかなと思いました。」(吉岡雅子さん)
吉岡さんと片柳さんは大学時代の友人。片柳さんが学生時代にメディア論を学び、広告やコンテンツの調査・分析などに携わっていたこともあり、翻訳を依頼されたという。作者のジョイス・グラント氏は、児童や先生向けの記事を発信しており、原文の英語はシンプルで語りかけるような文章で書かれている。日本語版の翻訳で片柳さんが最も難しいと感じたのは、こうしたトーンの作り方だった。読者の対象は小学校高学年以上で、中学生や高校生にも読んでもらえる内容だが、内容は専門的で難しい箇所もあり、飽きずに読み進めてもらえる工夫が求められた。
「教育的な内容なので、はじめは『ですます調』で少し堅めの口調を想定していました。今後の方針を決めるために、冒頭の数ページは、比較的堅めのものと思いきりカジュアルに崩したものと2つのパターンを作って納品したのですが、先方の希望はカジュアルでもっと砕けてもいいとのこと。『ここまで振り切ってしまってもいいのか!』と意外でした。自分が思うより思い切り振りきらないと相手には伝わらないことを実感しました。そこで口調は「だね!」「だよ」「なんだ」など「だである調」にし、上から目線にならず、かしこまった感じではなく語りかけるトーンを常に意識しながら訳していきました。ニュース記事などについて扱うシリアスな内容なので、このさじ加減を掴むまでが難しかったですね。絵本なのでイラストとのバランスも大切にしました。」(片柳さん)
片柳さんは翻訳に入る前に、図書館に足を運び、日本語で書かれた子ども向けの本や翻訳本、同じようなテーマの大人向けの本などを読んでトーンや伝わり方を比べてみたという。池上彰氏の子ども向けの本ではどのくらいまでかみ砕いているのかも参考にした。また、アメリカやカナダでは一般に知られていても日本では知られていない文化には、かっこづけで補足を入れた。
「片柳さんは、原文を正確に日本語に翻訳しつつ、原書に散りばめられているジョークなど、そのまま訳しても通じない箇所では、工夫を重ねて、原書のユーモアも伝わりつつ、日本語でも意味が自然と取れるようにする、原書の『ボイス』を生かしつつ、いかに日本語としてすっと頭に入るようにするかなど、苦心してくださいました。」(吉岡さん)
現在、片柳さんがディレクターとして担当するのは、主に自然ものや歴史ものなどのドキュメンタリーのボイスオーバーや映画祭上映作品などだ。日頃の徹底した調べものが欠かせない。
「JVTAで映像翻訳を学んだスキルがなければ、英語力だけを頼りにこの内容を訳すのは難しかったかもしれません。授業で課題に取り組む中で常に綿密な調べものをし、正しい情報に裏打ちされた日本語に訳す重要性を実感し、そのやり方を身につけたことや、限られた字数の中で大事な情報を逃さずに伝えるスキルが役立ちました。原文には、フェイクニュースの見極め方など、一見嘘なのか本当なのか分からない事例も数多くあり、それぞれ丁寧に事実確認をし、申し送りをつけて納品。また、文字数については、絵本全体のスペースのバランスから、吉岡さんと相談の上、今回は2倍メドで進めることに決め、ワード数はページごとに記録に取りながら訳していきました。『原文が英語100ワードだったら、翻訳文は200文字』というイメージです。」(片柳さん)
「片柳さんは、訳出中に気がついたことや調べたことを詳細にメモし、一覧にして渡してくださったのですが、それが、編集上大変助かりました。片柳さんには大変感謝しております。」(吉岡さん)
同書は書店での販売に加え、学校図書館、公共図書館に置いてもらいたい1冊となっている。子ども向けの絵本ではあるが、大人が読んでも勉強になる内容だ。受講生、修了生の皆さんは、ぜひ手に取り、メディアで仕事をする上で知っておくべき基本を学んでほしい。
『それって本当?メディアリテラシーはじめよう フェイクニュースとクリティカルシンキング』(岩崎書店)
ジョイス・グラント 著
キャスリーン・マルコット 絵
片柳 伊佐 訳
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b10040277.html
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