『映画愛の現在』佐々木友輔監督インタビュー リスボンでも共感を得た映画への想い
2022年10月、ポルトガルで行われたリスボン国際ドキュメンタリー映画祭(Doclisboa)で、映画『映画愛の現在』(佐々木友輔監督)が上映された。JVTAはこの作品の英語字幕を担当、修了生の永山南海子さんが手がけた。
映画『映画愛の現在』は、映像作家であり、鳥取大学で准教授を務める佐々木友輔氏が『映画とは何か』『映画はどこにあるのか』『どこに映画を観に行くのか』についてさまざまな映画関係者に問うドキュメンタリー3部作。制作のきっかけは、佐々木氏が東京から鳥取に赴任した際に、鳥取県には映画館が合計3館しかないという現実を知ったことだったという。佐々木監督に、作品に込めた想いや英語字幕制作について、海外上映での反応などを伺った。
◆多様さを多様さのままで提示する
「映画館が少ない地域でも、映画を『見たい』気持ちや『見せたい』気持ちを持つ人々の力によって、多様な作品の上映機会が設けられています。それぞれ好きな作品の傾向や上映したい作品の傾向はバラバラで、映画に対する想いの持ち方も大きく異なっているのをあらためて感じることができたのが、この取材の大きな収穫でした。たとえ一つの作品として収集がつかなくなっても、いささか散漫に見えようとも、そうした多様さに序列をつけたり取捨選択したりせず、多様さを多様さのままで提示し、2010年代終盤の『映画愛』の在り方として後世に伝えることが、この映画の役割であると考えています。」(佐々木友輔監督)
◆ドキュメンタリーは字幕で文脈を正しく伝えるのが難しいジャンル
JVTAが同監督の英語字幕を手がけたのは前作の『コールヒストリー』(2019年 ※英語字幕は野副寛子さん)に続き、2作目となる。『映画愛の現在』には映画館の経営者や映画祭の主催者、映像作家などを訪ねて得たリアルな声が収録されている。ドキュメンタリーは台本やセリフがあるドラマ作品に比べ、対話をしている人同士の共通認識の上に成り立っている会話も含まれ、文脈を正しく伝えるのが難しいジャンルと言える。
「『コールヒストリー』も『映画愛の現在』もそうですが、私の映画は基本的にいつもナレーションの量が多く、また作品や作者などの固有名詞、芸術や社会学などの学術的な語が出てくることも多いので、これを翻訳するのは大変だっただろうな……と申し訳なく思いつつ、細部まで丁寧に大切に作品を読み込んだ上で字幕を付けてくださっているのが伝わってきて嬉しく思いました。」(佐々木友輔監督)
リスボン国際ドキュメンタリー映画祭(Doclisboa)公式サイトより
・『映画愛の現在』第Ⅰ部 壁の向こうで 英語字幕付き 予告編
https://doclisboa.org/2022/filmes/cinephilia-now-part-i-secrets-within-walls/
◆字幕制作は作品自体の印象にも影響を及ぼしうる創造的なプロセス
『映画愛の現在』の英語字幕を手がけた永山さんは登場人物の背景や鳥取の映画事情/イベントなどのリサーチを重ねて翻訳に取り組んだという。さらに細かいニュアンスを佐々木監督と共に確認しながらの作業となった。
「作品名や事実関係を正確に伝えることと、一画面の中に収められる文字数、観客にとって読みやすい文字数とのバランスをどう取るかについて、細かくやり取りをさせていただきました。翻訳・字幕制作作業とは、公式の英題がない自主制作映画のタイトルをどう記載するか、曖昧な記憶について語る言葉をどう解釈し、どう補うかなど、作品自体の印象にも影響を及ぼしうる創造的なプロセスなのだということを実感することができました。」(佐々木友輔監督)
リスボン国際ドキュメンタリー映画祭(Doclisboa)公式サイトより
・『映画愛の現在』第Ⅱ部 旅の道づれ 英語字幕付き 予告編
https://doclisboa.org/2022/filmes/cinephilia-now-part-ii-fellowship-to-cast-the-ring/
◆リスボンでも共感を得た映画への想い
そして、満を持してポルトガルのリスボン国際ドキュメンタリー映画祭での上映へ。佐々木監督は残念ながらコロナ禍で現地に行くことは叶わなかったが、後日、映画祭関係者とオンラインで話す機会を得た。その際も監督からの依頼でJVTAがサポートし、修了生で講師も務める野村佳子さんが通訳を行った。JVTAでは、字幕制作以外もこうした映画祭出品に関するさまざまなサポートをしている。
「鳥取の自主上映についてのドキュメンタリーという非常にローカルな作品が、ポルトガルのリスボンという土地でどう受け止められるか、まったく想像がつかず、それも含めて上映できることを楽しみにしていました。後日、映画祭関係者からオンラインで、『映画愛の現在』が鳥取や日本に留まらず、映画に関わるあらゆる人に共感が得られる作品であるとの言葉をかけていただいたことや、今後の上映活動について具体的な助言をいただいたことは大きな励みになりました。当日はオンラインならではの接続トラブルがありましたが、通訳の野村さんに冷静に対処していただき、無事、有意義な時間を過ごすことができました。」(佐々木友輔監督)
リスボン国際ドキュメンタリー映画祭(Doclisboa)公式サイトより
・『映画愛の現在』第Ⅲ部 星を蒐める 英語字幕付き 予告編
https://doclisboa.org/2022/filmes/cinephilia-now-part-iii-lux-crawler-i/
こうした現地の反響を受け、翻訳者の永山さんは、監督の想いが現地の方に伝わったことが嬉しいと話す。
「元々、日本のことをもっと知ってほしいという思いがあって翻訳を真剣に学ぼうと思いましたので、このように日本のクリエイターの世界への発信のお手伝いができるのが嬉しいですし、光栄に思います。作品の内容も知れば知るほど興味深いものですし、鳥取には1回しか行ったことがありませんが、とても身近な場所に感じることになりました。登場される皆さんの映像に対しての想いや情熱も映像翻訳者としても刺激になりました。このような作品に携わることができて、とても感謝しています。」(翻訳者 永山南海子さん)
◆作品の良き理解者として作り手と受け手をつなぐ翻訳者と出会いたい
日本の作品を海外に届けるには英語字幕が必須だ。翻訳者は、言葉も文化も違う国の人たちに制作者の想いを伝える大切な役割を担っている。今回のように制作者の意図を直接聞いて作業できたことは翻訳者にとっても貴重な体験となった。最後に佐々木監督からJVTAの受講生・修了生の皆さんにメッセージを頂いた。
「映画やドキュメンタリーの制作を行う者にとって、翻訳や字幕制作をお願いできる方の存在はとても心強く、また励みにもなります。翻訳された言葉を通じて、自らの作品をこれまでと違った角度から見つめ直すことで新たな発見があり、次の構想につながるアイデアが得られたこともありました。今後も、作品の良き理解者として作り手と受け手をつないでくださる翻訳者の方と出会い、共にお仕事ができるのを楽しみにしています。」(佐々木友輔監督)
◆映画祭の現在 公式サイト
https://qspds996.com/cinephilianow/
【関連記事】
【JVTAが英語字幕を担当】『映画愛の現在』がリスボン国際ドキュメンタリー映画祭(Doclisboa)で上映
https://www.jvta.net/tyo/cinephilianow/
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