News
NEWS
TYO

アワード番組の翻訳はまるで“祭り”?!第77回エミー賞の字幕翻訳をJVTAが担当

アワード番組の翻訳はまるで“祭り”?!第77回エミー賞の字幕翻訳をJVTAが担当

アメリカ時間の2025年9月14日、第77回エミー賞の授賞式が開催された。
本番組は、日本ではU-NEXTがライブ配信。9月19日(金)からは、字幕版のアーカイブ配信がスタートした。

JVTAは今回も同番組の字幕翻訳を担当。総勢40名を超える映像翻訳者が集まり日本語版字幕制作に臨んだ。

今回はエミー賞翻訳チームに参加した5名の翻訳者から、翻訳作業に関するお話を聞いた。

【インタビュー回答者】
小池綾さん(2011年 英日映像翻訳実践コース修了)
八木真琴さん(2019年 英日映像翻訳実践コース修了)
山田由依さん(2021年 英日映像翻訳実践コース修了)
武政涼子さん(2022年 英日映像翻訳実践コース修了):誤訳チェック
水野可南子さん(2025年 英日映像翻訳実践コース修了):テロップ翻訳

アワード番組ならではの「緊張感」と「スピード感」
アメリカで「テレビ界のアカデミー賞」とも言われるエミー賞。映画ファンがアカデミー賞で盛り上がるように、ドラマファンにとっては1年に1度の大イベントである。そんなエミー賞の翻訳チームには、海外ドラマのファンである翻訳者が多く参加している。

「エミー賞ではその年に放映された面白い作品を知ることができるので、これを機会に視聴する作品も多く、興味を持って翻訳することができました」(八木さん)

「授賞式当日までノミネート作品を可能な限り見たり、作品情報をチェックしたりするように努めています。この時期に大好きな海外ドラマを集中的に視聴できるのも、『これがママの仕事だよ』と家族に堂々と言えるのも、まさに映像翻訳者の醍醐味だと感じています」(武政さん)

アメリカにはこのエミー賞をはじめ、アカデミー賞、グラミー賞、トニー賞と、4大エンターテイメント賞がある。このようなアワード番組の翻訳は多くの場合、一般的なテレビ番組よりもはるかに短い時間での完成を求められる。出演者も多く、ノミネート作品に関するリサーチも必須。限られた時間内で正確に、番組の雰囲気にふさわしい字幕を作らなければならない。アワード番組の翻訳には独特の緊張感とスピード感があると言える。

「エミー賞の翻訳はスピード感が求められる仕事ですが、新しいドラマの情報をたくさん知ることができるのでワクワクしました」(小池さん)

「『アワード番組の翻訳はお祭り』と聞いたことがあったのですが、まさにお祭りのような独特の熱気と緊張感に満ちており、その中に身を置けたことを大変幸せに感じました」(水野さん)

「たくさんの著名な俳優が集う授賞式は、華やかな衣装や会場の装飾に胸が躍る一方、どの作品が、どの出演者が受賞するのか、視聴者側にも緊張感が伝わってきました」(山田さん)

翻訳チームは4グループ体制。テロップ翻訳やチェック作業の専任者も。
限られた時間で長尺の番組を翻訳するチーム翻訳は、役割を分担して行われる。今回のエミー賞であれば、聞き起こし担当・翻訳担当・テロップ翻訳担当・チェック担当と、大きく4つの役割があった。

アワード番組には台本がないため、まず聞き起こし担当者達が映像を見て、番組の内容を文字に起こす。そうして作られたスクリプトを基に、翻訳担当者達は字幕の制作を行う。今回は「テロップ翻訳担当」として、画面に出てくる文字情報のみを集中して翻訳する役割も設けた。翻訳担当とテロップ翻訳担当が制作した字幕を、最後にチェック担当者達がダブルチェック。翻訳が抜けている部分がないか、固有名詞で表記が異なっているものがないか、誤訳がないかなどを第三者の目でチェックし、最終的に納品となる。

各役割にはそれぞれの難しさ、工夫のしどころがある。

「翻訳の際は話者のトーンが重くなりすぎず、かと言って軽すぎないよう授賞式の雰囲気に合わせて調整を行いました」(小池さん)

「私の担当パートでは、私が未視聴だったサバイバル系長寿番組の司会者がプレゼンターでした。その番組のルールになぞらえて受賞者を発表していたため、そこをつなげるのに苦労しましたね。番組を見たことがある人にもない人にも伝わるように表現を工夫しました」(八木さん)

「今回の授賞式は受賞者のスピーチ時間に制約がありました。そのため受賞者が割と早口で話しており、内容をまとめて訳出したり、削ったりする点に頭を悩ませました」(山田さん)

「テロップ翻訳では、ふわっと現れるテロップに、字幕をいかに自然に溶け込ませるかという点に注力しました。また、字幕を出す位置について他のテロップ翻訳担当の皆さんと相談しながら作業するなど、大変学びの多い経験となりました」(水野さん)

「私は誤訳のチェックを担当しました。授賞式のスピーチには決められた原稿がなく、話者が何を話すか分かりません。そのためボディランゲージや表情も映像で確認し、文脈だけに頼らない『ニュアンス』も見落とさないように努めました」(武政さん)

新人はベテランの背中を追い、ベテランは初心を思い出すきっかけに
40名を超える翻訳者が集まり取り組んだエミー賞の翻訳。参加した翻訳者は最近プロデビューしたばかりの方からベテランまで、キャリアも様々だ。自分以外の翻訳者の取り組みから新たな発見を得たり刺激を受けたりすることもある。アワード番組の翻訳を経験することで、映像翻訳者としてのモチベーションもアップするようだ。

「製作者の各作品に懸ける情熱や、受賞した時の感動を、文字数が限られた字幕の中でも視聴者に感じていただけるよう、今後も精進したいと思います」(八木さん)

「固定観念を持たず、『何事もリサーチをしっかりと行う』ということを念頭に置いて、これからも翻訳を続けていきたいです」(小池さん)

「わずか数時間で素晴らしい訳文を完成させる先輩方の背中を拝見し、大きな感銘と刺激を受けました。速さだけでなくクオリティも両立できる翻訳者になるには、まだ自分に足りない部分が多いことを痛感しましたが、この経験を糧に、これからも学び続け成長していきたいと強く感じています」(水野さん)

「以前、チーム翻訳でお仕事をご一緒した先輩翻訳者さんにお会いした際に『いい字幕を作る』のはもちろんのこと、『(字幕を通じて)いい作品を届ける』のが映像翻訳者の仕事だと改めて教えていただきました。JVTAのスクール生時代、講師陣にも教えられていたことだったのに、デビューから数カ月、すっかり忘れて字幕のことばかりを気にしていた頃でハッとさせられたのを覚えています。チーム翻訳は役割が細分化されているので、自分の役割ばかりに目が行きがちですが、『(より)いい作品を届ける』という意識のもと、今後も取り組んでいけたらと思っています」(武政さん)

新人翻訳者からベテラン翻訳者まで、多くの翻訳者が協力して完成させたエミー賞の翻訳。翻訳は孤独な作業になりがちだが、チーム翻訳では他の翻訳者の存在を感じながらの作業となる。たとえ部屋にいるのは1人でも、「今この瞬間に、同じ作品の翻訳に心血を注いでいる翻訳者がいる」と感じられるのだ。

1つの作品を良いものにするために、多くの翻訳者が一斉にゴールへと向かって作業を行うさまは、まさしく“祭り”のようである。これから映像翻訳を学習する人も、すでに映像翻訳者として活動している人も、次の機会を楽しみにしていてほしい。

第77回エミー賞 字幕版の視聴については▶こちら

関連記事

日本人俳優による快挙の瞬間を翻訳!エミー賞授賞式

少しのミスも見逃さない!覚悟を持って挑んだ「エミー賞」字幕翻訳

第73回エミー賞 字幕翻訳の舞台裏

◆【2025年10月期の受講申込を受付中
学校説明会を随時開催!
約1時間でJVTAの詳細が分かるイベントや個別の相談会などを随時開催しています。映像翻訳にご興味をお持ちの方はお気軽にご参加ください。