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【東京芸術劇場に取材】 舞台公演やコンサートの鑑賞サポートとは

【東京芸術劇場に取材】 舞台公演やコンサートの鑑賞サポートとは
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皆さんは舞台公演のバリアフリーについてご存じですか?
東京・池袋にある東京芸術劇場では、視聴覚障害者の方も公演をより楽しめるよう鑑賞サポートを行っており、現場ではJVTAのバリアフリー講座の修了生も活躍しています。具体的にどのような活動を実施しているのか、同劇場の事業企画課事業調整係、佐藤宏美さんにお話を伺いました。
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提供・東京芸術劇場

 
東京芸術劇場 事業企画課事業調整係
佐藤宏美さん
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◆舞台説明会、音声ガイド付き公演、ポータブル字幕機提供サービスを実施

演劇公演で見えづらい人への舞台説明会を初めて開いたのは2009年です。2012年からは聞こえづらい人への「ポータブル字幕機提供サービス」とセットで、年間4~5公演で各1~2回ずつ行ってきました。年によって頻度は異なりますが、いろいろな工夫を重ねながら、コンスタントに実施しています。
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『BOAT』舞台説明会の様子
2018年7月16日 (月・祝) ~2018年7月26日 (木)
東京芸術劇場プレイハウス
提供・東京芸術劇場
 
聴こえない方はお一人でいらっしゃる方が多いので字幕サービスは1回の公演に20名を受入れできますが、見えない方は付添いの方といらっしゃる場合が多いので、付添いの方を含めて20名を上限としています。
 
開演前の舞台説明会に加えて公演中のライブ音声ガイドを始めたのは、2017年からです。同年に1本、2018年に2本、2019年に2本の公演に付与しました。課題は、まだ作り手の専門家が少ないこと。音声ガイドは絶対に出演者の発するセリフに声がかぶってはいけないですし、生ものなのでアドリブで対応できる柔軟さも必要です。舞台芸術に詳しいこと、関心が高いことが、ガイドをしていただく大前提となりますし、そのうえに専門的な知識も求められるので、なかなかできる方がいないのが現状です。今後さらに多くのプロの方の養成が望まれます。
 
◆コンサートホールでも視聴覚障害者のための公演説明会を開催

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提供・東京芸術劇場
 
コンサートホールではほぼ毎月パイプオルガンのコンサートがあり、視覚障害者の方を対象に公演説明会を行っています。演奏される曲目や作曲家、演奏家のプロフィール、楽器などについて解説します。こちらも付添いの方を含めて定員は20名です。コンサートホールに設置された世界最大級のパイプオルガンに興味をお持ちの方がとても多く、パイプの模型に触れていただき、「このようなパイプが約9000本あるんですよ」とお伝えすると喜ばれます。今後も、コンサートをより楽しんでいただけるよう工夫を重ねていきたいと考えております。

 
◆字幕はポータブル字幕機を膝の上にのせて鑑賞

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提供・東京芸術劇場
 
演劇公演では、聞こえづらいお客様に「ポータブル字幕機」を貸出し、膝の上にのせて字幕をご覧いただきます。スマートフォンに字幕を出すサービスは字が小さいことが難点ですが、タブレットの場合は字が大きく太く表示されるので見やすいと思います。字幕は、台本のデータから起こして字幕のデータを作り、本番中に専門業者の方が手動で「ポン出し」をしています。ご利用者の方の操作は全く必要なく、機器を預かったらそのまま自動でご利用いただけます。メガネタイプの字幕機をご希望の方もいらっしゃるのですが、技術的にメガネとポータブル字幕機の併用はできず、当劇場ではタブレットタイプの字幕機を使用しています。
 
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提供・東京芸術劇場
 
お客様は舞台と字幕を同時に観ることになりますので、字幕機を膝の上に斜めに立てかけられるよう、肩紐やクッションなどで位置を調整していただきます。主に客席の中ほどの列のお座席にご案内するのですが、この場所はヒアリングループという磁気ループの機能も利用しやすい位置でもあります。これは床下に磁気を這わせてあるもので、舞台上の音を拾って、人口内耳や磁気コイル付き補聴器を使用の方に聴きやすくなる機能があります。当劇場では、1990年の開館当時から、4つのホール全てに設置されています。広い劇場の中でもカバーエリアがあるのですが、舞台上の音を聴きやすく、字幕も見やすいのが中央列付近なのです。
 
◆字幕は衣装の色に合わせて色を変えて表示することも

字幕制作は専門業者さんに依頼していますが、私たちも一緒に相談しながら作っています。たとえば、誰のセリフかがわかるようにするために、話者名を入れると、長くて字を追いきれないので、話者別に文字の色を変えるなど、少しでも読みやすい字幕になるよう工夫を凝らしています。当初は男性の出演者が水色、女性の出演者がピンクをあてていた字幕を、「衣装の色に合わせて逆にしましょう」と直したこともありました。多くの色を選択できますが、読みやすい色であることが何より大切です。基本的には、セリフを台本どおりに字幕にします。音楽や音響効果など、台本にない音声情報も、公演の映像で何度も確かめながら、字幕に加えていきます。たとえば、「静かなピアノ曲」など、ごく簡潔な短い表記にしています。

 
◆開演前の場内アナウンスなども字幕で表示

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提供・東京芸術劇場
 
開演前や休憩時の場内アナウンスなども字幕機に表示していますが、席から離れていている時には見ていただけず、携帯電話の電源が入っていたり、飲食をしてしまったりするトラブルもあります。周囲のお客様に不快な思いをさせてしまうことがないよう、字幕だけでは足りないと考えて、現在は場内アナウンスの注意事項などは紙でもお渡しするようにしています。何かご要望やご意見を頂く度に少しずつ改善しています。

 
◆鑑賞サポートは事前予約が基本

鑑賞サポートは、事前予約制(締め切りは1週間前だが、定員に達したら受付終了)で基本的に障害者手帳をお持ちの方が対象です。お申し込みは聴覚障害者の方はメール、視覚障害者の方はお電話での受付がほとんどです。今年8月の『お気に召すまま』は人気が高く、募集開始後3日で締め切りになりました。演劇公演の場合、視覚障害者の方をご案内するのは舞台に近いお席のことが多いです。弱視の方は近い方が見えますし、音や振動など臨場感も伝わりやすく、盲導犬も足元に座ることができます。
 
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※総合受付には多言語(日本語、英語、韓国語、中国語の繁体字と簡体字)のパンフレットを設置
 
多くの演劇公演で、ご本人や付添の方に割引料金を適用しています。付添いの方のご負担を減らすことで、より多くの方にご利用いただく機会が増えればと考えております。付添いの方が異性の場合は同性のスタッフが、舞台説明会や休憩時にお手洗いのご案内などをしています。
 
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ちなみに、ロシアの来日公演『三人姉妹』は全編がロシア手話で演じられる作品でした。鑑賞サポートはありませんでしたが、1日で30名近くのろう者のお客さまが来場されました。手話通訳者のサポートを受けつつ、我々スタッフも筆談で対応しました。
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※総合受付には筆談機や車椅子を設置
 
◆新規の利用者を増やすことが課題

演劇公演の鑑賞サポートの利用者は、演劇に詳しいリピーターの方が多いので、鑑賞サポートもコアなファンの方にご満足いただける内容を心がけています。やはり、一般的に視覚障害者の方にとって舞台公演は遠い世界であり、新規のお客様に来ていただくのは容易なことではありませんが、情報を求めている方々、潜在的に舞台芸術に関心をお持ちの方々に的確にご案内を届けていくことが課題です。
 
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※JVTA修了生 彩木香里さんが解説を担当した舞台説明会の様子
詳細はこちら
 
当劇場では、前衛的で実験的な作品の公演も多いのですが、お客様の選択肢を増やすためにも、クラシックなものから最新の前衛的なものまで幅広い作品に鑑賞サポートを付与し、お好みの作品を選べるようにできるのが目標です。数少ない鑑賞サポート付きの公演だからという理由で鑑賞されたものの、お好みとミスマッチ、ということにならないようにしたいですね。

 
◆鑑賞サポートを楽しんでくださるお客様の存在が励みに

鑑賞サポートにご参加の方には、アンケ―トにご協力をお願いしています。舞台説明会と音声ガイドをご利用されたことで、前衛的な作品でもこんなに深く理解し楽しんでくださったのかと、お客様のご感想に驚かされることも少なくありません。何よりの励みになりますね。クラシックな作品を新しくアレンジした作品をご覧になった方から、「昔の脚本を読み直してきたけど、今回はずいぶん違うんだね」と、率直なご感想をいただくこともあります。実験的な作品には「全くわからなかった」というお声もありますが、これはある意味、晴眼者の方と同じ反応と言えます。他の劇場も含め、今後、鑑賞サポートがどんどん増えて、視聴覚に障害のある大勢のお客様にも劇場ライフを楽しんでいただける環境が整っていくことを願っています。

 
※当劇場の次回の鑑賞サポートは下記で実施されます。
ランチタイム・パイプオルガンコンサート(2020年1月3月)
ランチタイム
ナイトタイム・パイプオルガンコンサート(2020年2月)
ナイトタイム
演劇公演『カノン』(2020年3月公演)

カノンメインv2
東京芸術劇場のバリアフリー対応作品は下記でご確認ください。

https://www.geigeki.jp/fukushi/index.html
東京芸術劇場 公式サイト
https://www.geigeki.jp/
東京芸術劇場 バリアフリー情報はこちら
【関連記事】【バリアフリー講座修了生・彩木香里さん】舞台の音声ガイドを作るということ
 
◆MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座
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