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【第18回難民映画祭】翻訳者に聞く見どころ①『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』

【第18回難民映画祭】翻訳者に聞く見どころ①『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』
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「第18回難民映画祭」が11月6日(月)からオンライン配信と東京上映のハイブリッドで開催される。この映画祭は、世界で紛争や迫害によって家を追われた人々にフォーカスした作品を上映し、難民支援の理解を深めることを目的として、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)駐日事務所の主導で 2006年から開催(2017年からは国連UNHCR 協会が主催)。これまで260 作品 を上映し、10 万人以上の人たちが参加してきた。JVTAは協賛企業であり、第3回目の2008年から字幕制作にボランティアで協力し、多くの受講生・修了生が翻訳者ならではのカタチでサポートを続けてきた。今年は日本初公開作品のうち、3作品の日本語字幕をJVTAの修了生23名が3つのチームに分かれて担当、2作品はJVTAの指導のもと、明星大学と青山学院大学の学生が日本語字幕を手がけている。
 

 
今年の上映作品はすべてドキュメンタリー。さまざまな地域でそれぞれの困難に立ち向かう人々を追っている。今回は『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』の見どころと翻訳秘話について、翻訳チームリーダーの茂貫牧子さんとサブリーダーの川瀨綾乃さんに話を聞いた。
 
◆翻訳チーム(担当パート順)
押川 真由子さん
川瀨 綾乃さん
杉田 訓子さん
砂川 絵美さん
永井 美紅さん
牧 千草さん
茂貫 牧子さん
薮田 めぐみさん
綿貫 加奈さん

 
※『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』 予告編

 
主人公は、ベネズエラ出身の世界的指揮者、グスターボ・ドゥダメル。世界各地で未来ある子供たちに演奏を指導し、支援を続けている。しかし、祖国ベネズエラ全土で大規模な反政府デモが起こり、国外に逃れる人が急増。自らも国外での演奏活動から帰国できなくなり、各国の演奏会も中止が相次ぐ事態に。それでも彼は、新たな仲間と楽団を起ち上げ、音楽の力で人々に希望を与え続けていく。

 
「見どころは、なんといっても、各楽団でドゥダメルが指揮をしている演奏シーンです。練習のシーンも、演奏会のシーンも同じように迫力があり、音の世界に引き込まれていきます。私は、そんなにクラシック音楽に詳しくないのですが、聞いたことがある曲が多く登場し、その曲について言葉で表現する指揮者ドゥダメルの独特な感性に触れられるので、今まで知らなかった音楽の聴き方を教えてもらったような気がしました。」(茂貫牧子さん)
 
「ダイナミックな演奏シーン、と言いたいところですが、描かれる音楽の素晴らしさはもちろんのこと、何よりグスターボ・ドゥダメルの強烈に前向きで明るい人柄が映し出されている点が、魅力です。音楽が好きで好きで、どんなに困難な状況に陥っても、音楽のために身を捧げる姿。音楽の可能性を誰よりも信じて突き進む彼のエネルギーを感じてもらえる映画だと思います。」(川瀨 綾乃さん)

 
茂貫さんは、昨年2022年も難民映画祭の字幕翻訳チームに参加し、『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』の字幕を手がけた。(関連記事)同作は、2023年4月に劇場公開となった話題作だ。チームで話し合いながら言葉を選んだことがとても勉強になり、さらに社会にとって役に立てる側面があった大切な経験だと話す。一方、川瀬さんは今年が初参加。7月に国連UNHCR協会からゲストをお迎えした翻訳のキックオフミーティングで、各上映作品の解説を聞き、どの作品にも、「これ(翻訳を)やってみたい!!」と感じさせる引力があったという。『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』は、難民問題に加え、音楽がベースにあり、調べものが不可欠だ。チーム内でもさまざまな話し合いを重ねた。
 

Cinematographer Buddy Squires films Gustavo Dudamel as he addresses Simón Bolívar Symphony Orchestra. Date: 20170216 Location: Caracas Photographer: Anabel Morey

 
「最初に悩んだ点は、音楽の専門用語です。言葉の意味の解釈はもちろん、プロの指揮者と楽団の話なので、あまり平坦な言葉を使うのも違和感があります。同時に、難民映画祭で上映される作品であり、音楽関係者だけが見るドキュメンタリーではない、という点を考慮して、専門用語の訳し方をチームで相談しました。幸いにして、サブリーダーの川瀬さんをはじめとして、チーム内に吹奏楽経験者が複数名いたこともあり、ドゥダメル氏が楽団に出している指示の意図など、そのシーンにあった字幕を作成することができたのではないかと思っています。また、ドゥダメル氏の立場から、様々な方との会話のシーンがあり、彼の性格の一貫性を失わないように、字数制限の中でトーンや上下関係などを表現することに苦慮し、みんなで調整を図るために話し合いました。」(茂貫さん)
 
「オーケストラや音楽、楽器演奏などの専門的な内容を含むものだったこともあり、オーケストラ用語や音楽用語をどこまで噛み砕いて表現すべきか、という点については幾度も議論したことを覚えています。楽器演奏の経験をもつメンバーが数名チームにいたため、指揮者からの指示としてどういう表現が自然か、といった内容を共有しながら進めました。また、この作品の舞台であるベネズエラがスペイン語圏であり、作中でもスペイン語の音声が多かったのですが、チームリーダーの茂貫さんがスペイン語を話せる方でした。基本は英語字幕を基に翻訳したのですが、細かいニュアンスについては、みんなでリーダーを頼らせてもらいました。」(川瀬さん)
 

Gustavo Dudamel conducts A Mi Maestro rehearsal in CorpArtes Cultural Center. Date: 20180627 Location: Santiago Photographer: Diego Araya

 

難民映画祭の上映作品には、報道では取り上げられない一人ひとりの生活が映し出されている。その日常を知ることで、彼らが失ったものや求めているものが見えてくる。翻訳者にとっても学びの多い体験であり、多くの修了生が最も印象に残る担当作品としてこの映画祭の上映作品を挙げるのも特徴だ。
 
「難民といえば、紛争や気候変動が大きな原因だと思っていましたが、文化という人類にとって貴重な財産でも、独裁的な政治の前では時にこんなに無力なのだという点を思い知らされました。ましてや、国を代表するオーケストラの団員なら優遇されていても不思議ではないのに、国家によってむしろ邪魔されており、それでも、祖国のために、自分や楽団の価値を上げ、ひいては国家そのものの価値を上げようと闘い続けていることを知ることができて良かったと思っています。難民映画祭を通じて絶望しても不思議ではない状況に立ち向かう人々の力強さを描く作品に多く出会い、『支援を求める人=弱い人』ではない、ということを改めて意識するようになりました。」(茂貫さん)
 
「翻訳の観点では、『流れ』や『トーン』の大切さをより強く意識する機会になったと思います。授業でも度々指摘を受けていた点ではあったのですが、チーム翻訳という形態を通して改めてその重要性を知ることができました。例えば、指揮者ドゥダメルがオーケストラのメンバーに指示を出す場面でのちょっとした口調や語尾が、担当パートごとに微妙に違うだけで違和感になる、といったこともその一つです。自分一人でやっていては見えなかったことです。また、この難民映画祭という活動を通して、ドキュメンタリー映画の魅力をより深く知ることができました。作中の台詞にもありましたが、芸術は単なる娯楽ではなく、それを見る人々の心や生活に影響を与える力があるのだと実感しました。今はただ、ドゥダメルさんの指揮を実際に観てみたいという気持ちでいっぱいです。」(川瀬さん)
 

演奏シーンが多く、初めて難民映画祭に参加する人にもおすすめの1本。ぜひ、ドゥダメル氏の情熱に触れて欲しい。
 

Gustavo Dudamel smiles as he wraps up Encuentros performance in Palacio de Bellas Artes. Date: 20180304 Location: Mexico City Photographer: The Gustavo Dudamel Foundation / Gerardo Nava

◆『ビバ・マエストロ! 指揮者ドゥダメルの挑戦』
詳細と視聴申し込みはこちら (この作品の東京会場の上映は満席です)
https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/rff#movies
 

 

◆「第18回難民映画祭」
【オンライン開催】  2023年11月6日(月)~11月30日(木)
【劇場開催(東京)】 2023年11月6日(月)/11月23日(木・祝)/11月25日(土)
公式サイト
https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/rff
 
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