「8回の受験」を経てプロへ。日英映像翻訳者アドリアン・ゴディネズさんが語る、挫折を乗り越えられた“サポート”の力
JVTAでは2026年10月期より、映像翻訳コースがリニューアル。「映像翻訳VODプログラム」として、“オンデマンド授業+個別サポート”の新形式へと生まれ変わる。30年の映像翻訳者育成で培ったノウハウを詰め込んだ「VOD授業」と、JVTAが大切にしてきた“個別に寄り添う指導”をパワーアップさせたトレーナー&メンターによる面談で、プロの映像翻訳者を育成する。
JVTAでは課題のフィードバック、コース修了毎の個別面談、プロ化試験(トライアル)受験者への個別の評価表配布など、これまでも受講生一人ひとりのサポートに力を入れてきた。「映像翻訳VODプログラム」は、その個別サポートを“さらに手厚くする”ということになる。
講師の励ましのおかげでプロデビューまでの日々を乗り切れたと語るのは、日英映像翻訳者として活躍しているアドリアン・ゴディネズさんだ。メキシコ出身のゴディネズさんが日本に興味を持ったきっかけは、幼いころにテレビで見たアニメ。様々なアニメを字幕や吹き替えで見る経験を通し、日本語や日本に惹かれるようになった。やがて日本語を学び始め、交換留学生として日本で学んだこともある。大学卒業後は磨いた語学力を活かして、自動車メーカーの通訳やマニュアルなどの文書翻訳を担当。その後日本のNGOで働くことになり、東京へと拠点を移した。現在は映像翻訳者として、日本のアニメやバラエティ番組のPLDL(Pivot Language Dialogue List/日本語の作品を英語に翻訳し、それをベースにしてさらに多言語へ展開する手法)、映像作品の字幕翻訳などを数多く手掛けている。また母国語であるスペイン語のゲーム翻訳などにも携わっている。
映像翻訳ならではの文字数制限に悩む
もともと翻訳・通訳の経験があったゴディネズさんだが、映像翻訳の学習当初は、映像ならではの難しさと向き合うことになった。まず頭を悩ませたのは、字幕の文字数制限だ。
「英語字幕では、文字数制限でとにかく頭を悩ませました。そのまま翻訳するだけでは絶対に文字数に収まりません。どのように情報をセリフに凝縮するか。毎回、訳を何度も考え直しました」(ゴディネズさん)
日本語字幕と同様に、英語字幕にも様々なルールがある。文字数制限はもちろん、改行をする箇所や記号の使い方にも気を配る必要がある。ルールから外れることなくセリフの意図を伝えるために言葉を言い換えたり、出すべき情報に優先順位をつけて整理したりと、映像翻訳者は様々な工夫を凝らしている。このような対応の仕方を、ゴディネズさんは授業を通して学んでいった。
文字を見るだけでは分からない、「映像と合わせた時の見え方」
字幕翻訳では、「字幕の見え方」も非常に大切な要素だ。字幕は、ただそれだけで完結するものではない。映像と合わせたときに自然に、ストレスなくセリフやストーリーを理解できることが重要だ。
JVTAの映像翻訳学習では、初期は字幕制作の専用ソフトを使わなくても学習を進められるようになっている。しかしゴディネズさんは「自分の作った字幕が映像上でどのように見えるか、実際に見ることが役立った」という。
「コース受講中に石井講師にもらったアドバイスは、『無料の映像編集ソフトでもいいから、課題で作った字幕を自分で映像にのせてみるといい』というもの。実際にやってみると、文字だけで見ていた時とは全く印象が違いました。自分の字幕がどう見えるのか、実際に映像と合わせてみることがとても大事だと思いましたね」
翻訳だけでなく、物語の分析についても学んだ
映像翻訳者が手掛ける映像は、映画やドラマだけではない。ドキュメンタリー番組、バラエティ番組、アニメーション、近年はSNSで配信される動画や企業が制作するPR動画などにも字幕翻訳や吹き替え翻訳のニーズが高まっている。
映像のジャンルが変われば、翻訳の仕方も変わる。映像翻訳者は作品を分析し、話の流れやメインとなる視聴者層を考えて翻訳する。そのためJVTAでは、作品を正しく理解し分析するための「作品解釈」の授業を設けている。
「作品解釈の授業はとても面白かったです。日本の物語は一般的に起承転結の4部構成。メキシコだと3部構成が多く、物語の作り方に違いを感じました」
ジャンルだけでなく、作品の舞台や時代設定によっても登場人物の話し方が変わる。たとえば、日本の時代劇と現代劇ではセリフ回しが大きく異なる。ゴディネズさんは日本語も英語も非常に流暢だが、作品によっては自分の語彙だけでは足りないと感じることもあるという。しかし、「これまで触れたことのなかったジャンルの作品に出会えることも、映像翻訳の面白さ」だと笑う。
講師の励ましで続けられた、トライアル合格までの道のり
JVTAではコースを修了すると、映像翻訳者としてデビューするための「プロ化試験(トライアル)」を受験することができる。受験に回数制限はなく、合格するまで何度でも挑戦が可能だ。また合格・不合格が決まるだけでなく、受験者全員に個別の「評価表」を配布。受験者は自分の翻訳のどこが良く、どこに改善点があるのかが分かるようになっている。さらに、合格一歩手前の「次点」を設け、次点に入った人には映像翻訳ディレクターも務める講師が個別でフィードバックを行っている。
ゴディネズさんは、合格まで8回ほど受験。そのほとんどが次点で、あと一歩のところでなかなか合格にたどり着けなかったという。
「ほぼ毎回次点で、とても悔しかったです。でも、それでもめげずに続けられたのは講師の方々のおかげです。次点のフィードバックでは、講師の皆さんが毎回丁寧にアドバイスをくれ、さらに励ましてくれました。フィードバックが終わると、『また次を頑張ろう』とやる気が出ました」
大好きなマンガ家の最新作翻訳に携われた
最後まで諦めない心を持ち努力を重ねたゴディネズさん。晴れて映像翻訳者としてデビューし、今では毎日が忙しいほど活躍している。日本のアニメや実写ドラマ、バラエティ番組のPLDL、人気アイドルのSNS動画の英語字幕、またアニメの短編映画ではスペイン語の字幕翻訳も担当した。
これまでで特に印象的だった仕事は、「大好きなマンガ家の最新作に携わったこと」だという。
「子供のころから好きだったマンガがあるのですが、その作者さんの新作でPLDLに携わることができました。自分が日本語を勉強し始める前から好きだった作品の作者さんだったので、その方の新作を世界に送り出す一環に関われたことがとても感慨深かったです」
幼いころに触れた日本のアニメへの想い、前職での翻訳や通訳の経験、母国語であるスペイン語や文化知識。それらすべてが、現在のゴディネズさんのキャリアに活かされている。どんな人生経験も役に立つ可能性があるのが映像翻訳。まさに“100人の映像翻訳者がいれば100通りの活躍の形がある”のだ。
JVTAの「映像翻訳VODプログラム」では、これまで行ってきた個別サポートを「メンターの個別カウンセリング」「トレーナーのトレーニング・セッション」と明確に定義し、さらに強化して行っていく。VODプログラムなので、海外在住の方にとってもさらに学びやすくなるはずだ。自身のルーツや強みを活かしながら、活躍できる映像翻訳者を目指してほしい。

アドリアン・ゴディネズさん
2021年日英映像翻訳科を修了。現在はフリーの日英映像翻訳者として日本のドラマやSNS動画、企業動画の英語字幕、アニメや実写ドラマ・バラエティ番組等のPLDLなど幅広く担当。またゲーム会社にも所属し、スペイン語と日本語の翻訳やチェックに携わっている。
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