【修了生・青井夕子さんインタビュー】プロデビューに必要なことはすべて、授業と講師のアドバイスにあった
JVTAでは2026年10月期より、映像翻訳コースがリニューアル。「映像翻訳VODプログラム」として、“オンデマンド授業+個別サポート”の新形式へと生まれ変わる。30年の映像翻訳者育成で培ったノウハウを詰め込んだ「VOD授業」と、JVTAが大切にしてきた“個別に寄り添う指導”をパワーアップさせたトレーナー&メンターによる面談で、プロの映像翻訳者を育成する。
JVTAでは課題のフィードバック、コース修了毎の個別面談、プロ化試験(トライアル)受験者への個別の評価表配布など、これまでも受講生一人ひとりのサポートに力を入れてきた。「映像翻訳VODプログラム」は、その個別サポートを“さらに手厚くする”ということになる。
JVTAの英日映像翻訳科を修了し、プロの映像翻訳者として活躍する青井夕子さんは、1年半の学習期間中に全ての課題や疑問に対して真摯に向き合ったことが、プロとしての仕事に直結していたと振り返る。受講中は、課題に取り組む中で疑問に思ったことをメモして授業や個別面談で講師に質問することでその都度解決。そのすべてを丁寧に書き残してきたノートが、現在も仕事の指針となっている。敢えて手書きで書いたことも記憶の定着に繋がったそうだ。
青井さんが、受講中にぶつかった大きな3つの壁
・吹き替えの尺合わせが苦手。
・納品前のチェックが不安。
・課題の提出までに時間がかかりすぎる。
これらを克服するために役立ったのは講師から受けた親身で具体的なアドバイスだったという。具体的に話を聞いた。
◆吹き替え翻訳の尺合わせは、キッチンで音声を聞きながらトレーニング
字幕に字数制限があるように、吹き替え翻訳にも尺合わせ(原語の映像で登場人物が声を出し始めてから話し終えるまでの時間に、日本語訳の長さをピッタリと合わせる作業)がある。字幕には1秒に4文字という基本的なルールがあるが、吹き替えの場合、翻訳者はナレーターや声優のように自ら翻訳原稿を映像と合わせて読み上げながら言葉の長さ(尺)を調整していく。青井さんの悩みは早口だということだった。自分で読み合わせをすると、どうしてもセリフが長くなる。英語の原文は元々速いので、つられて日本語の吹き替えのセリフを読む速さがさらに速くなってしまい、視聴者には聞き取りづらいものになっていたと振り返る。
「ある面談で、吹き替え講座を担当されていた板垣七重講師に尺合わせの悩みを相談したところ、『5分でいいから毎日必ず日本語吹き替えを聞き、1文ごとに映像を止めて真似て声に出すという練習をすることで頭に叩き込んでください』というアドバイスを頂きました。早速キッチンで料理や洗い物をしながら、イヤホンでドキュメンタリー作品の音声を聞きながら毎日実践。すると本当に一定の速さがキープできるようになっていきました。おかげで次のコースに進級する頃には大分自信がついた気がします。」(青井夕子さん)
青井さんにとって、日々一定の時間を費やすキッチンは、有効な学習の場でもある。冷蔵庫の大きな扉も有効に活用。原稿を大きな用紙に印刷しマグネットで貼ると、全体の構成を可視化することができて見直しに役立っていたという。受講中は、とにかく翻訳のことを常に考えていた青井さんの熱心な姿勢がうかがえるエピソードだ。
◆納品前の最終確認をするチェックリストでミスを防ぐ
字幕制作には、視聴者が読みやすいように、表記や言葉の統一などの細かいルールがある。例えばテロップは「斜体」、画面情報は「斜体+引用符」など、ルールに従って全体の表記を整えることも映像翻訳者の重要な作業だ。しかし、青井さんは受講中、多くのルールを把握しきれず、課題提出前にいつも混乱していたと話す。この悩みを面談で相談したところ、板垣講師から課題提出前に最終確認するためのチェックリストを作ることを勧められた。板垣講師のアドバイスを青井さんは今もしっかり覚えている。「デビュー後は小さなミスでも1つあると信頼を失いかねないので、受講中に完璧に覚えてしまうべきです。ルールだけでなくこれまで指摘された部分を抽出したリストを作りましょう。課題提出前にはそのリストを確認し、同じ間違いは絶対にしない意気込みで臨んでください」。青井さんは、すぐにチェックリストの作成に取り組んだ。
「授業の中で学んだ字幕のルールと、指摘された事柄を全部抽出したチェックリストを作成し、その後もどんどん追記していきました。例えば、「『の』は繰り返さない(例:私の姉の~)」、「『すし詰め状態』『お陀仏だ』など和風な言い回しはNG」など、たくさんの具体例が可視化されたこのチェックリストは最強でした。提出前にこのリストを確認するようにしたら、字幕のルールやそれ以外のことも自然に頭に入るようになりました。」(青井夕子さん)

実は青井さんは、かつて医療機器監査の監査員として「チェックリストを作成して細部を確認する」という業務を担当していた。その経験が思いがけない形で今実務に活かせているのだという。青井さんは字幕だけでなく、ボイスオーバーやリップシンク、申し送り用などジャンルや用途に合わせた複数のチェックリストを作成し、プロになった現在も時折見返している。
◆課題にかけた時間は、後から必ず活きてくる
プロの翻訳者になって実務に取り組む際に、重要なのが納期(締切)だ。どんなによい原稿でも納期に間に合わないことは許されない。職業訓練校であるJVTAでは、学習中から自らの対応力を把握できるよう、授業で提出する課題完成までにかけた時間を明記するよう指導している。青井さんは、提出前に毎回長い時間を費やしていることに不安を感じていた。長い時間が必要だった理由は、授業で質問するために課題で悩んだことや疑問に感じたことを細かく整理していたことにある。しかし、板垣講師の「課題にはできるだけ時間をかけるべき」という言葉に自信を取り戻す。
「『多くの時間を費やしたことはそれだけ翻訳について考え悩み本気で向き合った時間なので、あとから必ず活きてきます。そして講義では、悩んだことをどんどん質問し、講師に教えてもらうべきです。プロデビューしてからはもう教えてくれる人はいないので。」という板垣講師のアドバイスに励まされました。実際に課題で悩んで講師に質問した内容は今でも記憶に残っているので、実務でも『あの時にこの質問してこんなことを教えてもらったな』と思い出しながら作業しています。今でもひとつの案件には可能な限りの時間をかけています。」(青井夕子さん)
映像翻訳は答えが一つではないことが、面白さでもあり、難しさでもある。それは、悩み始めたらきりがないということでもある。しかし、綿密なリサーチや表現の考察を重ねたからこそ、生み出せる言葉がある。時間をかけることは決して無駄ではないのだ。
◆教科書にはない実践的な指導を身につけ幅広いジャンルで活躍中
熱心な姿勢が功を奏し、コ―ス修了後にトライアルに合格した青井さんは、OJTを経てプロデビュー。現在は、ドキュメンタリー作品の字幕やボイスオーバー、映画祭の上映作品の字幕などさまざまな仕事を手がけている。受講中には苦手だった吹き替えの仕事も担当しており、先日は料理番組のボイスオーバーの収録現場に立ち会うという機会を得た。
「現場で声優さんが原稿を読み上げる中で、表現の変更や言い換えなどの依頼に対して翻訳者としてその場で対応するという貴重な経験でした。自分が翻訳原稿を納品した後、どのような工程を経て視聴者の基に届けられるのかを目の当たりにできたことは、身が引き締まる想いでしたし、その後仕事に取り組む際も現場での反応を意識するようになりました。」(青井夕子さん)
青井さんは、映画祭の上映作品の字幕も担当し、上映会場にも積極的に足を運び、観客と共に担当作品を会場で観たり、制作担当者と交流したりするなど原稿の納品後も積極的にその作品に向き合っている。国連UNHCR協会が主催する難民映画祭では、上映作品のチーム翻訳で2度にわたり、リーダーを務めたほか、広報サポーターとして、翻訳秘話のコラムの執筆やインタビュー記事の取材協力などを体験したことも貴重だったと話す。
◆人生を振り返ってもあの時ほど集中して学んだことはない
「マズイものはマズそうに訳すべし」「ひとつの表現を360度から考えよ」「仕事になったらどんな作品でも全力で応援せよ」「そのジャンルの“ぽさ”を出すべし」「原文にはなくても『接続詞』を入れてうまく流れを作るべし」…。青井さんが今も大切にしている資料には、授業中にメモした講師の言葉がぎっしりと書き込まれている。授業で教えてもらった内容はどれも実践的で生きた知識だったとプロになった今、実感している。
「大人になってからの学びは驚くほど楽しいです。その時間を最高に充実したものにするために、受講期間は家族の理解も得て可能な限り自分の勉強時間に充てられるような体制を整えるとベストだと思います。JVTAでは全講座を自宅で受けられたので、子育てや家事とも両立しながら、映像翻訳のスキルを身につけ、プロデビューすることができました。いつか動物系のドキュメンタリー作品にも携わりたいという夢も叶いました。」(青井夕子さん)
JVTAの「映像翻訳VODプログラム」では、これまで行ってきた個別サポートを「メンターの個別カウンセリング」「トレーナーのトレーニング・セッション」と明確に定義し、さらに強化して行っていく。青井さんのように疑問や不安をその都度解決できる学習環境が整うので、自身のライフスタイルに合わせてプロに必要なスキルを習得し、映像翻訳者としてのデビューを目指してほしい。

青井夕子さん
大学時代はハワイとアラスカで動物科学を学びながら、イルカの研究所の勤務やクジラウォッチングツアーのガイドなど経て、卒業後は医療機器メーカーの品質保証部にて監査業務を担当。結婚、出産を経てJVTAに入学し、映像翻訳者としてプロデビュー。ドキュメンタリー作品の字幕やボイスオーバー、映画祭の上映作品の字幕などさまざまな仕事を手がけている。難民映画祭では字幕翻訳のほか、広報サポーターとしても活躍している。
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