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【英語字幕PROゼミ】『奇跡の子どもたち』 教室で話し合ったポイントとは?

【英語字幕PROゼミ】『奇跡の子どもたち』 教室で話し合ったポイントとは?
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10月4日(金)、アメリカ・サンフランシスコで、第7回サンフランシスコ日本映画祭が開幕します。これは、サンフランシスコ日本町のNew People Cinemaで開催されるもので、10日間で新旧の日本映画が約20本一挙上映されます。JVTAは、この映画祭をスポンサーとしてサポートするほか、長編ドキュメンタリー『奇跡の子どもたち』(英題:Miracle Children)の英語字幕制作を担当しました。字幕の前半を「英語字幕PROゼミ」※として修了生の斎藤いずみさん、菅野光雄さん、杉田一成さん、後半部分を修了生で日英映像翻訳科の講師の足立リリーさんが手がけました。

 
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『奇跡の子どもたち』© 株式会社タキオンジャパン All Rights Reserved.

 
※「英語字幕PROゼミ」とは?
映画祭の上映予定作品にゼミ形式で字幕を付けるもの。チームで一つの作品に取り組み、MTCディレクターから2度のフィードバックを受けて字幕を完成させ、その字幕付きの作品が映画祭会場で上映される。

 
『奇跡の子どもたち』は、2006年当時に日本で3人しかいなかった希少難病、AADC欠損症の患者とその家族の姿を追ったドキュメンタリー。稲塚秀孝監督が、2007年から2016年にかけて取材・撮影をしてきました。はじめは寝たきりの生活だった3人が、2015年に日本で初めての遺伝子治療を受け、作品の後半では車いすで移動したり、歩行器で歩き始めたりするなど奇跡的な回復を見せる感動作です。こうした医療系ドキュメンタリーで難しいのは、事実関係や専門用語のリサーチ。同じ症例がイギリスや台湾にもあるため英語で解説されたサイトがあり、翻訳者たちはそのサイトも翻訳の参考に読み込んだといいます。PROゼミではジェシー・ナス講師の指導のもと、翻訳者はどんなポイントを話し合ったのでしょうか? 教室の様子をご紹介します。
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※PROゼミ参加者の皆さん。左から菅野光雄さん、ジェシー・ナス講師、斎藤いずみさん、杉田一成さん

 
◆「長男」「長女」はどう訳す?

3人の患者は、松林家の長男の佳汰さんと次女の亜美さん、そして山田家の長男の慧さんです。佳汰さんと亜美さんは3人兄妹で、2人の間に長女の紗希さんがいます。
【字幕初稿】
長男 佳汰 二女 亜美 長女 紗希
Keita, Ami and Saki(First daughter)

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ジェシー講師  長男、長女という言葉は、英語でも表現できなくはないのですが、説明が必要でどうしても長くなってしまいます。その上、紗希さんは長女ですが佳汰さんの妹でもあり、複雑な状況ですよね。もし、あえて出すならsecond childのほうが良いかもしれません。今回は字数制限もあるため、シンプルに名前で表記にしましょう。
【完成字幕】
Keita, Ami and Saki

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※『奇跡の子どもたち』より© 株式会社タキオンジャパン All Rights Reserved.

 
◆医師と家族の言葉のトーンを使い分ける

慧さんは飲み込む力が弱く、唾液やタンなどが気管や肺にたまってしまいます。そのため、お母さんが口から管を入れて取り除いています。下記はその場面のお母さんのセリフです。
【字幕初稿】
ああ、出た出た
Good aspiration.

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ジェシー講師 医師同士の会話ならこの表現でいいでしょう。この場合は家庭でのお母さんの言葉なので、もっとカジュアルな表現のほうが自然です。医療系など専門的な用語が多い作品では、話者によって会話のトーンを使い分けることがとても重要です。例えば医師が子どもを診察する場面で、「いいですか? 診察して」と呼びかける場面なら、「inspect」より、「look at」「check」「take a look」など優しい表現の方がいいですね。トーンを意識することで、 “意味は間違っていないけどネイティブには違和感がある字幕”を避けることができます。
【完成字幕】
Good! It came out.

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※『奇跡の子どもたち』より© 株式会社タキオンジャパン All Rights Reserved.

 
◆的確なワードチョイスで正しいニュアンスを伝える

下記は、山田慧さんがAADC欠損症と診断された時のことを語る母章子さんのセリフです。
【字幕初稿】
うわぁ、3人目だって開口一番に仰られて
The first words the doctor said were
“Oh, we found the third child!”

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※『奇跡の子どもたち』より© 株式会社タキオンジャパン All Rights Reserved.

 
ジェシー講師 foundを使うと、「ずっと探していてやっと見つけた」というイメージになります。この場合は、「思いがけなく3人目の患者に出会った」というニュアンスを伝えましょう。
【完成字幕】
The first words the doctor said were
“He is the third child we’ve seen!”


 
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PROゼミではこうした細かいニュアンスを話しあい、字幕をブラッシュしていきました。
ゼミに参加した修了生3人に話を聞きました。

 
修了生・杉田一成さん(チームのリーダー)

リーダーを依頼された時、やる気スイッチが入り頑張ろうと思いました。企業で人をまとめる立場にもいましたが、実際にやってみるとネット上でバーチャルに人を取りまとめ、皆さんの訳を僭越ながら見せていただき提出前に注意喚起するなど、翻訳以外のところでも大変な役目でした。一方で、今後チーム翻訳をする時に注意すべき点などとても勉強になり、自分の引き出しが一つ増えたような気がいたします。
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※『奇跡の子どもたち』より© 株式会社タキオンジャパン All Rights Reserved.

 
翻訳では、医療用語もさることながら、スクリプトがない会話のため、訳文を工夫しなければ意味をなさない文があり、頭をひねるところが多かったです。フィードバックでも、このセリフは誰のことを言っているのか、意見が分かれることも。その際は「なぜこのように訳したのか」と申し送りをするという、当たり前の事が大切だと改めて学びました。また、一場面だけを見て日本語に引っ張られずに、作品全体から英語の訳文を引き出すべきことを再認識させていただきました。
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最近、社会貢献の映像翻訳で、車いすの方と健常者の方が同時に歩くという場面の英訳をしました。最初はwalkを当たり前に使ったのですが、場面を何度も見返すうちに「間違い」と気づきました。PROゼミに参加し、そういうポイントを気づく力を頂けたと思います。ジェシー先生、グループの皆さん、ありがとうございました。

 
修了生・斎藤いずみさん

PROゼミ開催のメルマガが届いたのは、日英実践コースを修了してから既に数年が経過し、ようやく本腰を入れて映像翻訳に向き合う状況が整えられるタイミングでした。現在、医療関連業界の仕事をしている私にとって興味のある内容の作品だったので参加しました。修了後のブランクが長かったため、まずは字幕制作ソフトSSTの操作に慣れるところから挑戦が始まりました。
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※ナレーションは加藤登紀子さんが担当しています。

 
この作品では、ナレーション以外に、当事者の方々の発話やインタビューへの応答の部分が多くあります。発声や文章構造、脈絡が必ずしも明確ではないことが多く、翻訳する際にニュアンスを捉えるのが難しいと感じました。最終的には、自分がベストだと思う翻訳を選ぶのですが、他の解釈可能性・選択肢についても逐次コメント欄に上げていきました。
医療系は現職で日ごろ調べて慣れている分野ということもあり、調べること自体は特に苦労しませんでした。ただ、英訳では漢字を使えないこともあり、病名や学会名などは字数が多くなるところが物理的にチャレンジングで、結局はハコ切りを工夫して対処しました。
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PRO ゼミでは、メンバー全員で全体について一緒にフィードバックを受ける機会があります。他のメンバーのハコ切りや原文解釈方法を共有してもらい、講師からも実務的なアドバイスももらえるので、一人で取組むより数倍のことが学べる貴重な機会でした。

 
修了生・菅野光雄さん

 

この映画は実写記録映画で患者と家族、医療関係者、養護学校の人たちが登場します。ナレーション部分以外は台本も無かったのではと思います。翻訳するにあたっては、登場人物が何を話しているのかを理解する必要があるのですが、会話の内容を理解することが思いのほか大変でした。
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※『奇跡の子どもたち』より© 株式会社タキオンジャパン All Rights Reserved.

 
例えば、プールの中での授業で養護学校の先生が山田慧さんに対して、「全然違う」という場面があります。私は当初、It’s quite different. と訳したのですが、教室で講師に「この言葉が突然出てくるは不自然」との指摘を受けました。皆で映像を見ながら再度検討したところ、前回の授業より上手にできるようになったことを言っているのだと気付き、 You got better. と直しました。
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登場人物たちの会話では、過去やその時の状況への言及が多く、その過去の場面は映像の中に入っていないことが多くありました。また、聞き取れない箇所、よく分からない箇所は何度も聞いたり、映像に手がかりはないか注意して見たりするように心がけました。今回のPROゼミでは、会話の流れから不自然な部分に気づき、その原因を調べることの重要性を学んだと思います。

 
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サンフランシスコ日本映画祭では、足立講師とJVTA修了生が丁寧に作り上げた英語字幕付きで上映されます。現地での反響が楽しみですね。
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『奇跡の子どもたち』公式サイト
http://www.kisekinokodomotachi.com/

 
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第7回サンフランシスコ日本映画祭 公式サイト
https://jffsf.org/2019/
※『奇跡のこどもたち』(英題:Miracle Children)は現地時間10月5日(土)17時上映です。お近くの方はぜひ、お出かけください。

 
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