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『海街diary』は音声ガイド付きで見よう!  広瀬すずさんの案内が好評

『海街diary』は音声ガイド付きで見よう!  広瀬すずさんの案内が好評

日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀撮影賞、最優秀照明賞など最多12部門の受賞を果たした『海街diary』(是枝裕和監督)。この作品の本編BD/DVDには視覚障害者のための音声ガイドと聴覚障害者のための日本語字幕が収録されています。制作に携わったNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)の溝渕萌さんによると、実はこのディスクは、より多くの人に音声ガイドを分かりやすく利用してもらうために、新たな試みをしているそうです。具体的にお話を聞いてみました。
 

MASC 溝渕さん

MASC 溝渕さん


 

◆ディスクを入れたら特別な操作なしで音声ガイド付きで再生される!
これまではディスクに音声ガイドが収録されていても、操作方法が全くアナウンスされておらず、利用者には優しくない仕様でした。そこで私たちはユーザーである視覚障害者にヒアリングをした結果、「ディスクをデッキに入れるとそのまま何の操作もしなくても、音声ガイド付で本編が再生される」という仕様を制作サイドに提案。『海街diary』はこの仕様が採用されました。
 

デッキにDVDを入れると下記の画面が表示される

デッキにDVDを入れると下記の画面が表示される


 

海街diary画面写真 - コピー
 (C)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
 

ディスクを入れると「これは『海街diary』の本編ディスクです。こちらはバリアフリー対応となっています。このままお待ちになると音声ガイド付きで再生されます」という内容が画面に表示され、またアナウンスが流れます。視覚障害者の方は何の操作もせずに音声ガイド付きで鑑賞できるのです。もし、晴眼者が見る場合に音声ガイドが必要なければ、メニューボタンをワンクリックするだけでトップメニュー画面に変わります。晴眼者には何でもないこのひと手間が、視覚障害者には負担なのです。製作側にこの現状をご理解頂いたことでこの仕様が実現しました。
 

★近年同じ仕様になっているBD/DVD
『春を背負って』(2014年)
『バンクーバーの朝日』(2014年)
『舞妓はレディ 』(2014年)
『海街diary』(2015年)
『図書館戦争 THE LAST MISSION』(2015年)
『アンフェア the end』(2015年)
『アラヤシキの住人たち』(2015年)
『百日紅』(2015年)
『バクマン。』(2015年)4月20日発売予定
『グラスホッパー』(2015年)4月28日発売予定
 
 

◆出演者や原作者、監督が冒頭案内を解説してくれる!
さらに最近は、この冒頭のガイドを映画のキャストスタッフにお願いするという試みを始めました。例えば、『海街diary』では、物語のキーとなる重要な役割を演じた女優の広瀬すずさん(浅野すず役)が冒頭の案内部分のガイドを担当してくださいました。ちなみに、『海街diary』の音声ガイドはJVTAの修了生の菅田奈央さんが制作しましたが、視覚障害者の方からとても評判がいいです。アジサイや桜など季節が感じられる映像描写が多い作品なのですが、音声ガイドからそれがしっかり伝わってきて、イメージが膨らんだという声が多く寄せられています。
 

また、先日発売された『図書館戦争 THE LASTMISSION』のDVD化ののBD/DVD化の際、先程の『海街diary』の例を製作の方にお話しすると、とても興味を持ってくださり、原作者の有川浩先生と佐藤信介監督に冒頭部分の案内をお願いしたところ、お二人ともナレーションを引き受けて下さったそうです。これは監督や作家さんのファンの方にとってもレアな特典なので、これをきっかけに晴眼者の方にも音声ガイドを楽しんでもらえたらうれしいです。
 

IMG_0647 - コピー
 

こうした試みで私たちが期待しているのは、音声ガイドというツールがこのディスクを観た人全員の目に留まることです。遊び心のある取り組みで晴眼者の方にも音声ガイドの存在を知ってもらい、音声ガイドがあれば視覚障害者の方も一緒に映画を楽しめるということを啓蒙できたかなと思っています。
 

◆音声ガイドは作品解釈力のアップにも役立つ
映像翻訳を学ぶ皆さんなら、音声ガイド付きで映像作品を見ると、作品解釈力のアップにも役立つと思います。基本的に私共がご協力して映画の音声ガイドを作る際は、制作サイドと話し合いながら、原稿を作り上げます。視覚障害者の方の意見を聞くモニター検討会でも監督の意図を教えてもらいながら、その想いがより伝わるガイドを考えていきます。実は音声ガイドには晴眼者が見逃してしまっているポイントが含まれていることもあるんです。例えばなにげなく映っている風景に実は監督の意図があり、それをガイドの中にも盛り込んだりします。ですから監督のファンの方にとっても作品を深く理解する上で興味深いツールだと思います。製作側の意図したものを汲み取って文字に起こすということはかなり大きな責任があることですが、その分やりがいもあります。先日とある映画監督の方から「どうして私の想っていることをここまでしっかりガイドにできたのだろう? 丁寧に観てくれたんだなと感じました」という声を頂きました。このようにガイドに含まれている意図を汲みながら聴くことで、晴眼者もより深く作品を楽しめると思います。
 

音声ガイド制作者はガイドを作る上で、様々なリサーチや勉強を重ねて制作しています。
音声ガイド制作は、見えていることを日本語で表現するので翻訳に比べると簡単にできるかなと思う方もいるかもしれませんが、視覚障害者のニーズに応えるために、色々な情報収集をし、多様な表現を駆使しながら制作することはかなり難しいところでもあります。ですが、そこがよりよい音声ガイドに繋がりますし、その難しさが制作の面白みでもあると思います。
 

音声ガイドをもっと多くの作品に付けるためには、より多くの人に知ってもらい、利用し、音声ガイドが必要だという声が重要です。視覚障害者のためだけの特別なツールではなく、すべての人が楽しめるひとつのツールとして提案していきたいですね。晴眼者の方からは、例えば、料理や洗濯をしていて画面をずっと見られないときも、音声ガイドがあれば話の筋を見失わずに済むので便利という声もあります。
 

 

◆音声ガイドも助成金の対象になり国も力を入れ始めている
音声ガイドがまだ広がらない大きな理由は制作コストにあります。さらに音声ガイド付きで上映できる設備が整った映画館が少なく、上映の機会が少ないのが現状です。しかし、現在、芸術文化振興基金の助成金で年間50本の映画にバリアフリー字幕が付与されていますが、今後、音声ガイドも助成金が対象になるなど国も力を入れ始めています。先日、ポレポレ東中野で『アラヤシキの住人たち』というドキュメンタリー作品が上映された時には、会場でiPod touchの貸し出しをして、上映期間中いつでも音声ガイドが聴けるという環境作りがされました。こちらの劇場はとても積極的に取り入れてくださっていましたので、今後他にも興味を持ってくださる劇場も増えていくと思います。映画製作の段階で字幕・音声ガイド制作が必須となるようになるように今後も活動を続けていきたいと思います。
 

◆BD/DVDでも音声ガイドを楽しめる
皆さんにはぜひ劇場で音声ガイド付き上映を観て頂きたいのですが、もし機会がなければBD/DVDでも音声ガイドやバリアフリー字幕付きで楽しめるのでご覧ください。視覚障害者の方の中ではDVDに収録されている場合、1度目は本編をそのまま観る、2度目はガイド付きで観て内容を理解したら、もう1度ガイドなしで観ることで、一度聴いた音声ガイドで状況を思い出しながら本編の音だけで楽しむ方もいますよ。映像翻訳を学ぶ皆さんなら、きっと音声ガイドの面白さや奥の深さを分かってもらえると思います。
 

※音声ガイドや日本語字幕の有無はパッケージ裏面の下部をチェック
参考 『海街diary』のパッケージ裏面より
 (C)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
DVD裏アップ - コピー
 

【関連記事】
★MASC溝渕さんインタビュー 音声ガイドって何? テレビでも聴ける?!
https://www.jvta.net/tyo/onseiguide-tv/

 

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