翻訳のクオリティ=リサーチのクオリティ!? “調べもの”に大切な3つのポイント

映像翻訳の学習のための課題に取り組んだり、仕事を受けたりする中で必ず直面するのが“調べもの”。表記や事実関係、数字の正しさの確認に労力を惜しまないのが、プロの映像翻訳者です。とはいえ、自己流の調べ方で大丈夫なのか不安…。そこで、課外講座「120分でマスター!最強の調べもの術」を担当する板垣七重講師のアドバイスをお届けします。“調べもの”に大切な3つのポイントとは?
翻訳のクオリティにも関わる“調べもの”
――“調べもの”で悩む人は少なくありません。
板垣●映像翻訳者にとって“調べもの”は切っても切れないほど重要です。例えば、翻訳を受注したドキュメンタリー作品で扱う出来事は何年・何月に起きたのか、地名の正式な表記は何か、面積の数字は本当に正しいのか――。裏取り(=情報の正しさを確認する作業)はメディアの世界で働く映像翻訳者が絶対にやらなくてはいけないことです。責任をもって事実を伝える姿勢が無いと、間違った内容がテレビなどで放送されて、視聴者からのクレームにも発展することがあります。でも、皆さんに知ってほしいのはさらにその先のこと。きちんと調べることは、翻訳のクオリティにも大きく関わるんです。
【“調べもの”の上達が、翻訳者としてのステップアップにつながる】
――翻訳した作品の「伝わりやすさ」に大きく関わるということですか?
板垣●“調べもの”が上手な翻訳者さんは、翻訳のクオリティも高い場合が多いです。翻訳の伝わりやすさ、言葉選びの正確さ、聞きやすさ――。これらの結果は、その作品を担う翻訳者が日本の他の誰よりも内容を理解したからこそ得られるものです。事実関係を調べるとともに、原文では何を言っているのか、映像を通して何を伝えようとしているのかを知る。“調べもの”は翻訳のクオリティアップに欠かせない作業です。「より分かりやすく翻訳するために調べるのだ」という姿勢で臨むことが大切。これが一つ目のアドバイスです。
計画性を大切にしよう
――“調べもの”は情報の正しさのためだけのものではないんですね。
板垣●二つ目のアドバイスは、“調べもの”の計画を立てることです。映像やスクリプトを受け取ったら、翻訳を始める前にしっかりと内容を確認し、作品の翻訳に求められる知識と自分の今の知識を比べてみることをお勧めします。翻訳作業を始めてから「あれ、ここが分からないから調べてみよう」とインターネット検索を始めるのではなくて、最初の段階から「このシーンのこの部分は特に分からないから、ちゃんと調べておかないとな」と、あらかじめ計画しておく。そうすれば、限られた時間の中で効率的に動くことができますよ。
――確かに、行き当たりばったりで調べていたら納期までの時間が無くなってしまいそう…。準備が大切なのは“調べもの”も同じなんですね!
板垣●最後に、「どうやって調べるか」に焦点を当てることも大事です。「どんな情報源で調べることができるのか?」「何を使ってはNGなのか?」「インターネットと書籍をどう使いこなすか?」など。例えば、インターネットと書籍を比べてみましょう。インターネットはすぐに、どこでも調べることができるから効率的に思えますが、情報が氾濫しているので、こちらはそれを精査する必要があります。また、集中を妨害するような誘惑も多い。気がついたら仕事と関係のないことを調べていた、なんてことは誰にでも起こり得ることです。一方で、書籍だとそのような誘惑がない上に情報源として信頼できるため、むしろ効率が良い場合もあります。では、その書籍を閲覧する図書館で便利なのは蔵書数の多い閉架式の図書館? それとも、テーマの本をパッと見渡せる開架式の図書館――?
【国立国会図書館は日本一の蔵書数だが、本棚で見ることができない。目当ての本にたどり着くまで、意外と時間がかかる可能性もある】
――考えておきたいことがたくさんありますね…。
全ては良い翻訳のために!
板垣●課外講座「120分でマスター!最強の調べもの術」ではJVTAの就業支援部門MTCで受注したドキュメンタリー作品を使いながら、一筋縄ではいかない“調べもの”のスキルを伝授します。今日ご紹介した3つのポイントを習得したい方にはピッタリの講座ですよ。
――3つのポイントをまとめると、“調べもの”は、
(1)情報の正しさだけではなく、翻訳のクオリティにも関わる。
(2)計画的に行うことが大事。
(3)調べものの媒体について知っておくことも大事。
…ですね!
板垣●“調べもの”は大変ですが、しっかりとやれば翻訳のクオリティは必ず上がります。だから、「面倒くさいこと」という風には考えないでくださいね。一夜にして魔法のようにうまくなるものではありませんが、翻訳者としてのスキルアップに欠かせないことです。自分が良い翻訳をするために、一緒に学んでいきましょう。
●全受講生・修了生対象 「120分でマスター!最強の調べもの術」
https://www.jvta.net/extracurricular/saikyo-no-sirabemono/