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修了生の岡崎秀さんが『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』(日経ナショナルジオグラフィック社)を執筆

修了生の岡崎秀さんが『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』(日経ナショナルジオグラフィック社)を執筆
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2020年6月、日経ナショナルジオグラフィック社から出版された書籍『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』の執筆協力をJVTA修了生の岡崎秀さんが担当しました。
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※『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』より
 
この作品は、ナショナルジオグラフィックの消滅シリーズの第2弾。ダムの底に沈んだ渓谷や密猟や環境の変化で絶滅した動物、温暖化で減退する氷河など失われた絶景のありし時代と今を壮大な写真と詳細な解説で紹介しています。岡崎さんは、2018年に発売された第1弾『消滅遺産 もう見られない世界の偉大な建造物』も執筆。「第1弾は建造物など人間がつくったもの、今回は自然や動植物など神がつくったものがテーマ。執筆には字幕を作ることを学んだスキルが役に立ちました」と話す岡崎さんにお話を聞きました。
 

◆まず概要を受け取り、リサーチを開始
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※『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』より
 
執筆作業はまず、「ケニアの湖に百万羽以上集まっていたフラミンゴの数が極端に減っている」「キリマンジェロの氷河の減少が加速している」「ボツワナに郵便局のような役割をしたバオバブの木があった」といった約30の概要を受け取ることから始まりました。これは、ナショナルジオグラフィックの編集の方と監修の吉田正人さんが話し合い、セレクトしたもので、私はこの段階ではまだ写真を見ていませんでした。そこから、地名やキーワードをもとに日本語、英語、フランス語でリサーチを開始。編集側からは、「事実を並べるだけでなく、読みものとしてストーリー性のある内容に仕上げてほしい。環境本として犯人捜しをするのではなく、かつてこうした美しい風景があったことを知らせるのが目的」というお話がありました。
 

◆執筆はまるで料理のような作業
前回の建物のときは、「なぜこんなすごいものをつくったのか」「どのくらいの費用がかかったのか」「どういう人たちがどんな意志で作ったのか」などを考えながらリサーチを重ねてエピソードを作っていきました。今回は美しい写真とエピソードを読むことで今まで環境にあまり意識を持っていなかった人にも関心を持ってもらえたらという気持ちで書きました。印象に残るストーリーにするには、まず自分の想いがないとできません。たくさんの背景を調べたうえで、どこを引き立たせるのかを考えていくことが大事です。一つにライトアップすることで見える風景が変わってくる。それは翻訳の作業にも似ていて、まるでお料理のような作業だと感じています。私はフランスに滞在していたことがあり、フランス語でもリサーチできたことで、さらに多くの情報を得ることができました。例えば、サハラ砂漠に1本立っていた旅人の道しるべの木を調べた際、「フランスの軍隊が木の近くに井戸を掘った際、木の根が35メートル下にある地下水面まで伸びていることが分かった」という記述を見つけました。これはフランス語のサイトにしかない情報でした。
 
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※『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』より
 

◆ダム建設で長江女神といわれたイルカが消えた
特に印象に残っているのは、中国の長江三渓の美しい景観とそこに暮らすヨウスコウカワイルカがダムの建設で失われたというエピソードです。このイルカは古代から平和と繁栄の象徴であり、「長江女神」と崇められてきました。目はほとんど見えませんが、高周波の音を発してその反響などで餌や障害物を察知する能力に長けていました。ところが94年に巨大な三渓ダムの建設が始まったことで環境が一変。船の交通量も増えたことで高周波の反響がうまく伝わらなくなり、衝突事故などで命を落とす事故が多発し、2006年の調査では1頭も確認できなかったそうです。また、川の水位が約2メートルも上がり、山と水面との調和が崩れ美しい景観が失われました。絶景として紹介されているのは、90年代の雄大な写真。アジア人の心の原風景ともいえるような美しい風景はもう戻りません。ほんの数十年の間の大きな変化に衝撃を覚えました。
 
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※『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』より
 
東京湾の干潟も印象的だった一つです。私は神奈川在住ですが、金沢八景から千葉の富津のほうまでぐるりと全部干潟だったというのは衝撃的でした。しかもハゼ釣りに集まる人でにぎわう写真は1961年。そんなに昔のことではないのです。
 

◆ナショナルジオグラフィックに携わるきっかけはJVTA
ナショナルジオグラフィックへのご縁をくださったのはJVTAの新楽直樹代表でした。今から10年以上前、日経BP社でフランス語ができる通訳と翻訳者を探しており、新楽さんのご紹介でインタビューの通訳と記事の執筆を担当することになったのがきっかけです。その後、2009年に『一〇〇年前の世界一周 ある青年が撮った日本と世界』という本をフランス語から日本語に翻訳しました。ドイツ人青年のワルデマールが世界を旅しながら残した写真とメモをもとに、フランス人のライターが書籍にまとめたもので、彼の成長物語としても楽しめる作品です。この本はロングセラーで、コロナ禍になってからより人気が高まっていて、7刷になっているそうです。
 

『一〇〇年前の世界一周 ある青年が撮った日本と世界』
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/product/14/257/


 

◆字幕にして簡潔に伝えるスキルが書籍執筆に役立つ
読み物としてストーリーを組み上げていく中で、JVTAで学んだ字幕翻訳のスキルが活かせています。映像翻訳では、この人がつまり何を言いたいのかを、字幕だけを追って見ている人に分かりやすく伝えなければなりません。例えば特典映像にあるアーティストのインタビューの場合、話者は考えながら話すので「その時は○○、いやそうじゃなかったかな…」などと脈絡がないことが多いんです。これを原語で聴いている人は理解できるのですが、そのまま字幕にすると何も分かりません。映像翻訳者は字幕でそれをどうにか一つのまとまった話に仕上げなければいけない。こうした経験が今の執筆作業にも役に立っていると思います。
 
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※『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』より
 
また緻密なリサーチもJVTAで学んだこと。ナショナルジオグラフィックの権威を汚してはいけないという気持ちで、読んでいる人が寄せる絶対の信頼を裏切らないよう、事実関係などはより慎重に調べました。これも映像翻訳者の基本です。とはいえ、事実の羅列だけではいけない。調べた多くのデータからストーリーを作り、読み物として楽しめるものを執筆する。これまで知らなかったことを知ることができて、それを物語にして伝えていく。それがこうした本を作り上げる醍醐味です。私はその作業が好きなんです。
 

◆コロナ禍の今だからこそ、人の心にリンクする作品
この本の執筆をした後、多くの失われた絶景を目の当たりにして、悲しさが胸の中に蓄積してしまった時期がありました。
 

かつて、ユネスコの無形文化遺産の資料を作るための翻訳をし、いろいろな国ですでになくなってしまった踊りなどを調べたことがあります。ある太平洋の島の踊りの衣装はすべて葉っぱで作られていて何も残っていません。一方で日本の能は、人間が作った衣装や面などがきちんと残っています。自然とともに、暮らしてきた人たちのものはどんどんなくなってしまうのだと感じたのを覚えています。
 
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※『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』より

 
スマトラ島の熱帯雨林も製紙産業やパーム油産業の拡大でプランテーション化し、島固有のオランウータンやトラ、サイなどが絶滅危惧種に指定されています。例えばコウモリなどある種だけに生息していたウイルスも人間による自然破壊でそこに生息できなくなることで、新たな宿主として人間に感染していまう…。人間は環境のなかで暮らしているのであって、環境を支配して生きているのではないのです。コロナ禍の今だからこそ、手に取っていただきたい1冊です。
 
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『消滅絶景 もう見られない世界の美しい自然』(日経ナショナルジオグラフィック社)

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/20/051100018/
 

【関連記事】
修了生・岡崎秀さんが執筆に協力「消滅遺産 もう見られない世界の偉大な建造物」
https://www.jvta.net/tyo/shoumetsu-isan/


 
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