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【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭】全編大阪弁の映画『お笑えない芸人』の英語字幕制作秘話

【SKIPシティ国際Dシネマ映画祭】全編大阪弁の映画『お笑えない芸人』の英語字幕制作秘話

映像クリエイターの登竜門として知られる「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」が今年も7月18日(金)に開幕する。この映画祭は、“新たな才能を発掘し、育てる映画祭へ”をモットーに、これまで白石和彌監督(『孤狼の血』『碁盤斬り』)、中野量太監督(『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』)、上田慎一郎監督(『カメラを止めるな!』『スペシャルアクターズ』)など国内外の多くのクリエイターを生み出してきた。今年の審査委員長を務める石川慶監督も2009年に同映画祭に短編を出品、最新作『遠い山なみの光』が第78回カンヌ国際映画祭」ある視点部門で上映され、話題となったばかりだ。本映画祭では「特集「商業映画監督への道」と題し、代表作『愚行録』の上映と共に石川監督もトークに登壇する予定となっている。

JVTAは毎年、この映画祭の日本の上映作品に英語字幕を手がけてきた。今年は長編5作品、短編3作品の字幕に加え、映画祭ガイドの翻訳に携わっている。

長編『お笑えない芸人』の英語字幕を手がけたのは、修了生の鈴木綾さんとローガン・ランプキンスさんだ。

『お笑えない芸人』(西田祐香監督 英題:Chuckle Chuckle)

芸人を目指す佐原は、相方の瀬戸口と「激甘酢豚」というコンビで活動してきたが、ある出来事をきっかけにコンビは解散。夢半ばで立ち止まった佐原の前に、ある日突然“芸人として爆発的に売れた理想の自分”が現れる。(公式サイトより引用)

『お笑えない芸人』©映画「お笑えない芸人」製作

芸人が主人公のこの作品は全編が大阪弁で展開する。コントのネタの場面も多く、翻訳者にとっては難しいジャンルと言える。しかし、今回は鈴木さんが大阪在住の関西人で、関西弁の解釈に困ることはなかったという。また、日本語ネイティブと英語ネイティブの2人がチームで翻訳を手がけたことで両方の視点から考察することができた。

まず悩ましかったのは、字数制限だ。漢字が使えない英語字幕ではよくあることだが、コンビ名「激甘酢豚」の訳し方については2人で話し合った。Sweet&Sour Porkでは、いわゆる一般的な酢豚で“劇甘”のニュアンスが出せない。

「鈴木さんと代案(Ultrasweet Pork、Ultrasweet ‘n Sourなど)を出し合って文字数の制限を考慮したUltrasweet Sourporkに決めました。結局、四字熟語の意味を全て2ワードにまとめることができました。」(ローガン・ランプキンスさん)

作中には、日本語の「てにをは」の使い方の違和感をネタにするシーンがある。日本語として文法的に不自然な言い回しの面白さを、英語でも表現する工夫が求められる。限られた文字数の中でテンポよく進む会話のニュアンスも出さなければならない。

「作品の前後半で同じ漫才のネタが登場し、過去のフラッシュバックもたくさんあります。ネタとして細かい部分まで統一し、合わせるのは大変でした。」(鈴木綾さん)

「努力はしているのになかなかうまくいかないという辛さ・悔しさを描いた作品なので、お笑いに興味がなくてもそのメッセージが伝わると思います。漫才なのでセリフの英訳を面白くしたいのに、作品本来のストーリーはコメディーではないため、敢えて面白くしてはいけないという状況もあり、ネタの翻訳には結構苦労しました。」(ローガン・ランプキンスさん)

固有名詞もその意味が伝わるよう工夫する必要がある。例えば、日本では漫才頂上決戦と言えば『M-1グランプリ』だが、英語で「M-1」と訳しても伝わらない。

「『M-1』というワードは何度か出てくるキーワードなので入れつつ、『audition』と併用するなどの工夫をしました。また、ネタもその前後がわからないと英訳しにくい部分があり、全体の流れを見ながら伝わるように調整しました。」(ローガン・ランプキンスさん)

『お笑えない芸人』©映画「お笑えない芸人」製作

この作品には芸人として売れず葛藤している佐原と、芸人として成功し自信にあふれた佐原が登場する。同じ俳優が演じているが、そのキャラクターが全く違うのも見どころの一つだ。

「ストーリー自体ももちろん面白いのですが、個人的にはとにかく2人の佐原が見ていて楽しかったです。別人かと思うぐらい声のトーンや仕草を変えていらっしゃるので、違和感のない2人のやり取りは非常に興味深かったです。字幕もそれぞれのキャラクターに合わせて口調や表現を使いわけました。」(鈴木綾さん)

現実の冴えない自分と理想とする華やかな自分の狭間で葛藤する主人公が向かう先にあるものは?お笑い好きな人もそうでない人も楽しめる作品となっているので、日本語と英語字幕の繊細なニュアンスにもぜひ注目しながらご覧ください。

◆SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025(第22回)

2025年7月18日(金)~ 7月26日(土)

公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp/

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