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【英語字幕PROゼミ】完成した字幕はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映

<strong>【英語字幕PROゼミ】完成した字幕はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映</strong>

映像クリエイターの登竜門として知られる「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」が今年も7月18日(金)に開幕する。この映画祭は、“新たな才能を発掘し、育てる映画祭へ”をモットーに、これまで白石和彌監督(『孤狼の血』『碁盤斬り』)、中野量太監督(『湯を沸かすほどの熱い愛』『浅田家!』)、上田慎一郎監督(『カメラを止めるな!』『スペシャルアクターズ』)など国内外の多くのクリエイターを生み出してきた。今年の審査委員長を務める石川慶監督も2009年に同映画祭に短編を出品、最新作『遠い山なみの光』が第78回カンヌ国際映画祭」ある視点部門で上映され、話題となったばかりだ。本映画祭では「特集「商業映画監督への道」と題し、代表作『愚行録』の上映と共に石川監督もトークに登壇する。

JVTAは毎年、この映画祭の主に国内コンペティションにノミネートされた作品の英語字幕を手がけている。特筆すべきは、2013年から10年以上にわたり、この映画祭とタッグを組んで毎年「英語字幕PROゼミ」を継続的に開催していることだ。「英語字幕PROゼミ」では、数名の翻訳者がチームを組み、プロの映像翻訳ディレクターのフィードバックを受けながらゼミ形式で字幕を制作する。今年は、修了生の井部亜貞奈さん、岡田哲史さん、葉維晨さんがこのゼミに参加し、短編映画『さざなみに揺れる手』の英語字幕を手がけた。

『さざなみに揺れる手』(川上栄輝監督、英題:Swaying Hand)

13年前に殺人事件を起こし服役していた母・葉子と、その間を施設で過ごした娘・朱莉。葉子の出所後、二人は朱莉の住む静かな港町で13年ぶりの「家族生活」を始める。(公式サイトより引用)

『さざなみに揺れる手』©2024 川上 栄輝

字幕は作品全体を3つのパートに分けて3人の翻訳者がそれぞれ担当する。その後オンラインでプロの映像翻訳ディレクターによる2度のフィードバックを受けながら細かいニュアンスなどを全員で話し合い、一つの字幕として全体を整えていく。こうして完成した字幕が映画祭のスクリーンに投影されるのも貴重な経験だ。

「作品や背景の理解も各々個性があり、1人での翻訳より学びが多かったです。自分の癖や傾向を客観的に指摘してもらえたのも収穫でした。最初は他の方が考えた末の訳に対して代案や修正を言うのは気が引けました。とは言え、講師のアドバイスを受けて作品内での一貫性を保つためには翻訳者同士のすり合わせは必須でした。」(岡田哲史さん)

「自分で気づかない盲点、1人で思い浮かばないセリフがあり、チームのおかげでやり遂げた気がします。」(葉維晨さん)

「このゼミではお互いがその訳に至るまでの背景や考え方を聞き、異なる解釈をすり合わせてひとつの結論に導く過程が新鮮で、非常に学びが多かったです。また、それを通して、自分の訳のクセ(直訳調になりがち、詩的・感情的な表現に偏って不自然な表現になる点)を自覚できたのも大きな収穫でした。」(井部亜貞奈さん)

『さざなみに揺れる手』©2024 川上 栄輝

この作品は全体的にセリフが少ない。13年というブランクを経て再び一緒に暮らし始めた母娘のぎこちない会話なども丁寧に解釈したいポイントだ。ナレーションやモノローグもなく、「敢えて説明しない」という意図を大切にしたという。字幕もそれを踏まえて「説明し過ぎないように訳す」「直訳ではない、とはいえ意訳しすぎない」というバランスが必要で、そこについて話し合うことが多かったと岡田さんは話す。

「一つひとつの言葉がどのような意味を持つのか、どんな背景や心情から発せられたのかを、じっくりと話し合いました。また三者三様の訳案と向き合い、この表現に辿り着いた理由についても意見を交換しました。」(井部亜貞奈さん)

「人物のキャラクターを踏まえて口調を考える、前後のストーリーから感情を想像するなど、抽象的な解釈の部分を話し合うことが多かったですね。」(葉維晨さん)

3人で解釈の理解を深めるなかで、表現にこだわりすぎてしまうことも…。しかし、プロのディレクターの客観的な意見を聞くことで、「映画祭で観る視聴者にとって本当に良い字幕とは何か?」を改めて考え直すことができたという。

「私たちは翻訳のために日本語と英語を比較しながら何度も巻き戻して見返しましたが、実際に映画祭で見る方はそういう見方はしないわけです。『じっくり読むと詩的で味・雰囲気があるけれどもしかしたら読みにくい字幕』よりも、『要所以外はシンプルでスムーズに読める字幕』を心掛けることも重要と再認識しました。」(岡田哲史さん)

「話しあった解釈がにじみ出ていると思われる原文の字幕には『そこを表さねば』と力が入りすぎて、かえって自然な流れが損なわれたり、見ている人が引っ掛かる表現になってしまったりすることがありました。本当に背景を字幕で表現すべきかどうかは、映画全体やシーンごとのバランスを見ながら優先順位をつけるべきと学びました。」(井部亜貞奈さん)

公式サイトで川上栄輝監督は、こう語っている。

「『優しく生きる』が僕の人生のテーマで、自分の創作を通して様々な『優しさ』を追求していきたいと思っています。」

最後に、いち早くこの作品に深く向き合った3人にこの作品のみどころを聞いた。

「閉塞感、困惑、共振、悔恨…のような複雑な感情を敢えて説明しすぎない…。しかし見て行くと時間の経過とともに人物の関係性や世界観がわかっていきます。結果的に非常に丁寧に表現しつつまとまっている作品だと思います。」(岡田哲史さん)

「登場人物の心境の変化と、お互いの関係性が交錯していく様子が見どころだと思います。

人生と、ちゃんと向き合う勇気をもらえる作品だと思います。」(葉維晨さん)

「一見淡々とした映画ではありますが、登場人物は皆、一生懸命に生きており、それぞれどこか共感できる存在です。救いがないように見えても、確かに希望はある――そんな人生の応援歌のような作品だと感じました。」(井部亜貞奈さん)

完成した英語字幕はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の会場で観ることができる。ぜひ、会場のスクリーンでこの作品をご覧いただき、英語字幕にも注目してほしい。

◆SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2025(第22回)

2025年7月18日(金)~ 7月26日(土)

公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp/

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