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ドラマトゥルク×映像翻訳で“自分にしかできない仕事”をする 英日映像翻訳科修了生・前原拓也さん

ドラマトゥルク×映像翻訳で“自分にしかできない仕事”をする 英日映像翻訳科修了生・前原拓也さん

JVTAで映像翻訳を学び始める人には、様々なバックグラウンドがある。英語教師やSE、貿易事務や企業の経理担当者など、英語に関連する仕事をしている人もいれば、全く違う業界から映像翻訳へ舵を切る人もいる。これまではコース修了後に映像翻訳一本の道を目指す人が多かったが、近年はそれまでに培ったキャリアや知識と映像翻訳スキルを掛け合わせ、新たな扉を開く人が増えている。

2025年のサマースクールにて、「『この世はすべて舞台、人はみな“訳者”』!?経験×スキルで見つける、新たな映像翻訳者像とは」のセミナーに登壇した、英日映像翻訳科修了生の前原拓也さんもその一人である。前原さんは慶應義塾大学大学院の文学研究科独文学専攻で修士課程を修了後、東京で舞台制作の仕事をしながら、フリーランスで「ドラマトゥルク」という仕事をしていた。その後、30歳のタイミングで文化庁令和4年度新進芸術家海外研修制度を通じて2年間ドイツのミュンヘンに留学。バイエルン州立アウグスト・エヴァーディング演劇アカデミーのドラマトゥルギー科修士課程を修了し、帰国後は静岡県にあるSPAC-静岡県舞台芸術センターで働いている。

「『この世はすべて舞台、人はみな“訳者”』!?経験×スキルで見つける、新たな映像翻訳者像とは」の様子。

新たなキャリアを考える中で見つけた映像翻訳
ドラマトゥルクとは、美術館で言う学芸員やキュレーターに近い存在だ。劇場にかける演目の選定、観客に作品の理解を深めてもらうためのプレトークの実施や解説の執筆、また演出家とディスカッションしながら演出の方向性を考えるなど、劇場の芸術的な部分で総合的に関わる仕事である。前原さんによれば、主にドイツ、オーストリア、スイスといったドイツ語圏の劇場で存在する職種だそう。しかしながら、日本でドラマトゥルクを有する劇場はなく、前原さんはこれまでフリーランスで主に演出家と演出プランを立てて伴走する役割として働いてきた。

そんな専門職として活躍していた前原さんが、なぜ映像翻訳を学ぶことにしたのか?そのきっかけはコロナ禍だった。当時、緊急事態宣言によってエンタメ業界は大きな打撃を受けた。舞台業界も例に漏れず、前原さんは仕事を休むことを余儀なくされた。

「予定していた仕事がほぼなくなり、それをきっかけに今後のことを考えるようになりました。そこで自分の経験を生かして何ができるかを考えた際、オペラや演劇の字幕制作に関わった経験があったことから、映像の翻訳もやってみようとJVTAの門を叩きました」

これまでの経験と新しいスキルがクロスする
映像翻訳を学び始めて気づいたことは、ドラマトゥルクとしての経験と映像翻訳の知識が相互に生かせるということだった。

ドラマトゥルクの仕事は自分の作品を作ることではなく、作品を観客に届ける手伝いをするということ。映像翻訳もそれと同様で、翻訳を通して作品のメッセージや作り手の思いを観客に届けることが最も大切である。前原さんは映像翻訳の作業について、「これまで演出家と共にやっていた作業を、映像相手にやっているような感覚」だと語る。それと同時に、映像翻訳の体系立ったルールは舞台翻訳で生かせると感じた。

2022年に英日映像翻訳科の実践コースを修了し、プロ化試験(トライアル)にも合格。プロの映像翻訳者としてデビューする一方、エンタメ業界には活気が戻り、ドラマトゥルクとしての仕事も再開するようになる。

そして2025年、前原さんにある翻訳案件の声がかかった。それはニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上映されたオペラの映像を映画館で見る「METライブビューイング」の翻訳だ。

「映像翻訳を学ぶからには、いつかMETライブビューイングの字幕翻訳をやってみたい」と、前原さんは密かな夢を抱いていた。その夢が早くも叶うこととなった。

「METライブビューイングはオペラでありながら、映像作品として字幕をつける形式です。まさに『舞台作品と映像作品の間』だと言える仕事でした。映像翻訳を学んだからこそ手掛けることができたと思っています」

密かに抱いていた夢を叶え、ドラマトゥルクとしてもますます活躍する前原さん。活動の場を増やすために必要なのは、「声を上げること」だという。

「ドラマトゥルクとしての仕事がない時期から、『自分はドラマトゥルクです』と色々なところで言っていました。翻訳も同じで、声を上げることで周りに自分のことを知ってもらえますし、それが仕事へつながることもあると思います。映像翻訳は色んな分野と掛け合わせることができると思いますので、やりたいことがある人はぜひ声を上げてアピールするべきだと思います」

今後は戯曲の翻訳にも挑戦してみたいそう。また、現在勤めているSPAC-静岡県舞台芸術センターをより盛り上げていくことも目標に掲げている。ドラマトゥルクとして、そして映像翻訳者として、前原さんのさらなる活躍が楽しみである。

SPAC-静岡県舞台芸術センターの情報は▶こちら

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