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音楽ドキュメンタリー映画『白い暴動』が公開 修了生の堀上香さんが字幕 監修はピーター・バラカン氏

音楽ドキュメンタリー映画『白い暴動』が公開 修了生の堀上香さんが字幕 監修はピーター・バラカン氏
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音楽ドキュメンタリー映画『白い暴動』が4月3日(金)から劇場公開されます。この作品の日本語字幕を修了生の堀上香さんが手がけました。

 
1970年代、経済破綻状態にあったイギリスは暴力にあふれ、黒人やアジア人が襲われていました。そんな中、人種や生まれに対する差別の撤廃を訴える活動「ロック・アゲインスト・レイシズム(RAR)」が支持を集め、大規模なデモ行進やロックのライブイベントに発展していきます。堀上さんは、当時の時代背景や話し言葉の語尾などについて字幕監修のピーター・バラカンさんと細かく話し合ったそうです。話を聞いてみました。


 
JVTA 音楽が大きなテーマですが、歌詞も字幕にしているのでしょうか? それはレコードの歌詞対訳に基づいているのですか?

 
堀上香さん(以下、堀上さん) 歌詞自体の訳出は少なかったですが、タイトルにもなっているクラッシュの「白い暴動(White Riot)」を訳しています。この曲はパンクファンなら誰でも知っている曲で、当時の歌詞対訳もありますが、今回は新しく訳し直すことになりました。
白い暴動:サブ3 (1)
Photo by Ray Stevenson

 
歌詞の大意は「差別や失業問題に苦しむ黒人たちが暴動を起こしているように、俺たちも白人のための暴動を起こしたい。白人だって失業して苦しんでいるんだ」と訴える内容です。

 
しかしこの内容はイギリス本国でも誤解を受け、移民を攻撃する右翼団体に引用されていたこともあったとか。いやいや、歌詞をちゃんと読めば分かるだろ、移民差別の意味はないよ…と元クラッシュのメンバーが愚痴るエピソードも作品の中で紹介されています。

 
JVTA 歌詞は受け取る側によって、さまざまな解釈をされることがあり、それが難しさの一つでもありますよね。

 
堀上さん そうですね。私は悩んだ末、直訳に近いバージョンと、もう少し表現を変えたバージョンの2通りの訳を用意して提出したところ、「曲のイメージを固めないようにしましょう」ということで、直訳バージョンが選ばれました。
白い暴動:サブ2 (1)

 
ヒット曲を作るには、多くの人が「これは自分の歌だ」と思えるような歌詞とすることが大事だ、と聞いたことがあります。やはり、なるべく原音に沿ったニュートラルな訳にすることが理想でしょう。しかし、あまり直訳になりすぎると表現がぎごちなくなり、伝わるものも伝わらなくなってしまうという恐れもあります。いつも本当にいろいろ悩みながら訳を作っています。

 
JVTA 字幕監修のピーター・バラカンさんと話し合ったポイントがあれば、ぜひ教えてください。


 
堀上さん ピーターさんとの打ち合わせの中で印象深かったのが、当時のイギリス女性の話し言葉についてのお話でした。「できるだけ、男性と同じ言葉遣いでお願いします」とおっしゃっていたんです。

 
★白い暴動:サブ7 (1)
最近、女性のセリフで語尾を「~だわ」「~のよ」とする言葉遣いは、今の時代にそぐわない“役割語”であり、使うべきではない、という議論があります。ただし年配の女性などの場合、語尾をすべて「~だ」「~だよ」などとしてしまうと、必要以上に粗野な印象になってしまうこともあります。

 
JVTA 女性の語尾は時代によっても変わってきますよね。キャラ付けにも影響するので難しいポイントだと思います。

堀上さん 特に字幕の場合は、役割語を排除することで話者が非常に分かりにくくなり、流れのリズムも悪くなってしまうことも多いので、私はわりと“使ってもいいんじゃないかな派”です。

 
しかしピーターさんは、この映画では役割語は一切使うべきではない、というご意見でした。その理由は、映画の舞台となっている70年代が、イギリスで突然、女性が男性と同じ言葉遣いで話しはじめた時代だったから。イギリスで生まれ育ったピーターさんにとって、とても衝撃的なできごとだったそうです。私のほうから上記のような字幕上の都合などをご説明したところ、ピーターさんにも納得していただき、折衷案をいただきました。役割語は極力使わず、流れが不自然になるところだけ「~のよ」などの語尾が入るという感じになっています。女性のセリフの語尾を1つずつ確認し、相談しながら決めました。

 
JVTA そこはぜひ、受講生・修了生の皆さんに注目してほしいですね! 70年代当時のイギリスの背景や事実関係などのリサーチで改めて知ることも多かったとか。

 
堀上さん 当時の時代背景については、打ち合わせの時にピーターさんが時間をかけて丁寧に解説してくださったので、本当に助かりました。画面を見ながら「あ、この通りは移民の人が多いので、おいしいカレーのお店がたくさんありますよ」といった有益情報も教えていただきました(笑)。

 
白い暴動:サブ5 (1)
この映画に登場する「ロック・アゲインスト・レイシズム」という政治運動については、日本ではほとんど報道されていなかったため、当時すでに日本に移住されていたピーターさんご自身も、あまり詳しくはご存じなかったとのこと。この作品を見て、「ああ、そういうことだったのか」と思ったことも多かったそうです。

 
私個人は、ロッド・スチュワート、エリック・クラプトン、デイヴィッド・ボウイまでが当時は移民に対する差別的な発言をしていたと知り、衝撃を受けました。ネットで検索すると、裏付けとなる記録がちゃんと出てきます。
※固有名詞は本作品の表記に合わせています。

 
JVTA 映像翻訳者にとって知識のストックに役立ちそうですね。ご覧になる皆さんへメッセージをお願いします。

 
堀上さん 移民の受け入れに関する問題は、今の日本でも大きな議論となっています。本当にいろんなことを考えさせられる、とてもタイムリーな映画です。差別廃止を訴える若者たちの行進の場面は、大きなスクリーンで見ると息をのむような臨場感と迫力でした。パンクファン、ロックファンのみならず、たくさんの方に、ぜひご覧いただきたい作品です。
JVTA ありがとうございました。
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英語の固有名詞の表記に関しても細かくチェックし、「ブルース」を「ブルーズ」と表記するなど、ピーター・バラカンさんならではの、元の発音に近い表記をできるだけ採用しているとのこと。ぜひ表記にも注目しながらご覧ください。

 
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『白い暴動』
出演:レッド・ソーンダズ、ロジャー・ハドル、ケイト・ウェブ、
ザ・クラッシュ、トム・ロビンソン、シャム 69、スティール・パルス
監督:ルビカ・シャー『Let‘s Dance: Bowie Down Under』※短編
公開表記:4/3(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺他にて
全国順次ロードショー!
【配給】ツイン
公式サイト http://whiteriot-movie.com/

 
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