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【途上国の移動映画館は子どもたちの夢の種まき】WTP創設者 教来石小織さんインタビュー

【途上国の移動映画館は子どもたちの夢の種まき】WTP創設者 教来石小織さんインタビュー
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2012年に設立されたNPO法人World Theater Project(WTP)は、途上国に暮らす子ども達に移動映画館で映画を届ける活動を続けてきた。彼らの取り組みを追った『映画のヒカリ』(内田英恵監督)が6月末からSDGsに関連する日本発のドキュメンタリー作品の上映を行うWATCH 2024: For a Sustainable Future (以下、WATCH 2024)」で英語字幕付きでオンライン上映される。

『映画のヒカリ』©内田英恵/Yahoo!ニュース ドキュメンタリー

「WATCH 2024」はJVTAの指導のもとで、東京外国語大学とJVTAが共催し、国内外の約50名の大学生が作品に英語字幕をつけ、関連トークセッションを企画し、広報活動にも携わる産学連携プロジェクトだ。WTP理事の教来石小織さんは、今回英語字幕がつくことで、より多くの人に移動映画館の活動を知ってもらえると期待を寄せる。WTPはこれまで、パートナー団体や個人の支援と共に団体としてカンボジアを中心にバングラデシュやネパールなど15か国9万人の子ども達に映画を届けてきた。多言語の吹き替え制作や現地での上映はどのように行われているのか。教来石さんにお話を伺った。

2013年7月イキイキスクール(トロペアントム村)撮影Takuya Mitomo

WTPの上映作品は主に日本のアニメ映画の吹き替え版だ。これまで、アンパンマンを手掛けたやなせたかし氏の絵本が原作となった『ハルのふえ』や、スウェーデンの児童文学が原作の『劇場版 ニルスのふしぎな旅』サッカー選手・長友佑都さんをモデルにした『劇場版 ゆうとくんがいく』、宮崎駿脚本・高畑勲監督の『パンダコパンダ/パンダコパンダ雨ふりサーカス』などを上映してきた。

『ニルスのふしぎな旅』

「まずは大前提として、子ども達が楽しんで観られる面白い映画であること。また、子ども達が集中して観られる時間が長くないので、なるべく60分以内の作品を選んでいます。そして一番は、子ども達の心を良い方向に育んでくれる作品かどうかを意識しています。」教来石さん)

映画館のない地域の子どもたちのために、上映は学校を中心に広場や寺院などで行われる。基本的には現地の言葉で吹き替え版を制作することが多い。教来石さんが活動を開始したころ、字幕か吹き替えか迷っていた時に、カンボジアでは内戦の影響で字が読めない大人が多いことを知った。

2014年3月リエンポン村小学校・撮影:五百蔵直樹

「彼らは字幕に慣れておらず、日本人のように字幕を追うのが難しいこともわかりました。子どもだとなおさらです。親子で一緒に映画鑑賞を楽しんでもらうためには吹き替え版が必須なのではと思い、費用は高くなりますが吹き替え版を作ろうと思いました。

まず、日本語が堪能なカンボジア人の方に『日本語』からカンボジアの言語『クメール語』に翻訳していただきました。しかし、その日本語が意味するものがカンボジアの言葉にはないというケースもあり、私たち日本人スタッフが『日本語』から『カンボジア人も理解できる日本語』に変換するという作業を行いました。その中で、映画に出てくる日本の文化や特徴に改めて気づけたのが面白かったですね。駄洒落なども現地の方がわかりやすい言い方に変えるのですが、それがバッチリとハマって、現地での上映の際にそのシーンで笑いが起きた時はとても嬉しかったです。」(教来石さん)

カンボジア人の声優の皆さんと教来石さん

一般に字幕に比べて、吹き替えの制作は複数の声優によるアフレコと音声の収録があり、手間も費用も掛かる作業だ。まして、多言語への対応はより苦労したに違いない。

「吹き替えはカンボジア現地の声優さんにお願いしました。2013年当時、カンボジアには『声優』の仕事をされている方がほとんどおらず、私の知る限り2名のみ。そのお2人が、10人くらいの役をすべて吹き替えてくださいました。ベテランのお二人なので演技指導など不要で素晴らしい仕上がりとなりました。ポスプロを日本のアクシー株式会社様が行ってくださって、とてもクオリティの高い吹き替え版ができました。」(教来石さん)

カンボジア人の声優の皆さん

カンボジア以外の国では現地在住の団体や個人が現地で吹き替え版を制作し、上映を行う。

バングラデシュでは現地で映像制作を行うChotoBela works の原田夏美さんが担当。やなせたかしさんの遺作『ハルのふえ』に現地の国語であるベンガル語と少数民族語のチャクマ語で、2本の移動映画館用吹き替え版アニメを制作した。(※1)吹き替えは、大学で日本語を学ぶ現地の友人や子どもたちなど約30人が担当したという。

バングラデシュでの「ハルのふえ」の現地語吹き替え版制作風景

その後、この作品はロヒンギャ語の吹き替え版も制作された。その際は難民キャンプを訪ね、現地の学校の教師や子どもたちに吹き替えを担当してもらうなど試行錯誤の末に完成させた(※2)。

ロヒンギャの子どもたちと、難民キャンプでアニメ吹き替え制作

また、タンザニアでは、当時JICA海外協力隊として赴任されていた尾田達哉さんが、ワークショップとして原田章生監督作のストップモーションアニメ『ゾウの王様と天使の筆 』のスワヒリ語吹き替え版を子ども達と制作。(※3)歌とナレーションで構成された内容に子どもたちも最初は戸惑いながらも楽しく取り組み、先生からも褒められて達成感を得たという。吹き替え制作の様子はWTPの公式サイトで紹介されている。

タンザニアでスワヒリ語の吹き替え版を制作

地道な活動を続ける中で、映画を観ることを通して、子どもたちの意識に変化があったことを教来石さんは目の当たりにする。それは、子ども達に将来の夢を聞いた時の反応だという。

「この活動を始めた2012年当時、カンボジアの農村部で子ども達に将来の夢を聞くと、9割の子ども達が『先生』か『医者』と答えていました。あとは『わからない』。もちろんとても素晴らしい夢です。ですが、日本の子ども達に将来の夢を聞くと、もっといろんな答えが出てきます。

この違いは何だろうと思っていましたが、子どもたちと接する中で知らない夢は思い描くことができないのだと気づきました。私は映画から夢の選択肢を広げていたような子どもだったので、映画で子ども達の夢の選択肢が増えればいいなということを願いながら上映していました。

ある日の上映にて。そこは親たちがタイに出稼ぎに行く村の小学校だったのですが、上映に参加してくれた女の子、ピーちゃんのことが今も印象に残っています。ピーちゃんは映画を観る前、他の子と同じように『将来は先生になりたい』と言っていましたが、映画を観終わった後、こんなことを言いました。

『夢が変わりました。私は映画を作る人になりたいです』

それを聞いた時、私はこの活動は夢の種まきなのではないかと思いました。また、現地スタッフ(映画配達人と呼んでいます)が特に多く映画を上映している村で子ども達に将来の夢を聞いた時には『アーティスト』『パイロット』などさまざまな夢が出てきたことに驚き、何かが実り始めたのかもしれないという感覚になりました。」(教来石さん)

映画を楽しむ子どもたちと教来石さん

教来石さんは最近、JVTAの音声ガイドディスクライバー養成講座を受講した。音声ガイドは見えづらい人に映像の内容を言葉で伝えるツールだ。映画を観る機会がない途上国の農村部での映画上映と、映画が見えない、見えづらい人への音声ガイド制作には、すべての人に映画を届けたい想いが通じていると感じたのが受講のきっかけだった。一方でガイドを作る中で、作者の意図を読み間違えることもあり、作品を伝えていくことの難しさも改めて感じたという。今回、自身の活動を収めた『映画のヒカリ』に英語字幕がついて上映されることについて、字幕を制作する学生たちへのメッセージを頂いた。

「尊敬する映画監督、内田英恵さんが制作してくださった『映画のヒカリ』は、私の中でとてもとても大切な作品です。その映画に今回英語字幕をつけていただけるとのお知らせに胸躍りました。

これまで言語の関係で『映画のヒカリ』を観ることができなかった方に届くこと、とても凄いことで有り難いことです。英語字幕がつかなければ観ることがなかった誰かの可能性を広げてくれるかもしれない。そして弊団体の活動の可能性を広げてくれるかもしれない。大変なことも多いかと思いますが、英語字幕制作は様々な可能性に満ちた崇高なお仕事だと思います。でも疲れた時、目の疲れにはめぐリズム、肩凝りにはサロンパスがおススメです。(笑)」(教来石さん)

2015年9月・コンポンクダイ小中学校・撮影:黒澤真帆

WTPの調べによると、世界にある映画館の数は約2万、その75%があるのは映画製作国上位10カ国なのだという。現代の日本では、映画館はもちろん、動画配信でも多くの映画を楽しむことができるが、それは当たり前ではないのだ。「生まれ育った環境に関係なく子ども達が夢を描き人生を切り拓ける世界をつくる」という理念のもと、教来石さんの10年以上に及ぶ活動は確実にそれを実現している。映画のパワーを伝える架け橋という意味で移動映画館の活動は映像翻訳者にも通じる。カンボジアでは最近、同団体のメンバーがシンガポールの配給会社とディズニー作品を上映できる契約を結んだ。すべてクメール語字幕がついている作品だが、字幕を追えないという声もあり、吹き替えのニーズには対応できないなど、まだまだ課題は多い。それでも世界各国でまだ映画を観たことがない多くの子どもたちのために教来石さんの挑戦は続いていく。『映画のヒカリ』では現地の子どもたちのキラキラした瞳と溢れる笑顔を見ることができる。ぜひ、多くに人にご覧いただきたい。

2015年12月バッタンバン州、テスト上映2、撮影:川畑嘉文

★『映画のヒカリ』(内田英恵監督)の英語字幕付き上映の視聴申し込みはこちら

WATCH2024 公式サイト 

★NPO法人World Theater Project 公式サイト

※1 バングラデシュの仲間と、国語と少数民族語の吹き替え版アニメ制作 | 映画を届ける活動|World Theater Project (worldtheater-pj.net)

※2 ロヒンギャの子どもたちと、難民キャンプでアニメ吹き替え制作に挑戦 | 映画を届ける活動|World Theater Project (worldtheater-pj.net)

※3 『ゾウの王様と天使の筆』スワヒリ語吹替版制作についてインタビュー | 映画を届ける活動|World Theater Project (worldtheater-pj.net)

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