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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の一本 vol.178 『マグノリア』 

今週の一本 vol.178 『マグノリア』 
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【テーマ:NEW】気持ちが行き詰まってしまった時、ふと口ずさむフレーズがある。
No, it’s not going to stop, ‘til you wise up.
No, it’s not going to stop. So, just give up.

 
映画『マグノリア』のクライマックスシーンで流れる挿入歌、エイミー・マンの『Wise Up』の一節だ。特にラストの”So just give up”というメッセージが、途方に暮れている私を強く突き放し、吹っ切れた気持ちにしてくれる。そう、なぜだか自分自身を解放してくれるのだ。劇中には、主要登場人物たちがエイミー・マンの歌声と一緒に口ずさみ、順に歌い継いでいくシーンが出てくる。その姿は、おのおのが自分自身の持つダークサイドと向き合い、対話するかのように仕上げられ、何度観ても涙が溢れる。

 
監督ポール・トーマス・アンダーソンは、この映画について、「エイミー・マンの歌にインスパイアされて作った」と語っている。また劇場用パンフレットには、「小説を映画化するのと同じコンセプトで彼女の音楽を映画化してみたかった」とも書かれている。映画『マグノリア』は、このエイミー・マンの歌なくして完成には至らなかっただろう。

 
ちなみに、P・T・アンダーソン監督は、本作品でベルリン国際映画祭金熊賞を獲得している。ハリウッドの次世代を担う、若手実力No.1の才能を持つと評される彼の手法は、村上春樹のように綿密に計算されており、観客を『さすが!』と唸らせる仕掛けがストーリーの隅々に散りばめられている。

 
たとえばオープニングの後に出てくるこのテロップ。
82% Chance of Rain
単なる天気予報と思いがちだがそうではない(ここを見逃してしまうと、つまらない映画で終わってしまうだろう)。ほかにも、この82という数字は、あらゆるところに登場しているが、一体何を示しているのだろう? (ヒントは旧約聖書の中にあるのだとか)
これらの隠語は、衝撃的なエンディング”○○○が○ってくる”という現象を読み解く手掛かりとなっている。 このシーンはあまりにも唐突なため、好き嫌い別れるところだが、のちにその意味を知った私は「やられた!」とひどく感動した。 この○○○こそ、本作のテーマである「過去」、「贖罪」、「赦し」から人々を解放させる重要なメタファーとなっているのだ。(もちろん、○○○には、人によってはさまざまな解釈や見解がある)

 
そして最後に… あなたなら冒頭で紹介した”So, just give up”をどのように訳すのだろう?

 
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『マグノリア』
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズ、メリンダ・ディロン
製作国:アメリカ
製作年:1999年
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Written by 中塚 真子(なかつか・まさこ)
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[JVTA発] 今週の1本☆
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。


 

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