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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『列車に乗った男』

今週の1本 『列車に乗った男』
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3月のテーマ:チェンジ

 
自分にないものを持っている人に憧れを抱いてしまうのは、私だけではないだろう。「容姿」や「地位」、「性格」や「人間関係」など要素は様々だが、自分とはかけ離れた人生を送る人を羨ましく思い、そして魅了されるのはごく自然なことだ。今回、紹介する作品『列車に乗った男』は、性格も立場も正反対な2人の男達の奇妙な関係性を描いた、フランスの名匠パトリス・ルコント監督が送る“人間ドラマ”だ。

 
物語はとある田舎町に、銀行強盗を企てる中年男ミランが列車に乗ってやってくるところから始まる。この町で彼は初老の元フランス語教師マネスキエと出会う。黒いジャケットを羽織り、無精ひげを生やして、見るからにアウトローな風貌のミランに興味を持ったマネスキエは、ミランを家に招き入れる。ミランの計画実行は3日後、一方マネスキエも3日後に心臓のバイパス手術を控えている。このたった3日の短い期間に2人の関係性は深まっていく。

 
独り身で話し相手がいないため、久しぶりの客人に気分を高揚させるマネスキエ。しかも、以前から憧れていたアウトローな人生を体現する相手ならなおさらだ。一方、ミランの方は、最初はマネスキエの下ネタ満載なマシンガントークにウンザリする様子を見せるものの、次第に自分とはあまりにもかけ離れた、平穏で安定した人生に憧れを抱き始める。こっそりミランのジャケットを着て銃を構える素振りを見せるマネスキエに、“スリッパを履いてみたい”とお願いするミラン。その2人の様子は愛おしくもあり、どこか切なくも感じる。本作の魅力の一つだ。

 
また、本作は全体的に余白のある、と言うより“余白を作った”構成となっている。あまり多くを語らず、非常に断片的な描写で物語が進んでいく。それを良いと感じるかどうかは人それぞれかと思うが、私はこの構成にかなり満足している。特に好きなのがラストシーン。道を挟んで2人が立ち、マネスキエからミランへ家の鍵が投げ渡される。そして、それぞれ自分が進むべき方向へと足を運ぶ。互いの人生を交換するかのように、ミランは家へ戻り、マネスキエが列車に乗り街を離れていく。この描写は物語中で実際に起こったことなのか、単なるイメージなのかは詳しく語られないが、非常に心に残る名シーンだ。

 
人との出会いは、時に自分の人生を大きく変えてしまうこともある。もし、今の生活が退屈で何か変えたいと思うなら、列車に乗って新たな出会いを求めるのも良いかもしれない。

 
賛否両論ある作品だが、個人的には一度手に取って鑑賞してもらいたいオススメ作品だ。

 

『列車に乗った男』
監督:パトリス・ルコント
出演:ジャン・ロシュフォール、ジョニー・アリディほか
製作年:2002年
製作国:フランス/ドイツ/イギリス/スイス

 
Written by 秋山剛史

 

[JVTA発] 今週の1本☆ 3月のテーマ:チェンジ
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

 
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