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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第30回 “Law & Order” に学ぶ「正義」

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ  第30回 “Law & Order” に学ぶ「正義」
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第30回“Law & Order” に学ぶ「正義」
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 


 

社会派ドラマの金字塔
“In the criminal justice system, the people are represented by two separate, yet equally important groups: the police, who investigate crime; and the district attorneys, who prosecute the offenders. These are their stories.”(オープニング・ナレーション)
 

“Law & Order”は法とは何か、正義とは何かを問いながら、アメリカ社会の病巣と矛盾を抉り出してきた社会派ドラマの金字塔だ。今回は全456エピソードの中でも屈指の一作、テロリズムをテーマにした”Patriot”(愛国者)をテキストに、法と正義がどう保たれたのかを探る。 以下”spoiler alert”(ネタばれ注意)
 

シーズン12 エピソード#277: “Patriot”(愛国者)
(本エピソードは、「9.11 / 米国同時多発テロ事件」から約8カ月後に全米で放映された)
 
マンハッタンのダウンタウンでアパートの一室が爆発、30代のアラブ系男性の死体が発見される。爆発はガス漏れにみせかけた放火で、検死の結果、被害者は爆発前に首の骨を折られて死亡していたことが判明した。NY市警殺人課の刑事ブリスコー(ジェリー・オーバック)とグリーン(ジェシー・L・マーティン)は、被害者のジョゼフ・ヘイデンは偽名で身元不詳、彼の銀行口座には、テロ組織からのものと思われる9万ドルが送金されていたことを突き止める。どうやら被害者はテロリストだったらしい。
 

容疑者として浮かび上がったのは、湾岸戦争の特殊部隊メンバーだったフランク・ミラー。ミラーは卓越した諜報能力を持ち、アングラのジャーナリストの協力を得て、マンハッタンに住むアラブ人の国際電話を違法に盗聴していた。そして暗号による会話の内容からヘイデンが近々テロを起こすと確信し、先手を打ってヘイデンを殺害して事故にみせかけたのだ。
 

地検のマッコイ次席検事(サム・ウォーターストン)とセリーナ検事補(エリザベス・ローム)は、フランク・ミラーを殺人罪で起訴する。ミラーはヘイデン殺害を認めたものの、彼の抗弁はマッコイの意表を突いたものだった!
 

“Fear is not the license to kill.”
ミラーの弁護士は陪審員に向かって主張する。
「戦時下では地理的条件は限定されない。マンハッタンもテロリストとの戦場で、ミラー被告の敵兵殺害は完全に合法である。テロを未然に防いだ被告は兵士としての責務を果たしただけで、犯罪者ではなくヒーローだ。あなた方は、アメリカ国民のために戦った兵士を殺人犯として裁くのですか?」
 

この抗弁は詭弁に聞こえるだろうが、正反対のアングルから見た主張や論理の飛躍は、アメリカでの訴訟やビジネス交渉では珍しくはない。被告の主張も筋は通っているのだ。(この種の論法をエンタテインメントとしてストレッチすると、”Boston Legal”、” SUITS “などのリーガル・コメディができあがる)
 

一方、マッコイの反論は極めて全うなものだ。
「『殺される前に殺せ』という考え方は、われわれをテロリストにする。テロの恐怖にどう向き合うかで、わたしたちがどういう人間なのか定義づけられる。被告は自分で判事、陪審員、処刑人を演じたが、決して許されない行為だ。ヒューマニティの喪失はテロリズムに負けることを意味する。この法廷で被告の誤りを正して欲しい」
 

5日間の激論の末、陪審員はミラーに有罪判決を下す。検察は勝つには勝ったが、無罪を主張する陪審員も少なくなかったのだ。
マッコイはセリーナに呟く。
“Fear is not the license to kill.”
 

正義の守護者を演じる名優たち
不屈の次席検事ジャック・マッコイ役を16シーズン務めたサム・ウォーターストンが本シリーズの「顔」なら、シニカルな刑事レニー・ブリスコーを12シーズン演じたジェリー・オーバックは「スター」だ。オーバックはブロードウェイ・ミュージカルの名優で、筆者も若いころ、彼が主演した”42nd Street”をロサンゼルスで観た記憶がある。
アメリカン・ドラマの長い歴史の中で名刑事と言えば、オーバックのブリスコーと、”NYPD Blue”でデニス・フランツが演じたアンディ・シポウィッツが双壁だろう。
 

オーバックの相棒役からは、クリス・ノースやベンジャミン・ブラットなどのスターが生まれた。また、ウォータストンと組む検事補役にはジル・ヘネシー、キャリー・ローウェル、アンジー・ハーモンなど知的美人が多く、楽しみのひとつでもあった。
 

“Law & Order”は1990年から20年にわたり、現実の事件をヒントに多彩な議論を視聴者に投げかけた。各エピソードは濃密で重厚、苦い判決も少なくないが、これほど観終わった後に考えさせられるドラマは他にない。”Law & Order:Special Victims Unit”、”Law & Order:Criminal Intent”、”Law & Order:UK”などの大ヒットしたスピンオフも、このオリジナルには質・量ともに及ばない。
「アメリカの良心と健全な正義感を描く」、これが”Law & Order”なのだ。
 

<今月のおまけ> 「ベスト・オブ・クール・ムービー・ソングズ」 ⑩
Title: “Shape of My Heart”
Artist: Sting
Movie: “The Professional” (1994)


ナタリー・ポートマンは当時13才!

 

 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 
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