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「ゴジラの音楽」明けの明星が輝く空に vol.54

「ゴジラの音楽」明けの明星が輝く空に vol.54
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職場などで、“隠れゴジラファン”を見つけるのは簡単だ。「怪獣大戦争のマーチ」(注1)を流せばいい。ダラダラ仕事をしていた人が、急に背筋が伸びてイキイキし始めたら間違い。アップテンポなリズムが心地いいこの曲は、ゴジラシリーズを通して自衛隊などの出動場面に使われ、今もファンの間で非常に人気が高い。

 
ただゴジラを思い描くとき、僕の頭にまず浮かんでくる曲は他にある。ゴジラの登場シーンに使われるスローなメロディーだ。『ゴジラ』(1954年)の品川上陸シーンに流れたそのメロディーは、シリーズ内でアレンジを変えて使われ続けた。オリジナルは怪物の恐ろしさを強調した感が強いけれど、たとえば10年後に公開された『モスラ対ゴジラ』では音自体がやさしくなり、どこか哀しげな雰囲気すら漂わせている(注2)。これから街を破壊しよう大怪獣のBGMが、どうして哀しげなのか、考えてみれば不思議な曲だ。

 
今年は『ゴジラ』が公開されてから60年。上に挙げた2曲を含め、ゴジラシリーズに数々の楽曲を提供した伊福部昭氏の生誕100周年でもある。伊福部氏は交響曲の作曲家として海外でも高い評価を受け、教え子には芥川也寸志氏や黛敏郎氏といった著名な作曲家たちがいる。

 
『ゴジラ』のタイトルバックに流れるテーマは(注3)は、聞いているだけで不安を掻き立てられるような曲だ。まず東宝のロゴマークとともにゴジラの足音のような轟音が響き、ゴジラの文字が出たところで咆哮がとどろく。そして、シンプルな音階が繰り返され、徐々に高揚感を増していく。まるで嵐が次第に強まっていくような、そんな印象を受ける曲だ。ゴジラ松井がメジャーリーグで打席に立つときのテーマ曲にもなったので、『ゴジラ』は見ていなくても聞いたことがある、という人は案外多いかもしれない。

 
一方『ゴジラ』のクライマックスシーンに流れる曲は、心に染み入るような美しく哀しい旋律で、見終わったあとに強い印象を残す。「海底下のゴジラ」(注4)とも呼ばれるこの曲が使われるのは、主要な登場人物の1人、芹沢博士が“オキシジェン・デストロイヤー”を使い、ゴジラと“心中”する場面で使われている。オキシジェン・デストロイヤーは芹沢自身が発明した装置で、戦争などに使われれば大変な悲劇をもたらす恐ろしい力を持っている。彼はこの世からそれを永遠に葬り去るべく、発明者である自分も海の藻屑となることを選んだのだ。悲壮感にあふれた芹沢の英雄的行動。そのBGMとして、この曲は相応しい。だけど実際には、まだ芹沢の意図が劇中で明らかにされる前から、「海底下のゴジラ」は流れ始める。「さあ、怪獣退治だ。待ってろ、ゴジラ!」という場面なのに、どうして希望に満ちた曲や勇壮な曲ではなかったのだろうか。

 
このクライマックスシーンの曲を聴きながら、静かに海底にたたずむゴジラの姿を見ると、その謎が解けた気がする。東京を焦土にしたという点でゴジラは憎むべき存在だけれど、人類の水爆実験で住処を追われた被害者という側面もある。以前、このブログで、怪獣は山を追われ里に出てきたイノシシのようなものだと書いた(第41回「怪獣たちの目線に立てば」参照)。ゴジラがまさにそうだ。水爆実験で住処を追われ、人間界に出てきたばっかりに電流攻撃やミサイル攻撃を受けてしまう。ゴジラは海底で、つかの間の安息の時を過ごしていたのだろう。あのクライマックスシーンはきっと、芹沢だけではなくゴジラの運命も悲劇的に描いているのだ。それを暗示するようなセリフは出てこない。けれど「海底下のゴジラ」の旋律は、言葉以上に雄弁にそれを語っている気がする。

 
こう考えてくると、哀しげな雰囲気を漂わせるゴジラ登場シーンのメロディーにつても納得がいく。ゴジラは悪意を持ったモンスターではない。むしろ悲しみを背負った存在なのだ。そんなメッセージが込められていたのではないだろうか。

 

注釈:今回紹介した曲は、削除されていなければ以下のサイトで視聴可能です。
1 「怪獣大戦争のマーチ」
http://youtu.be/Mbc1305dHxs
2 ゴジラ登場シーンのメロディー(57秒あたりから)
http://youtu.be/XYkuzf4duHw?t=57s
3 『ゴジラ』タイトルバックの曲 
http://youtu.be/k7fymA8Nojg
4 「海底下のゴジラ」
http://youtu.be/Pl54mC8xdNI

 
●明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】
ツール・ド・フランス開幕!僕が2年前に走りにいった峠も、第14ステージに登場するから、テレビ観戦が今から楽しみなんである。
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 第53回 『ゴジラ』
 第52回 存在感のあるミニチュア
 第51回 昭和特撮2大悪役

 
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