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【修了生/高間裕子さん】「歌詞対訳は黒子に徹してアーティストの想いをそのまま伝えたい」

【修了生/高間裕子さん】「歌詞対訳は黒子に徹してアーティストの想いをそのまま伝えたい」
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音楽好きな人なら一度は憧れる「歌詞対訳」という仕事。JVTAでも多様なジャンルの歌詞対訳を受注しています。修了生の高間裕子さんは、この分野でMTCスタッフが厚い信頼を寄せる翻訳者の1人。これまで、コピーライター、雑誌・書籍の編集者、ライター、翻訳者として経験を積んできた高間さんは、JVTAの説明会に参加した際、「翻訳者は、日本語力が勝負」という新楽代表の言葉を聞いて、入学を決めたと話します。そんな高間さんがどのように歌詞対訳に取り組んでいるのか、お話を聞きました。

 

◆洋楽への入口は、高校時代に出合った“渋谷系”

 
JVTA 歌詞対訳を手がけるようになった経緯を教えてください。

 
高間裕子さん JVTAには、2003年から1年間、まだ移転まえの代々木八幡の小さな校舎に通いました。その在学中に、知り合いの紹介でイギリスの音楽情報ウェブサイトの翻訳を担当させていただいたのが音楽関連の翻訳の始まりでした。アーティストのインタビューや新譜情報、ライブレポート、ゴシップ記事など1日6本の記事を毎日訳す仕事です。日本時間の夜中に英文記事がアップされ、それを基に翻訳を始めて、翌日の午前中に日本語原稿を納品するというスケジュール。今考えると結構ハードでしたが、新人なのでとにかく必死でした。

 
その後、JVTAで受講していたコースの最後に面談をした時に「こういう音楽関係の仕事をしている」というお話をしたところ、担当の方がMTCの音楽関連の受発注をされているディレクターの方で、歌詞対訳やバイオグラフィー翻訳のお仕事などもいただくようになりました。

 
JVTA 始めはWebサイトの翻訳だったんですね。高間さんは昔から洋楽がお好きで詳しかったのですか?

 
80'sヒッツ
※ナンバーワン80s ORICON ヒッツ

 
高間さん いいえ、高校までは歌謡曲好きで、アイドルから演歌、バンドまで、ヒットチャートの上位にあるような邦楽を片っ端から聴いてました。その後、音楽翻訳の経験を重ねるうちに、後追いでジャーニーやプリンス、AC/DCなど80年代の王道ともいえる洋楽ロックが大好きになりました。彼らの作品はもちろん、ロッド・スチュワートやジョージ・マイケル、TOTO、ビリー・ジョエルなど80’sの翻訳をやらせていただいた時は特に興奮しましたね。

 
JVTA 本格的に洋楽を聴き始めたきっかけは、“渋谷系”だったとか?

 
高間さん 高校時代、学年一おしゃれな友人に「フリッパーズ・ギター」のCDを貸してもらい、「世の中にはこんなに洒落た音楽があったのか!」と衝撃を受けました。そこから“渋谷系”といわれていたピチカート・ファイヴやカヒミ・カリィなども聴き始めたんです。彼らが影響を受けた洋楽やおすすめの曲を聴くうちに、ネオアコ(ネオ・アコースティック)やギターポップなどを知り、これが洋楽へと傾倒するきっかけとなりました。大学のころは洋邦問わずライブハウスに頻繁に出かけ、音楽好きな友人が増えました。大学卒業後はコピーライターから始まって、音楽関連の記事の執筆を数多く手がけてきたので、その中でも知識が広がりました。実は初めて取材させていただいたのが、部屋にポスターを貼るほどファンだった“渋谷系”のカジヒデキさんでした。アーティストのインタビューやライブレポート、新譜紹介の記事執筆に加え、音楽サイトの翻訳も7年くらい担当させていただき、いろいろな音楽を知ることができたのだと思います。

 

◆ファンだからこそできた歌詞対訳のこだわり

 
JVTA 高間さんはジャンルや年代問わず多くのアーティストの歌詞を翻訳されているので、初めて聴くアーティストもいると思います。調べ物はどのようにされていますか? 毎回必ずチェックするサイト、使いやすいソースなどありますか?

 
グエンステファニー
※グウェン・ステファニー「ディス・イズ・ホワット・ザ・トゥルース・フィールズ・ライク」

 
高間さん まずはレコード会社の公式サイトをしっかりチェックします。最近ではアーティスト本人のSNSがあるので、以前よりは調べものがしやすくなったと思います。でも逆に情報がありすぎて、調べつくせないという難しさもありますね。本当に新人で情報がほとんどない、逆に古すぎて資料がないといった場合は、とにかく曲をじっくり聴いて口調などを考えます。こんなソフトな声で「俺」とか言わないだろうなとか…。

 
JVTA 歌詞対訳の仕事で特に印象的だった作品はありますか?

 
ウィーザー
※ウィーザー「エヴリシング・ウィル・ビー・オールライト・イン・ジ・エンド」

 
高間さん 「ウィーザー」というアメリカのロックバンドのアルバムですね。94年の全米デビュー時から個人的に大ファンだったのですが、2014年に彼らのニューアルバムの歌詞とプレスリリースの翻訳を担当させていただきました! 彼らの曲は「泣き虫ロック」といわれていて、ちょっと切ない内容が特徴です。過去の作品もバンドのキャラクターもよく知っているので、歌詞に共感しすぎて、私も泣きながら翻訳していました…。ライブにも行っていたバンドに、20年越しで携われたのは感激でしたね。

 
JVTA ウィーザーにとっても、彼らのファンにとっても良かったのではないでしょうか? やっぱりファン以上に知っている人はいないですから。『glee/グリー』も大好きだったそうですね?

 
グリーシーズン6 51mNOd9nVYL._SX425_
※グリー sings バート・バカラック~世界は愛を求めてる~
※グリー<シーズン5>ザ・クォーターバック

 
高間さん ドラマ『glee/グリー』も個人的に大好きで1話からずっと見ていました。第3シーズンくらいからサントラの歌詞対訳を担当したのですが、これまでのストーリーを知っていたので、イメージしやすかったですね。80年代の王道ポップスが数多く使われているのも嬉しかった…。『glee/グリー』に関してはミュージカルのように複数で歌うので、ボーカルがフレーズごとにかわったりします。日本語の歌詞も、その歌っているキャラに合わせてドラマのセリフで使っている1人称や語尾を使い分けるように意識して作りました。場合によっては映像がなく、音だけを聴いて声で判断することも必要だったので、やはりファンだった知識が生かせたのかもしれません。

 
JVTA その訳し分けはすごいですね! やっぱりファンならではです。歌詞の場合、抽象的で意味の解釈が難しいときは、どのように判断していますか?

 
ブリジット日記
※ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期-オリジナル・サウンドトラック

 

◆ゴシップ記事やファンの書き込みにもヒントを探す

 
高間さん 歌詞はひとつの作品であり、1曲の中にテーマや物語が必ずあります。それゆえ、1行ずつ切り離して訳していると意味が分からなくなってしまうことがあります。まずは全体を何度も読んで、何がテーマなのかを考えます。全体像が見えてきたら、そこから逸脱しないように意識し、さらにブレスの入り方などにも注意して流れを捉えてから翻訳をします。あとは、アーティストがその曲を書いた当時、どんな状況にいたのかなどを調べたりもします。この人は最近、こんな経験をしたから、その想いを歌っているのではないかといった感じで、ヒントが浮かびあがってくることもあるからです。

 
JVTA 背景を調べることで、原文を見るだけでは分からない部分も見えてくるんですね。

 
セレーナ・ゴメス
※セレーナ・ゴメス「バック・トゥ・ユー」

 
高間さん セレーナ・ゴメスの歌詞対訳を手がけましたが、以前セレブ誌のライターをしていた頃、彼女に関する記事をたくさん書いてきました。この曲は元恋人のジャスティン・ビーバーのことを歌っているのではないかとすぐにイメージできました。最近はアイドル的なシンガーでも自分で詞を書く人が多く、私生活が反映されていることも多いので、ゴシップ記事なども知っておくと参考になります。ファンのブログなどにも深い情報があるので、英語、日本語両方のサイトをチェックしています。

 
JVTA 翻訳しやすいジャンル、しづらいジャンルはありますか?

 
スティーブルカサー - コピー
※スティーヴ・ルカサー「セッション・ワークスⅡ」

 
高間さん ここ数年EDM(Electronic Dance Music)が流行りだしてから、すごくシンプルな歌詞が増えたと感じています。ミュージックビデオに歌詞がデザインされて表示されるなど、誰もが口ずさみやすいものが多いですね。シンプルすぎる歌詞をそのまま訳すと陳腐になりがちですが、逆に深みのある日本語にするとぐっと雰囲気が変わるので、ここは翻訳者の腕の見せ所かもしれません。

 
JVTA 他にも難しいジャンルがありますか? 

 
高間さん 時間がかかるのはヒップホップですね。2000年代は“featuring”でラップが入る曲が多くて苦労しました。とにかく単語の意味をとるのが大変で、1行訳すのに1時間かかることもあります。必死で調べたらその人が住んでいる街の個人商店の名前だったことも(笑)。私はRap Geniusという歌詞を分析するサイトも参考にしています。「この詞はこういう意味ではないか」という分析をファンが書き込めるサイトで、わりと新しい曲の話題もあります。ヒップホップはときに難解ですが、音楽としても興味深いジャンルですし、翻訳に関してもやりきったという達成感があります。韻にこだわったり、ダブルミーニングを多用したりといったところは、大学時代に専攻したシェークスピア文学にも通じるところがあり、言葉遊びを日本語にしていく楽しみがあります。

 
◆歌詞対訳は黒子に徹して、純度の高いままお届けしたい

 

JVTA 歌詞カードはファンにとって大切なアイテム、プレッシャーもありますね。

 
マイケルバッド
※マイケル・ジャクソン BAD25周年記念デラックス・エディション

 
高間さん そこはすごく意識していますね。ファンの人たちがそのアーティストに持っているイメージを壊してはいけないと思うので、バイオグラフィーやファンのSNSやブログなどもよく見ます。語尾や一人称なども、歌詞やインタビューにも反映できるようにしています。私は翻訳者として徹底的に黒子に徹したい。アーティストの言葉を、私という無色のフィルターを通して純度の高いままお届けするのが使命だと思っています。だからこそ、きちんと調べてキャラもできるだけ把握し、その人の想いを壊さずに伝えたいんです。マイケル・ジャクソンのように熱烈なファンが多いアーティストは、特に気を使います。

 
JVTA 高間さんの翻訳原稿は、どんなジャンルでも全く浮きがなく、キャラやワードチョイスがアーティストにしっくりくるものばかりですが、ボキャブラリーを増やすために何か努力されていることはありますか?

 
グリービリージョエル
※ムーヴィン・アウト グリー シングス ビリー・ジョエル

 
高間さん 自分の日本語力を過信してはいけないといつも肝に銘じています。言葉は生き物だから常に古くなってしまう。だから、街角やテレビ、ネット等で分からない言葉や聞き慣れない言葉を耳にしたら、すぐに調べて自分でも使ってみるんです。自分が使わない言葉を翻訳で使っても浮いた感じになってしまうので。翻訳と並行して日本語でのライティングの仕事もしてきたので、日本語としても完成度が高くないといけないと常に意識しています。

 
高間さん 翻訳を始めて数年目に、ピンチヒッターとして若い女性向けのコンテンツの大きな翻訳の仕事を頂いたことがありました。実は、はじめに担当したベテラン翻訳者の方の言葉のチョイスが古すぎて、トーンが合わなかったとのこと。この時から危機感を持ち、言葉は常にアップデートしていこうと意識してきました。

 
10代の若いアーティストの歌詞などを手がける時は、彼らと同世代の人が出ている番組を見るなどして、どんな言葉が実際に使われているかリサーチします。文章としてきちんとしていることはもちろん大切ですが、それ以前に歌っている人に合っていないというのは致命的ですよね。歌手のキャリアや年齢、バックグラウンド、立ち振る舞い、インタビューの翻訳の口調なども参考にしています。

 
JVTA 歌詞はあえて曖昧なものもあるので難しいですね。

 
レディーガガ
※トニー・ベネット&レディー・ガガ 「チーク・トゥ・チーク」

 
高間さん 抽象的なものや、意味がいくつも含まれているようなときは、日本語でもそれを感じられるようにしています。複数の意味にとれて迷う時は、それぞれの案をきちんと申し送りにして、クライアントに判断を委ねています。勝手に判断をして間違ったら大変なことになるので、自分で決めつけないことが大事ですね。

 
JVTA お話を伺えば伺うほど、あらゆるジャンルに対応するご苦労を感じます。

 
高間さん 確かにこうして改めて振り返ってみると、結構大変な作業ですが、自分では苦に思ったことがないので、楽しめているのだと思います。音楽好きにはやはり夢のような仕事なので、ありがたいですよね。

 
JVTA 音楽の翻訳はやはり、「自分もファンとしての気持ちが分かること」が必須だと感じました。それで初めてファンを納得させる言葉づくりができるんですね。今後のご活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

 
高間裕子(たかまゆうこ)
大学で英文学を専攻し、卒業後は広告制作会社に勤務。その後、ライターとしての経験を積みながら2003年に日本映像翻訳アカデミーに入学。映像翻訳基礎および初級コースで学ぶ。エンタメ系のライター、雑誌・書籍編集業のほかWebサイトの翻訳や歌詞対訳、書籍翻訳など幅広く活躍。「ダイヤモンドの真実」ニコール・リッチー(書籍翻訳)「SING/シング」サウンドトラック(歌詞対訳)「チーク・トゥ・チーク」トニー・ベネット&レディー・ガガ (歌詞対訳)など手がける。
※記事中のCDジャケットは高間さんが歌詞対訳を手がけた作品です。

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