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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『やさしい嘘と贈り物』

今週の1本 『やさしい嘘と贈り物』
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9月のテーマ:乙女

 
先日、週末に上野を歩いていたら、仲良く手をつないで歩く年配のカップルとすれ違った。夫婦なのか、恋人なのかは分からない。小柄でかわいらしい女性は男性を見上げ、何か楽しそうに語りかけている。男性の方は、ときおり相槌を打ちながら穏やかな笑みを浮かべている。60歳は超えていそうな二人だったが、その女性を見て私は思った。
 

「なんて乙女なんだ」
 

「乙女」という言葉は本来、穢れを知らない、うら若い女性を指す。でも今では、誰かにまっすぐ恋する人や、ロマンチックなことが好きな人を指す意味で使われることの方が多い。このおばあちゃんは、その意味で正真正銘の乙女だった。そしてこのとき思い浮かんだ映画が『やさしい嘘と贈り物』だ。
 

いきなりネタバレになるが、『やさしい嘘と贈り物』に出てくる年配の女性メアリーが恋するのは、実は夫のロバート。ロバートは重度の認知症で記憶を失い、メアリーのことも忘れてしまっている。それでもメアリーは、長年連れ添ったロバートのことを今も変わらず愛している。そこで、ロバートの記憶を呼び起こそうと彼女が計画したのが、もう一度2人が恋に落ちるという作戦、メアリーは偶然の出会いを演出してロバートをデートに誘うのだ。
 

計画を実行しているときのメアリーは、恋する若い女性となんら変わらない。彼を見つめながらはにかむような笑顔を見せたり、彼から電話がかかってこないかとそわそわしたり。レストランでの食事の後は、馬車に乗って街中を散策。夜に相手からの電話を待つシーンでは、待ちきれない二人が同時に電話をかけてしまい、なかなかつながらない。夕暮れにキスをすれば、周囲のイルミネーションが一斉に灯る。
 

これでもか!というくらい乙女要素の多い映画なので、こそばゆい気持ちになるシーンはかなり多い。それでも、苦境に立たされながらも恋心を燃やすメアリーは見ていて愛らしいし、うらやましいほどのエネルギーに満ちている。
 

「いくつになっても心に乙女を宿し続ける」。それが人生を豊かにしてくれるのは、間違いないのだろう。
 

『やさしい嘘と贈り物』
監督:ニコラス・ファクラー
出演:マーティン・ランドー、エレン・バースティン
製作国:アメリカ
製作年:2008年
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Written by 板垣七重(イタガキ・ナナエ)MTCディレクター
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[JVTA発] 今週の1本☆ 9月のテーマ:乙女
 
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。
 

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