【イタリアの話題作2作品が劇場公開!】伊日翻訳で活躍する杉本ありさんインタビュー
JVTAで英日映像翻訳を学んだ修了生の中には、多言語の知識を活かして活動する人も多い。杉本ありさんは、出版社勤務を経てイタリアへ留学。その後JVTAで映像翻訳を学び、伊日、英日翻訳の翻訳者として活躍。昨今は、コメディからシリアスな刑事ものまで、イタリアの映画やドラマの字幕を数多く手がけている。また、絵本や児童書の翻訳も手がけるなどその実績は多岐にわたる。
◆『シャオ・メイ/ローマ大決戦』でカンフーアクションに初挑戦
2026年も担当作品の劇場公開が続いている。5月29日公開の『シャオ・メイ/ローマ大決戦』はローマを舞台にしたイタリア製の香港アクション。イタリアで行方不明になった姉を探しにきた若き中国人女性シャオ・メイ(リウ・ヤーシー)が、凶悪犯罪組織に立ち向かう。主演のリウ・ヤーシーはスタントウーマン出身。激しいアクションシーンとイタリアの融合という独自のスタイルが話題となっている。

イタリアの作品を多く手がける杉本さんは、1960年代〜70年代にかけてイタリアで制作された“マカロニウエスタン” の字幕は何度かつけたことがあるが、カンフーアクションは今回が初めてだという。アクション作品は個人的にも好きで、楽しく翻訳にも取り組めた半面、こうしたジャンルならではの悩みどころがあるそうだ。
「私には罵倒する言葉のボキャブラリーが圧倒的に足りないのが悩みです。シャオ・メイのような悪党がたくさん出てくる作品は全編にわたってかなり多くの罵り言葉が出てきますが、その訳し方にいつも悪戦苦闘します。英語でもいわゆる『フォー・レター・ワード(four-letter word)』(汚い言葉)がよく出てきますが、『くそったれ』しかくらいしか思いつかず頭を抱えることも多々あります。」(杉本ありさん)
翻訳者にとって罵り言葉は、どこまでひどい言葉を使ってよいかという基準も難しい。「自分の中ではかなり悪党っぽく訳したつもりでも実はそうでもなかった」ということも…。放送用に古い映画の字幕を作ったときには、あとから劇場公開されたときの字幕を見たら、かなりのべらんめえ口調になっていて驚いたそうだ。

『シャオ・メイ/ローマ大決戦』は本編の中にイタリア語と中国語が混在している。作中にはメイがスマートフォンで中国語をイタリア語に自動翻訳して相手に伝えるというユニークなシーンもある。杉本さんは中国語の部分のスポッティングに苦労したと話す。
スポッティングとは、「字幕を表示する『始まり』と『終わり』の時間(タイミング)を決める作業」のこと。字幕を表示できる秒数は字数制限にも関わるため、重要なポイントでもある。字幕翻訳者は、原語のセリフの間や内容も考慮したうえで、どのタイミングで字幕を分けるべきかなどを判断しながらスポッティングをしていく。
『シャオ・メイ/ローマ大決戦』の翻訳の際は、中国語の部分には中国語とイタリア語のスクリプトがあったが、映像で話している中国語と、イタリア語のスクリプトのどこが対応しているのかを見極めるのに苦労したという。中国語→イタリア語→中国語→イタリア語と会話が続く分には明確だが、メイがしゃべり続ける場面では、中国語のスクリプトの中から「好」や「起立」など聞き分けられる言葉を探して、映像と照らし合わせながら対応する箇所を確認していったそうだ。
◆70年代のイタリアのファンションを堪能『ダイヤモンド 私たちの衣装工房』
一方、6月19日に劇場公開の『ダイヤモンド 私たちの衣装工房』は、1970年代のローマにある姉妹が営む⾐装⼯房を舞台にした物語。ある日、世界的なデザイナーの依頼で映画の衣装を担当するビッグチャンスが舞い込み、お針子たちが奮闘する姿が描かれている。イタリアで220万人を動員し2024年イタリア映画最大のヒットとなった作品だ。

作中の衣装は、2026年のミラノ・コルティナ冬季オリンピックの閉会式の⾐装を⼿がけた新進気鋭の⾐装デザイナーのステファノ・チャミッティが担当。70年代のイタリアの洗練されたファンションも見どころの一つだ。
「布を切る音、ミシンの音、ビーズがぶつかる音、布の光沢…手芸好きの私はワクワクしっぱなしでした。もちろん、手芸好きでなくても、お針子たちが作る舞台や映画の衣装は、本当に素敵なものばかりだし、70年代の女性の服装もおしゃれで、ファッション好き、デザイン好きにはたまらないと思います。」(杉本ありさん)

◆イタリアの作品をイタリア語から翻訳することの醍醐味
杉本さんは現在、イタリア語の作品をメインに映画やドラマのほか、児童書の翻訳なども手がけている。2026年はイタリア文学最大の詩人ダンテの神曲にまつわるドキュメンタリー映画『ミラービレ・ヴィジオーネ』の字幕を担当した。(https://www.jvta.net/tyo/mirabile-visione/)。イタリアでは誰もが知る国民的文学や聖書、現地の文化的背景などの知識も翻訳に役立っている。
「イタリア語を学んだ理由はいろいろありますが、根底にあるのはイタリアが大好きだからということです。作品の原語を理解し、それを使う国や文化を知る翻訳者が訳すということは、その訳者の愛情あふれる訳になると思います。私もそういう訳を目指しています。多言語の翻訳者さんとはたくさんおつきあいしていますが、皆さん自分のメイン言語が使われている国への愛情が深いし、この国のことなら任せて、という方が多いです。私もそうなりたいと常々思っています。イタリア語に限らず、原語から訳すほうが、その言語の話者がそのセリフを読んだときや聞いたときに感じることを伝えられるのではないでしょうか。」(杉本ありさん)
杉本さんは、中学生・高校生向けのYA(ヤングアダルト)の書籍や絵本の翻訳も手がけている。書籍翻訳の作業は映像翻訳とは違うポイントを意識するという。
「物語の舞台となっている時代的な背景、ヨーロッパという地理的な背景が重なるため、どうしてもイタリアの子どもが読むのと同じように、日本の子どもが読むのは難しいかと思います。そのため、日本の子どもにも理解しやすいように補足をして肉付けをして訳しています。決められた字数の中で情報をそぎ落とす字幕翻訳とはある意味真逆かもしれません」(杉本ありさん)
イタリア語の知識や現地での経験を重ね、多様なニーズに対応する杉本さん。現在、国内外に点在する受講生、修了生の皆さんも。杉本さんのように多言語の知識やスキルがある方は、ぜひ得意分野としてその力を発揮してほしい。
杉本ありさん(イタリア語翻訳者)
出版社勤務を経てイタリアへ留学。帰国後、フリーランスの編集者として活動。その後、一念発起してJVTAに入学し、映像翻訳の世界へ。字幕の代表作に『ほんとうのピノッキオ』『ダーク・グラス』『ヴァニーナ カターニアの殺人課』『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』など。また訳書に『コミック密売人』(岩波書店)、『ローラとわたし』(徳間書店)、『飛ぶための百歩』『フォグ 霧の色をしたオオカミ』(岩崎書店)などがある。

◆『シャオ・メイ/ローマ大決戦』
5 月29 日(金)より新宿ピカデリー他全国ロードショー
公式サイト:https://xiaomei-movie.jp/

◆『ダイヤモンド 私たちの衣装工房』
6 月19 日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
公式サイト:https://child-film.com/films/diamanti

◆【映像翻訳科 次期開講は2026年10月予定】
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