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[JVTA発] 今週の1本☆inBLG

今週の1本 『100歳の華麗なる冒険』

今週の1本 『100歳の華麗なる冒険』
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11月のテーマ:クール
 

『100歳の華麗なる冒険』 
 

時々、前評判やトレイラーなど一切見ずに、映画を観たいなと激しく思う。なるほど、そうきたか! と素直に驚きたいのだ。誰かのレビューや宣伝文句に触れすぎると、躍らされ、映画が始まる時にはすっかり脳と視力に何かしらのフィルターがかかってしまう気がする。最低限の情報だけで十分。映画の登場人物とともに、行き当たりばったりの出来事に遭遇しながら、物語をドライブする感じを味わいたい。
 

さかのぼること今年の春。スウェーデン大使館で映画祭の打ち合わせをしていた時、この作品『100歳の華麗なる冒険』の噂を耳にした。スウェーデン人プログラマーが言う。すごい映画が日本に来るぞと。「人口900万人のスウェーデンで原作がミリオンセラー。さらに世界で800万部の大ヒット」とか、「映画はスウェーデンで社会現象になったほど」とのこと。老人ホームを抜け出した100歳のおじいちゃんが、偶然ギャングの大金を手にし、逃亡劇を繰り広げる話だ。どうせ、かわいらしいおじいちゃんが巻き起こす、涙あり、笑いありのほのぼのストーリーでしょ…と思っていた。が、どうだ。その予想は大きく外れた。
 

確かに、主人公の100歳おじいちゃんはヨロヨロだ。窓から逃げる様子も歩く姿もまるでスローモーションで見るかのような速度。しかし、彼の行き当たりばったりでの逃亡や行く先々で出会う人たちと巻き起こす騒動は、時に手に汗を握るかのような痛快さすら見せる。そう、驚きの連続コンボだ。また、主人公の生い立ちから今までの人生がサブプロットとして小気味いいテンポで挿入されている。偶然のようでいて実は全て計算しつくした構成が、私をぐいぐい物語へ引き込んでいった。
 

一見、自由気ままなだけの、ちょっとスローな100歳のおじいさん、アラン。実は賢く洞察力もあり、めちゃくちゃレイドバックないいやつだ。あからさまに自己主張するでもなく、リーダーシップがある訳でもない。ただその人間性に引き付けられるように、一人また一人と彼のグループに加わっていく。老人ホームを抜け出してからの数日間を描いた話だが、映画が終わるころには一人の人生を一緒にたどった満足感。さらにその主人公が大好きになってしまっているという演出。
 

さすがスウェーデン映画。ブラックユーモアもふんだんに盛り込まれている。なにせオープニングシークエンスがぶっ飛んでいる。100歳の穏やかなおじいちゃんが飼い猫の復讐のため野生のキツネ(?)を爆弾で吹っ飛ばしていた。英語字幕で見たのだが、おそらくスウェーデン語じゃないと本当の意味で笑えないだろうと思わせるシーンがいくつかあり、スウェーデン語で観られたらな、などと途方もないことを考えさせられたりした。
 

昨今、100%情報を遮断した状態で作品をみることはなかなか難しい。が、この作品はなるべく前評判をシャットダウンして、純粋に自分の感性だけで受け止める事をお勧めする。といいつつ、私が熱弁をふるっている矛盾は勘弁頂きたい。
 

原作は、『窓から逃げた100歳老人』(Hundraåringen som klev ut genom fönstret och försvann)。スウェーデン人作家ヨナス・ヨナソンのデビュー作となった2009年の小説である。
 

個人的には、映画タイトルより、小説のタイトルの方が好きだった。
 

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『100歳の華麗なる冒険』
監督:フェリックス・ハーングレン
出演:ロバート・グスタフソン、イヴァル・ヴィクランデル、ダーヴィッド・ヴィーベリ
製作国:スウェーデン
製作年:2013年
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Written by 浅川 奈美(アサカワ・ナミ)
映像翻訳ディレクター、映画祭担当プロデューサー
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[JVTA発] 今週の1本☆ 11月のテーマ:クール
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。

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