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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第139回 “DTF St. Louis”(『欲望のセントルイス』)

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第139回 “DTF St. Louis”(『欲望のセントルイス』)
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第139回“DTF St. Louis”(『欲望のセントルイス』)
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『欲望のセントルイス』 本予告

 
カルト化必至のダークミステリー・コメディ!
本作は‘ドラマ界のレクサス’ことHBOによる、不条理で不謹慎でちょっぴり心温まるリミテッドシリーズ(配信はU-NEXT)。
“DTF St. Louis” は予測不能でクセになる、カルト化必至のダークミステリー・コメディなのだ!
 
“HEY ST. LOUIS, LET THE SUNSHINE IN!”
—ミズーリ州セントルイス郊外の町トワイラ、2018年
クラーク・フォレスト(ジェイソン・ベイトマン)は、地元の放送局WTGKの気象予報士だ。妻のエイミーと2人の娘とともに、裕福な生活をしている。仕事柄早起きのクラークは、ボランティア活動に忙しい妻とはすれ違いが多い。クラークは正直で穏やかな性格だが、ときどき言動がおかしくなる。
 
フロイド・スマーニッチ(デヴィッド・ハーバー)はWTGKの新人手話通訳で、クラークの友人だ。元妻は占い師で、今は妻のキャロル(リンダ・カーデリーニ)、連れ子の高校生リチャードと3人暮らし。リチャードには精神疾患があり、しかも義父のフロイドを嫌っている。
フロイドは優しい善良な夫/父親だが、ぺロニー病(気になる人は自分で検索してね)で自信を失い、自己嫌悪に陥っている。
家計は借金で火の車だ。キャロルは野球に興味がないが、なぜかリトルリーグの審判のバイトを始めた。
 
クラークとキャロルは、フロイド主催のパーティで初めて知り合った。キャロルはクラークを誘惑し、2人は不倫関係を続けている。
 
ある日クラークは、フロイドに‘DTFセントルイス’というセックス目的のデートアプリを勧めた(DTFは自分で検索してね)。フロイドは迷った末にそのアプリに登録した。
 
8週間後、閉鎖中の公営プール近くの小屋でフロイドの死体が発見された。現場には男性ポルノが残されていた。
 
群保安局の捜査官ホーマー(リチャード・ジェンキンス)と、トワイラ市警特殊犯罪課のジョディ(ジョイ・サンデー)が、合同捜査を始めた。やがてフロイドの死因は毒殺と判明する。
 
あらゆる証拠はクラークを指していた。
クラークは生放送中に殺人容疑で逮捕された。
 
“You are full of love”
クラークを演じたジェイソン・ベイトマンは、大ヒットシットコム“Arrested Development”と、クライムドラマの傑作“Ozark”(本ブログ第70回参照)が代表作。最近では“Black Rabbit”でジュード・ロウと共演した。ベイトマンの持ち味は飄々とした面白さで、このとぼけたドラマに彼ほど打ってつけのアクターはいない。
これまでエミー賞に14回(受賞1回)、ゴールデングローブ賞に5回(受賞1回)ノミネートされている。
 
フロイド役のデヴィッド・ハーバーは、Netflixのメガヒットドラマ“Stranger Things”(本ブログ第32回参照)で警察署長ジム・ホッパーを演じて遅咲きブレーク。同役でエミー賞に2度、ゴールデングローブ賞に1度ノミネートされた。今回は複雑でかなり恥ずかしい役柄に果敢に挑戦し、視聴者に笑撃と感動を与えた。
 
キャロル役のリンダ・カーデリーニは、クライムコメディ“Dead to Me”(本ブログ第60回参照)が代表作。『アベンジャーズ・シリーズ』で演じたホークアイの妻ローラを観て癒された人も多いだろう。本作では優しい悪女(?)を達者に演じている。カーデリーニはエミー賞に3度ノミネートされている。
 
ベイトマン、ハーバー、カーデリーニの3人には磁力のようなケミストリーが働き、互いの魅力を最大限に引き出した。
 
‘DTFセントルイス’の創業者‘モダンラブ’を演じたのはピーター・サースガード。ひねくれたユーモアのセンスを持つ、低予算映画好きの名わき役アクターだ。真摯だが変人の金持ちを大真面目に演じて笑いを誘う。
(サースガードの妻はマギー・ギレンホール、義弟はジェイク・ギレンホールだ。)
 
フロイドの死の真相に迫っていく凸凹捜査官――思い込みの強いベテランのホーマーを演じたリチャード・ジェンキンス、私生活ではセックス探究者のジョディを演じたジョイ・サンデーが、全編を流れるダークユーモアを増幅させている。
 
S・コンラッドはやりたいことをすべてやった
クリエーター&ショーランナーのスティーヴン・コンラッドは、『ニコラス・ケイジのウェザーマン』(2005)、ウィル・スミス主演の『幸せのちから』(2006)などで知られる脚本家。本作では製作総指揮、全エピソードの監督・脚本まで担当し、ほぼワンオペで作品を作り上げてしまった。
 
本作の真骨頂は、シリアスな殺人事件の捜査劇を装いながら、実際はナンセンスなホラ話を描いている点にある。その核となるのは、オフビートなトーン、脱力感のあるストーリー、人を食ったような会話、そして絶妙なキャスティングだ。
 
とにかくこの作品、すべてがうさん臭くて怪しい。
舞台はセントルイス郊外とされているが、ロケ地はなぜかアトランタ。オープニングクレジットと主題歌(The 5th Dimensionの“Let the Sunshine In”)も、どこか作品のイメージとズレている。キャラたちは一見まともに見えるが、誰一人としてフツーではない。そもそも‘フロイド・スマーニッチ’なんて名前のアメリカ人がいるとは思えない。
そのくせ、タイトルだけは妙にしっくりくる。
 
キャロルとクラークの変態的なセックス、クラークとフロイドの歪んだ愛情、頻出する不必要な手話での会話、そしてキャロルの滑稽な主審姿――ストーリーから可笑しさがじわじわとしみ出してくる感じだ。
スティーヴン・コンラッドは、確信犯的にやりたいことをすべてやっている。
 
一方で、ミステリーの構成は意外に緻密だ。大小のツイスト&ターンが用意され、馬鹿げた真相にはそれなりに説得力があり、推理ドラマとしても十分成立している。
 
こうして、スローペースだが観るのを止められない、不条理で不謹慎でちょっぴり温かいドラマが誕生した。
“DTF St. Louis” は予測不能でクセになる、カルト化必至のダークミステリー・コメディなのだ!
 
原題:DTF St. Louis
配信:U-NEXT
配信開始日:2026年3月2日~4月13日
話数:7(1話 46-57分)
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。