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明けの明星が輝く空に 第62回 『NARUTO』が示すもの

明けの明星が輝く空に 第62回 『NARUTO』が示すもの
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【最近の私】『NARUTO-ナルト-』には、どう見てもウルトラマンだよな、というシルエットが登場する。また、東映特撮映画を意識した“まるで怪獣総進撃だな”というセリフもある。探せば、特撮に影響を受けた箇所がもっと見つかるかも?
 

いつもは特撮ものの魅力を語るこのブログだが、今回は僕の我がままで、忍者の少年を主人公にしたマンガ『NARUTO-ナルト-』について書かせていただくことになった。この年齢になって700話(単行本にして72巻)もの大長編マンガを、よく飽きもせずに読み続けられたものだと思うが、それだけ面白い作品だったということだろう。
 

個性的な登場人物たちに、斬新な忍術と迫力あるアクション。そして、謎めいたストーリー展開。エンターテイメントとして、『NARUTO』は一級品だと思う。しかし、より僕の印象に残ったのは、この作品が持つ強いメッセージだった。「どうやって心の痛みと向き合い、生きていけばいいのか」というテーマを掲げ、それに対して一つの答えを提示している。
 

主人公のナルトは、その生い立ちから苦しみや悲しみを抱えた少年だった。彼は両親がいないばかりか、「九尾の妖弧」を体内に封印されており、そのせいで周囲に忌み嫌われてきた。また、彼のライバルであり友でもあるサスケは、実の兄が一族を皆殺しにして、忍の里を出奔。抜け忍となった兄に復讐することだけを考えて生きていたが、事件の真相を知ると、今度は自らの里を滅ぼそうと決意する。
 

物語終盤に登場した伝説の忍、マダラと、その協力者であるオビトにも、それぞれ弟を戦闘で殺されたり、大切な人を亡くしたりという経歴があった。そのため彼らは、誰も痛みを感じなくてすむ世界、憎しみの連鎖が断ち切られた平和な世界を望んだ。そして、それを実現する方法として、「月の眼計画」を実行しようとする。その計画とは、全ての人間を無限月読(むげんつくよみ)という強烈な幻術にはめ、終わることのない夢を見させることだった。
 

その夢の中では、各自が望んでいる世界を見させられる。死んでしまった友や恋人さえも、生き返らせることができる世界。マダラやオビトは、“現実の世界には、苦しみや痛みが漂う”、“幻術の世界では全てが手に入り、心の穴も埋められる”、“勝者だけ、平和だけ、愛だけの世界を創ることができる”、“もう苦しまなくてもいい”と、一見魅力的な言葉の数々で、ナルトたちに揺さぶりをかける。しかし、幻術の中でのみ生きている人間は、肉体的には死んでいなくとも、もはや死人同然だ。自分で描いた夢に向かって邁進しようとしてきたナルトだけでなく、誰にとっても受け入れられるものではない。
 

ただし、この世から悲劇を完全になくす方法は他にない。ではどうやって、苦しみや悲しみと向き合って行けばいいのか。オビトとの戦いの中で、ナルトをかばった仲間が命を落とす。ショックを隠し切れないナルトに、“仲間が死んでいくような現実世界にいる必要はない”とオビトが追い討ちをかける。絶望の淵に沈みかけたナルトだったが、仲間たちの助けで自分を取り戻す。そして、心に負った傷は仲間が自分の中で生きている証であり、自分が傷つかないように作った夢の中の仲間は本物ではない、と反論。再び立ち向かっていく。
 

オビトは、心の痛みを消すため過去は捨て去ったと言い切るが、その反対側にいるのがナルトだ。彼の仲間を思う気持ちが多くの人を引き付け、互いに支え合い一緒に戦っている。ナルトを最も身近で導いてきた師、カカシは、元親友のオビトにこう言った。“心の穴は、他のみんなが埋めてくれるものなんだよ。逃げて何もしない奴に、人は何もしてくれない”。
 

一言で「大切なのは仲間だ」と主張するのはたやすい。しかし、それだけではメッセージは心に届きにくい。『NARUTO』は壮大な物語、そして極限状況の戦いを通して、仲間の大切さが読者に伝わるよう描いている。たまたま読み始めたマンガだったが、出会えて本当に良かったと思える作品だった。
 
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

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