遠い国の問題から「主食の崩壊」まで。学生インターンが字幕翻訳を通してみた、社会課題の現実
「WATCH 2026: For a Sustainable Future(以下、WATCH 2026)」は、国内外の大学生がSDGsをテーマにしたドキュメンタリー作品の字幕翻訳を手掛け、その上映とトークセッションなどを行うインターンシップ・プログラムだ。JVTAが主催、東京外国語大学(東京都府中市)が共催、神戸市外国語大学(兵庫県神戸市)が協力となる産学連携のプログラムで、今年は国内外から約25名の大学生がインターンとして参加。上映作品に日本語字幕・英語字幕をつけ、さらに上映イベントの企画・運営・広報をインターン生が主体となって行ってきた。
翻訳した作品の上映は、オンラインでのオンデマンド上映と東京外国語大学の「TUFS Cinema」で行われた。「TUFS Cinema」での上映には、作品テーマに関連したゲストによるトークセッションも実施。会場には100名以上の方が集まり、熱気あふれる一日となった。

「何を食べて生きていくのか?」真剣に考えなくてはならない米問題
一本目の上映作品は『主食、崩壊危機。』という日本発の短編ドキュメンタリーだ。同作のテーマは、高齢化が進み作り手の数が急激に減少している「米」。「令和の百姓一揆」を起こして所得補償を訴える小規模農家と、革命的手法を取り入れ効率化を図る大規模農家という対照的な農家への取材を通し、日本の米作りを考えるドキュメンタリーである。インターン生による英語字幕つきで上映された。
上映後のトークセッションには、同作の映像ディレクターである佐藤洋紀さんがゲストとして登壇。英語字幕制作に携わった東京外国語大学の山本真奈美さんと、交換留学生のオースティン・サバロさんが聞き手となって行われた。
自身も農家の家系に生まれた佐藤さんは農業を継ぐ人がいないという現実を目の当たりにしており、以前から農業問題に関心が高かった。そんな中、渋谷での農業従事者によるデモがあると聞きカメラを回したことで同作の制作がスタートしたという。
インターン生の山本さんは「お米の値段の変動については、よくテレビなどで目にしていたが、その背景にある問題に関してはあまり報道されてない印象」だと言い、なぜ農家の問題が社会に伝わりづらいのか?と佐藤さんに質問。佐藤さんは、「農家の問題となると、自分の事という意識から遠ざかるように感じるのでは」と答えた。
「お米の値段や流通の問題は消費者の関心が高いので、メディアで取り上げられやすいのです。でも根本的な問題である『農家がいなくなること』の背景は非常に複雑で、踏み込んでいっても結果的に『自分には分からない』となってしまうのではと思います。でも、だからこそ私はその根本的な問題を掘り下げたいと思っています」(佐藤さん)
同作の翻訳に携わったことで日本の農業問題を知るきっかけになったという山本さんとオースティンさん。2人は「この問題のために、自分達にできることはあるか?」を佐藤さんに問いかけた。
「何を食べて、これから生きていきたいのか。それを真剣に考えなくてはいけません。当たり前にお米を食べていますが、これからはそれが当たり前でなくなるかもしれません。」(佐藤さん)
「何を食べてこれから生きていくのか」。佐藤さんのその言葉は会場に集まった観客に深く刺さった。それを裏付けるように、トークセッションの最後には会場から「農業という職業が選ばれない理由は?」「儲かるなら人はやるのか?」「所得補償をすれば解決なのか?」など、熱心な質問が投げかけられた。さらには、セッション修了後の休憩時間に佐藤さんに直接質問をしに行く学生たちもいた。
映画とトークセッションを通して、自分達の周りに存在するのが当たり前だと思っていた「米」に対しての危機感を強めたようだ。
この映画が突き付けているのは、不平等の問題
2本目の上映作品は『アマニを探して~少年が見た大地の真実~』という、ケニアを舞台にした長編ドキュメンタリー。ジャーナリストを志望する少年が、ケニアの自然保護区で起きた父親の不可解な殺害事件の真相を追い、その過程で地域を取り巻くさまざまな問題を目の当たりにするという物語だ。こちらはインターン生による日本語字幕つきで上映された。
上映後のトークセッションのゲストは、東京外国語大学 大学院総合国際学研究院・准教授の大石高典先生。東京外国語大学の河野凪さんが聞き手となり、ケニアや周辺国で起きている干ばつ問題の詳細やアフリカの自然保護区の成り立ちなどについて聞いた。
同作では、土地を追われた放牧民が保護区内を放火するというシーンがある。同シーンでは主人公のサイモンが「どうしても家畜のための牧草が欲しくて放火をしたのだろう」という旨の発言をする。このシーンについて、大石先生は次のように情報を補足した。
「サイモンは『なんとしても牧草が欲しいのだろう』と言っていましたが、実はそれだけではないんです。牧草地に火入れをすることは、それによって新芽を促すという効果があります。そしてその新芽は、家畜にとってとても栄養のある餌なのです。しかし乾燥によって、その火が延焼してしまい畑が燃えてしまったりする。これは、実はアフリカ全体でよくある問題なんです」(大石先生)
大石先生の解説により、アフリカ地域の干ばつ問題とそれに端を発した紛争問題、治安問題や経済事情などを理解し、映画内の各出来事に対する解像度が深まった。本トークセッションの最後にも、会場に集まった観客から多くの質問が寄せられた。参加者にとって、遠い世界の出来事だと思っていたアフリカのさまざまな問題に対して、イベントを通して「他人事で片付けてはいけない」という気持ちになったのだろう。
「この映画は、表面的に捉えれば気候変動がテーマだと言いたくなりますが、本当に突き付けられているのは不平等の問題です。なぜ、一握りの白人の富裕層が巨大な牧草地を支配しているのか?不平等の問題が問い直されない限り、紛争は繰り返されます。歴史的な背景を学んだ上で、何ができるか考える必要があります」(大石先生)
一部の人間による土地支配と先住民の抵抗によって起きる衝突は、アフリカだけで起きているものではない。現在、世界の各地で「土地・資源をめぐる人間同士の衝突」が起きている。今回の映画上映とトークセッションは、アフリカだけでなく世界中の問題を考えることに繋がる機会となった。
「WATCH 2026」のインターンシップ・プログラムの概要や上映作品情報は、公式HPで掲載している。さらにInstagramとnote、Xでは、インターン生視点での字幕翻訳の感想や、上映作品に関連するSDGsの国際目標についても詳しく解説。作品上映期間は終了したが、WATCH 2026の活動に少しでも興味を持った方は、ぜひこちらもチェックしてほしい。
「WATCH 2026」がインターン生、そして映画をご覧になったすべての人にとって、社会課題を考える大きな一歩になっていることを願っている。
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