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中島唱子の自由を求める女神inBLG

中島唱子の自由を求める女神 第2話「必然のひらめき」

中島唱子の自由を求める女神  第2話「必然のひらめき」
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中島唱子の自由を求める女神

中島唱子の自由を求める女神
Written by Shoko Nakajima 

第2話必然のひらめき
言語の壁、人種の壁、文化の壁。自由を求めてアメリカへ。そこで出会った事は、楽しいことばかりではない。「挫折とほんのちょっとの希望」のミルフィーユ生活。抑制や制限がないから自由になれるのではない。どんな環境でも負けない自分になれた時、真の自由人になれる気がする。だから、私はいつも「自由」を求めている。「日本とアメリカ」「日本語と英語」にサンドウィッチされたような生活の中で見つけた発見と歓び、そしてほのかな幸せを綴ります。

 
縁というものはとても不思議である。あの時、あの人があの場所にいなければ、いまの私はない。そう思えるほど劇的に小さな偶然が大きく人生を変えていく。
 

30年以上前のTBSの局の廊下は複雑で迷路のようだった。誰かの案内がないとすぐ迷ってしまう。当時私の劇団のマネジャーがTBSの局内を局営業に廻っていたとき、複雑な廊下に迷い込んでしまい「容貌の不自由な人募集します」という風変わりな告知に目が止った。すぐさまに制作部の部屋に飛び込み私のプロフィールと宣材写真を提出したのが書類選考の最終日。それが、デビューのきっかけとなった『ふぞろいの林檎たち』である。あの時、もし、マネジャーがその廊下であの告知に気づいていなければ、私は女優にはなっていなかった。
 
 
デビューから息切れしながら一気に駆け上った10年間。夢中で仕事をしてきたけど、心の中はいつも不安と孤独だった。仕事は順調のように見えたが心の中はプレッシャーで押しつぶされそうだった。芝居は好きだった。舞台もテレビもどんな役でも演じることに喜びも生きがいも感じてはいた。けれども、仕事を終えて自宅に戻ると妙な不安と孤独で押しつぶされそうになる。
 

その気持ちを立ち止まって考えるほどの余裕もなかった。いつしか時代に流されて本当の自分を見失いかけていたのかもしれない。
 

その頃の私は、旅行に行く時間のゆとりも、勇気もなかった。寝る前に「地球の歩き方」を開いては知らない国を旅する。ロンドンも、パリもイタリアも自由自在に空想の中を巡る旅だ。ガイドブックの中だけの憧れの場所はおとぎの国のようにキラキラしていた。
 
 
そんな時、舞台を公演中の劇場の楽屋で国費の留学の話を聞いた。芸術家のための国費留学があって、当時有名な演出家も、イギリスへ一年留学していたので一挙に話題になっていた。その話を私にしてくれたのは、舞台メイクの指導に1日だけ楽屋を回っていたメイクさんだ。 インターネットも携帯もない時代である。イエローページで調べた電話番号を頼りに問い合わせをし、公演の合間に申請書類を集めた。すべての書類が揃いポストに投函したのは書類締め切りの最終日の夕方だった。
 

半年が過ぎた頃、自宅に届いた地味な封筒を開いて読んでみたら、「内定」の二文字。その後面接を受け、私はニューヨーク行きの切符を手にした。
ガイドブックの中の「おとぎの国」の街が、現実の今いる場所に変わるのだ。
 
 
メイクさんが楽屋を訪れて留学の話をしてくれた、わずか15分。何か、素通りできないひらめきのような勘がはたらいた。あの時に国費の話を聞かなかったら、アメリカで暮らすようなこともなかったし、いまの生活はなかっただろう。
 

振り返ると人生の中であの時の決断ほど大きなものはない。ただ、自分を見失いかけていた時の未来への不安と知らない場所で暮らす不安は百八十度違う。
何か揺り動かされる思いで30歳になる直前に私は、「ニューヨーク」へ向かった。
 
 
写真Written by 中島唱子(なかじま しょうこ)
 1983年、TBS系テレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』でデビュー。以後、独特なキャラクターでテレビ・映画・舞台で活躍する。1995年、ダイエットを通して自らの体と心を綴ったフォト&エッセイ集「脂肪」を新潮社から出版。異才・アラーキー(荒木経惟)とのセッションが話題となる。同年12月より、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに留学。その後も日本とニューヨークを行き来しながら、TBS『ふぞろいの林檎たち・4』、テレビ東京『魚心あれば嫁心』、TBS『渡る世間は鬼ばかり』などに出演。

 
 

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