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Tipping Point Returns Vol.16 私が「読書」を推す理由

Tipping Point Returns Vol.16  私が「読書」を推す理由
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1980年代以降、時代を代表するベストセラーを次々に送り出してきた編集人、見城徹氏。出版社である幻冬舎を創業して社長に就いてからも、出版不況をものともせず「売れる本」を量産し続けている。そんな見城氏は自書『読書という荒野』で次のように述べている。
 
「人間を人間たらしめるのは言葉だ。では、人間としての言葉を獲得するためにはどうすればいのか。それは、『読書』をすることにほかならない」。
 
さらにこう続ける。「読書で学べることに比べたら、一人の人間が一生で経験することなど高が知れている。本のページをめくればめくるほど、人間の美しさや醜さ、葛藤や悩みが見えてくる。そこには、自分の人生だけでは決して味わえない、豊穣な世界が広がっている。そのなかで人は言葉を獲得していくのだ」。
 
私は「言葉のプロ」を育む立場の者として、この考えを全面的に支持する。言葉を紡ぐことを生業とする人、目指す人にとっての読書の有用性を見事に言い当てているからだ。
 
「日常的に見聞きして知ること」と「読書を通じて学び取ること」はどちらも必要だが別物だ。しかし、現代においては「情報を手にする」というフレーズで一括りにされることが多い。とはいえ、二つは似て非なる行為だ。
 
それぞれに異なる役割があり、例えて言うなら服で装うことと身体を鍛えることの違いだ。どちらも他者に対して「自分らしさ」を示す行為だが、本質的に違う。前者は比較的容易く実行できるが、後者の獲得には時間と努力が伴う。前者はTPOや気分で変えることができるが、後者はその時点での自分の姿そのものを形づくる。交換も誤魔化しもきかない。
 
つまり、読書とはその人間の一部なのだ。例えば見城氏は「(読書体験を通じて、)一度も左翼思想に傾倒したことのない経営者を信用しない」と言う。左翼思想が現実社会にフィットするかは別問題としても、図書館や書店に行けば誰でも手に入る<人間が夢見た一つの理想>に対して一度も心を寄せたことがない人物は、見城氏には未成熟に映るのだろう。だから、大事な仕事は頼めないというのだ。
 
この考え方(論と言ってもいい)を否定することは、私にはできない。なぜなら、私自身の行為の源となるほとんどの知識が読書によって得られたものだからだ。もし、読書が「してもしなくてもいい、私が勝手に選んだ趣味の一つ」ならば、私自身の発言や行為のほとんどは「あってもなくてもいい、私が勝手に思いついたもの」ということになる。そんな自分なら、もはや社会にとっての価値はない。何より私自身が人生を楽しめない。読書から得たもので紡ぎ出す言葉に自信と責任 を持ち、外の世界に対してできる限り良い影響 を与えたい。それほどまでに良書は、私という人間を構成する重要なパーツなのである。
 
良書にはなぜそこまでの「力」があるのか。最大の理由は、それを書いた人間の全てが1冊に注ぎ込まれているからだ。全てとは、知識であり、気力であり、願いでもある。しかし、(えっ?1冊で全てを出し尽くしてしまったら次に書くことがないんじゃない?)という素朴な疑問が浮かんだ人もいるだろう。
 
それに対して、ある作家が上手く説明していたので要約する。<小説家を目指している人で『アイデアが二つあるので一つは次の作品にとっておこう』などというヘンなことを言う人がいる。小説を書くという行為は、その時点での自分の頭の中にある全てを注ぎ込むことにほかならない。アイデアの一つは恋物語で、もう一つはSFの宇宙ものだったとしても、それらを同居させることに全力を尽くす。頭が空っぽになり、もう何も書けないと力尽きた人には、二作目のチャンスが残る。不思議なことに、出し尽くした人には新たなアイデアや意欲が湧き上がってくる。しかし、次にとっておくなどという人には、その時点で次はもうない>。
 

小説に限らず、それがエッセイやビジネス書、学術書であっても同じだと私は思う。ビジネスマナーを教えるだけの本であっても(あぁ、この書き手は全てを注ぎこんでくれたな)と感動することがある。逆にどんなに売れている本であっても(見て知るだけなら、この本じゃなくてもいいよ)と思うこともある。
 

「良書は人生と仕事の宝」というのが私の持論だ。そこで2021年2月5日(金)の夜7時半から約40分、『日本語表現力を押し上げる〈新・読書術〉 〜選書のコツ・仕事の力に変える読み方、教えます〜』というセミナーを行う予定だ。このコラムでは語れなかった本の魅力や選び方、日本語を磨く教科書にする方法などについて話す準備をしている。無料で参加できるので、ぜひ気軽にのぞいてほしい。
 
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Tipping Point~My Favorite Movies~ by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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