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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第113回 “mr.&mrs.smith”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第113回 “mr.&mrs.smith”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

 

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第113回“mr.&mrs.smith”

 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

 

予告編:『mr.&mrs.スミス』 本予告

 

スミス夫妻、ドラマになる!

本作の原作は、2005年にメガヒットしたスパイアクション映画『Mr.&Mrs.スミス』。この作品でブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー=’ブランジェリーナ’が生まれ、彼らの美しくも醜い黒歴史が始まった。

 

ドラマ版“Mr. & Mrs. Smith” はAmazon Primeオリジナル。フレッシュでスタイリッシュ、優しくて深みがある、ロマンスの効いたスパイアクション・コメディなのだ!

 

スミス夫妻、爆誕する!

アメリカのどこかの都市で、謎に包まれた組織“The Company”の採用面接が粛々と行われていた。

 

その女性(マヤ・アースキン)は無人の部屋で、モニターが示す質問に口頭で答えている。CIA志望だったが不採用となり、結局どこにも雇われなかった。彼女はハイリスクだが高収入の仕事を希望した。

 

その男性(ドナルド・グローヴァー)も同様の面接を受けた。海兵隊を不名誉除隊になったばかりで、経済的に困窮している。彼もハイリスクで高収入の仕事を希望した。

 

—ニューヨーク
例の2人は、多くの候補者の中からめでたく“The Company”に採用された。そして人間関係をすべて断ち切り、マンハッタンに転居してきた。偽装結婚し、今日からジョンとジェーンのスミス夫妻を名乗る。表向きの仕事は、同じ会社のソフトウェア・エンジニアだ。彼らには高給と豪邸に加えて、高級車、潤沢な資金、あらゆる武器、完璧な身分証一式が与えられた。

 

ジョンは社交的だが、感情的で負けず嫌い。海兵隊ではドローンの攻撃部隊として13人を殺害した経験がある。ジェーンは頭脳明晰だが攻撃的で非社交的。人殺しの経験はないが、ジョンよりドライで冷静だ。彼らはともに戦闘訓練を積んでいる。
2人は、結婚していてもセックスはしないで、別々の部屋で眠る協定を結んだ。

 

ジョンとジェーンが「ハイハイ」と呼ぶハンドラーとのやり取りは、テキストメッセージのみで行われる。

 

初めての任務は、マンハッタンで年配の女性からパッケージを奪い、指定場所に届けること。簡単な仕事だった。だが2人が郊外の平凡な家庭に奪ったパッケージを届けると、それは数十秒後に爆発した。

 

任務はより困難で、危険を伴うものになっていく。しかも失敗3回でゲームオーバーだ。
その時2人に何が起こるのかは、知らないほうが幸せだ…。

 

スミス夫妻、ケミストリーが働く!

ジョンを演じたドナルド・グローヴァーの代表作は、南部の黒人社会を舞台にした不条理コメディ“Atlanta”。同作ではショーランナー、主演、共同監督、共同脚本をこなして批評家から大絶賛された。’チャイルディッシュ・ガンビーノ’の名で知られるシンガー&ラッパーでもあり、ゴールデングローブ賞、エミー賞、グラミー賞を合わせて9回受賞している才人だ。

 

マヤ・アースキンは、ジェーン同様に日本人の母親とアメリカ人の父親を持つ。最近では、Netflixによる必見の時代劇アニメ“Blue Eye Samurai”で、主人公Mizuの声を担当した。またhuluのセックスコメディ“PEN15”では、ショーランナー、主演、脚本を共同で務めた。

 

グローヴァーとアースキンのキャスティングは、‘ブランジェリーナ’と比べると華がない。だがこのカップルはとてもチャーミングで、ケミストリーがゆっくりと醸成され、加速度的に高まっていく。

 

もう一組のスミス夫妻を怪演するのは、“Narcos”で実在の麻薬王パブロ・エスコバルを演じたワグネル・モウラと、インディー系ベテランアクターのパーカー・ポージー。

 

また、ゲスト出演のジョン・タトゥーロ(変態のターゲット)、ロン・パールマン(弱虫のターゲット)、サラ・ポールソン(オフビートのセラピスト)、ポール・ダノ(怪しい隣人)が、くせ者アクターぶりを発揮してゆがんだ笑いを提供してくれる。

 

スミス夫妻、シーズン2を期待される!

ショーランナーはドナルド・グローヴァーと、“Atlanta”で共同脚本を担当したフランチェスカ・スローン。2人は共同脚本も務め、グローヴァーはさらにファイナルエピソードを監督した。

 

スパイのカップルが偽装結婚する基本プロットは映画版とは異なる。本作はリブートというより、“The Americans”(本ブログ第6回参照 )のアクションコメディ版と言ったほうが近い。

 

ジョンとジェーンが新米スパイから辣腕スパイへ、偽装夫婦から本物の夫婦へ変貌する姿を、脚本が巧みにシンクロさせる。また、スミス夫妻が複数存在するアイディアが秀逸で、ストーリーの幅をぐっと広げている。

 

アクションシーンは多くはないが、メリハリが利いていて終盤に思い切りエスカレートする。カーチェイス、銃撃戦、素手による格闘、いずれも徹底的にやるので迫力満点だ。

 

ストーリーは1話1ミッションが基本。前半はスローペースで、2人に相互理解が生まれるプロセスが、ユーモアたっぷりに細やかに描かれる。危険な任務を通して思いやりが芽生え、生き延びることで愛情が育まれる。キャラクターアークは盤石だ。

 

“Mr. & Mrs. Smith” には説得力があり、しかもラブストーリーとしても十分成立している。オリジナルとの差別化に成功した、フレッシュでスタイリッシュ、優しくて深みがある、ロマンスの効いたスパイアクション・コメディなのだ!

 

エンディングはクリフハンガーで続きが気になる。Amazonにはシーズン2の制作を早く決めていただきたい。

 

原題:Mr. & Mrs. Smith
配信:Amazon Prime Video
配信開始日:2024年2月2日
話数:8(1話 42-63分)

 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #85
Title: “Mondo Bongo”
Artist: Joe Strummer & The Mescaleros
Movie: “Mr. & Mrs. Smith” (2005)

ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーは、冒頭出会いの一瞬でスパークした!
※ 「My Favorite Movie Songs」はこれで終わり。今後<今月のおまけ>は不定期で掲載します。

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 

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