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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第128回 “The Studio”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第128回 “The Studio”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第128回“The Studio”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:予告編:『ザ・スタジオ』 本予告

 
ハリウッドを笑い飛ばすゴージャスな爆笑コメディ!
本作は、怖いもの知らずのセス・ローゲンが、映画制作の舞台裏を暴きながらハリウッドを笑い飛ばす、映画好きには垂涎の一作。
“The Studio”はApple TV+オリジナル、豪華ゲスト満載、レトロ感漂うゴージャスな爆笑コメディなのだ!
 
マーティン・スコセッシを裏切った男!
—ハリウッド、ロサンゼルス
マット・レミック(セス・ローゲン)は、「映画の神殿」と呼ばれるコンチネンタル・スタジオの幹部。独身で勤続22年のワーカホリック、優柔不断でかなりウザい男だ。今やハリウッドでは少数派となったアートフォームとしての映画の信奉者でもある。
 
マットが待ち望んでいた昇格のチャンスが、突然降って湧いた。コンチネンタル・グループの新CEOグリフィン・ミル(ブライアン・クランストン)が、大コケ作品を連発するスタジオ代表のパティ・リー(キャサリン・オハラ)をクビにしたのだ。
 
グリフィンはマットを新たなスタジオ代表に選んだ。ただし条件が2つ。芸術系作品は扱わず、利益至上主義に徹すること。次作として、飲料メーカーのアニメキャラ「クールエイドマン」を主人公にした大作を作ること。つまり、“film”ではなく“movie”を作れということだ。マットは不本意ながら同意するしかなかった。
 
「クールエイドマン」の監督を求めて、マットは敬愛するマーティン・スコセッシ(本人)と会う。折しもこのレジェンド監督は、「ジョーンズタウンの集団自殺」をテーマとした脚本を書きあげていた。カルト教団の実話で、多くの信者が毒入りクールエイドを飲んで自殺した事件だ。
マットは舞い上がった。これを「クールエイドマン」として制作すれば、オスカーとブロックバスターを同時に狙えるではないか。マットはその場でスコセッシから脚本を買い取り、巨額の予算を約束してしまう。
 
グリフィンは激怒した。なぜ大手スポンサーの製品を辱める映画を作る? ビビったマットは、それはクールエイドを守るための戦略で、スコセッシの企画を事前に闇に葬ったのだと説明する。
 
グリフィンは一転してマットの先見の明を褒めたたえた。
 
シャーリーズ・セロン(本人)のパーティーで悪い知らせを聞いたスコセッシは、彼女の胸で泣いた。
 
間違いなくセス・ローゲンの代表作!
カナダ生まれのセス・ローゲンはスタンダップ・コメディアン出身。2000年代のコメディシーンを席巻したジャド・アパトーに見いだされ、『40歳の童貞男』(2005)、『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007、共同脚本)、『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』(2007、この邦題は何とかしてよ)などに出演した。クリエーター、製作総指揮、監督、脚本、主演の5役を務めた本作は、間違いなく彼の代表作となった。
 
マットの前任者パティ・リー役のキャサリン・オハラもカナダ出身のベテランアクターだ。大ヒットコメディ“Schitt’s Creek”のモイラ役で、2020年度のエミー賞、ゴールデングローブ賞、SAGアワード(全米映画俳優組合賞)で主演女優賞の3冠に輝いた。最近では、“The Last of Us”(本ブログ第101回参照)のシーズン2で主人公ジョエルのセラピストを演じた。
 
制作部副社長でマットの親友サルを演じたアイク・バリンホルツは、2000年代にヒットしたカルト的スケッチコメディ“MADtv”で主演とライターを務めた。本作では、ゴールデングローブ賞授賞式で突如スポットを当てられバズってしまうシーンで笑いを独り占めする。
 
気性の激しいマーケッティング責任者マヤ役のキャスリン・ハーンは、MCU(“Marvel Cinematic Universe”)の“WondaVision”とそのスピンオフ“Agatha All Along”で、スーパー魔女アガサ・ハークネスを演じている。
 
新CEOのグリフィン・ミルを演じたブライアン・クランストンは、言わずと知れた“Breaking Bad”のウォルター・ホワイト。コメディ畑出身で、最後の2エピソードでは抱腹絶倒の演技を見せてくれる。
 
結局は映画愛を謳うドラマだった!
クリエーターはセス・ローゲンとエヴァン・ゴールドバーグ(他3人)で、このペアは全話の監督と一部脚本も担当している。“Invincible”(本ブログ第83回参照)、“The Boys”(本ブログ第63回参照)とそのスピンオフなど多くの映画・ドラマを手掛けてきた。
 
レトロ感が漂う画面に、ロングテイク(長回し)を多用した撮影が見事にマッチしている。うっとおしいマットがトラブルを解決しようと右往左往するたびに、ハリウッドの内情が面白おかしく暴露される仕掛けだ。
 
各エピソードにも趣向が凝らしてあり、冒険アクション、アート風LGBT作品、ノワール、ホラーコメディなどあらゆるジャンルの映画製作、さらにゴールデングローブ賞やCinemaConの様子も楽しめる。中でも、マットたちがロン・ハワードの新作の退屈な個所を何とかカットしようと奮闘する第3話、アイス・キューブを中心に多様性を満たすキャスティングを考え過ぎて迷宮にはまる第7話には爆笑させられる。
 
スコセッシに始まり、シャーリーズ・セロン、スティーヴ・ブシェミ、ロン・ハワード、アンソニー・マッキー、アイス・キューブ、オリビア・ワイルド、ザック・エフロン、ジョニー・ノックスヴィル、アダム・スコット、ゾーイ・クラヴィッツ、テッド・サランドス(Netflixの共同CEO)など、多彩なゲストを集めるセス・ローゲンの人脈に驚かされる。本人役で登場するこれらセレブたちは、豪華なだけでなくリアリティを高めている。
 
本作を’風刺コメディ’と形容するのは誤りだ。Netflixの会員数が世界で3億人を超え、AmazonがMGMを所有するいま、オールドファッションな映画スタジオは存続の危機にある。マット・レミックの言動は馬鹿げているが、そこにシニカルな響きはない。あるのは、誰よりも劇場で映画を観るのが好きな男の悲痛な叫びだ。
 
シーズン2の制作も決まった。“The Studio”は、ハリウッドを笑い飛ばしながらも実は映画愛を高らかに謳うドラマだった!
 
原題:The Studio
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年3月26日~5月21日
話数:10(1話 23-44分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(4月~6月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“Blue Bloods”(『ブルーブラッド ~NYPD家族の絆~』、Hulu Japan)
トム・セレック&ドニー・ウォルバーグ主演、“Hill Street Blues”、“NYPD Blue”と並ぶ警察ドラマの金字塔の堂々たるファイナルシーズン(S14)!
 
●“Mid-Century Modern”(『ミッドセンチュリーモダン』、Disney+)
マット・ボマー&ネイサン・レイン&ネイサン・リー・グレアム主演、ボマーのコメディセンスが光る、ゲイの親友3人が織りなすチャーミングなシットコム!
 
●“NCIS: Origins”(『NCIS:オリジンズ』、Paramount+)
“NCIS”フランチャイズのスピンオフ第6弾は、マーク・ハーモンが演じた特別捜査官リロイ・ジェスロ・ギブスの若き日々を描くオリジナルシリーズの前日譚!
 
●“Forever”(『君との永遠』、Netflix)
幼なじみだったティーンエイジャー2人が再会し、恋に落ち、すれ違いとケンカを通して愛を育んでいく、とびきりキュートでビターなラブストーリー!
 
●“Daredevil: Born Again”(『デアデビル:ボーン・アゲイン』、Disney+)
主人公は盲目の弁護士、MCU史上最もバイオレントで最も面白い、7年ぶりに復活したダーク・スーパーヒーロー・ドラマのシーズン4!
 
●“Motorheads”(『モーターヘッズ』、Amazon Prime Video)
これは今年のダークホース!田舎町を舞台に大人たちのノスタルジアとティーンエイジャーたちの恋、友情、ストリートカーレースを描く、車好きにはたまらないクールな青春ドラマ!
 
●“Number One on the Call Sheet”(『Number One on the Call Sheet』、Apple TV+)
ドウェイン・ジョンソン、W・スミス、W・ゴールドバーグ、H・ベリーなど、世界的な人気の黒人アクターのインタビューを通じて、ハリウッドに根強く残る人種の壁を映し出す渾身のドキュメンタリー!
 
●“Super/Man The Christopher Reeve Story”(『スーパーマン/クリストファー・リーヴの生涯』、U-NEXT)
1995年に落馬事故で四肢麻痺になり、その後に真のスーパーヒーローとなったC・リーヴとその家族を描く、DC/HBO/CNNコラボによる感動のドキュメンタリー!
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。