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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第131回 “MURDERBOT”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第131回 “MURDERBOT”
“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第131回“MURDERBOT”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 
予告編:『マーダーボット』 本予告

 
『マーダーボット・ダイアリー』がドラマになった!
本作の原作は、筆者も愛読するマーサ・ウェルズの『マーダーボット・ダイアリー・シリーズ』。3大SF文学賞(ネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞)に輝く人気シリーズだ。
 
“Murderbot”はApple TV+オリジナル、シニカルだがドラマ好きで対人恐怖症のイケメン警備ユニットが大活躍するSci-Fiアクションコメディなのだ!
 
“Stay calm. It’ll be okay. You have my word”
—近未来の宇宙航行社会
警備ユニット(“SecUnit”)#238776431(アレクサンダー・スカルスガルド)は、有機組成と機械構造から成る、高い知能と戦闘能力を備えた再生品サイボーグだ。
強欲な企業リムに保有されている同機は、密かに自分の統制モジュールのハッキングに成功していた。行動制限を無効化したので、もう人間の命令に従う必要はない。
ふざけ半分に、同機は自分を「マーダーボット」(以下ボット)と名付けた。
 
だがこのことを企業リムに知られたら、スクラップにされてしまう。ボットは当面の間、人間に服従するふりをすることにした。
 
ボットの唯一の楽しみは、エンタメチャンネルでドラマを観ること。一番のお気に入りは、壮大なスペース・ソープオペラ『サンクチュアリームーンの盛衰』(“The Rise and Fall of Sanctuary Moon”)だ。
 
ボットの新たな任務は、ある惑星における調査隊の警備だった。彼らはヒッピー風の科学者グループで、ボットのような格安の再生品ユニットしか雇う余裕がなかったのだ。
 
人格者のリーダー、メンサー博士(ノーマ・ドゥメズウェニ)はテラフォーミング(地球惑星化)の専門家。グラシン博士(デヴィッド・ダストマルチャン)は、インターフェースを体内に埋め込んだ強化人間。他に4人の専門家を加えた計6人が調査隊のメンバーだ。
 
調査の初日、フィールドの地底から突如巨大生物が現れ、メンバー2人に襲いかかった。ボットは果敢に戦い、重傷を負いながらも何とか彼らを守り抜いた。
 
この事件のおかげで、ボットはメンバーからの信頼を得た。だが、カムコーダーを分析したグラシン博士は疑問を持つ。
“Stay calm. It’ll be okay. You have my word”—ショック状態に陥ったメンバーに、ボットはこう語りかけていた。警備ユニットにこのようなプログラミングは存在しない。
ボットはこのセリフを『サンクチュアリームーンの盛衰』から引用していた。
 
さらにボットには悩みがあった。再生前の断片的な記憶から判断するに、どうやら自分は以前大量殺人を犯したらしい。
 
チャーミングなボット役にハマったスカルスガルド!
ボット役のアレクサンダー・スカルスガルドは、スウェーデンの名優ステラン・スカルスガルドの息子。メガヒットしたヴァンパイアドラマ“True Blood”でブレークし、準主役のエリックを全7シーズン演じた。“Big Little Lies”(本ブログ第45回参照)では、キモ怖いDV夫を怪演してエミー賞&ゴールデングローブ賞を受賞。最近では、強烈な風刺コメディ“Succession”でIT企業のカルト的CEOを演じた。
スカルスガルドは、無機的だがチャーミングなボット役にみごとにハマった。
 
英国&南ア国籍のノーマ・ドゥメズウェニは舞台出身で、ローレンス・オリヴィエ賞を2度受賞している。アメリカン・ドラマでは、“Presumed Innocent”の判事役が記憶に残る。今回はボットの良き理解者となるメンサー博士を貫禄で演じた。
 
意地の悪いグラシン博士役のデヴィッド・ダストマルチャンは、リブート版“MacGyver”で宿敵マードックを演じた。来年配信予定の“One Piece”(本ブログ第107回参照)のシーズン2では、海賊の1人Mr.3に扮する。
 
劇中劇『サンクチュアリームーンの盛衰』で、ホセイン船長をシリアスに演じて笑いをさらうジョン・チョーは韓国出身。大ヒットおバカ映画“Harold & Kumar”3部作(2004~、なぜか日本で未公開)のハロルド役で人気者となった。
 
センスが光る劇中劇のヴィジュアル化!
ショーランナー(兼共同監督兼共同脚本)はポール&クリスのワイツ兄弟。2人はスーパーヒットコメディ『アメリカン・パイ』(1999)、『アバウト・ア・ボーイ』(2002)を手掛け、後者ではアカデミー脚色賞にノミネートされた。兄のポールは高評価を得たミュージックドラマ“Mozart in the Jungle”を手掛け、クリスは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)の共同脚本を担当している。
 
本作はシリーズ第1作『システムの危殆』(“All Systems Red”、2017/創元SF文庫『マーダーボット・ダイアリー上巻』に収録)がベース。全編がほぼ忠実に映像化されている。
最大の魅力はボットの愛すべきキャラに尽きる。タフで強面のシニカルなサイボーグは、ヘルメットを取ると気まずくて人間とアイコンタクトすらできない。
 
秀逸なのは劇中劇『サンクチュアリームーンの盛衰』の大真面目なヴィジュアル化だ。ドラマならではのアイディアで、タイトルロゴやテーマソングまで揃えてある。このドラマはボットにとって人生ガイドと同時に、敵と戦う際の戦略書となっている。
中でも、パニック障害の発作を起こしたメンサー博士を落ち着かせるために、ボットがエピソードのひとつを再生して見せるシーンは爆笑ものだ。
通俗的でチープなドラマと、それを愛する冷笑的なボットとのギャップを狙った、ワイツ兄弟の鋭いセンスが光る。
 
ストーリーは、ボットと調査隊メンバーとのぎこちない交流、メンバーの抹殺を図る未知の敵との攻防、ボットの過去を巡る謎が絡みあって目が離せない。
フィギュアを使ったお茶目なオープニングクレジットは何回観ても楽しく、30分前後のエピソードはアッという間に終わってしまう。エンディングは予想外にハートウォーミングで切なくなる。
 
シーズン2の制作も決まった。“Murderbot”は、シニカルだがドラマ好きで対人恐怖症のイケメン警備ユニットが大活躍するSci-Fiアクションコメディなのだ!
 
次回は話題の”Alien: Earth”を紹介する。同じSci-Fiドラマでも“Murderbot”とは対極にあり、見比べると面白いぞ!
 
原題:Murderbot
配信:Apple TV+
配信開始日:2025年5月16日~7月11日
話数:10(1話 22-34分)
 
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(7月~9月)
※本ブログで過去に紹介した作品の新シーズンは除きます。
 
●“Chief of War”(『チーフ・オブ・ウォー』、Apple TV+)
『アクアマン』のジェイソン・モモア主演、ハワイの統治を巡って主要4王国が凄絶な戦いを繰り広げる実話ベースの活劇ドラマ!
 
●“The Girlfriend””(『ザ・ガールフレンド ~あなたが嫌い~』、Amazon Prime)
ロビン・ライト主演、息子を溺愛する常軌を逸した母親と、息子が恋に落ちたサイコパスのガールフレンドとの卑劣な騙し合いを描くセクシー・サイコスリラー!
 
●“Lioness”(『特殊作戦部隊:ライオネス』、U-NEXT)
ゾーイ・サルダナ主演、N・キッドマン&M・フリーマン共演、売れっ子クリエーターのテイラー・シェリダンが仕掛ける渾身のポリティカル軍事アクションのシーズン2!
 
●“Untamed”(『大地の傷跡』、Netflix)
ヨセミテ国立公園の雄大な大自然を背景に、公園局の特別捜査官(エリック・バナ)が女性の転落死の真相に迫っていく斬新なクライムドラマ!
 
●“Duster”(『DUSTER/ダスター』、U-NEXT)
‘70年代のアリゾナ州フェニックスを舞台に、犯罪組織の運び屋とFBI初の黒人女性捜査官が繰り広げる、カーアクション満載のレトロなクライムドラマ!
 
●“Pantheon”(『パンテオン:デジタルの神々』、Netflix)
SF短編の名手ケン・リュウ原作、シンギュラリティ(AIが人類を超える時点)が迫る近未来を舞台に、UI(“Uploaded Intelligence”)の台頭とそれに翻弄される人々を描く壮大なSci-Fiアニメ!
 
●“Ballard”(『バラード 未解決事件捜査班』、Amazon Prime)
マイクル・コナリー原作、マギー・Q主演、“Bosch”(本ブログ第20回参照)からのスピンオフで、シリアルキラーと腐敗警官グループを追うLAの刑事レネイ・バラードの活躍を描くクライムドラマ!
 
 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。