今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 

 

英国流のお洒落でダークなファンタジー・コメディ！
WARNING:
“Kids, causing Armageddon can be dangerous. Do not attempt it in your own home.”

 
ハルマゲドンを阻止するために天使と悪魔が手を組んだ！
ドラマ化を実現するためにAmazonとBBC（英）が手を組んだ！
“Good Omens”は、英国を舞台にしたお洒落でダークなファンタジー・コメディなのだ！

 
“This is the beginning of a beautiful friendship”
―紀元前4004年
10月21日の午前9時13分に天地創造がなされた。
天使アジラフェル（マイケル・シーン）は大天使ガブリエル（ジョン・ハム）の命で、悪魔クロウリー（デヴィッド・テナント）を監視するために地上へ派遣される。

 
―1656年
魔女アグネス・ナッターは「非常に正確な予言書」を完成させたのち、火あぶりの刑に処された。
予言書の一例を挙げる（確かに正確だ）。
“In December 1980, an Apple will arise no man can eat. Invest the money in Master Jobs’ machine…”（アグネス・ナッターの予言 2214.）

 
―ロンドン、11年前
アジラフェルとクロウリーは6千年余にわたって密かに友情を育み、人間界の生活を謳歌してきた。アジラフェルは古本屋を営み、クレープと寿司とワインとスコッチがお気に入り。クロウリーはクイーンの曲を大音量で流しながら、年代物のベントレーをかっ飛ばす。

 
だが大問題が起きた。サタンが11年後にハルマゲドンを起こすべく、サタン・ベイビーを地上に送りこんだのだ。地球が滅亡したら、楽しい生活も終わってしまう。2人は協力してハルマゲドンを阻止することを誓う。

 
サタン・ベイビーは、悪魔崇拝の修道女によってアメリカ人外交官夫婦の赤ん坊とすり替えられるはずだった（『オーメン』だね）。だがミスが重なり、田舎の平凡な夫婦により育てられることになる。
おかげでアジラフェルとクロウリーは、サタンの申し子の足取りを失ってしまった！

 
一方、「非常に正確な予言書」はアグネス・ナッターの子孫アナセマ（アドリア・アルホナ）にわたり、彼女は人類を救うための重要な使命を担う。

 
―そして現在
アダムと名付けられたサタンの息子は11歳で覚醒し、自分の魔力と使命を知る。アダムの戦闘部隊となる黙示録の四騎士、”Death”、”Famine”、”War”、”Pollution”も集結した。

 
世界の終末に向けてファイナル・カウントダウンが始まった。
果たしてアジラフェルとクロウリーは人類を救えるのか？

 
軟弱な天使とクールな悪魔
天使アジラフェル役のマイケル・シーンは”Masters of Sex”で主演をつとめ、最近では”The Good Fight”（本ブログ第43回参照）の弁護士ブラムを演じた。強面で傲慢な辣腕弁護士から、善良で軟弱な天使へ、―このベテラン俳優の芸域は広い。

 
スタイリッシュで皮肉屋、クールな悪魔クロウリーを演じたデヴィッド・テナントは、BBCが誇る史上最長のSci-fiドラマ”Doctor Who”の10代目ドクター役が代表作。マイケル・シーンとの相性もぴったりで、2人の間にはケミストリーが溢れている。

 
魔女の子孫アナセマ役のアドリア・アルホナは、メガネと地味な装いで美貌を隠して控えめな演技をみせた。彼女は、この夏全米公開されるマーベルの”Morbius”でブレークが期待されるライジングスターだ。

 
アジラフェルの上司ガブリエルを演じたジョン・ハムは、言わずと知れた”Mad Men”の主役ドン・ドレイパー。今回はトホホな大天使役で笑わせる。

 
またベネディクト・カンバーバッチがサタン役で、フランシス・マクドーマンドが神さま役で声の出演をしている。

 
チャーミングな英国アクター2人の独壇場！
ショーランナー（全権を持つ製作総指揮のリーダー）は原作者で脚本も手掛けたニール・ゲイマン。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞などに輝く英国の人気SF・ファンタジー作家で、コミックブックのライターでもある。（原作小説はテリー・プラチェットとの共著、翻訳あり）。
ドラマ版は”Monty Python”のテリー・ギリアムによる映画化がとん挫したのち、AmazonとBBCにより共同製作された。内容的にはほぼ100%英国ドラマだ。

 
本作の配信開始後、天使と悪魔が親友となる設定に不満を持つキリスト教徒から抗議の声が上がり、約2万人のフォロワーがあったという。結局、抗議文が誤ってAmazonではなくNetflixに送られてしまうという残念なオチがついた。

 
キリスト教のプラットフォームに乗せて、天地創造から現代のロンドンまでを一気に駆け抜ける奇想天外な世界観。少し間の抜けた’善対悪’の戦い。ユニークなキャラの数々。その中で右往左往するアジラフェルとクロウリー。見どころは多いが、2人の微笑ましい関係が美しい友情なのか、同性愛なのか、そのバランスが絶妙で、ストーリー・エンジンとなっている。このドラマは、マイケル・シーンとデヴィッド・テナントというチャーミングな英国アクター2人の独壇場なのだ。

 
そして最終エピソードで披露される粋なトリックによって、物語は鮮やかな大団円に着地する。

 
“Good Omens”は、英国流のシニカルなユーモアに包まれた、お洒落でダークで心温まるファンタジー・コメディだ！

 
本作は全6話（各1時間弱）のミニシリーズで、日本ではAmazon Primeが配信中。
続編も観たいが原作がない。ゲイマンが直接脚本に書き下ろしてくれないかな。

 
＜今月のおまけ＞ 「My Favorite Movie Songs」㊷
Title: “The Shorty George”
Artist: Fred Astaire & Rita Hayworth
Movie: “You Were Never Lovelier” (1942)

リタ・ヘイワースを、『ショーシャンクの空に』の壁に貼られたポスターでしか知らないあなたへ。
映画の邦題は『晴れて今宵は』。相手はもちろんフレッド・アステア、2人の圧巻のダンスシーンをどうぞ！

 
Written by 土橋秀一郎（どばし・しゅういちろう）’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業（新井一に学ぶ）。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信：“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 

 
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