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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第67回 “POSE”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第67回 “POSE”
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    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

    “Viewer Discretion Advised!”
    これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
    Written by Shuichiro Dobashi 

    第67回“POSE”
    “Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

    今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

     

     

    “Glee”のショーランナーによる、セクシュアル・マイノリティたちの人間ドラマ!
    大ヒットした学園ミュージカルドラマ“Glee”で、ショーランナーのライアン・マーフィーは、ゲイと障害者のキャラたちを前面に出した。自身ゲイであることをカミングアウトしているマーフィーが、今回満を持して描くのは何か?

     
    “POSE”は、‘80年代に実在した“Ball culture”に乗せて、セクシュアル・マイノリティ(LGBTQ)たちの夢、苦悩、愛、家族を活写する入魂の人間ドラマだ!

     
    “Strike a pose!”
    ―1987年、マンハッタン
    セクシュアル・マイノリティが現在ほど認知されず、エイズの診断が死刑宣告に等しかった時代。
    財力のあるゲイの白人はセクシュアル・マイノリティの頂点に立ち、それ以外のLGBTQたちを見下していた。差別はいつの時代にも、どこにでもある。

     
    黒人とラティーノのLGBTQからなるコミュニティでは、“Ball culture”が隆盛を極めていた。“Ball”とは、週末にダンスホールで開かれる絢爛豪華なアングラのファッション&ダンスショーだ。出場者はそれぞれの“House”(疑似家族)に属していて、家長は“Mother”と呼ばれる。“House”または個人が、細分化されたテーマ毎の“Ball”に参加して優劣を争う。優勝トロフィーは彼らのプライドとアイデンティティの象徴だ。

     
    ブランカ(MJ・ロドリゲス)はネイルサロンで働くトランスジェンダー。若いころに“Ball”の女王ことエレクトラ(ドミニク・ジャクソン)に拾われ、庇護を受けてきた。エレクトラは“House of Abundance”の伝説的な“Mother”だ。ブランカは最近HIVポジティブと診断された。自分に残された時間はどれだけあるのか。彼女はエレクトラの元を離れ、独立して“House of Evangelista”を立ち上げる。

     
    17歳のデイモン(ライアン・ジャマール・スウェイン)はゲイ嫌いの父親に追い出され、NYにやってきた。ホームレスとなっていたデイモンは、ブランカによって“House of Evangelista”の最初の家族として迎えられた。現在は奨学金を得てダンススクールに通っている。

     
    エンジェル(インディア・ムーア)は、“House of Abundance”でブランカと一緒だったトランスジェンダーの娼婦。ブランカの誘いで“House of Evangelista”に移ってきた。エンジェルは客の一人、トランプ・タワーで働くビジネスエリートのスタン(エヴァン・ピーターズ)と恋に落ちる。

     
    プレイ・テル(ビリー・ポーター)は、“Ball”の名司会者でコミュニティのまとめ役。ファッション・デザイナーとしてブランカを陰で支える頼もしい存在でもある。テルのパートナーはエイズで死にかけている。

     
    ブランカの夢は、“House of Evangelista”の家族に温かい食事と保護を与え、教育と躾を施し、本当の家庭を築くこと。もちろん、競争は厳しいが“Ball”でのパフォーマンスも生きがいだ。

     
    だが、セクシュアル・マイノリティの人生は困難を極める。ドラッグとエイズに囲まれ、差別と貧困に苦しむシビアな現実は、容赦なくブランカとその家族に襲いかかる。

     
    MJとポーターのデュエット“Home”を聞け!
    ブランカ役のMJ・ロドリゲス、エンジェル役のインディア・ムーア、エレクトラ役のドミニク・ジャクソンは、いずれも実生活でもトランスジェンダー。3人とも複雑な感情をみごとな演技で表現した。中でもブランカを演じた美形とは言えないMJ・ロドリゲスが、凛とした決意と底なしの優しさで魅力的になっていく変貌ぶりはみごとだ。

     
    エンジェルの愛人となるスタンを演じたエヴァン・ピーターズは、ライアン・マーフィーによる“American Horror Story”の常連。『X-MEN』シリーズではクイックシルバーに扮していた。

     
    ゲイの重鎮ビリー・ポーターは、ブロードウェイ・ミュージカル“Kinky Boots”(2013)でトニー賞とグラミー賞を受賞している。本作のプレイ・テル役でも群を抜く存在感と安定感を示し、エミー賞の主演男優賞に輝いた。

     
    第6話でMJ・ロドリゲスとビリー・ポーターが歌い上げる“Home”(ブロードウェイ・ミュージカル“The Wiz”の主題歌)は必見だ。哀しくて切なくて、胸がいっぱいになる。

     
    このドラマにはハートがあり、呼吸している!
    “POSE”は極めてセンシティブな内容にもかかわらず人気を博し、高く評価され、ゴールデングローブ賞&エミー賞のダブルノミネーションを受けた。ライアン・マーフィーがリスクを取って果敢に挑んだセクシュアル・マイノリティ・ドラマが、市民権を得たのだ。出演機会が限られる才能あるトランスアクターたちが本作で開花し、広く認知された意義は大きい。アメリカン・ショービジネスの裾野の広さ、層の厚さに改めて驚かされる。
    昨年マーフィーはNetflixと5年のコンテンツ契約を結んだ。次作が楽しみだ。

     
    セクシュアル・マイノリティの異質な世界はパワフルで新鮮、‘80年代のミュージック・シーンはクールで馴染みやすい。“Ball”のファッション&ダンスはド派手でかなり悪趣味に感じるが、コミュニティにとっての意味合いが分かるに連れて、見え方が違ってくる。“Ball culture”は彼らのアイデンティティの源なのだ。

     
    ストーリー・エンジンは、ブランカの深い母性によって疑似家族が本物の家族に変容していくプロセスだ。ブランカ、“House of Evangelista”の面々、プレイ・テル、―皆したたかだが、正直で心優しく、寛容で傷つきやすい。淡い希望と深い失望を繰り返す人生を生きてきた。他に行く場所がないから固い絆で結ばれる。エイズによる死と隣り合わせ故に、彼らの人生は凝縮されていて、濃密な感情が溢れる。

     
    本作がネクラの絶望的なドラマに陥らないのは、“Ball”のパフォーマンスが明るくコミカルでエンターテインメント性が強いことに加えて、骨格がシンプルな人情話(いい意味での“tearjerker”)だからだ。恋愛沙汰もかなりソープオペラっぽい。ヒューマニティと通俗性のバランスを取りながら、暗い素材を明るいプレゼンテーションで見せる技巧が絶妙なのだ。
    単なる興味本位でも、とにかく観て欲しい。瞬く間に魅了され、ハマるから。

     
    “POSE”は、きらびやかな“Ball culture”を背景にセクシュアル・マイノリティたちの夢、苦悩、愛、家族を描き、彼らのアイデンティティを訴える入魂の人間ドラマ。このドラマにはハートがあり、呼吸している!

     
    制作は“The Shield”、“The Americans”、“Sons of Anarchy”、“American Horror Story”などヒット作を繰り出すFXで、本作はシーズン3の制作が決定している。日本では昨年FOXがシーズン2を放映済みだが、Netflixが先月からシーズン1の配信を開始した。1話50~110分 で全 8話、見ごたえ十分だ。

     
    尚、‘70-80年代のNYに興味がある人は、HBO制作の“The Deuce”もお勧め。ジェームズ・フランコ&マギー・ギレンホール主演、ビデオの出現で一変するポルノ業界の変革期を描く異色ドラマだ。

     
    <今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」㊺
    Title: “Men in Black”
    Artist: Will Smith
    Movie: “Men in Black” (1997)

    ウィル・スミスは理系最高峰のMIT入学の機会を蹴って、”The Fresh Prince”の名でラップの世界へ飛び込んだ。ドラマ・デビューは、タイトルロールを演じたコメディ”The Fresh Prince of Bel-Air”で、これも大ヒット。
    因みに相棒の”K”役は、元々はトミー・リー・ジョーンズではなくクリント・イーストウッドだった!

     
    写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
     
     

     
    ◆バックナンバーはこちら
    https://www.jvta.net/blog/5724/


     
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