【JVTA30周年記念 代表:新楽直樹に30の質問】世界の映像が日本に、日本の映像が世界に降り注ぐ未来を見据え、映像翻訳の「職業訓練校」を創業
JVTAは1996年に開校し、今年で創業30周年を迎える。映画の字幕や吹き替えを作るプロフェッショナルを育成する職業訓練校としてスタートし、これまで多くの映像翻訳者を輩出してきた。また、翻訳案件を受発注するエージェント部門を併設 し、修了生がスクールで学んだスキルを活かして活躍するシステムを構築している。さらに長きにわたる指導経験から国内外の小学校から大学まで幅広い教育機関でも映像翻訳に関する授業を行う など独自の事業展開が特長だ。
今回は代表の新楽直樹に30の質問を敢行。創業当時の想いや、これまでの変革の歴史、今後の展望などについて聞いた。
1.創業時に「唯一、これだけは譲れない」と決めていた理念は? 新楽: JVTAのミッションは、言葉が持つ「社会に伝える力」を最大限発揮し、文化や言語の壁を越え、日本と世界をつなぐお手伝いをすること。また、その担い手となる言葉のプロフェッショナルを育成することです。この理念は創業当時から変わりません。開校当時の1996年、「映像翻訳」という言葉は定着していませんでした。まだビデオテープも使っていた時代です。しかし、私には後に世界中の映像コンテンツがシャワーのように日本に降り注ぐ未来が見えていました。そしてその時、字幕や吹き替えを作る映像翻訳という技術は社会に不可欠な「職能」として認められるという確信があったのです。「本物の職業訓練校を作る」という想いが私たちの原点です。
2代目となる現在の校舎は日本橋エリアのオフィス街にあるが、初代の校舎は代々木八幡の古い木造3階建てで、スクールという雰囲気ではなかったと新楽はいう。まして「映像翻訳」という言葉も概念も浸透していない時代。学校を立ち上げても果たして受講を希望する人はいるのか、説明会をやっても参加者はいるのか、まったく手探りの状態だった。
初代校舎の外観
2.開校時を支えてくれた、一番印象に残るエピソードは? 新楽: 30年前はインターネットも広くは普及しておらず、告知は新聞広告と雑誌のみでしたが、いざ開校してみると、英語力を活かして映像の世界で腕を振るいたいという志の高い方々が続々と集ってきました。それは驚きでもあり今でも強く印象に残っています。当時はすべての受講生に対して各コース修了時の面談を私が一人で行っていました。短期間に100人以上の方たちと向き合うので、控室に簡易酸素吸入マスクを用意したことも(笑)。今は著名な翻訳者になった方が当時はお子さんを連れて面談に訪れるなど、受講生たちの熱量に圧倒されたのを覚えています。あの時の出会いがあったからこそ、今のJVTAがある。当時の受講生たちが、今では翻訳実務やコラムの執筆 などでJVTAを支えてくれているのが、何よりの財産です。
3.「これだけはブレてはいけない」とスタッフに伝え続けているメッセージは? 新楽: JVTAが最も大切にしているのは、受講生・修了生です。私たちの基本は言葉のプロを育成するスクールであり、ここで学び確かな職能を身につけた多くの映像翻訳者たちが日本と世界を繋ぐ役割を担っています。現在は劇場公開映画作品やアカデミー賞候補となる作品などを手がけるベテランも少なくありません。なかにはメディアや翻訳会社に所属して私たちのクライアントとなり、良い関係を築いている人もいます。同じ志を抱いた仲間として受講生、修了生を心から誇りに思っています。
4.「JVTAがこれは誰にも負けない」と思う、一番の強みは? 新楽: 私たちの強みは教育機関としての「職業訓練 」と、実務の「受発注 」が高度に一体化している点です。当初はスクールだけでしたが、仕事の依頼の増加に伴い、受発注を専門に行う部門を正式に立ち上げました。現在は修了生を対象にしたトライアル(プロ化のための試験)を定期的に開催し、合格者にはOJTでプロデビューをサポート 。スクールで確かなスキルを身につけた修了生にさまざまな形で就業の場を提供しています。受講生・修了生を最も大切に想うからこそ、彼らが社会に貢献できるよう、仕事を創出し、マッチングさせる。この「職業訓練校としての誇り」こそが、私たちの存在意義です。
5.30年の中で、受け継がれている「独特な習慣」は? 新楽: フリーランスの自立支援を一貫して続けています。30年前は企業や組織に所属することが一般的で、フリーランスには否定的な見方が強かった。しかし、私は敢えて映像翻訳を学ぶすべてのコースで、「フリーランス」の心得を説く授業を行ってきました。つまり私は翻訳を学ぶすべての受講生と向き合ったことになります。時代は変わり、現在はインターネットやSNS、AIの普及、働き方改革などで、フリーランスという働き方は市民権を得て、企業も副業を認める時代になりました。翻訳者は、言葉のプロのフリーランサーとしての「自立」と「自律」の意識を持つことが必須です。授業では、就業を前提にクライアントから信頼を得るための仕事術や営業術、レジュメの書き方や確定申告、インボイス制度など、実践的な内容を伝えています。
受講生がJVTAで学ぶきっかけはさまざまだ。友人や職場の同僚、家族らの口コミでJVTAを知ったという声も多い。30周年を迎える今では、親子や姉妹でプロになり活躍している例もある。それは、アットホームな校風の効用とも言えるだろう。「実は受講期間はJVTAとの繋がりのほんの一部であり、修了後からの付き合いこそが本番だ」と新楽はいう。プロデビュー後に仕事を通してより深い関係を構築していくのがJVTAならではの特長なのだ。
6.30年の中で、事業の方向性を大きく変えた「決断」は? 新楽: 振り返ると最も大きな決断は2008年だったかもしれません。この年にロサンゼルスに法人を立ち上げました。ロサンゼルス校は、米国カリフォルニア州教育局より正規の学校として認可を受け、留学生(M-1ビザ)を迎え入れることができる公認の職業訓練校です。通訳や実務翻訳などの授業も行うほか、現地での日本の映像作品の英語字幕付きの放送や映画祭などにも大きく貢献してきました。
難民映画祭の支援がスタートしたのも2008年でした。これは映画祭の上映作品にプロボノ(職業の専門性に基づく知識や経験などを生かして行う無償の社会貢献活動)で字幕制作を行うというものです。はじまりは当時、受講生募集のセミナーに参加していた女性(東京の国連難民高等弁務官事務所のインターン)が「映画祭を立ち上げたが字幕を付けられない。JVTAがボランティアで字幕制作を請け負ってくれないか」という嘆願からでした。字幕がないまま上映されることを嘆く彼女の想いに共感はしたものの、それまで無償のプロボノ協力の実例はなく、私は困惑したのです。はたして無償で協力してくれる修了生や受講生はいるのだろうか。しかし、実際に呼び掛けると、そんな懸念とはうらはらに多くの方々が協力したい!と手を挙げてくれました。プロとして忙しく働いている修了生も、収入は度外視して難民映画祭に貢献したい、と。「言葉の力で豊かな社会づくりに貢献する」という私たちの理念を具現化したこのコラボレーションは現在も続いています。また、青山学院大学や明星大学の学生たちもこの字幕制作に参加し、JVTAが指導を行っています。この映画祭への協力は受講生、修了生、スタッフ、私自身にも大きな学びがありました。このご縁を機に国連難民高等弁務官を務め、私にとって唯一無二の‛尊敬すべき偉人’だった緒方貞子さんから20周年にお祝いの言葉を頂けたことが、これからも私たちの支えであり、誇りです。
提供元:難民映画祭
◆Tipping Point Returns Vol.10 追悼 緒方貞子さん ~難民支援と映像翻訳~ ◆JVTAの教育機関へのプログラム導入、講師派遣 ◆【難民映画祭20周年】わたしと難民映画祭(字幕翻訳者編)
創立から30年、ロサンゼルス法人の立ち上げも含めて、JVTAは新たなチャレンジの連続だった。当初は英日の映像翻訳のコースのみで開講したが、その後は、英語力に重点を置いた「English Clock」、日本の作品に英語の字幕を付ける「日英映像翻訳科」、日本語の文章力に特化した「日本語表現力強化コース」、聞こえづらい人や見えづらい人にバリアフリー字幕や音声ガイドをつくる「メディア・アクセシビリティ科」(旧バリアフリー講座)などを開講。言葉に関する多様な分野の学びが可能になり、修了生の仕事の幅も無限に広がっている。
7.新しく挑戦してきた「未知の領域」はありますか? 新楽: コロナ禍をきっかけに2020年ごろから世界中でリモート学習やテレワークが一気に普及しました。JVTAはそれに先んじて遠方の地方都市や海外に在住の入学希望者の声に応え、すでに教室のリアル受講とオンライン受講のハイブリッド形式を導入していました。その経験があったからこそ、コロナ禍になってもいち早く全面リモート受講を実現することができたのです。その結果、現在は国内外のあらゆる国や地域に受講生、修了生が点在しています。さらに、リモート受講をより快適にするラーニング・マネージメント・システム「JVTA Online」 を独自に開発するなど、常に時代のニーズに即した学習環境を提供しています。
コロナ禍前に教室にオンライン受講用のカメラを設置
8.次の10年(40周年)に向けて、描いているビジョンは? 新楽: 今後10 年の課題は、「AIの普及と加速するグローバル化」の時代にぴたりと一致した職業訓練コースと受注体制を作っていくことですね。AIと共存する未来を見越して、私たちは2022年にAI字幕翻訳ツール「Subit!」(サビット) をリリースしました。これは、2019年12月から国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の情報科学研究科知能コミュニケーション研究室(中村哲教授、須藤克仁准教授)とAI字幕翻訳に関する共同研究を行い、誕生したものです。最大の特長は、AIが出力する日本語が映像や動画の視聴に最適化されていること。昨今は実務でも機械翻訳したものを人間が修正し整えていくポストエディット(PE)といわれる手法が定着しつつあり、私たちも積極的に取り組んでいます。さらに、映像翻訳のカリキュラムにもAI翻訳の活用法を学ぶ授業を取り入れる など、社会の最新ニーズに沿った内容にアップデートしています。
9.翻訳者はAIの進化とどのように共存すべきか? 新楽: AIは翻訳者にとって競合するものではなく、活用するものです。「AIを活用して品質と生産性を上げる」。AIを怖がるのではなく、AIを研究し尽くして利用し尽くすことも、今後の翻訳者のスキルの一つと言えるでしょう。とはいえ、AIは作品を深く解釈しセリフを紡ぎだす映像翻訳者には敵わない。すでに実務でもAIの活用は始まっていますが、最終的なメディア表現を編むのはどこまで行っても言葉のプロ、つまり映像翻訳者です。決してAIだけで代用はできません。AIと言葉のプロが共存することが今後の翻訳の在り方になります。
10.自身にとって「仕事の喜び」とは? 新楽: 修了生の皆さんの活躍 がやはり一番の喜びですね。「プロデビューした」「話題作の字幕を手がけた」「書籍を執筆した」「コンテストで入賞した」「イベントで通訳を担当した」といった声はもちろん、「映像翻訳ではないが今の仕事に役立っている」「表現力が増して周囲からの評価が上がった」など、JVTAで学んだスキルを活かしてキャリアを重ねているという報告が何より嬉しい。
創業から30年。JVTAからは多くの映像翻訳者が巣立ち、世界でもそのスキルを遺憾なく発揮する姿は、まさに私たちが創業から一貫して目指してきた「未来」だ。
第2弾ではもっとカジュアルな質問で新楽代表の素顔に迫る。どうぞお楽しみに。
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【2025年12月】日英OJT修了生を紹介します
JVTAではスクールに併設された受発注部門が皆さんのデビューをサポートしています。映像翻訳の仕事は映画やドラマだけではありません。特に日英映像翻訳ではマンガやゲーム、企業のPR動画など幅広いジャンルがあり、翻訳者が体験してきた職歴や趣味などを生かして活躍しています。今回はOJTを終え、日英の映像翻訳者としてデビューする修了生を紹介します。
◆中岡麻希さん(日英映像翻訳 実践コース修了) 国際協力機関での受付、IT関連の翻訳
【OJTを終えて】 子供の頃からの夢であった映像翻訳へのドアが開けて、今は試験に受かったことへの驚きとこれからのワクワク感でいっぱいです。遠い夢だと思っていましたが、JVTAで教えていただいたことを一つひとつ咀嚼し、身につけることでここまでたどり着くことができたのだと思います。
【今後どんな作品を手がけたい?】 旅行が好きで、旅にまつわる作品であればドキュメンタリー、フィクションを問わず手がけてみたいです。これまで27カ国を旅して海外文化に触れてきましたが、今後は日本の文化や慣習、体験を発信する側に回りたいと考えています。
関西出身でお笑いにも親しんできました。お笑いは特に翻訳が難しいジャンルだと思いますが、日本独特の世界観を届けられる翻訳者を目指しています。
◆狩野 安奈さん(日英映像翻訳実践コース 修了) 職歴:オンライン英会話講師、スペイン公立学校にて外国語指導助手、イギリスの日本食料品店スタッフ
【今後どんな作品を手がけたい?】 幅広いジャンルの作品を日常的に視聴していますが、日本作品では特に刑事ドラマ、青春もの、ヒューマンドラマ、リアリティ番組、アニメを好んでおり、こうしたジャンルの作品に携われたら嬉しいです。また、日本文化の魅力を世界に届けたいと思い、ドキュメンタリーやYouTube動画にも挑戦したいと考えています。
【日英翻訳の魅力】 日本語は英語と違ってハイコンテクスト言語であるため、一つひとつのセリフの微妙なニュアンスを理解し、英語で自然に伝えることに、日英翻訳の難しさと面白さを感じています。さらに、近年では日本作品が海外で注目されるようになり、劇場公開も増えています。いつか自分の字幕を映画館で観たいです。
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています! ◆翻訳の発注はこちら ◆OJT修了生 紹介記事のアーカイブはこちら
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【修了生・小松原宏子さん】名作『ピーター・パン』の完訳と編訳に導いてくれたのは映像翻訳のスキルでした
翻訳者、児童文学作家として活躍する修了生、小松原宏子さんが編訳した児童書『ビジュアル特別版 ピーター・パン』(世界文化社)が発売された。小松原さんは、これまで「あしながおじさん」や「若草物語」など多くの名作の編訳を手がけてきた。 編訳とは、原書をすべて訳すのではなく、子どもたちが読みやすいように分かりやすい言葉で翻訳をし、さらにコンパクトにまとめていく作業だ。まさに映像翻訳者の腕の見せどころと言える。小松原さんは、JVTAで映像翻訳を学んだことが児童文学の翻訳や執筆に導いてくれたと話す。
『ビジュアル特別版 ピーター・パン』世界文化社 J・M・バリー 原作 小松原 宏子 文 kei saito 絵 川端 有子 監修
◆名作『ピーター・パン』の完訳と編訳を同じ翻訳者が担当
小松原さんは、昨年(2024年)発売された愛蔵版「ピーター・パン」〈ミナリマ・デザイン版〉(静山社)の完訳(原作のすべてを訳す)を担当 。この愛蔵版を読んだ世界文化社の佐久間友梨さんから、同じピーター・パンの児童書執筆のオファーが小松原さんに届いた。
ピーター・パン〈ミナリマ・デザイン版〉 J.M. バリ 作 / ミナリマ デザイン&イラスト / 小松原 宏子 訳
「愛蔵版の小松原さんの翻訳が素晴らしく、作品の芯をとてもよく捉えていらっしゃると感じました。これまで手がけられた世界の名作の抄訳も大変お上手なので、今回の企画にぴったりだと思い、お声がけをさせていただきました。」(世界文化社 同書の編集担当 佐久間友梨さん)
『ビジュアル特別版』シリーズは小学校低・中学年から読める、美しいカラー挿絵入りの児童書。このシリーズでは今年(2025年)、日本初の全文訳『赤毛のアン』の翻訳者・松本侑子さんの書き下ろしによる児童書が発売され、人気を博している。小松原さんは翻訳や編訳、創作とさまざまなカタチで児童書に携わるベテランだが、同じ作品の完訳と編訳を続けて手がけたのは『ピーター・パン』が初の試みとなった。
「子どもの頃、私の愛読書は、石井桃子さんが翻訳した『ピーター・パンとウェンディ』(福音館書店)でした。昨年、愛蔵版の翻訳を手がけた際に、英語の原書に加え、資料として20冊以上の翻訳本を読み、作品に関しては本当に隅々まで把握したと思いますが、数多い歴代翻訳者の中で佐久間さんから今回のご依頼を受けた時は嬉しかったですね。」(小松原宏子さん)
◆All children, except one, grow up.
小松原さんが『ピーター・パン』の翻訳で最も熟考したのは、冒頭の一文だという。小松原さんは愛蔵版と児童書をそれぞれ下記のように訳し分けている。
All children, except one, grow up. (愛蔵版)子どもは、だれでもいつかはおとなになる。たったひとりをべつにして。 (児童書)子どもはみんな、いつかおとなになります。ひとりの男の子をべつにして。
物語の核となる大切な一節であることから、小松原さんは資料として集めた過去の翻訳本の訳し方を一覧表にして比較しながら、自らの表現を作り出したという。
「この作品では大人になることは残念なこと、悲しいこととされていますが、今読み返すと大人になれることは幸せなことと感じます。悩んだあげく、私は2文に分けて訳文を作りました。」(小松原さん)
◆ピーター・パンを深く理解しているからこその葛藤
原作について深く理解しているからこそ、それを子どもたちが楽しめる児童書として大事なエッセンスをギュッと凝縮するのは至難の業だ。また、読者に合わせた言葉選びも必要となる。豪華な装丁で大人が読むことも想定した愛蔵版の文体は「だ・である調」で作中にはシリアスな描写もあるが、児童書では「です・ます調」でより分かりやすい言葉を使い、子どもたちに語りかけるような優しい口調を意識した。
「はじめは、完訳したデータから削っていこうと考えましたが、最終的な文字量が違いすぎて不可能でした。結局、完訳した際のデータは一旦忘れて、翻訳時に原作から私自身が受け取った印象的な人物描写やエピソードを元に、初めて物語を創作する気持ちで一から書き直しました。児童書の場合、一言一句訳すのではなく要約の要素もあるので、ニュアンスが変わらないように留意しながらも、より自由に言葉や文体を選べるという面白さがあります。」(小松原宏子さん)
児童書の執筆にあたり、佐久間さんが小松原さんに伝えたのは、「子どもたちの〈お母さんへの気持ち〉に寄り添う作品にしたい」という思いだった。原作を熟読した小松原さんも強く印象に残ったのは、ピーター・パンが母親に抱く複雑な感情や、ティンカー・ベルの嫉妬深さ、悪役のフック船長が実は名門校の出身で自分の残酷な行動に「礼節」がないと葛藤する一面などといった各登場人物の深い描写だったという。児童書の短いテキストの中にもそうした人物の微妙な心情が分かる言葉を巧みに入れたほか、大切な場面には字数を割いて丁寧に描写するなどの工夫をした。ちなみに、「礼節」は子どもにはなじみがないので、「品格」に置き換えている。「品がない」などの言葉は子どもにも馴染みがあると考えたそうだ。
「頂いた原稿は、こちらの希望がきちんと盛り込まれた内容でとても嬉しかったのを覚えています。限られた文字数の中で作品の軸を捉えつつ、心を動かす文章を紡いでくださる小松原先生の腕前に、制作期間を通じて感激しておりました。」(佐久間さん)
ちなみに小松原さんが今回、字数制限でカットせざるを得なかったがお気に入りのシーンがある。ピーター・パンが「おきざりの岩」でフックと戦った後、実は一度死にかけるのだという。
「もうダメだって思った瞬間、『死ぬのってすごい冒険だろうな』とピーターは笑みを浮かべるのです。いわゆる完全懲悪のヒーローだけではない一面が描かれていて印象的なのですが、前後の流れまで盛り込むスペースがなくて児童書では断念しました。編訳はこういう葛藤の繰り返しだったので、ぜひ原作や完訳も読んでみてほしいですね。」(小松原さん)
◆JVTAでの学びがキャリアの幅を拡げてくれた
小松原さんは、40歳を過ぎてからJVTAに入学し、映像翻訳を学んだ。厳しい字数制限や言葉選びのスキルはもちろん、最も役に立っているのはリサーチ力だという。この学びがなければ今のキャリアはないと言い切る。確かなリサーチ力はどんな仕事をする上でも信頼につながるからだ。
「字数制限のなかで大切な要素を的確に取捨選択するスキルはもちろん、児童書や絵本の翻訳に役立っています。でもすべての基本はリサーチ力だと実感しています。私は高校や大学で学生に授業を行っていますが、どんな職種でもそれは同じだと話しています。調べもので相手や状況を正しく理解することは必須です。私もJVTAでリサーチ力を身につけたことでキャリアの幅が拡がりました。」(小松原さん)
編集の佐久間さんは、児童書を作るうえで意識している点を下記のように話す。
「作家さんによってさまざまなスタイルがあるので、話し合いながら、子どもたちの情緒の種となるような、良質な児童書をつくりたいと思っています。また、日本語を覚えていく子どもたちに手渡す本であることを常に意識して、当たり前ですが、誤字がないよう、正しい日本語で届けることを今後も大切にしていきたいと考えています。」(佐久間さん)
かつてJVTAの課外講座で聖書講座を担当していた小松原さんは、いのちのことば社が毎月発行する新聞で連載を手がけている。
「物語とそこにまつわるキリスト教の要素を1500字でまとめるエッセイです。想像以上に短いので毎回字数とのせめぎ合いですが、このエッセイを見て本編の物語を読みたくなったという声もいただき、嬉しいですね。」(小松原さん)
最後に、編集を手がけた佐久間さんにビジュアル特別版ならではの魅力を聞いた。
「挿絵は新鋭画家のkei saitoさんが担当。水彩で色を置いた後、ペンで緻密に描き込むスタイルで、躍動感と繊細な心情を併せ持つ冒険の世界へ読者を誘ってくださいました。解説は英国児童文学者の川端有子先生が執筆。幼い頃に兄を亡くした原作者 J・M・バリーの生涯、物語誕生の背景、『ピーター・パン』の世界をより深く知るための手がかりを、子どもたちに向けて丁寧に紹介してくださっています。」(佐久間さん)
JVTAの受講生・修了生の中にも児童書の翻訳を目指す人がいる。原書の完訳と編訳とは、それぞれどんなスキルなのか。ぜひ小松原さんが手がけた2冊を読み比べてみてほしい。同じ翻訳者が同じ原作から丁寧に訳しわけた工夫から映像翻訳のヒントも学べるに違いない。
◆『ビジュアル特別版 ピーター・パン』世界文化社 J・M・バリー 原作 小松原 宏子 文 kei saito 絵 川端 有子 監修 公式サイト:https://books.sekaibunka.com/book/b10151917.html
◆ピーター・パン〈ミナリマ・デザイン版〉 J.M. バリ 作 / ミナリマ デザイン&イラスト / 小松原 宏子 訳 公式サイト:https://www.sayzansha.com/book/b654414.html
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【2025年12月】英日OJT修了生を紹介します
JVTAではスクールに併設された受発注部門が皆さんのデビューをサポートしています。さまざまなバックグラウンドを持つ多彩な人材が集結。映像翻訳のスキルを学んだことで、それぞれの経験を生かしたキャリアチェンジを実現してきました。今回はOJTを終え、英日の映像翻訳者としてデビューする修了生の皆さんをご紹介します。
◆K.O.さん(英日映像翻訳 実践コース修了) 職歴:食品メーカーに勤務
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 洋画鑑賞が趣味だったことと、学生時代から勉強してきた英語を活かす仕事をしてみたいという想いから映像翻訳に興味を持ちました。場所や時間を選ばず働くことができ、副業として始めやすいことも勉強を決意した要因です。
【今後どんな作品を手がけたい?】 海外旅行が好きで、旅番組や歴史番組等のドキュメンタリー作品に携わることが目標です。作品理解に少しでも繋がればと思い、現在世界遺産検定の勉強を進めております。また、映像翻訳を志すきっかけとなった長編の洋画作品にも挑戦したいです。
◆C.N.さん(英日映像翻訳 実践コース修了) 職歴:IT企業でコンビニエンスストアのシステム保守・開発、衛星通信事業会社のシステム運用・営業
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 幼少期から読書好きで、翻訳者にはずっと憧れがありました。映像翻訳に興味を持ったのは、大学で仏文学を専攻したことでフランスの映画・ドラマに触れる機会がぐっと増え、元の言語と日本語字幕の差異が気になったときです。興味本位で講座に申し込みましたが、映像翻訳の楽しさにどんどん引き込まれ、今に至ります。
【今後の目標】 目標の1つは、皮肉やブラックユーモアあふれるフレンチドラマの翻訳です。他にも旅や食にまつわるドキュメンタリー・リアリティショーにも挑戦したいです。そのために、技術面の向上はもちろんですが、仕事とプライベートの両面で幅広いものごとに触れるよう心がけ、そうした経験を糧とし続けられる翻訳者でありたいと思います。
◆H.N.さん(英日映像翻訳実践コース修了 ) 職歴:国内営業11年
【映像翻訳の魅力】 調べものやストーリーの構成、適切な言葉選びなど、さまざまな要素を踏まえながら訳を作り上げていくプロセスにとても魅了されました。また、難民映画祭の翻訳に参加し、普段触れることの少ない世界を伝えられることに意義を感じました。
【今後どんな作品を手がけたい?】 子どもの頃に感動した「ハリー・ポッター」のように、感動や笑いを届けられる映画やドラマ作品の翻訳に携わりたいと考えています。また、自然や動物を取り上げたドキュメンタリーにも挑戦したいです。そのためにも、さまざまなジャンルの作品に携わり、自分の視野を広げていきたいと思います。
◆ルマー・レイラさん(映像翻訳Web講座 プロフェッショナルコース修了) 職歴: ロンドンの不動産会社で英文賃貸契約書作成などに携わり、現在はフランスでフリーランス翻訳者として活動。
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 小さいころから洋画に親しみ、来日した映画スターのレッドカーペットやプレミア上映に通うほど映画が大好きでした。高校卒業時は翻訳者を目指すか迷いましたが、「日本に字幕翻訳者は10人しかいない」と聞き一度断念。イギリス留学・就職を経てフランスへ移住し、知人の紹介で映画の下訳を担当。三人目の育児休暇を機に、夢を再燃させ受講を決意しました。
※現在、映像翻訳Web講座は日本国内のみの受講です。
【今後どんな作品を手がけたい?】 アカデミー賞が大好きで、中学生のころから毎年ノミネート作品を観て予想してきました。人の心を動かし、賞レースに名を連ねるような作品を担当するのが夢です。またリアリティーショーやシットコムも大好きで、軽妙な会話のニュアンスを活かし観る人を笑顔にできる字幕を目指しています。
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています! ◆翻訳の発注はこちら ◆OJT修了生 紹介記事のアーカイブはこちら
◆【2026年4月期の受講申込を受付中 ! 】学校説明会を随時開催! 映像翻訳業界の最新情報解説や字幕翻訳の体験ができる無料イベントを開催中。個別の相談も承っております。映像翻訳にご興味をお持ちの方はお気軽にご参加ください。
【難民映画祭20周年】わたしと難民映画祭(字幕翻訳者編)
今年で20周年 を迎えた難民映画祭は2006年にスタート 。これまで270作品 の映画が上映され、10万人以上の人たちが参加 してきた(数字は2025年9月時点)。今年のポスターにデザインされている青いバラの花言葉は「奇跡」「夢が叶う」。20年にわたって映画祭を支えてきた人たちへの感謝と亡くなった人への哀悼の意がこめられている。
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始まった当時は今よりも上映作品が多く、20本以上のラインナップをそろえ、中には、日本語字幕がついていない作品もあったという。しかし、それでは作品のすべてを日本の観客に伝えきれないと、第3回(2008年)からJVTAによる日本語字幕制作のサポートが始まった。以来、JVTAの修了生の有志が、プロボノ(職業の専門性に基づく知識や経験などを生かして行う無償の社会貢献活動)で字幕制作を担っている。毎年、JVTAのメールマガジンで修了生に字幕翻訳参加を呼びかけ、同映画祭のためのトライアルを特別に実施。合格者は映画祭関係者を招いたキックオフミーティングに参加し、難民問題に関する想いを共有したうえで字幕翻訳に取り組む。複数で翻訳チームを組み、各自の担当パートを翻訳した後にチーム全体で話し合いながらリライトを重ね、一つの字幕を作りあげている。
◆難民映画祭の歴史はこちら
◆難民映画祭とJVTAの歴史はこちら
難民映画祭の上映作品は、多言語のドキュメンタリー作品が多く、それぞれの国や地域の紛争や政治などの背景に関する入念なリサーチが必須だ。こうした多言語の作品にも基本、英語字幕があり、翻訳者はそれをもとに日本語字幕を制作する。翻訳者からは、「凄惨なシーンが続くドキュメンタリー作品を泣きながら翻訳した」「映像に映っていた人たちのその後をとても心配している」「この映画祭に携わって自分も意識が変わった」などの声が数多く聞かれる。また、新人時代に取り組んだ人も多く、これまで手掛けた中でも特に印象深い作品として難民映画祭の上映作品を挙げる翻訳者も少なくない。この映画祭の意義に共感し数年にわたり翻訳チームに参加した人もいる。
今回は、20周年という節目にあたり、過去に難民映画祭の字幕制作に携わった翻訳者にアンケートを実施。難民映画祭に寄せる12名の翻訳者の想いを紹介する。
①参加した年 ②担当した作品とその背景 ③翻訳作業を振り返って感じること ④難民映画祭に携わって意識が変わったことや何か始めたこと ⑤難民映画祭の字幕に参加する翻訳者へのメッセージ
◆Ogihara Atsukoさん ①第3回(2008年 )②『レフュージニック』 ソビエトにおけるユダヤ人迫害 『ニューイヤー・ベイビー』 カンボジアでのクメール・ルージュ虐殺
③今つくづく思うことは、歴史は繰り返されているということです。世界から人々が苦しむ原因を取り除くには、一体どうしたらいいのか。宗教、人種、偏見、その他もろもろのことが原因で、現在もなお世界のあちらこちらで、心が痛む戦いが続いています。また、チームで翻訳した喜びはいまだに忘れられません。メンバーが5人いれば、翻訳を終了した時の満足感は5倍になります。実際、翻訳チームに我が家に泊まっていただいて、合宿をし、翻訳の表記や流れが一つになるよう、顔を突き合わせて話し合った時間は、得難い、とても充実した時間でした。
④毎年、難民映画祭の開催の度に、かつて微力ですが翻訳で協力させていただいたことが、私の人生でとても大きなことであったと痛感します。機会があれば難民問題を扱っている催しを、友人を誘って見に行ったりしています。
⑤現在、全世界の人口の1%が、難民という名の下に、故郷を追われ避難を強いられています。絶えることのない、世界の難民問題を目にするにつけ、本当に無力感を覚えます。一体私たちに何ができるのか。映像翻訳者として、この問題を一人でも多くの人に伝えることは、貴重な意味のあることです。わずかでも問題意識を持ち人々と語り合い、伝えていく。それがいつか、平和な世界へのほんのわずかな一歩になりますよう、希望を持ち続けましょう。
◆結城あかねさん ①第4回(2009年)、第5回(2010年)、第6回(2011年)、第7回(2012年)、第8回(2013年)、第9回(2014年) ②『14 キロメートル』(2009) 、『遥かなる火星への旅』(2010) 、『イリーガル』(2011) 、 映画祭プロモーションビデオ(2012) 、『新たな壁の裏側で ― 東ヨーロッパに逃れた女性たち ―』(2013) 、『シャングリラの難民 ~幸福の国を追われて~』(2014)
※6回参加のうち、『遥かなる火星への旅』(2010)の背景 ミャンマーからイギリスへ第三国定住するカレン族を追ったドキュメンタリー映画です。ちょうど日本でも2010年から第三国定住による難民の受け入れを開始したこともあり、日本にとってタイムリーな題材の映画でした。
③毎回難しく感じたのは、トーンや表現の仕方の統一です。複数名で作業することから、通しで見ると途中で明らかに翻訳者が変わったと感じられることもありました。また、解釈や訳語の選定で議論したことも多くあります。ある作品ではみんなでメンバーのお宅に泊まり徹夜で作業をしたこともありました。苦しかったですが、楽しい思い出でもあります。
④質問への直接的な回答ではないのですが、私はタイの北部に住む首長族の村に2回訪れたことがあります。彼らもミャンマーから逃れてきた難民で、その苦労や悲しみを直接聞いていたため、難民映画祭には特別な思い入れがありました。そしてその経験があったからこそ、この映画祭にはできるだけ参加しようと考え、6回参加させていただきました。
⑤エンターテインメントの映画と違い、難民映画祭は難民の方々の現状を伝え、広く知ってもらう強い目的があります。目を背けたくなる状況に苦しく思いながら作業することもありますが、映像翻訳を学んだ翻訳者にしかできない意義深い経験となります。作り手の想い、そして取り組む翻訳者の想いが、多くの方に届く大切な機会となるよう願っています。
◆松木香奈子さん ①第10回(2015年) ②『ヤング・シリアン・レンズ』 当時シリアの都市アレッポでは、政府軍と反体制派による激しい戦闘が繰り広げられていました。
③ニュース映像などとは違い、残酷な現実がそのまま映し出されていて、とにかくショッキングでした。
④微力ながら世界の現実を伝える手助けができることに意義を感じました。それ以来、マイノリティを題材にした作品などを積極的に担当しています。
⑤翻訳を通して社会貢献をできる素晴らしい機会になると思うので、ぜひ挑戦してみてください。
◆中嶋紋乃さん ①第13回(2018年) ②『アイ・アム・ロヒンギャ』 故郷ミャンマーから迫害され、カナダへと逃れたロヒンギャ難民の若者たちが、自分たちの体験を舞台劇として再現するドキュメンタリーです。ロヒンギャは世界一迫害された民族と呼ばれ、ニュースでも連日取り上げられていました。
③作品の重みを伝える責任を感じながら翻訳しました。自分たちの経験を再現する彼らの必死の思いや葛藤を、できるだけその温度を壊さないように字幕にする難しさがありました。その重厚なテーマも相まって、翻訳作業は非常に大変で、寝る間も惜しんでの作業になったことを今でも覚えています。
④難民映画祭に関わる前は、難民問題をテレビのニュースで目にしても、その背後で何が起きているのか具体的に思い描くことができませんでした。しかし、作品の翻訳に携わる中で、数字や文字としてではなく、“一人ひとりの物語”として受け止めるようになりました。
⑤修了直後の駆け出しの時期に、翻訳者として作品に携わるとはどういうことかを学んだ非常に貴重な経験でした。ぜひ、積極的に挑戦していただきたいです。
◆小畑愛沙子さん ①第13回(2018年)、第14回(2019年) ②『アイ・アム・ロヒンギャ』 主にミャンマー西部に暮らすロヒンギャ。彼らは差別と迫害を受け、多くが国外に逃れています。あるロヒンギャの若者たちは、命がけでバングラデシュに避難。その後カナダへ移住しました。演劇を通じて自分たちが受けてきた迫害や今直面する現実を伝えようとする姿が描かれています。
『難民キャンプで暮らしてみたら』 2人のアメリカ人が、シリア難民が暮らすヨルダンの難民キャンプで日常生活を体験するドキュメンタリーです。
③映像翻訳のコース修了後、すぐに携わった字幕作品で、ありとあらゆる力不足を実感しました。ただ、思い出すのもつらい経験を振り絞るように語る若者たちの言葉を、正確に、丁寧に伝えなければ、という使命感に駆られたのを覚えています。
④プロジェクト参加前は、何となく慈善活動を行うイメージでいたのですが、彼らの言葉を翻訳する中で、困難な状況でも力強く歩み続けるエネルギーをひしひしと感じ、助けてあげる、というより、社会が良くなるよう同じ方向を向いていきたい、と思うようになりました。
⑤字幕翻訳による支援は、実際に起きている切実な課題に対し、映像翻訳を学んだからこそ出来る、世界に希望を灯せる活動だと思います。
◆K.S.さん
①第14回(2019年)、第15回(2020年)、第16回(2021年) ②『イージー・レッスン 児童婚を逃れて』ソマリアの児童婚 『カオスの行方 ~ 安住の地を求めて』ヨーロッパへ命懸けで避難する難民 『戦火のランナー』スーダンの内戦
③難民映画祭では3作品に参加させていただきました。観客の中には、難民問題や各国のカルチャーになじみのない方もいらっしゃいます。誰にとっても分かりやすい言葉選びを意識しつつ、文化に関わるワードはできる限り尊重して出すなど、細かい気配りとバランスを意識しました。また、作品ごとに様々な難民の姿が多様な視点から描かれているため、背景情報を丁寧に把握し、製作者の意図や登場人物の気持ちに寄り添った字幕を付けることも心がけました。普段の映像翻訳の仕事に比べるとチーム規模が大きく、訳し終えた後に全員で全編の相互チェックを行う作業はかなりタフで特に苦労しましたが、いろいろなメンバーと意見を交わしながら完成度を高めていく作業は、とても勉強になり、刺激にもなりました。
④担当作品の背景となっていた国や情勢を中心に、ニュースなどを意識的に見るようになりました。映画祭に携わった経験を踏まえて、周りの人と話をすることもあります。難民問題だけでなく、様々な社会的問題を扱った映像作品にもアンテナを張るようになりました。また、UNHCR関連の字幕翻訳案件(教育動画など)を担当させていただき、微力ながら翻訳者として継続的にご縁をいただいていることも、ありがたく感じています。
⑤コースで学んだことを実践的に生かして、憧れの長編映画に字幕を付けるという経験は、それ自体とても貴重です。その上、翻訳を通じて難民問題に関わる意義は大きく、非常にやりがいのある映画祭だと思います。できる限り時間をかけて丁寧に作品と向き合い、受け身にならずメンバーと積極的にコミュニケーションを行えば、きっと何倍も価値のある思い出深い経験になるはずです。
◆谷山祐子さん ①第16回(2021年) ②『カオスの行方 ~ 安住の地を求めて』 シリア。内戦で家を失い、欧州に不法入国の難民が押し寄せた時代。
③映像翻訳Web講座を修了したもののオープントライアルになかなか合格できず、くすぶっていた頃に参加したプロジェクトでした。その後もイバラの道は続くのですが、初めてのチーム翻訳であり、相互チェックなど大変勉強になりました。8人ほどの大所帯のチームを立派にまとめられたリーダー翻訳者さんがとても輝いてみえたことを覚えています。
④難民をテーマとしたニュースや話題に以前よりも関心を寄せるようになりました。また、同じ作品に携わった翻訳者さん数名と、「ともにトライアル合格を目指そう!」とお友だちになりました。トライアルのたびにそれぞれの字幕を見せ合って勉強したり、知識や情報をシェアしたり、同じ志を持つ仲間ができるきっかけになりました。
⑤制作した人々の思いが見る人すべてに届くよう、チームでより良いものが作れるよう、ぜひ頑張ってください。
◆石川萌さん ①第17回(2022年) ②『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』 アフリカのサヘル地域において、気候変動による砂漠化を食い止めるための植林プロジェクトに関する作品
③音楽ドキュメンタリーなので、訳しながら歌っている時もあれば、強い信念でコミュニティを成功に導いたリーダーの言葉に勇気をもらうこともありました。サヘル地域の砂漠化について学ぶことのできる作品ですが、そもそもどんな文化がある地域なのかという点も音楽を通じて知ることができました。
④映画祭を通じて、難民の状況がそれぞれ違うように、必要な支援も様々であり、私たちができる支援も一人ひとり違っていいのだということを学びました。
⑤私が映画祭に参加したのは、2015年に欧州難民危機の渦中にあったハンガリーに住んでいながら、何もしなかった後悔からです。当時は、何か大きなことでないと支援にならないと思っていました。映画祭の翻訳を通じ、小さくても行動を起こすことが大切なのだと学びました。皆さんも、ぜひ何かできることから始めてみてください。
◆中野みな子さん ①第17回(2022年) ②『グレート・グリーン・ウォール~アフリカの未来をつなぐ緑の長城』 気候変動の影響に苦しむアフリカのサヘル地域
③作品の舞台となったサヘル地域や気候変動に関する信頼できる情報を入手するのに、苦労しました。自分ひとりでは限界があったと思いますが、チームの集合知で乗り切ることができたと感じています。
④作品を通じて気候変動が難民を生み出すということを知り、プラスチックをなるべく使用しないなど、自分にできることを続けています。
⑤自身の日常からは遠いと思っていた「難民」の存在ですが、自分にも難民を生み出す原因の一端があり、また状況を改善するためにできることがあると気づかされました。字幕を通じて世界とつながることができ、世界をほんの少しでも良くするお手伝いができたと感じています。また、難民映画祭に参加することでチーム翻訳の経験もできたことにも、感謝しています。
◆児山亜美さん ①第19回(2024年) ②『ザ・ウォーク~少女アマル、8000キロの旅~』 内戦や紛争によって故郷を追われたシリア難民の子どもたち
③作中に何度も出てくる“ home” という単語の訳し方について、チームの皆さんと話し合ったことが印象に残っています。たった1つの単語とはいえ、難民問題の背景を伝えるためにはどの訳語が適切なのか、意見を出し合う過程で作品への理解が深まったように思います。
④地元の外国人コミュニティを紹介するイベントに参加し、外国人の日本語支援についてのセミナーを受講するなど、身近にいる外国人のことをもっと知りたいと思うようになりました。映画祭の広報サポーターの皆さんが紹介してくださっている飲食店 も訪れてみたいです!
⑤難民映画祭に参加して一番心に残っているのは、上映会の会場で監督にお会いし、作品に込めた思いを直接聞けたことです。どんな状況にも希望はあるとお話されていたのですが、それは他の上映作品にも共通しています。現状を知るだけではなく、希望の灯を絶やさないために懸命に努力する人々の姿を見て、多くのことを感じられると思います。
◆萱場美晴さん ①第19回(2024年) ②『ザ・ウォーク~少女アマル、8000キロの旅~』 シリア国境から難民としてヨーロッパを横断するストーリー
③複数人で協力して訳したので、同じ単語でも場面に応じて訳し方をどう変えるかなど、皆さんと議論できたことが有意義でした。
④映画祭の映像ならではの良さを感じたことから、様々な映画祭で字幕ボランティアに参加しています。
⑤字幕作成の経験としてだけでなく、世界の現状を知る機会としても有意義だと思います。たくさん議論を重ね、学びを深めてください。
◆C.H.さん ①第20回(2025年) ②『見えない空の下で』 ロシアとの戦争による戦禍を逃れるため、ウクライナの地下鉄構内で暮らす人々
③字幕作成からしばらく離れていたため、新しい翻訳ソフトに慣れるのに苦労しました。また、戦争で使われた兵器に関する訳語に悩みました。例えば、「花びら地雷」という空から散布される地雷が出てくるのですが、地雷と聞くと地中に埋められているものというイメージもあるため、視聴者に伝わるかどうか迷いました。そんなとき、チームの皆さんに助けていただき、チーム翻訳の良さを実感しました。
④特に新たに始めたことはありませんが、近隣で行われている様々な難民支援の活動に目を向けるようになったように思います。(アメリカ在住)
⑤子どもたちの夏休みと字幕の作成期間が重なり、仕事や育児をしながら翻訳をするのは時間的に大変でしたが、家族で難民問題について話す機会を得られ、とても有意義でした。子育て中の皆さんも、ぜひ参加されてみて下さい。
「難民映画祭を字幕制作で支援する」 これは映像翻訳者ならでは社会貢献のカタチだ。難民となった人たちの想いを伝えようと真摯に翻訳に取り組むなかで翻訳者自身にも気持ちの変化が訪れたという。難民映画祭の上映作品を鑑賞する際は、そんな翻訳者たちの想いがこもった字幕にもぜひ注目してほしい。JVTAはこれからも難民映画祭のサポートを続けていく。
◆難民映画祭 オンライン開催 2025年11月6日(木)~12月7日(日) 劇場開催 2025年11月 6 日(木) TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(東京) 【上映作品】「ハルツーム」※終了 2025年11月13日(木) TOHOシネマズ なんば(大阪) 【上映作品】「ハルツーム」※終了 2025年12月 2 日(火) イタリア文化会館(東京) 【上映作品】「あの海を越えて」 2025年12月 3 日(水) イタリア文化会館(東京) 【上映作品】「ぼくの名前はラワン」
公式サイト:https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/rff
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◆第20回難民映画祭が11月6日に開幕 青いバラにこめた思いを字幕で伝える
※同映画祭担当の山崎玲子さん(国連UNHCR協会・渉外担当シニアオフィサー)から翻訳者の皆さんにメッセージを頂きました。
◆2025年度 明星大学特別上映会/難民映画祭パートナーズ 特別サイト 『希望と不安のはざまで 』
12月6日(土)、JVTAが字幕翻訳を指導している明星大学で難民映画祭パートナーズの上映会が開催されます。
◆第20回難民映画祭・広報サポーターによる公式note 「みて考えよう!難民映画祭」
広報サポーターの活動や、作品レビュー、「わたしと難民映画祭」、各国の飲食店紹介などの情報が更新されています。字幕を担当した翻訳者の皆さんもぜひご覧ください。
◆【第20回難民映画祭】字幕翻訳と広報サポーターで修了生が活躍中! 今年のJVTAが携わる活動を一挙紹介しています。
◆【2026年4月期の受講申込を受付中 ! 】学校説明会を随時開催! 映像翻訳業界の最新情報解説や字幕翻訳の体験ができる無料イベントを開催中。個別の相談も承っております。映像翻訳にご興味をお持ちの方はお気軽にご参加ください。
【2025年11月】英日OJT修了生を紹介します
JVTAではスクールに併設された受発注部門が皆さんのデビューをサポートしています。さまざまなバックグラウンドを持つ多彩な人材が集結。映像翻訳のスキルを学んだことで、それぞれの経験を生かしたキャリアチェンジを実現してきました。今回はOJTを終え、英日の映像翻訳者としてデビューする修了生の皆さんをご紹介します。
◆園田沙英さん(英日映像翻訳実践コース修了) 職歴:銀行(融資)、IT関連(テクニカルサポート、情報システム、社内IT研修の講師)
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 学生時代に映画館でアルバイトをするほど映画が好き。大学で英語を専攻するほど英語も好き。いつかは自分の好きなものに携わる仕事をしてみたいと思っていました。そんな中、見つけたのはYouTubeでJVTAの字幕作成動画。まさに自分の好きなものが詰まった仕事だと思い、すぐに映像翻訳を学ぶことを決意しました。
【今後どんな作品を手がけたい?】 まずは英語を好きになったきっかけである『ハリー・ポッターシリーズ』関連の映像に携わることが一つの目標です。他にもアメコミ作品やスパイアクションもの、ミステリーなど、ワクワクドキドキする作品も好きなので手がけてみたいです。観た人が作品に関わる何かを好きになれる、「好き」が生まれるきっかけになるような映像作品を日本中に届けたいと思います。
◆初谷亜希子さん(英日映像翻訳実践コース修了) 職歴:ゼネコン(経理、現場事務、人事)
【JVTAを選んだ理由、JVTAの思い出】 映像翻訳に特化しており、定められた期間で計画的に学習できる点と、受発注部門が併設されている点を魅力的に感じJVTAを選びました。仕事と課題の両立は大変でしたが、同じ目標を掲げる素敵な仲間に出会い、1年半共に学べたのは大切な思い出です。
【今後どんな作品を手がけたい?】 イギリス留学経験があるため、イギリスの作品や、動物・芸術(アート、クラシック音楽、バレエ、建築など)・料理・陸上競技などに関する作品に携われると嬉しいです。また、様々な経験を積んでいつかは劇場公開作品を手がけたいです。
◆春木美果さん(英日映像翻訳実践コース修了 ロジカルリーディング力強化コース修了) 職歴:アメリカと日本でNPOスタッフ→NPO運営支援(フリーランス)、その他大学勤務など
【映像翻訳を学ぶきっかけは?】 昔から仕事で資料などの翻訳をすることがあり、「いつか翻訳者になりたい」と漠然と思っていました。コロナ禍で自分の行く末を考えるなかで翻訳者になる夢を思い出し、スクール情報を探していて映像翻訳を知りました。「自分には、独学でこのルールを会得するのは無理」と判断したのが、映像翻訳を学ぶきっかけです。
【今後の目標】 人権や平和の活動に関わってきたので、社会派作品の翻訳を手がけたいです。インド映画やタイポップスなどのエンタメや旅行など趣味の分野の作品にも携わりたいですが、どの作品でも翻訳があったことを忘れて作品を楽しんでもらえる映像翻訳者になることが目標です。パンフレットなど、文字コンテンツの翻訳にも関わりたいです。
◆山口真由さん(英日映像翻訳実践コース修了) 職歴:特許事務所⇒翻訳コーディネーター・チェッカー⇒フリーランス実務翻訳 / 翻訳会社勤務
【映像翻訳を学ぶきっかけ】 「英語を使って映画や音楽の仕事がしたい」。それが私の高校時代の夢でした。大人になり、特許や実務の翻訳に携わってきましたが、心のどこかでずっと「映画に関わりたい」という思いがありました。そんな中、映画館で観た『カモンカモン』の字幕に衝撃を受け、松浦美奈さんのような翻訳者になりたいと強く思ったことが、映像翻訳を学ぶきっかけとなりました。
【今後どんな作品を手がけたい?】 ヒューマンドラマ、ロマンス、アクション、SF、スプラッター、リアリティ番組、ドキュメンタリー、南米映画が好きで、今後ぜひ手がけていきたいです。また、30カ国以上を旅した経験を生かし、旅や料理のコンテンツも担当してみたいです。好奇心旺盛で調べものも好きなため、多様なジャンルの案件に積極的に挑戦していきたいと思っています。
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています! ◆翻訳の発注はこちら ◆OJT修了生 紹介記事のアーカイブはこちら
◆【2026年4月期の受講申込を受付中 ! 】学校説明会を随時開催! 映像翻訳業界の最新情報解説や字幕翻訳の体験ができる無料イベントを開催中。個別の相談も承っております。映像翻訳にご興味をお持ちの方はお気軽にご参加ください。
【第20回難民映画祭】字幕翻訳と広報サポーターで修了生が活躍中!
第20回難民映画祭が11月6日に開幕。JVTAは今年も上映作品の字幕制作で協力しています。さらに今年は映画祭が公募した広報サポーターに、JVTAの修了生7名(青井夕子さん、中島唱子さん、中原美香さん、梶原阿子さん、長谷川睦さん、丸山綾さん、松井敏さん)とJVTAの広報スタッフが参加し、チラシやポスターの設置の交渉や送付といったPR活動や記事コンテンツの制作などを手掛けています。JVTAが関連したものをこちらで紹介していきます。また、映画祭広報サポートによる公式noteにはサポーターの皆さんによる作品のレビューも掲載されています。映画祭を初めて知ったからはもちろん、字幕を担当された翻訳者の皆さんも要チェックです!
VIDEO
◆第20回難民映画祭が11月6日に開幕 青いバラにこめた思いを字幕で伝える
同映画祭担当の山崎玲子さん(国連UNHCR協会・渉外担当シニアオフィサー)から翻訳者の皆さんにメッセージを頂きました。
※TBSラジオ『アフター6ジャンクション 2』に同映画祭担当の山崎玲子さんが出演 JVTAの字幕協力についてお話ししてくださいました。番組公式Youtubeにリンクします。
◆【難民映画祭20周年】わたしと難民映画祭(字幕翻訳者編)
2008年からの歴代翻訳者の皆さん12名の声を紹介しています。
◆2025年度 明星大学特別上映会/難民映画祭パートナーズ 特別サイト 『希望と不安のはざまで 』
『希望と不安のはざまで』
12月6日(土)、JVTAが字幕翻訳を指導している明星大学で難民映画祭パートナーズの上映会が開催されます。ゲストとして山崎やよい氏(NPO法人Stand with Syria Japan監事)が登壇予定。このイベントでは学生が翻訳字幕の制作からイベントの運営まで行っています。今年の上映作品『希望と不安のはざまで』はアサド大統領による独裁政権が崩壊し、歴史的な岐路にあるシリアの様子を追ったドキュメンタリー。イベントの公式サイト には学生たちによる作品解説なども掲載されています。ぜひ、ご覧ください。
JVTAは、青山学院大学と明星大学の大学生に字幕制作の指導や監修を行っています。この度、その様子を国連UNHCR協会に取材していただき、記事として紹介されました。
・第20回難民映画祭 字幕でつなぐ難民支援の輪 ー 大学生による字幕制作の裏側をお届け!青山学院大学編 ー
・第20回難民映画祭 字幕でつなぐ難民支援の輪 ー 大学生による字幕制作の裏側をお届け!明星大学編ー
◆第20回難民映画祭・広報サポーターによる公式note 「 みて考えよう!難民映画祭」
note には広報サポーターの活動や、作品レビュー、「わたしと難民映画祭」、各国の飲食店紹介などの情報が更新されています。
▶JVTA修了生の広報サポートによる第20回難民映画祭の作品レビュー をチェック!
JVTAの修了生を含む広報サポーターの皆さんのレビューも掲載されています。作品がどのように視聴者に届いたのか?どの作品を観ようか迷っている方におすすめです。
『バーバリアン協奏曲』
▶ジュリー・デルピー監督のメッセージ動画はこちら ※青井夕子さんが字幕を翻訳しています。
『アナザー・プレイス』
◆【2026年4月期の受講申込を受付中 ! 】学校説明会を随時開催! 映像翻訳業界の最新情報解説や字幕翻訳の体験ができる無料イベントを開催中。個別の相談も承っております。映像翻訳にご興味をお持ちの方はお気軽にご参加ください。
【映文連 国際短編映像祭】昨今増えている企業のPR映像を訳すポイントとは
11月27日(木)、映文連 国際短編映像祭/International Corporate Film Showing 2025が東京池袋の新文芸坐で開催される。このイベントで上映されるのは、企業や団体のPR映像をテーマにした短編18作品。The WorldMediaFestivals(ドイツ)、 US International Awards(アメリカ)、Cannes Corporate Media & TV Awards(フランス)、AutoVision Awards(ドイツ)といった世界を代表する企業映像祭において今年度受賞した作品を中心にラインナップされている。JVTAは全18本の日本語字幕と公式サイトの作品紹介の解説文の作成とその英訳を担当し、9人の翻訳者が手がけた。(一部字幕のない作品もあり)。
翻訳者の小山史子さんは、今回5本の短編作品(『This is the rhythm of Swift』『The Broken Heart』『Am Wörthersee』『Visit the Original Sweden』『Close-ups of clean-ups』)の日本語字幕と作品解説の作成を手がけた。小山さんはこれまで、スポーツドキュメンタリー、アクション・サスペンスドラマ、企業PR映像などを担当している。アメリカ在住歴が長いため、エンタメ関係の案件を手掛けることも多く、現地の文化や空気感を肌で感じながら楽しく取り組んでいると話す。一方、政府関連の広報業務の経験もある。企業のカンファレンスのスピーチの翻訳などを手がける際は、企業独特のグロッサリー(専門用語)やスタイルガイドがあるため、丁寧に確認しながら作業を進めることに気を遣うという。
「その企業や団体の魅力を簡潔に分かりやすく伝えることを常に意識しています。特に企業ものの場合、その企業のことを知らない方が見ても理解できるよう、専門用語を避けて平易な言葉を選ぶようにしています。」(小山史子さん)
この映像祭の特徴はどれも10分にも満たない短い映像であること。例えば、スパイスをテーマにしたスイスの作品『Close-ups of clean-ups』はわずか53秒だ。字幕の数がわずかなうえに、1つの字幕の文字数も少なかったため、小山さんは言葉の選択に最後まで迷ったという。
「特に、味覚や触感を表現する形容詞が連続する作品だったため、似たような言葉が並ばないように辞書で類義語を調べたり、語尾の活用を工夫したり、最後まで頭を悩ませました。」(小山さん)
今回小山さんは映像の字幕だけでなく、クライアントからのシノプシスを元にして公式サイトに掲載される作品解説の作成も担当した。100字という限られたボリュームの中で、単なる説明に終わらせないことを心掛けた。
「まだ映像を見ていない方がこの解説文を読んで、『ぜひ見てみたい』と興味を持っていただけるような文章を目指しました。作品解説は映像への入り口となる文章ですので、作品の魅力や見どころを端的に、かつ印象的に伝えることに工夫を凝らしました。」(小山さん)
公式サイトには、作品解説が日本語と英語で併記されている。この英訳のほとんどを手がけたのが、日英翻訳者の下平里美さんだ。下平さんは、配信用コンテンツの吹き替え・字幕翻訳を中心に活躍。実写ドラマやアニメ、リアリティショー、邦画やドラマ・アニメのトレーラー、企業内研修の字幕、映画祭出品用の短編作品やトーク映像など幅広いジャンルの作品を手がけている。企業VPに特化したこのイベントではどんな工夫をしたのだろうか。
「まず制作側が提供する資料を最重視しました。そこに作品の意図や要素が凝縮されているからです。資料からターゲット層とメッセージを明確にし、核となるキーワードを精査しました。必要に応じてSNS投稿や記事、関連映像も確認し、背景を丹念に調べました。英語表記は一般的なものよりも資料の中で採用されている表記を優先し、制作側の思いが反映されるよう心がけました。」(下平里美さん)
今回、下平さんが担当した英語の作品解釈は17作品にも及ぶ。決められた字数制限の中で、多くの作品の概要をそれぞれの特徴を盛り込みながら書き分ける作業となった。下平さんが最も苦労したのは、要素を盛り込みすぎると、ネタバレに近づいてしまうということだったという。
「字数制限があるため文の密度が高く、メッセージが強くなりがちです。偏った解釈に陥っていないか時間を置いて何度も読み直しました。日本語版の解説も適宜参照し、乖離が生じないよう注意しました。読んで映像を『見たい』と思っていただける文章を最後まで意識しました。」(下平里美さん)
字幕や吹き替えというと映画やドラマのイメージが強いが、昨今はJVTAでも企業関連の案件を担当する機会が増えている。そのため、下平さんも受講したJVTAの日英映像翻訳コースでも、企業VPの英訳の授業が盛り込まれた実践的な内容となっている。
「企業映像の解説はドラマやアニメと異なり、脚本を単に要約するだけでは十分ではありません。企業の立場を理解し、意訳を通してメッセージを正確に伝える力が求められます。キーとなるメッセージが明確であることも大きな特徴です。それを正確に捉えるため、背景を丁寧に調べ、まっすぐに且つ魅力的に伝える姿勢は、授業で培われた基礎であり、今もジャンルを問わず実務の土台になっています。」(下平里美さん)
企業のPR動画は短い尺の中に企業の想いが凝縮されている。同じ字幕といっても映画やドラマとは違うトーンや言葉の選び方も求められ、その企業や業界に関するリサーチなども欠かせない。動画配信が主流の今、こうした翻訳のニーズはますます高まっている。このイベントは、世界の映像祭の受賞作品の数々が見られる貴重な機会、ぜひ会場に足を運んでほしい。
◆映文連 国際短編映像祭/International Corporate Film Showing 2025 2025年11月27日(木)19:00~21:00 新文芸坐 公式サイト:https://www.eibunren.or.jp/icfs/icfs2025.html
◆【2026年4月期の受講申込を受付中 ! 】学校説明会を随時開催! 映像翻訳業界の最新情報解説や字幕翻訳の体験ができる無料イベントを開催中。個別の相談も承っております。映像翻訳にご興味をお持ちの方はお気軽にご参加ください。
【第3回ヘルヴェティカ・スイス映画祭が神戸で開催】主催の松原美津紀さんと翻訳者に聞く今年の見どころ
「第3回ヘルヴェティカ・スイス映画祭」が11月22日(土)に神戸の元町映画館で開幕する。JVTAは第2回となる昨年から日本語字幕制作を担当しており、今年は全6作品のうち、日本初公開となる4作品の字幕を7人の翻訳者が手がけた。
この映画祭を主催するのは、スイスで新旧の日本映画を上映する唯一の日本映画祭「GINMAKU日本映画祭」を2014年から開催する松原美津紀さん。スイスと日本に関する映画を上映する映画祭を両国で、しかもたった一人で運営するという稀有な存在だ。今年の上映作品は、スイスという国を、映画を通して多面的に見てもらうという視点から選定したという。全ての上映の前後にトークの時間を設け、作品の背景や、スイス社会の現在の姿を伝えたいという松原さん。今年の見どころを聞いた。
松原美津紀さん
◆注目は決してハッピーエンドではない名作
松原さんがまず注目の1本に挙げるのは、『バガー・ドラマ』。舞台芸術を手がけ、今年の「サン・セバスティアン国際映画祭」では新人監督賞も受賞したピート・バウムガルトナー監督の初長編映画だ。「GIINMAKU 日本映画祭」では、決してハッピーエンドではない作品を上映することが多いそうだが、同作もその一つだという。
「美しい映像の中に潜む小さな不協和音。完璧な家庭のように見えるけれど、どこかずっと心がざわつく。その違和感の描き方が本当に見事で、“家族が壊れていくことが、結果的に良かった”と思えるような作品です。」(松原さん)
◆観終わった後、しばらく席を立てなかった感動作
また、松原さんは心に深く残る作品として『マイ・スイート・ホーム』を挙げる。取り壊しのために団地から退去を迫られる二人の高齢女性の姿を追ったというドキュメンタリーだ。
「高齢化が進むスイスで、どう生きるのか、家族の気持ちと自分の心の声の間で揺れる姿が、静かに胸に迫ります。観終わった後、しばらく席を立てなかったほど深く感動を覚えた大切な作品です。」(松原さん)
◆何気ないひと言ほど、大切に翻訳する
『マイ・スイート・ホーム』の字幕は板垣麻衣子さんと中野真梨子さんが手がけた。スイスにはドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の四つの公用語があり、多様な文化が根付いている。この作品のオリジナル言語はドイツ語だが、字幕は英語字幕から翻訳した。板垣さんはドイツ語の翻訳者でもあるが、スイス・ドイツ語はアクセントが強く、登場人物たちが高齢なこともあって聞き取りに苦労したそうだ。しかし、控えめで実直でチャーミングな2人の人生を、翻訳を通じて垣間見ることができたのは得がたい体験だったと話す。
「プロデビューして初めて手がけた映画作品が、この静謐なドキュメンタリーでした。カメラが追いかけるのは、スイス・チューリッヒ郊外に暮らす2人のお年寄り。保険会社の利益追求のために、思い出の詰まった住まいが取り壊されることになったハンニとロサは、大切にしてきた家財道具や本、旅先で縫った思い出のスカートなど、彼女たちの人生そのものといっていい品々を手放さなければならなくなります。そこにあからさまな暴力や不正はありませんが、人生最後の日々を住み慣れた家で暮らすこともやはり人間の尊厳に関わっているのだということを、視聴者はほろ苦いラストシーンで直感します。」(板垣麻衣子さん)
また、翻訳者の中野真梨子さんは、映像の中のセリフ以外に状況を説明する要素がなく、登場人物が置かれた状況を理解するために、集合住宅の仕組みがスイスで生まれた背景を含め、歴史や文化に関する情報を確認した。移民の増加や地価の高騰、洗濯機の共同利用が一般的であることを確認したり、番地や映像に映る建物を地図上で確認したり、できる限り把握することに努めたという。また、セリフだけを追っていると薄い内容の字幕になってしまうため、何気ないひと言ほど、どう表現するか悩んだと話す。
「この作品の見どころはハンニとロサが時折見せる穏やかな眼差しです。変えられない状況があっても、家族や思いを受け止める理解者がいれば前を向くためのささやかでも確かな力になることを教えてくれます。彼女たちが何を感じ、何を思い出しながら言葉を発しているのか目の表情や声のトーンを意識して翻訳するようにしましたが、行き詰まったときは監督のインタビューを読んだり映画のレビューを読んだりして、他の人の視点を知るようにしました。同じように、相互チェックをしてくださった板垣さんとチェッカーの方々のフィードバックが丁寧かつ的確でとても助けられました。」(中野真梨子さん)
◆スイスと日本を結ぶ“不思議なご縁”
元町映画館15周年記念上映と銘打った『要塞』にも注目したい。2008年に35mmフィルムで撮影された同作は、同映画館のプレオープンの時に最初に上映されたという特別な作品だ。松原さんは、準備の段階である“不思議なご縁”を感じることになる。実は「元町映画館」と、スイスで「GINMAKU 日本映画祭」を開催している映画館「Houdini」の開館日が、全く同じ日、8 月 21 日だったのだという。
「スイスと日本、それぞれの映画館が同じ誕生日だなんて、本当に不思議なご縁で、ちょっと涙が出ました。この『要塞』という作品は“過去”の難民受け入れ施設を見つめるドキュメンタリーなのですが、同じく今回上映する『ロツロッホ』という“現代”の難民を映すドキュメンタリーと両方ご覧いただくことで、“時代とともに何が変わり、何が変わっていないのか”を感じていただけたらと思っています。」(松原さん)
◆JVTAへのメッセージ
昨年は関西在住の翻訳者が元町の映画館に駆けつけ、松原さんと直接お会いすることができた。今年も翻訳者とともに大きなスクリーンで作品を鑑賞できることを楽しみしていると松原さん。JVTAにメッセージを頂いた。
「今年も、一つひとつの作品に心を込めて丁寧に向き合ってくださり、心より感謝申し上げます。作品の背景や専門的な理解を要するシーンに至るまで、さまざまな場面を見事に汲み取り翻訳していただき、昨年に続き字幕作成をお願いして本当によかったと感じております。翻訳者の方々へお繋ぎいただき、スムーズなコミュニケーションが叶いましたのは、いつも迅速にご対応くださる麻野さん(翻訳ディレクター)のお力添えあってのことです。ありがとうございました。」(松原さん)
◆手作り感あふれるおもてなしは初の試み
今年は初の試みとしてイスラーム映画祭主宰の藤本高之さんをゲストに迎え「ひとりで映画祭を運営するということ」をテーマにしたトークイベント(https://www.motoei.com/post_event/hsff03_talk/ )も開催される。さらに、映画祭開催中は、部数限定で「松原セット」が販売されるという。これは不定期で発行している手書き新聞「松原ニュース」のアーカイブと、全上映作品が神戸での上映が叶うまでの舞台裏や作品の魅力を語る「松原コラム」をセットにしたもの。こうした松原さんの手作り感あふれるおもてなしもこの映画祭の大きな魅力だ。映画祭会場で松原さんは着物姿で観客を迎えるという。ぜひ、会場に足を運んでスイスの映画の世界を堪能してほしい。
◆第3回 ヘルヴェティカ・スイス映画祭 2025年11月22日(土)~11月28日(金) 神戸・元町映画館
公式サイト:https://www.h-sff.com
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【難民映画祭『アナザー・プレイス』翻訳秘話】 “字幕翻訳者はまるで探偵” その真意とは?
現在開催中の難民映画祭は今年で20回を迎える。JVTAは2008年の第3回から字幕制作という翻訳者ならではのカタチでこの映画祭の支援を続けてきた。
今年の上映作品『アナザー・プレイス』は、戦争や迫害を逃れて、コンゴ、シリア、アフガニスタンからヨーロッパにたどり着いた3人の難民の人生を追ったドキュメンタリー作品。日本語字幕はJVTAで学んだ8名の翻訳者がチームを組んで完成させた。
【字幕翻訳チーム】 ウェスト知佐さん 長谷川睦さん 松井敏さん 丸山綾さん 宮城久美さん 盛岡雅恵さん 森田朝美さん 渡邊有花さん
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翻訳チームの中の丸山綾さんと長谷川睦さん、松井敏さんは今年、広報サポーターとして同映画祭のPRにも取り組んでいる。3人に翻訳秘話を聞いた。まず、この作品のタイトルの解釈や見どころを、松井敏さんと長谷川睦さんが、簡潔に解説してくれた。
「本来の自分の居場所である“マイ・プレイス”に対する“アナザー・プレイス”。それぞれの事情から、それぞれの母国を離れる厳しい運命を負った若い3人(撮影時は全員20代)が、それぞれ別の地で自分の居場所を求める葛藤と努力を、自身も6歳の時に難民としてアメリカに渡った監督が、自分の複雑な過去を織り交ぜながら、現実のものとして映し出します。」(松井敏さん)
「日本に住んでいる私たちは『難民』について受け入れる側の視点でニュースを通じて知りますが、この作品では国外に避難した時のこと、避難先での生活や苦労が一人ひとりの経験に基づいてリアルに語られており、『難民』を社会問題の1つとしてではなく、『一人の人間』としてどんな経験をし、何を感じているのかということを知ることができます。」(長谷川睦さん)
字幕づくりは、まず8人の翻訳者がそれぞれの担当箇所の字幕を作り、それらを統合し全員で話し合いながら一つの字幕に仕上げていく。松井敏さんは、「チーム翻訳の苦労(面白さ)は、基本語彙から話し方に至るまで、各人物のセリフの統一」と話す。特に重要となる単語(“祖国”、“ふるさと”、“居場所”、など)や表記方法に一定の統一ルールがあり、場面によっては例外で対応するなど、それぞれの訳者の感性、個性の匙加減で微妙に変わる結果を、全員でチェックしながら言葉を統一していった。
「お互いの考えをぶつけ合って最善値を出す作業でした。チーム翻訳(共同作業)の難しさと面白さは最高の経験になりました。これが面白いと思えることが字幕翻訳者の適性かもしれません」(松井敏さん)
難民映画祭の作品はさまざまな国が背景となっており、多言語の作品が多いが、翻訳者は英語字幕から日本語字幕を作成する。この作品では横下の位置に英語字幕が表示されるため、日本語字幕は縦位置に併記されている。縦字幕はスペースの関係から横位置より文字数が少なくなり、翻訳の難易度は高くなる。長谷川睦さんは厳しい字数制限の中でチームのメンバーと試行錯誤しながら全員で一丸となり、より良い表現を探したという。
「話者の伝えたいことを限られた文字数の中でいかに表現するかという点に苦労しました。避難した時のエピソードや心情について語られているシーンでは、正しく訳すだけでなく臨場感が欠けてしまわないような言葉選びを強く意識しました。」(長谷川睦さん)
『アナザー・プレイス』写真の女性がアフガニスタン人ザハラ
丸山綾さんは、翻訳時に特に印象に残ったセリフを具体的にあげてくれた。アフガニスタン人の女性ザハラのセリフ “It’s the only gift God ever gave me ” の “the only gift” の訳については、二転三転どころか八転したという。直訳では「神様がくれた唯一の贈り物です」だが、その後のセリフが「心はボロボロに疲れ果てています」と続く。前後がうまく繋がらず、このgiftの意味は何か?という疑問が生まれた。
「神からの『試練』を指しているのか、ザハラ自身の『成長』や『経験』のことなのか、あるいは若さゆえの『美』を意味しているのか――チーム内でも意見が分かれ、相互に訳をチェックし合うスプレッドシートの記入欄が上限に達するほど、熱のこもった議論が続きました。」(丸山綾さん)
最終的には、サブリーダーの長谷川さんの案が監督からのメディア向け資料との整合性も取れていたため、全員が納得して、「若さ」と訳したという。一見シンプルな英文でも実は翻訳者がこれだけの労力をかけてセリフを訳しているという好例と言えるだろう。
丸山さんの解説は続く。ドイツに逃れたザハラ一家だが、ザハラだけ家族とは別の場所で暮らしていた。その後、同じ場所に移動できる機会が訪れた時のセリフ“I can move to their building”もまた意見が分かれた。直訳だと「彼らの(住む)ビルに引っ越せる」だが、丸山さんはあるメンバーから「原文どおり、家族と同じ建物に引っ越しただけで、同居ではないのでは?」という指摘を受ける。
「実は私も当初は同じ疑問を抱いたので、映像を穴があくほど見返し、『今回は確かに同居だ』と言える根拠を見つけていました。ヒントはベッドとクローゼットです。そのシーンのキャプチャとともに、同居だと考える理由をメンバーに共有し、『私たち、探偵みたいですね』とメッセージを添えたところ、『探偵の先輩と呼ばせてください!』とノリのいい返信をいただき、思わず頬が緩みました。」(丸山綾さん)
これだけ本気で「セリフ」を共に磨いたチームだが、実はすべてオンライン上での交流であり、実際に顔を合わせたことはないそうだ。しかし、「作品をより良くしたい」という思いがリーダーを中心に共有され、誰もが遠慮なく意見を言い合える雰囲気で、今では心から信頼できる仲間だと丸山さんは感じている。
難民となった人たちの想いを伝えようと翻訳に取り組むなかで翻訳者自身にも気持ちの変化が訪れた。長谷川さんは、これまで「他国での出来事」と思ってどこか他人事のように感じていたが、自国の情勢などで困難に苦しむ人たちを少しでも減らしたいと、自分の意識が変わったことを実感している。
「今までは難民問題を受け入れる側の立場でしか考えていませんでした。この作品に携わり、密入国業者を頼って国から避難する子どもや、命の危険があると知りながらも子を見送らざるをえない親など、一人ひとりがどんな思いで生きているのかということを知り、難民問題が私にとってより現実味のあるものになりました。私にも5歳の娘がおり、同じ親としてその様な経験をしている人たちのことを思うと胸が張り裂けそうになります。当然のことですが、立場が変われば見方が変わるということを改めて気付かせてもらえました。」(長谷川睦さん)
一方松井さんは、早速、UNHCRのマンスリー・サポーターに登録、これからも微力ながら生涯支援を継続してゆくという。
「伝わる字幕を目指し、チーム全体の字幕に込める熱意、セリフへの思いが凄く、自分も登場人物の気持ちの理解に集中することができました。この作品に映しだされる、今まさに進行中の葛藤や思いを実感することで、難民一人ひとりの置かれている現実を、隣人のこととして思い始めることができました。」(松井敏さん)
自国を離れて生きていくとはどういうことなのか。『アナザー・プレイス』は当事者の視点で描いていく。翻訳者が登場人物に寄り添い、膨大な議論を交わして作り上げた字幕にもぜひ注目しながら、作品を鑑賞してほしい。
◆難民映画祭
オンライン開催 2025.11.6(木)~12.7(日)
劇場開催 2025.11. 6 (木) TOHOシネマズ 六本木ヒルズ(東京) 【上映作品】「ハルツーム」※終了2025.11.13(木) TOHOシネマズ なんば(大阪) 【上映作品】「ハルツーム」※終了2025.12. 2 (火) イタリア文化会館(東京) 【上映作品】「あの海を越えて」2025.12. 3 (水) イタリア文化会館(東京) 【上映作品】「ぼくの名前はラワン」
公式サイト https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/rff
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◆【英日映像翻訳 総合コース・Ⅰ 日曜集中クラスを2026年1月開講!】ご興味をお持ちの方は無料の学校説明会へ! 2026年1月からの英日映像翻訳学習をご検討中の方を対象に、各種説明会を実施しています。ご都合・ご希望に合わせてお選びください。 ※英日映像翻訳の時期開講は2026年4月予定です。ご検討中の方はリモート個別相談にお申込みください。
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