【制作者や観客に字幕が届く瞬間を体感できる】映画祭へ行こう!
皆さんは映画祭に参加したことがあるだろうか?
映画祭といえば、世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)が日本でも大きく報道されるが、日本国内でも毎年多くの映画祭が開催されている。米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」やLGBTQに関する作品を集めた「レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」、世界の難民問題にフォーカスした「難民映画祭」など、そのラインナップは多彩だ。
短期間で世界の映画が一斉に上映される映画祭では字幕が必須となる。JVTAも上記の映画祭をはじめ、毎年いくつもの映画祭を字幕制作でサポートしており、JVTAで学んだ多くの映像翻訳者が活躍している。
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映像翻訳者として豊富な経験を重ね、JVTAで講師も務める屋鋪桂子さんは、映画祭は映像翻訳者としての原点や初心を思い出せる貴重な場だと話す。屋鋪さんは今年も4月開催のダマー国際映画祭の上映作品10作のチェックを担当し、会場に足を運んだばかりだ。
「私がデビューしたての頃、『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア』で短編映画を担当させていただく機会がありました。友達を大勢引き連れて会場入りし、誇らしげに自慢したりして…。振り返れば小っ恥ずかしい行動ですが、今も鮮明に残る楽しい思い出です。自分が作った字幕をスクリーン上で観るのは、他と比べようのないステキな体験です。映画祭のお仕事を担当された方は、ぜひ会場まで足を運んでみてください。一生の思い出になることは間違いありませんから。」(屋鋪桂子さん)
2025年のダマー国際映画祭の上映作品『A Summer’s End Poem』の日本語字幕を担当した修了生の河井敦さんは今年、初めて映画祭に参加した。自分の作った字幕がどのように、どんな人に届いているのか。それを改めて知ることができた貴重な体験となった。
河井敦さん ダマー国際映画祭の会場にて
「自分の作った字幕が大きなスクリーンに映っていて、それを他の観客が暗い劇場の中で観ている…。映画好き・映画館好き・字幕好きにとっては忘れられない体験となりました。
上映中は、あの表現で伝わった?あの字数で読み切れた?あのフォントのほうが合うのになあ…。あの人、今あくびした?と気が気じゃなかったです。でもストーリーの要所要所で笑いやどよめきが起こると、そんな心配は、『よかった、伝わってた~』という安堵と達成感に変わりました。」(河井敦さん)
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河井敦さん ダマー国際映画祭の関係者の皆さんとの集合写真に参加
映像翻訳者が映画やドラマの制作者と会える機会は極めて稀だ。映画祭には監督や出演者、プロデューサーなど多くの映画関係者が集う。作品上映後にトークショーがあったり、なかにはロビーで関係者と話したりできることもある。
2024年の難民映画祭のオープニングでは、JVTAが字幕を手がけた『ザ・ウォーク ~少女アマル、8000キロの旅~』が上映された。会場にはこの作品の字幕チームでリーダーを務めた翻訳者の児山亜美さんが駆け付け、トークショーに登壇したタマラ・コテフスカ監督 とジャン・ダカール撮影監督と対面する機会に恵まれた。
児山亜美さん 難民映画祭の会場にて
「お話できたのは少しの時間でしたが、目を見て感謝の言葉を述べていただき、翻訳者として身に余る光栄でした。トークイベントでは、力強い言葉で『希望はある』とおっしゃられた姿が印象に残っています。映画の力を心の底から信じる監督の思いを生で聞き、翻訳者である私もとても刺激を受けました。」(児山亜美さん)
自分が字幕を担当した作品の受賞シーンに立ち会えた人もいる。2017年の「レインボー・リール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」では、修了生の磯貝さおりさんが英語字幕を担当した『カランコエの花』(中川駿監督) が見事グランプリを獲得。この作品は、現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』で主役を務める今田美桜さんがヒロインを演じた名作だ。翻訳者の磯貝さんは会場で受賞の瞬間を同作の関係者の皆さんと共にわかちあい、記念撮影にも参加することができた。
「お写真の撮影に私も入れていただき、監督が『翻訳をしてくださった方で、スタッフです』 と出演者の皆さんにご紹介くださったときは、本当に嬉しかったです。私が『(優勝されて)少し、ほっとしました。訳させていただいて、有難うございました』と申し上げたところ、「いやいや、“少し”ではないですよ!」とのお言葉。翻訳者としてこうした場に立ち会えて本当に光栄です。』(磯貝さおりさん)
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これから映画祭が目白押しの季節がやってくる。今まさに映画祭の上映作品の字幕を作っている人もいるかもしれない。映像翻訳者ならぜひ映画祭の会場に足を運び、スクリーンで映画を味わってほしい。そこには新たな世界が広がり、思いもしなかった出会いが待っているに違いない。
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【ロジカルリーディング力強化コース 修了生インタビュー】「読解力は漠然とした能力ではなく、テクニックだと実感しました」
JVTAの英日映像翻訳の総合コース・Ⅰのカリキュラムには、英文解釈力を高めることに特化した授業がある。指導するのは、ロジカルリーディング力 強化コース主任の山根克之講師。この授業では、字数制限などに囚われず、まずは原文を正しく理解した上で翻訳原稿をよりブラッシュアップしていくことにフォーカスしている。英語解釈力に苦手意識があった修了生のJ.N.さんは、この授業で山根講師の丁寧で論理的な説明に魅かれ、さらに深く学びたいと映像翻訳の本科修了後にロジカルリーディング強化コースを受講。翻訳への取り組み方が変わったという。
◆なんとなく分かったつもりで訳して誤訳を指摘された
ロジカルリーディング力 強化コースの修了生の多くが、「これまではなんとなく分かったつもりで訳していたことに気づいた」と話す。J.N.さんも授業の中でそれを実感する。
「英文をざっと読んで全体の意味をつかんだと思い、勢いですらすら訳した時ほど、思い込みによる誤訳を指摘されることが多かったです。逆に、意味が取れず悩んで絞り出した訳の方が実は訳としては正しかったこともありました。正しく解釈した後で、よりこなれた日本語訳にするために講師が一緒に考えてくださったことも印象に残っています。」(J.N.さん)
◆少人数で丁寧な講評がもらえる
映像翻訳のコースに比べると比較的小人数でアットホームな雰囲気もこのコースの特徴だ。映像翻訳のコースで、英文の解釈のついて細かく質問することは憚れると遠慮してしまう人もいるが、このコースではそこにフォーカスしているため、どんな質問もできる。
「少人数であったこともあり、講師から一人ひとりの訳に対してじっくり講評をいただけたことがとてもありがたかったです。受講生は真面目な方ばかりでしたが、比較的おっとりした和やかな雰囲気でした。また、振替として他の曜日のクラスに参加した時は、普段のクラスと雰囲気がかなり違い、よい意味で刺激をもらいました。」(J.N.さん)
◆読解力は漠然とした能力ではなくテクニック
原文を正しく理解し、翻訳においてなぜその言葉を選んだのかという根拠を自らの言葉で説明する。このコースではそのトレーニングを徹底的に行っていく。J.N.さんは受講する中で実践的なプロのスキルを学んだ。
「読解力は漠然とした能力ではなく、時制などの文法事項、指示語、対比表現と言った具体的なことに注意することで、テーマや文脈が見えてくる、いわばテクニックでもあるということを実践として学びました。苦手意識の強かった読解力や英文解釈力について、どこに問題があり、どう対策をすればよいかが見える化されたことは、今後の学習のための大きな助けとなりました。英文の細部にまで細心の注意を払うことと、テーマや全体の流れをつかむことは別々ではなく、相互補完的な作業であると自分なりに理解し、トライアルでも意識して取り組むようにしています。また講師は日本語を含め 文章を読むことと、日本語(表現)力の大切さを強調されていましたので、新聞やいろいろなジャンルの本を読むように心がけています。」(J.N.さん)
ロジカルリーディング力を身につけることで、苦手だった英文解釈力を克服したJ.N.さん。今後の翻訳原稿には自信を持って取り組めるはずだ。プロデビュー前に確かなスキルを身につけたい人にぜひ受講をおすすめしたい。
◆「English Clock ロジカルリーディング力 強化コース」(全8回)
次期は2025年5月に開講です。(全面リモート受講)
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◆山根克之講師のコラム「ロジカルリーディング力を鍛える」
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【ロジカルリーディング力強化コース 修了生インタビュー】一人ひとりの翻訳の傾向を把握した的確なフィードバックで自分の弱点に気づけました
ロジカルリーディング力強化コースを受講する皆さんは多くがトライアル合格を目指している。しかし、修了生の川瀬綾乃さんが受講した時は、すでにトライアルに合格し、OJTを終えたタイミングだった。それでもさらに学びたいと思ったきっかけは、映像翻訳の本科で受講した山根克之講師(同コース主任)の授業だったという。とても分かりやすく、英文の解釈や伝わりやすい日本語を書くという点において、翻訳原稿のさらなるブラッシュアップにつながると確信したと話す。ロジカルリーディングを集中的に学んでどのように翻訳に取り組む意識や原稿が変わったのか、話を聞いた。
◆自分の訳文について論理的に考え、その根拠を伝える力がついた
ロジカルリーディングは文字通り、英文の文法および構成を理解した上で論理的に読み解いていくというスキルだ。映像翻訳者は常に映像に合わせた尺や字数制限に向き合いながら情報の取捨選択をする必要があるが、原文を読む段階で正しい解釈ができず、深く考えることができていないと、的確な訳文は作れない。
「授業では何かを頭ごなしに否定したり指摘したりすることはありません。受講生は自分の訳について、どうしてそうしたのかを説明する機会をもらえるため、論理的に考える力や、他人に自分の訳の根拠を伝える力を養えます。実際クラスで幾度か講師と受講生とで意見を交わし、新たな解釈を見つけるという場面もありました。」(川瀬綾乃さん)
◆一人ひとりの翻訳の傾向を把握した的確なフィードバック
受講生は事前に前課題に取り組み、クラス内では山根講師がそれを基により良い訳文にするためのフィードバックを行う。最後の授業で、クラス全員のそれぞれに贈ったこれまでの総評とも言える言葉があまりにも的確で驚いたと川瀬さん。
「常に的確にそして子細に、解釈の道筋を示していただけるので“指摘”や“フィードバック”こそが大きな糧になると感じました。山根講師はその人がもつクセや訳の傾向、ウィークポイントなどを細かく把握してくださっていたのです。私が頂いたアドバイスで特に印象に残っているのが、『原文のワードチョイスや表現に疑問を持って調べてみないと、自分の知識の外にある情報を見落としますよ』という言葉です。確かに私は文字通りの意味だけを見て訳し、その裏にある別の意味や背景、意図に気づけていないことが多くあり、調べ物の大切さが身に染みました。」(川瀬綾乃さん)
◆真剣だが和やかな雰囲気のクラス
このコースの修了生の多くが「とても質問しやすいクラスだった」と話す。川瀬さんも毎週、授業の時間が楽しみでならなかったという。
「受講生も講師も真剣で、発言を求められることも多いのですが、クラスには、みんなが思わず微笑んでしまうような温かさと和やかな雰囲気がありました。」(川瀬綾乃さん)
◆解釈に自信が持てたら「がんじがらめ」だった訳が自由になった
ロジカルリーディングを受講する前は、「情報を一字一句正確に、誤訳をせず、意訳を避け、“ちゃんと”訳さなければ!」という気持ちが強く、良くも悪くも「がんじがらめ」だった。受講を経て、それはそもそも解釈に自信がなかったからだということに気づいたという。
「きちんと解釈ができて、訳に根拠を持てると、情報の取捨選択が正しくできるようになります。その文章が伝えたいことは何で、段落の中、または全体の流れの中でどういった役割を果たしているものなのかが理解できるからです。そうすれば、『意訳』も『意訳』ではなくなり、原文の意図が訳文で伝わりやすくなります。この授業を通して英文解釈の大切さに気づけたことは、「がんじがらめ」だった私自身の訳を少し自由にしてくれたように思います。プロとして翻訳に取り組むうえで大きな指針になりました。」(川瀬綾乃さん)
トライアルに挑戦中の人はもちろん、すでにプロデビューしているがさらなるスキルアップを目指したい人にもおすすめのコースだ。
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【ダマー国際映画祭が開幕】作品のトーンや主人公の気持ちに寄り添った字幕作りとは
4月12日(土)、13日(日)、日比谷コンベンションホールで「ダマー国際映画祭」が開催される。JVTAはこの映画祭に字幕制作で協力しており、今年は10作品の上映作品の字幕を修了生が手がけている。
「ダマー国際映画祭」は、2001年にワシントン州シアトルでスタートした国際短編映画祭。2024年、デニス・クエイドが第40代アメリカ合衆国大統領のロナルド・レーガンを演じ話題となった『レーガン』のほか『パッション』や『ナルニア国物語』、『Ray / レイ』などの企画やマーケティングを手掛けたマーク・ジョセフ氏が代表を務めている。「ダマー」とはヘブル語(ヘブライ語)で「隠喩」や「たとえ話」を意味する言葉だ。この映画祭の特徴は、露骨な暴力描写や過激な映像に頼らず、人間の多様な感情や体験を芸術的に表現することを評価すること。バイオレンスシーンが苦手という人も安心して観られ、視聴者の心に深く響く作品が集められている。また、30分未満であることが応募の条件とされており、国内外から選出された28本の短編映画が上映される。
今回は『Artist Uncredited』と『Real Fantasy』2作品の字幕を担当した岡本真理子さんと、『Breath』を手がけた大嶋要さんに話を聞いた。
◆『Artist Uncredited』
Directors Sven Fuhrken, Chris Hirschhaeuser (Germany)
「本作は、きれいなスーツに身を包んだ一人の男性が、美術館を訪れるシーンから始まります。彼はある絵画の前に腰を下ろし、訪れる来館者に解説を行いながら、静かに一日を過ごしていきます。彼はいったい何者なのか。鑑賞後、ふと心が揺さぶられるような余韻がきっと胸に残るはずです。」(岡本真理子さん)
岡本さんはこれまで、スポーツや医療、歴史、自然などさまざまなジャンルの字幕を手がけてきた。また、インタビュー動画や映画祭の上映作品など多岐にわたる。なかには初めて携わる分野もあり、翻訳には徹底したリサーチが必須だ。岡本さんは日ごろから幅広い分野の映像や文章に触れるように心がけているという。『Artist Uncredited』で流れるように絵画の解説をする男性のセリフには、アートならではのトーンや言葉選びが施されている。
「まずはその分野の言葉遣いやトーンを動画や記事(特にその分野のファンの方による映像や文章はとても参考にしている)を通して何となくニュアンスを掴んでから翻訳にとりかかるようにしています。」(岡本真理子さん)
岡本さんは、今回はセリフが非常に少ない作品だからこそ、登場人物が一つひとつの言葉に込めた感情や背景を丁寧に汲み取り、言葉を選び字幕に反映した。
◆『Real Fantasy』
Director King Man Fung (South Korea)
舞台は新人監督が奮闘する映画の撮影現場。さまざまなトラブルに翻弄される主人公の苦悩が描かれている。メインのテーマに盛り込まれているのはAIとの共存だ。
「本作の主人公は、映画監督を目指すも、まだ芽が出ない韓国の青年。そんな彼に舞い込んだのは、大手プロダクションからの映画監督オファー。ただし、“AI俳優”を起用するという条件つきでした。」(岡本真理子さん)
一見すると荒唐無稽の話のようだが、岡本さんはAI技術が身近なこの時代、この物語は決して遠い世界の話ではないと話す。
「翻訳では、そんな現代の空気感が伝わるよう、親しみやすく、日常的な表現を心がけました。AIと人間の境界があいまいになりつつある今だからこそ、ぜひ多くの方に観ていただきたい作品です。」(岡本真理子さん)
AI俳優を起用した映画制作の行方は? 実はそれほど遠くない未来の話なのかもしれない。
◆“Breath”
Directors Edward Young Lee, Jan Lin Lee
遺伝性の病気を患いながら、夢に向かって努力する青年クレイと父親の複雑な親子関係を描いた物語。字幕を担当した大嶋要さんは自身も子育て中であり、翻訳中は作中の父親に今の自分の想いを重ねながら言葉を選んだと話す。
「自分を顧みずに、息子に無条件の愛を与える父の優しさには心を打たれると思います。
特に印象深かったのは、夢への挫折を味わうクレイが父に向って病気のことを責め、ひどい言葉をぶつけていくシーンです。青年の悲しみからくる短いセリフを単調にせず、なおかつ苦しみを表現できるように言葉選びには気を配りました。親のあり方を考えさせられる、そんな素晴らしい作品なので、ぜひ多くの方に観ていただきたいと思います。」(大嶋要さん)
大嶋さんはこれまで、音楽イベント系やSF、サスペンスなどのTVシリーズ、スポーツものなどさまざまなジャンルの作品の字幕を手がけてきた。映画祭の短編作品の翻訳は今回が2回目。短編は短い中に監督の伝えたい内容が凝縮されていて、全体のセリフ数も減るので、一つひとつのセリフにさらに重みがあると大嶋さんは話す。
「字面だけを見て翻訳しては、登場人物の気持ちが反映されない訳文になるので、各セリフの中にあるニュアンスを取りこぼさない様に細心の注意を払いました。何度も何度も訳文を見返しては微調整を加えました。はじめは単純なセリフだと思っていても、全体を確認する過程で違う意味があることに気づくことも多く、気を引き締めて取り組みました。」(大嶋要さん)
クレイを優しく見守ってきた父親が抱えてきた秘密とは…。大嶋さんの字幕には交錯する親子のそれぞれの想いが丁寧に込められている。
ぜひ、会場でご覧ください。
◆ダマー国際映画祭
2025年4月12日(土)~13日(日)
日比谷コンベンションホール
公式サイト: https://damahfilm.com/ja/
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【ダマー国際映画祭が開幕】男性翻訳者が語る 家族愛の温もりや思春期の少年の心情の訳し方とは
◆【映像翻訳にご興味をお持ちの方は今すぐ「リモート個別相談」へ!】 入学をご検討中の方を対象に、リモート個別相談でカリキュラムや入学手続きをご説明します。 ※詳細・お申し込みはこちら
【ダマー国際映画祭が開幕】男性翻訳者が語る 家族愛の温もりや思春期の少年の心情の訳し方とは
4月12日(土)、13日(日)、日比谷コンベンションホールで「ダマー国際映画祭」が開催される。JVTAはこの映画祭に字幕制作で協力しており、今年は10作品の上映作品の字幕を修了生が手がけている。
「ダマー国際映画祭」は、2001年にワシントン州シアトルでスタートした国際短編映画祭。『パッション』や『ナルニア国物語』、『Ray / レイ』などの企画やマーケティングを手掛けたマーク・ジョセフ氏が代表を務めている。「ダマー」とはヘブル語(ヘブライ語)で「隠喩」や「たとえ話」を意味する言葉だ。この映画祭の特徴は、露骨な暴力描写や過激な映像に頼らず、人間の多様な感情や体験を芸術的に表現することを評価すること。バイオレンスシーンが苦手という人も安心して観られ、視聴者の心に深く響く作品が集められている。また、30分未満であることが応募の条件とされており、国内外から選出された28本の短編映画が上映される。
この映画祭の上映作品『Family』の字幕を手がけたD.K.さんと『A Summer’s End Poem』の字幕担当の河井敦さんに話を聞いた。映像翻訳者は全体的に女性が多いが今回は男性の翻訳者2名の声を紹介する。
◆『Family』
Director Anna Shaw (USA)
この作品は主人公の失恋を通して描かれる家族愛がテーマとなっている。セリフが少なく、難しい英語も特に使われていない。D.K.さんはストレートに翻訳をし、作品の邪魔にならないような字幕になるよう心がけたという。
D.K.さんはこれまで映画やドラマだけでなく、ドキュメンタリーやスポーツ系の作品も担当。昨年はアジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」の上映作品の字幕も手がけた。今回担当した『Family』は約5分弱という短い尺のなかで起承転結が描かれていく。短編ならではの難しさとはどんなポイントなのだろうか?
「尺が長いと前後のシーンで情報の補足ができることがありますが、短編ではそれができないことが多いと思います。また、個人的なイメージですがカット変わりが多く、字幕の表示時間が短いという印象があります(作品にもよりますが)。」(D.K.さん)
何げない会話の中に家族の温かさが溢れる作品。簡潔でリアルに展開するセリフにも注目してほしい。
★『A Summer’s End Poem』
Director Lam Can-zhao (China/Switzerland)
中学校の始業式を翌日に控えた少年は、流行りのヘアスタイルでクールにキメて新生活を始めようと、なけなしのお小遣いをはたいて村を飛び出し、都会的な美容院を訪れる。字幕を手がけた河井敦さんは同作の魅力について、無邪気な少年時代に別れを告げ大人になろうとする主人公の心象風景が、夏の終わりという季節に重ねられ詩的に表現されていると語る。
「主人公や脇役たちのセリフや演技は、深い意味はないと思えるほどさりげなくシンプルです。しかしそのすべては主人公の成長を描くストーリーのために機能していて、無駄のない見事な脚本だと思いました。精いっぱい背伸びしようとする人生の特別な季節のほろ苦い記憶が誰の胸にも呼び起こされるはずです。すべてのシーンやセリフの役割を損わないように細心の注意を払い、映画に込めた監督の想いを余すことなく観客に届けるという使命感を抱きながら訳しました。」(河井敦さん)
国際映画祭の上映作品はオリジナル言語がざまざまだが、翻訳者は英語字幕を基に字幕をつくることが多い。『A Summer’s End Poem』のオリジナル言語は中国語だ。河井さんはこれまでミュージシャンやスポーツ選手が出演するファッション系YouTubeコンテンツシリーズなどを手がけてきたが、中国語の作品は今回が初めてだという。
「中国語の知識がなかったため、基本的に英語の字幕だけが唯一の手がかりでした。セリフの本来の意味を調べる必要があった時には中国語の辞書を使って原文の意味をつかむようにしました。二重の外国語の壁を破っていく作業は初めてで、大変でしたが楽しかったです。」(河井敦さん)
河井さんは他にも、環境問題がテーマの短編ドキュメンタリーの字幕を手がけた経験がある。
「短編は尺が短い分、無駄がなく、どのセリフやシーンにも制作者の想いが凝縮されています。それだけ翻訳者の責任も重大になってくるので緊張感を持って、一つひとつ丁寧に訳すようにしました。」(河井敦さん)
さまざまな大人たちと出会い、理想と現実の狭間でどう折り合いをつけて生きるべきかを学ぶ少年。彼が何をあきらめて何を拒否したのか。河井さんはそこがこの作品の見どころだという。
ダマー国際映画祭には、観た人の心に余韻を残す傑作がラインナップされている。
4月12日には、視覚効果とアニメーションを専門とするデジタルメディアのパイオニアで、アカデミー賞受賞者であるエドワード・ジョーンズ氏がトークショーに登壇する。ぜひ会場でご覧ください。
◆ダマー国際映画祭
2025年4月12日(土)~13日(日)
日比谷コンベンションホール
公式サイト:https://damahfilm.com/ja/
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【2025年3月】日英OJT修了生を紹介します
JVTAではスクールに併設された受発注部門が皆さんのデビューをサポートしています。映像翻訳の仕事は映画やドラマだけではありません。特に日英映像翻訳ではマンガやゲーム、企業のPR動画など幅広いジャンルがあり、翻訳者が体験してきた職歴や趣味などを生かして活躍しています。今回はOJTを終え、日英の映像翻訳者としてデビューする修了生を紹介します。
◆J.K.さん(日英映像翻訳実践コース修了)
職歴:旅行業界10年(翻訳・通訳業務、添乗員業務、団体旅行のコーディネートなど。)
エンタメ業界9年(日本人アーティストのアメリカでのご活動のサポート、商談やインタビューの通訳、社内外メールや宣伝素材の翻訳など)
【OJTを終えて】
SSTのドングルが輸送中に紛失したり、仕事が忙しくなったり、と様々な理由で実践コース修了からOJTを受けるまで一年以上のギャップが空いてしまいました。それでも作業をしていくうちに習ったことを思い出すことができて、ちゃんと身についているんだな、と実感しこれからもやっていけると自信を持つことができました。
【今後どんな作品を手がけたい?】
好きなジャンルは?と聞かれて浮かぶのはホラー、アクション、コメディー、リアリティTV、アニメなどで、このような作品に関わることができれば嬉しいです。ですが、課題でなければ観なかったであろう作品にも面白いものはたくさんあったのでジャンルにはこだわらずにいろいろな作品を手掛けて視野を広げていきたいです。
◆Serena Suさん(日英映像翻訳実践コース修了)
職歴:データ入力・マネジメント・修正・維持・管理
【日英翻訳の魅力】
As a child, I grew up enjoying Japanese manga and anime. It was through translations that I could experience Japanese media and subcultures, hobbies which I now cherish, as I did not know any Japanese at the time. As such, J-E translations certainly played a big part in shaping who I am today.
In high school and college, I began to take an interest in both the English and Japanese languages. This is true for all languages, but it never ceases to amaze me how one singular word can be so expressive, and when strung together, can contribute to infinite narratives and imagery. The process of J-E translation is not as simple as translating the words one by one. There are stories and cultural contexts hidden in words and languages. I find that process to be challenging, but also very fun and rewarding.
【今後どんな作品を手がけたい?】
I would love to work on entertainment and creative media translations—particularly manga, anime and theatrical works. I have always enjoyed manga and anime since I was a child. I also love going to theaters and had briefly worked backstage in high school: my favorite genres range from classic musicals to 2.5D theatrical adaptations of manga, anime and video games. It would be a dream to be able to contribute to media contents that I enjoy and love, from the works themselves to news like interviews and creative resources.
I also enjoy reading and learning about Japanese history and culture. I would love to work on translations related to taiga drama series, cultural and historical documentaries, and museum resources.
◆林臻 (Chen Lin)さん
職歴:インテリアデザイナーを経て、現在はプロジェクトコーディネーターとして、海外デザイナーと日本の施工チームの間に立ち、円滑な進行をサポートしています。
【日英翻訳の魅力】
大好きな日本のコンテンツをより多くの人に伝えられること、そして感情が込められた異なる言語を「つなぐ」ことが、美しくて誇れる仕事だと思っています。それに、中国語を母語としている強みを活かし、別の視点からアプローチできるのも面白いところです。翻訳を通じて新しい発見があったり、言葉の美しさを改めて感じられたりするのも楽しいです。
【今後どんな作品を手がけたい?】
課題で取り組んだ短編映画がとても印象に残っており、デザイナーとして培った感性を活かせる作品に関わりたいと思っています。また、アニメ作品のメイキング映像にも挑戦してみたいです。作品に命を吹き込む役者や監督、制作チームの話にはいつも心を惹かれます。作品の魅力をさらに深める「裏話」を、自分の翻訳を通じて視聴者に伝えられたら嬉しいです。
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています!
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【カナダ大使館・ケベック州政府在日事務所共催の上映会に字幕で協力】カナダ滞在経験を仕事に活かす! カナダに移民した少女の物語を翻訳
3月は「国際フランコフォニー月間」とされ、多くの国でフランス語とフランス語圏の文化を称えるイベントが開催される。この一環としてフランス語と英語を公用語とするカナダのケベック州が舞台の映画『ru(小川)』(2023年)の特別上映会が行われる。これは、カナダ大使館とケベック州政府在日事務所の共催によるものだ。JVTAはこの作品の日本語字幕制作を担当し、修了生の牧田彩野さんが字幕を手がけた。
原作はカナダの著名な作家キム・チュイ氏の自伝的小説。ベトナム人の少女ティンとその家族は、ベトナム戦争後の混沌とした時代に海を越える危険な旅の末にマレーシアの難民キャンプを経て、カナダのケベック州に辿り着く。新たな環境の中で周囲の人たちの温かい支援を受けながら現地の言語や文化に順応していく姿が描かれていく。
『ru(小川)』
日本語字幕を手がけた映像翻訳者、牧田彩野さんは、大学進学のために、カナダ・ブリティッシュコロンビア州にあるビクトリアという街に7年ほど滞在し、大学ではフランス語を専攻。この作品の舞台がカナダであること、そしてオリジナル言語がベトナム語とフランス語であることから、カナダ留学経験やフランス語の学習経験のある牧田さんが翻訳を手がけることとなった。
「オリジナル言語からの英語字幕を基に翻訳をしましたが、ベトナム語がすでに英語に翻訳されているため、翻訳される前のニュアンスを正確に伝えられるかが不安でした。フランス語は台本を見ればオリジナルのセリフを確認することができますが、ベトナム語はそうはいきません。英語字幕を参考にしながらも演者の表情や声、全体の流れを考慮して訳出しました。今回に限らず他の作品にも言えることですが、異なる文化的背景が影響し、同じ意味でも違う感覚で受け取られることがあります。特に今回は戦争というセンシティブな題材を扱う作品だったため、日本語の選び方や表現の仕方には注意を払いました。」(牧田彩野さん)
JVTAは国連UHNCR協会が主催する「難民映画祭」を16年にわたり字幕制作でサポートしてきた 。難民問題を扱った作品はドキュメンタリーが多く、オリジナル言語もさまざまだ。多言語から英語字幕を介して翻訳する際、翻訳者は作品の本質を伝えるためにより注意深く解釈やリサーチを行い、字幕に反映する必要がある。
『ru(小川)』
牧田さんは、カナダ人とベトナム人の会話を訳す際は、距離感を意識した。カナダ人には終始フレンドリーな口調を使い、ベトナム人は難民という背景を反映させて一歩距離を置いた口調にしたことで、登場人物の文化的背景や立場の違いを表現したという。
「この作品のテーマは“acceptance”(受け入れること)だと思っています。主人公ティンは異国の地で新しい人生をどのように受け入れていくのか。そして、カナダの人々は難民として到着した彼らをどのように受け入れるのか。カナダは多文化主義の国です。私が住んでいた街にもたくさんの移民が住んでいました。他者を受け入れることは、やさしい世界を作るための第一歩です。この映画はそんな希望を感じさせてくれる作品です。」(牧田彩野さん)
難民として移住した人たちがその後どのような生活を送っているのか。この作品では一つの家族を通して具体的に知ることができる。ぜひ字幕にも注目しながらご覧ください。
◆2025年3月27日(木)午後6時30分~午後8時45分 ※上映終了
カナダ大使館 オスカー・ピーターソン シアター
詳細・お申し込みはこちら (※先着順 締め切りは3月25日(火)午後5時)
◆2025年4月4日(金)午後6:00~8時30分
横浜日仏学院
※こちらは満席となり、受付は終了
◆日本におけるフランコフォニー月間 2025の詳細はこちら
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第76回カンヌ国際映画祭にて監督週間に選出『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』が劇場公開 字幕翻訳者に聞くワンダートリップの魅力
2023年カンヌ国際映画祭監督週間に選出され、注目を集めた『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』が劇場公開中だ。監督はNYインディーズ映画界の新たな才能として注目されるショーン・プライス・ウィリアムズ。『神さまなんかくそくらえ』(2014)『グッド・タイム』(2017)のサフディ兄弟を撮影監督として支えてきた。この作品で監督デビュー作ながら、公式サイトには巨匠マーティン・スコセッシ監督もコメントも寄せていることからもその鬼才ぶりがうかがえる。同作は2023年に「カンヌ 監督週間 in Tokio」で日本初上映。この時にJVTAが字幕を手がけ、修了生の池田由香さんと佐藤清子さんがチームで担当した。今回、満を持して日本のスクリーンで全国公開。翻訳者の2人に作品の魅力を聞いた。
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「ちょっと冷めた目で世の中を見ている物憂げな主人公リリアンが、あるハプニングを機に修学旅行先で同級生と離れ、様々な人と出会いながらアメリカ東海岸を渡り歩くストーリー。次から次へと風変わりな登場人物が現れ、予測不能な展開からは目が離せません。そしてそんな中で光る、独特の空気感をまとったリリアンの魅力にも思わず釘づけになります。クセが強いキャラクターのオンパレードだったので、翻訳時はそれをなるべく表現することを心がけました。ものすごい勢いで続くマシンガントーク部分は解釈にもリズムにのせることにも非常に苦労したので訳が完成した時の達成感も大きく、自分の中でも記憶に残る作品となっています。
主人公がよく使う口癖のワードがあり、そちらが随所でいろいろな含みや意味を伴って登場したので、どんな訳で統一するか佐藤さんと試行錯誤しました。解釈で意見が分かれるシーンもあったのですが、何度も意見を交換し合い納得のいく訳に落ち着くことができました。」(池田由香さん)
作中には、文学的要素も多くちりばめられている。その意図を伝えるために翻訳にも工夫を凝らしたという。
「『不思議の国のアリス』になぞらえる本作は、どこか冷めた視点を持つ高校生のリリアンが行き当たりばったりの旅をするロードムービーです。リリアンは強烈な個性を持つ人たちと次々に出会いますが、舞台となるアメリカ東海岸はまさにワンダーランド。陰の部分がシニカルに描かれており、そこが見どころの一つかと思います。
翻訳においては、これまでで一番の深掘りを要しました。特に、エドガー・アラン ・ポーに心酔している登場人物ローレンスが、ポーに関する持論や、屈折した心のうちを語る場面には非常に苦労しました。一筋縄ではいかないキャラクター設定と奇想天外なストーリー展開が本作の魅力であり、それが翻訳作業の醍醐味として直に反映された作品だったと思います。気ままな冒険の末にどんなリリアンの姿があるのか、一人でも多くの方に見届けていただけたらうれしいです。」(佐藤清子さん)
JVTAでは多くの映画祭を字幕制作でサポートしており、後に映画祭での上映作品が劇場公開になるというケースが少なからずある。ごく限られた期間や場所での上映だった作品が、より多くの人に届く劇場公開は翻訳者にとっても嬉しいニュースだ。予測不能のワンダートリップの結末は? ぜひ劇場でご覧ください。
『スイ ート・ イースト 不思議の国のリリアン』
2025年 3 月 14 日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開!
監督・撮影:ショーン・プライス・ウィリアムズ『神さまなんかくそくらえ』『グッド・タイム』
脚本:ニック・ピンカートン
音楽:ポール・グリムスタッド『神さまなんかくそくらえ』
出演:タリア・ライダー『17 歳の瞳に映る世界』 サイモン・レックス『レッド・ロケット』
アール・ケイヴ『ハロルド・フライの思いがけない巡礼』
ジェイコブ・エロルディ『プリシラ』
2023
年|アメリカ映画|英語| 104 分|原題: The Sweet East 配給:アルバトロス・フィルム R 15
©2023 THE SWEE T EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://sweet-east.jp/
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【修了生の原田りえさんが字幕を担当】アカデミー賞助演女優賞と歌曲賞を受賞の『エミリア・ぺレス』が劇場公開
世界各国の映画祭で大きな話題を集めた『エミリア・ぺレス』がいよいよ3月28日から
日本で劇場公開される。
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「サスペンス×アクション×ミュージカル×ヒューマンドラマ」という独創的でジャンルを超えた傑作を生み出したのは、フランスを代表する映像作家、ジャック・オーディアール。72歳にして挑んだ意欲作だ。自分らしく生きるために共に道を切り開いていく4人の女性を軸に展開するこの作品は、第77 回カンヌ国際映画祭で女優賞を4 人のアンサンブルで受賞という快挙を達成。またアカデミー賞では最多12部門13ノミネートで助演女優賞(ゾーイ・サルダナ)、歌曲賞(「El Mal」)を受賞、ゴールデングローブ賞でも主題歌賞をはじめ最多4部門受賞と、世界の賞レースで119受賞237ノミネートを成し遂げる(2025年3月3日時点)という快進撃を続けている。
Emilia Pérez. (Featured L-R) Zoe Saldaña as Rita Moro Castro and Karla Sofía Gascón as Emilia Pérez in Emilia Pérez. Cr. Netflix © 2024.
この作品の日本語字幕を手がけたのが、JVTA修了生の原田りえさんだ。原田さんは、多言語(英語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語)のスキルを駆使して、多くの映画やドラマの字幕翻訳で活躍。手がけた作品は、『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(フランス語)や『たかが世界の終わり』(フランス語)、『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』(ポルトガル語)、『ほの蒼き瞳』(英語)、『永遠に僕のもの』(スペイン語)など多岐にわたる。今回の『エミリア・ぺレス』はオリジナルのスペイン語から翻訳した。
「“たとえ傷ついても自分らしく生きていく”と決意した女性たちの闘いが、メキシコを舞台にパワフルに繰り広げられます。磨き抜かれた演技力と歌唱力、そしてダンサーとしての高い表現力を併せ持つ、ゾーイ・サルダナの役者魂とパフォーマンスに圧倒されます。男性社会で苦しみ続けてきた女性の葛藤と、腐敗した権力者への爆発的な怒りが伝わる字幕になるように、言葉を吟味しました。トランスジェンダー女優カルラ・ソフィア・ガスコンは、麻薬王マニタスと女性に生まれ変わったエミリアを、見事なまでに演じ分けています。麻薬王のパートでは、中南米の麻薬戦争を描いたドラマ『ナルコス』の字幕を5シーズン手がけた経験を生かし、凄みとカリスマ性を感じさせる表現を意識しました。」(原田りえさん)
この作品の大きな特徴はミュージカルというスタイルだ。音楽はフランスの国民的シンガー、カミーユとクレモン・デュコルが担当している。カルラ・ソフィア・ガスコンとゾーイ・サルダナが共演する「El Mal」やセレーナ・ゴメスが歌う「Mi Camino」などは必見。歌で物語を伝えていくのは字幕翻訳の中でもさらにスキルを問われるが、常に厳しい字幕制限の中で言葉を紡ぐ映像翻訳者にとっては腕の見せどころでもある。
Emilia Pérez. Zoe Saldaña as Rita Moro Castro in Emilia Pérez. Cr. Shanna Besson/PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA © 2024.
Emilia Pérez. Selena Gomez as Jessi in Emilia Pérez. Cr. Shanna Besson/PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA © 2024.
「セリフの字幕もそうですが、歌詞の字幕では特にファースト・インプレッションを大切にして、頭で考えすぎず、最初に感じたイメージとパワーを言葉に落とし込むように心がけています。
『エミリア・ぺレス』はアカデミー賞では歌曲賞受賞のほか、作曲賞にもノミネートされました。あっという間に物語の世界観に引き込む、冒頭の見事な音楽構成が心を深く揺さぶります。「Mi Camino」はセレーナ・ゴメスにぴったりのポップスで、私もつい口ずさんでしまうほど気に入っています。また、エンドロールでは劇中歌のフルバージョンが流れます。作品のメインテーマにつながる、その歌詞にもぜひ注目していただきたいです。」(原田りえさん)
原田さんはこれまでもシンガーソングライターのシーアのポップ・ミュージック・ムービー『ライフ・ウィズ・ミュージック』の字幕なども手がけており、経験豊富。ぜひ歌のシーンの字幕にも注目してほしい。
© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA
劇場公開に先立ち、3月21日(金)には、横浜フランス映画祭2025で上映が決定。(ジャック・オーディアール監督が来日して舞台登壇も予定されている。
詳細はこちら
◆『エミリア・ペレス』
監督・脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス
原題:EmiliaPeréz|2024年|フランス|スペイン語|カラー|シネスコ|5.1ch|133分|字幕翻訳:原田りえ <G>
配給:ギャガGAGA★
© 2024 PAGE 114 – WHY NOT PRODUCTIONS – PATHÉ FILMS – FRANCE 2 CINÉMA
3月28日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
https://gaga.ne.jp/emiliaperez/
【鎌倉市川喜多映画記念館にて、原田さんが字幕翻訳を手がけた映画が限定上映! 】
原田さんは2024年、スペイン映画界の巨匠、ビクトル・エリセ監督の『瞳をとじて』の字幕翻訳を手がけた。この作品が、鎌倉市川喜多映画記念館で開催中の【企画展】「映画字幕翻訳の仕事 ──1秒4文字の魔術」で上映される。
「元映画監督のミゲルは、撮影中に失踪した俳優フリオを捜す旅を通して、自分自身の過去の痛みと向き合うことになります。エリセ監督の不朽の名作『ミツバチのささやき』のアナ・トレントがフリオの娘アナを演じ、映画の中の年月と現実の時の流れが折り重なっていく。まさに“映画の奇跡”が起きる瞬間を、ぜひ川喜多映画記念館のスクリーンで味わってください。」(原田りえさん)
こちらもどうぞお見逃しなく。
※原田さんは3月29日(土) 13:00からの上映とトークイベントに登壇(チケットは完売)。
◆【企画展】「映画字幕翻訳の仕事 ──1秒4文字の魔術」
鎌倉市川喜多映画記念館にて3月30日まで開催中
チラシのダウンロードはこちら ※上映スケジュールなどが掲載されています。
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【JVTAが英語字幕】小宮山菜子監督の短編『街に溶ける』が大阪アジアン映画祭に入選
日本のクリエイターの作品が国際映画祭に出品される際に必須となるのが英語字幕だ。JVTAはこれまで多くの作品の英語字幕を手がけてきた。2025年3月、小宮山菜子監督の『街に溶ける』が大阪アジアン映画祭のインディ・フォーラム部門に短編作品として入選し、大阪中之島美術館で上映される。この作品の英語字幕をJVTAの修了生、新田ありささんが手がけた。
『街に溶ける』は、文化庁が主催する若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)で2023年度のサポートプログラムに選ばれた長編企画のパイロット版として制作された短編作品。今回が世界初上映となる。
『街に溶ける』 英題: my name is 予告編
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小学5年生の二藤と詩織。秘密を共有し合い、恋をした二人は“なりたい自分”になれる湖へと向かう。クィアな子供たちの小さな冒険譚。
※大阪アジアン映画祭公式サイトより引用
JVTAは過去にも小宮山菜子監督の『手のひらの子どもたち』の英語字幕を手がけている(字幕翻訳はやまたま ひろさんが担当)。小宮山監督の作品は全体的にセリフが少なく、視聴者に解釈を委ねるようなシーンが強く印象に残る。翻訳者は作り手の意図をくみ取って正しく字幕に落とし込むため、小宮山監督と話し合いを重ねて英語字幕制作に臨んだ。小宮山監督はどのように翻訳者に想いを伝えたのだろうか。
「映画をつくる際に、登場人物が持つ言葉のニュアンスを丁寧に扱うことを心がけています。私の映画はセリフが少ないので、各セリフの心情をまとめた資料作成など、事前に伝えられる情報はなるべく細かくお伝えするようにしています。特に今作『街に溶ける』はクィアの登場人物を扱った作品のため、登場人物やセリフが持つニュアンスを大切にした翻訳をお願いしました。今作の重要なアイテムであるランドセルが日本特有のものであったり、ノンバイナリーである主人公の人称や名前の呼び方など、翻訳者さんには一つひとつご提案していただき、より多くの方に届けられる作品にできたのではと思っています。英題もテーマに寄り添ったものをいくつかご提案してくださり、本編含め丁寧な翻訳をしていただけたことに感謝しています。」(小宮山菜子監督)
二
『街に溶ける』には主人公の二藤と詩織が交わすセリフに、二人が互いに好きな色を聞いて答えあうシーンがあるが、その背景には周囲の大人との距離感を探るような互いの想いが垣間見える。翻訳者の新田ありささんはその微妙な心情を字幕に込めた。
『街に溶ける』
「好きな色を聞くシーンが特に繊細で、小宮山監督とのブラッシュアップがありました。
『ほんとは、茶色?』の「ハテナ?」の感じが伝わって欲しいというご要望をいただきまして、“自分のことを自分でも確信していない”という気持ちを1つの字幕に詰めるのにやりがいを感じました。
『なりたい自分になれましたか』というセリフにもご要望いただき、“言い切るのではなく、問いかけで終わる”と表現して欲しいということでした。こちらもテーマのクィア・アイデンティティーと合わせて意識して翻訳いたしました。
英語のタイトルに関しては、「My Name is」 の他に「Melt into Me」や「Belong」も提案いたしました。どれもLGBTQ+でしたら悩むであろう「真の自分」や「居場所」を考えたものです。
やはり短編ならではの難しさはありますが、それが短編の面白さでもあります。翻訳は限られた尺に作品の気持ちをどれくらい込めるかの戦いなので、短編で自分の腕を極めることができます。また、セリフそのものはシンプルですが、シンプルだからこそ観客の心に刺さると思います。」(『街に溶ける』英語字幕翻訳者 新田ありささん)
一方、『手のひらの子どもたち』は、不安定な状態にある母親との微妙な関係に苦悩する女性の物語。子どもの頃と現在が交錯するなかで詩のような断片的な言葉がちりばめられている。この作品も42分の中に約100枚の字幕とやはりセリフが少ない。翻訳者のやまたま ひろさんは日本ならではの文化などを切り取った言葉のニュアンスに気を配ったという。
『手のひらの子どもたち』
「非常にセリフが少ないがために英訳が難しい箇所がたくさんありました。感情を示唆するBGMもないため、視聴者は記憶の断片のようなシーンや端的に交わされる会話から登場人物たちの状況や背景を想像する必要があります。
日本独自の『ランドセルの10円玉』(字幕ではAn emergency coin to call Mum.)など、そのまま英訳したのではイメージが伝わらない文や、「待ってるね」など同じセリフでもイントネーションが異なるために受ける印象が違う文は、意訳をしたり英訳に変化をつけたりするなど工夫しました。
ただ、どこまでが現実でどこからが想像なのかが分かりにくいまま進んでいきますので、原文の持つ曖昧さを英訳が打ち消す(=クリアにし過ぎる)ことがないように心がけていました。
また、夕方のチャイムやテレホンカードなど、子ども時代を想起させるキーワードも出てきますが、わたしたちが感じる懐かしさを同じように英訳で出すのは難しく、結局はそのまま訳出しました。」(『手のひらの子どもたち』英語字幕翻訳者 やまたま ひろさん)
セリフが少なく、日本独特のアイテムやニュアンスが出てくる作品の場合、英語字幕を通して海外に伝えるのは、翻訳者にとって至難の業だ。しかし、今回のように監督から直接意図を聞けたことは貴重な体験となった。初上映される短編『街に溶ける』が長編化された際にはどのような作品になるのか、今後も注目していきたい。
『街に溶ける』 英題 : my name is
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