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明けの明星が輝く空に 第134回:「頭のデキ」が違います

明けの明星が輝く空に 第134回:「頭のデキ」が違います
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バルタン星人の絵を描くなら両手のハサミは欠かせないが、それだけではまだバルタン星人には見えない。なぜなら、外見上もうひとつ、バルタンをバルタンたらしめる特徴があるからだ。頭部にある大きな「V字マーク」である。

 
正面から見たとき、それは角のようにも見えるが、実は角とは言えない不思議な形状をしている。横から見た頭頂部はハーフドーム型で、角らしきシルエットはどこにも見いだせない。角に見えるのは、そのハーフドームがV字型にざっくりと割れ、前後方向に深い溝が走っているためなのだ。

 
バルタン星人のデザインに関しては、『ウルトラQ』に登場したセミ人間に「角を生やしてほしい」というリクエストがあったという。顔がセミそっくりなセミ人間のままでは、『ウルトラマン』に登場する最初の侵略星人として、面白みが少ないと感じられたのであろう。その角をつけろという発注に対し、角度によっては見え方の異なる形状で応えたところに、美術担当者、成田亨氏の矜持が垣間見える気がする。ほかのどんな生物、あるいは自然界におけるあらゆるものを見渡しても、同じような形は見たことがない。いや、人工物にまで視野を広げても、類似したものすらあるかどうか。しかも、正面がスパッと切り落とされたように平面で、横に幾筋もグリッド状の意匠が施されているあたりなど、どこからこんなアイデアが生まれてくるのか。抽象的な概念を形にしたような頭部は、バルタン星人が人智を超えた存在であることの象徴でもあるようだ。

 
やはり成田氏が生み出したチブル星人(『ウルトラセブン』)の金属質の頭部は、まさに抽象芸術作品といった表現がふさわしい。いわゆる火星人タイプの体型で、卵形をした大きな頭部には、何カ所もスプーンでえぐられたような窪みがある。まるで虫食いの跡か、渓流の岩場で見られる甌穴(おうけつ=渓流などの岩場の窪みに小さな石がはまり、水流で回転してあける穴)のようでもある。小さめの顔が下の方にあるため、いかにも頭が重そうで、さぞや巨大な脳が詰まっているのだろうと思わせる、そうなると脳をデフォルメしたデザインのように見えてくる。ただ実際は、貝殻をモチーフにしたものだという。それを知ってなんとなく納得したような気にはなるが、全体的なフォルムといい、表面の窪みといい、僕の知る限りどんな貝殻にも似ていない。いったい成田氏の頭の中で、どのような経過をたどれば、貝殻があのような形になるのであろうか。

 
ユニークさという点では、ガメラシリーズの怪獣たちも負けてはいない。まず『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』(1968年)に登場したバイラス星人。縦長の頭部が三つに分かれ、まるで咲きかけの花のように開いている。これを閉じると、頭部そのものが槍のように鋭い穂先を持つ武器となるのだ。なかなか面白いアイデアだが、そのまま頭から突っ込まれ、土手っ腹に穴を開けられたガメラにとってはたまったものではなかっただろう。

 
バイラスが槍なら、『ガメラ対大悪獣ギロン』(1969年)のギロンは出刃包丁だ。出刃包丁の柄に、4本の脚を生やした姿を想像してもらうとわかりやすい。『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)でアカデミー監督賞に輝いたギレルモ・デル・トロ監督は日本の特撮作品が好きなことで知られるが、2013年の『パシフィック・リム』にはナイフヘッドと呼ばれる“KAIJU”を登場させている。しかし、ギロンを知っている僕からすれば、「どこがナイフ?」という程度にしか見えなかった。それほどギロンの頭部は、刃物そのものだったのだ。

 
頭髪をデザインに取り入れた特撮ヒーローも存在する。かつて、マグマ大使やライオン丸は長い毛が頭部を覆っていたが、『仮面ライダーエグゼイド』(2016年~2017年)のエグゼイドは、頭部自体が髪型を模した形状をしている。緩くカーブを描き、長さが異なる数本の角のようなものが並んでいるのだが、その様はまるでムースで立てた髪を斜め後方になびかせているかのようだ。輪郭だけ見れば、シドニーのオペラハウスの屋根をシャープにした感じである。『仮面ライダー』の原作者である石ノ森章太郎氏といえば、『サイボーグ009』の009こと島村ジョーや、『原始少年リュウ』のリュウなど、髪が後ろになびく独特の髪型をしたキャラクターが少なくない。エグゼイドの“髪型”は、それとは形が違うけれども、石ノ森氏のことも念頭に置いたものだったとしたら、感慨深いデザインである。

 
頭部の意匠で、唯一無二の個性を誇った特撮キャラクターたち。このように視点を定めてデザインを俯瞰すると、また新たに興味深いテーマが生まれてきそうだ。まだまだ楽しみは尽きそうにない。 

 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】自転車ロードレースの「ジロ・デ・イタリア」をもじって「チャリ・で・カフェ」。我ながらうまいこと言うわいと自画自賛しながら、遠出した郊外や山里中心にカフェ巡りをしている。(もちろん密は避けて。)100km前後は走るから安心して甘い物も食べてしまうが、カロリーの収支やいかに!?
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る

 
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