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明けの明星が輝く空に 第138回:アスカ 命を削る孤高のヒロイン

明けの明星が輝く空に 第138回:アスカ 命を削る孤高のヒロイン
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「天岩戸伝説」で知られる天照大神に、武人としての一面があったことをご存じだろうか。根の国(地底の国)に追放した弟の須佐之男命(すさのおのみこと)から高天原を守ろうと、自ら武装して追い返したとされている。
 

興味深いのは、日本では女性兵士が古代より存在したという事実だ。その伝統は幕末動乱期の会津藩における、中野竹子や山本八重に受け継がれたとの考察もある。
 

そんな我が国であるが、戦う女性が特撮作品で描かれることは少ない。いたとしても、男性ヒーローの従属的な存在や、男性が過半数を占めるチームの構成メンバーであることがほとんどだ。独立して活躍する舞台を与えられたヒロインは、むしろアニメの世界に多くいる。僕がその戦いぶりに“惚れ込んだ”アスカ(エヴァンゲリオンシリーズ)も、そのひとりだ。
 

『シン・ゴジラ』の庵野秀明監督が生み出したアニメ、エヴァンゲリオンシリーズ。“汎用人型決戦兵器”エヴァンゲリオンとは、人工的に生み出された生命体なのだが、搭乗者が操縦する点ではロボットと変わらない。アスカは主人公の碇シンジ同様、エヴァンゲリオンのパイロットとして登場する。
 

彼女専用の真っ赤な機体、エヴァンゲリオン弐号機の初登場シーン(テレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』1995年~1996年)は鮮烈だった。輸送艦での移送中に襲撃に遭うと、機体に掛けられていたカバーごと飛翔し、それをマントのようにまとって護衛艦の上に降り立つ。昭和の大人気アニメ、『タイガーマスク』(1969年~1971年)の主人公が、リングのコーナーポスト上に立つ姿にも似て、ケレンミ溢れる颯爽とした登場だ。さらに“マント”を脱ぎ捨て、艦から艦へと八艘跳び。ロボットアニメのイメージを覆す身のこなしで、「身体能力」という言葉すら頭に浮かんでくる。
 

“人間離れ”ならぬ“ロボット離れ”した身体能力を感じさせるという意味では、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)での戦闘シーンが圧巻だ。ヘリコプターのように空中で停止できるVTOL攻撃機に取り囲まれると、まず空手の足技“かかと落とし”で1機目、手に持っていた敵機の残骸を投げつけ2機目を破壊。さらに背後にいる3機目を、後ろ回し蹴りで叩き落として見せた。
 

直後に襲来したエヴァンゲリオン量産機9体との戦いは、ダイナミックにして凄烈、「死闘」と呼ぶにふさわしい。多勢に無勢の中、疾走して飛び上がり、1機目の頭部を両手で握りつぶすと、跳び箱の要領でそのまま飛び越し、背中に倒れかかってきたその敵を担ぎ上げて胴体をへし折る。2機目は頭部にナイフを突き立て、3機目は腕を斬り落としてから組みつき、首を折る。頭上からの4機目の攻撃は横に転がって避け、地面に刺さっていた敵方の武器(特殊な形状をした巨大な剣)を引き抜き応戦。重量感溢れる剣戟の末に斬り伏せ、返す刀で5機目の脚を斬り払う・・・。
 

この戦闘シーンで印象的なのは、弐号機のアクションだけではない。それを操縦するアスカの表情が、別人のように鬼気迫るものに変わっていることだ。いわゆる黒目の部分が小さく描かれた冷徹な目に、眉間と鼻のしわ。血を吹いてのけぞる相手に対しては、目を見開いて身を乗り出し、口元には薄ら笑い。そこにあるのは、もはや「狂気」だ。また、攻撃の際の掛け声も、「エイ」とか「ヤー」といったカワイイものではない。「どおうりゃあああ!」と文字にすると漫画チックだが、実際は腹から絞り出すような叫び声だ。この場面のアスカには、女性キャラにありがちな“可愛らしさ”や“お色気”といった要素は皆無。だからと言って、男っぽいわけでもない。男か女か、そんな議論が不毛に思えるような存在にまで昇華している。
 

アスカを見ていて一番心に響くのは、こういった命を削るような戦いぶりだ。ことし公開された最新作『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』では、その極め付きとも言える場面がある。人類の“個”の消滅をもたらすという、忌むべき計画の発動を止めんとした際のことだ。相手を怖れた新2号機が、「ATフィールド」と呼ばれる一種のバリアを、アスカの意思とは関係なく発生させてしまった。その問題を解決するため、アスカは人間を捨てる。実は彼女の体は、「使徒」と呼ばれる生命体に浸食されており、その力を借りるべく封印を解いたのだ。封印のための機器は、アイパッチに隠された彼女の左目に埋め込まれている。苦痛の呻き声を上げながら、それを抜き取る姿は痛々しい。しかし、彼女の強い思いと決意が伝わってきて、逆に目をそらすことができない。
 

この戦いの前、新調された純白のパイロット用スーツを見て、それを「死に装束」と呼んだアスカ。苛烈な戦いに挑み続けた彼女だが、決して鋼鉄の心を持っていたわけではない。誰よりも孤独だったが故に、誰よりも強くあろうとしていたのだ。結局、アスカの戦いは報われなかったが、物語は終結し、世界は戦いのない新しいものに書き換えられた。新しい世界はきっと、彼女が寂しさを忘れられる日々を用意していることだろう。
 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】今回の記事を書くにあたり、ジェンダー関連の資料をいくつかあたってみた。”The Rise and Evolution of the Female Action Hero” (https://consequence.net/2020/07/evolution-female-action-hero/)という記事の最後の章、”Dark Fate/Bright Future” は興味深い。ぜひ一読を。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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