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明けの明星が輝く空に 第140回:ウルトラ名作探訪9 :「あけてくれ!」

明けの明星が輝く空に 第140回:ウルトラ名作探訪9 :「あけてくれ!」
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『ウルトラQ』最終話(第28話)、「あけてくれ!」は、1960年に放送された“The Twilight Zone”のシーズン1、第30話“A Stop at Willoughby”が元ネタではないかという指摘がある。どちらも列車の乗客の奇妙な体験を描いているが、後者がある男性の苦悩やその追い詰められていく様が軸になっているのに対し、「あけてくれ!」は 不可思議な列車と異次元世界という、SF的要素を前面に押し出している点で異なる。
 

その異次元の世界は奇妙な形のビルが建ち並び、車や電車が空を行き交う。現実世界を逃避した人々が暮らしている、未来都市のような風景をした街だった。そこに行くためには、現実世界との間を行き来する空飛ぶ列車に乗車しなければならない。具体的な乗車方法は不明だが、現実社会からの逃避を強く願っていると、いつの間にかそこに迷い込んでしまうようだ。
 

夜道で倒れていた沢村という中年サラリーマンも、迷い込んだうちの1人だった。彼の話によると、気がついたときには列車内におり、そこで友野というSF作家に出会った。友野に行き先を告げられ、ふと窓の外を見ると、若い頃の妻や幼い娘の姿が。たまらなくなり、列車から降ろしてくれと叫ぶ・・・。彼の記憶は、ここまでだった。
 

娘と沢村を迎えに来た妻は、帰りのタクシーの中で「いい歳して、みっともない」だの、「自分と娘の身にもなれ」だのと、沢村を責め立てる。果ては「ろくでなし!」とまで言い放つのだが、こういったシーンが約1分も続く。我慢しきれずタクシーを降り、会社へ行く沢村。しかしすでに終業時刻に近く、上司には叱責され、同僚たちには白い目で見られる。そして、ラストシーン。すべて投げ出したくなった彼は、夜空を滑走する異次元列車に向かって叫ぶ。「俺も連れてってくれ!」
 

この作品が下敷きにしているのは、人間の失踪事件だ。1950年代から、原因不明の失踪が顕在化してきていたという。「蒸発」という言葉がマスコミに使われ出したのは、1960年代中頃。『ウルトラQ』は1966年放映であるが、少なくとも「あけてくれ!」のプロットは、1964年にすでに存在したようだ。脚本を書いた小山内美江子氏は、社会の事象に対し、鋭敏なアンテナを張り巡らせていたということが言えるだろう。
 

小山内氏はまた、友野というSF作家を登場させることで物語に奥行きを与え、興趣をも加えている。友野自身、異次元世界へ迷い込んだ人間なのだが、『ウルトラQ』主人公の万城目と由利子が彼の自宅を訪れてからの、謎めいた一連のシーンが秀逸だ。友野は1年半前から不在で、原稿だけが定期的に送られてきていると聞かされた2人。戻る途中、運転する車のボンネットが突然跳ね上がる。調べてみるとエンジンが故障していた。そして、ふいに由利子の上着が背後から引っ張られる。振り返ると、なぜか誰もいない後部座席に友野の原稿があった。内容を確認しようと提案する由利子。そのとき、どこからか「どうぞ、どうぞ。かまいませんよ」と声が聞こえてくる。そして原稿には、あるSF作家の体験が綴られていた。あるとき、厭世的な気分が高まっていた彼は、乗っていたエレベーターが止まらず下降し続けたらどうなるだろうかと夢想する。すると本当に下降を続け、開いた扉の先には見たこともない世界が広がっていた・・・。
 

このSF作家とは、明らかに友野自身のことだ。彼はこの体験以前に、同じような話を数編小説に書いていた。そのためだろうか。異次元世界の存在を、いたって客観的に受け止めているようだ。沢村たちに異次元列車の行き先を説明する彼の口調は冷静で、淡々と事実だけを告げるが、それがかえって謎めいた雰囲気を作り出している。この友野を演じたのは、『仮面ライダー』の死神博士で知られる怪優、天本英世さん(https://www.jvta.net/co/akenomyojo91/)。友野は、死神博士のように気味悪さを漂わせる役ではない。作家らしく知的であると同時に、どこか冷たく、近寄りがたさを感じさせる。当初、友野のキャスティングには、他の俳優が候補に挙がっていたというが、このミステリアスな雰囲気は天本さんならではのものだろう。
 

ちなみに「あけてくれ!」の監督は円谷一氏。“特撮の神様”円谷英二の長男である。当時は父が設立した円谷プロダクションの社員ではなく、芸術祭文部大臣賞の受賞歴を持つTBSの看板ディレクターだった。そんな一氏は当初、『ウルトラQ』に乗り気ではなかったという。怪獣が登場する作品で父親と比較されてしまうのがイヤだったのではないか、と当時のスタッフがその理由を推測している。ところが、「あけてくれ!」のプロットを読むと、自分が撮ると即断したそうだ。その後は、怪獣モノも何本か撮り、続く『ウルトラマン』などでも監督を務めることになる。そして父の他界後は円谷プロダクションの社長となり、特撮文化の隆盛に尽力していくのである。
 

「あけてくれ!」(『ウルトラQ』28話)
監督:円谷一、脚本:小山内美江子、特殊技術:川上景司
 
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】千葉真一さんの訃報はショックだったが、それ以上にショックだったのは、『ウルトラマン』でイデ隊員を演じた二瓶正也さんの訃報だ。コミカルな役柄だったからこそ、時折見せる真剣な表情が胸に刺さる。ご冥福をお祈りいたします。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
 
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