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明けの明星が輝く空に 第92回 特撮俳優列伝6 中島春雄

明けの明星が輝く空に 第92回 特撮俳優列伝6 中島春雄
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【最近の私】僕が利用している低酸素トレーニングのスタジオは、ヨガもやっている。正しくやると、不可思議な姿勢でも眠くなる。ヨガ、恐るべし。

 
「ゴジラや怪獣に関して自慢できることは一つ。真似をしなかったことだ」。そんな言葉を残したスーツアクターの草分け、中島春雄さんが先月7日に亡くなった。日本に初めてフルCGのゴジラ(『シン・ゴジラ』)が登場した翌年だけに、着ぐるみでゴジラを演じた中島さんの訃報は、時代の流れを象徴しているように思えてならない。

 
中島さんは俳優養成所で演技を勉強したあと、東宝に入社。大きな役はもらえず、いわゆる大部屋俳優だった。戦争映画『太平洋の鷲』(1953年)で、飛行服に火が燃え移るパイロット役を演じ、体を張った演技が『ゴジラ』(1954年)出演につながったのではないかと言われている。

 
中島さんに関する有名なエピソードに、ゴジラを演じるため上野動物園に通って大型動物の動きを観察した、というものがある。ゾウの足の運びや、立ち上がったクマの前足の動きなどを参考にしたそうだ。見たこともない架空の生き物の動きをゼロから構築していったわけだが、後輩スーツアクターたちの芝居について、「自分で考えたものではなく、人の真似」と断じているあたり、パイオニアとしてのプライドが垣間見える。

 
そんな中島さんに“特撮の神様”こと円谷英二特技監督は、怪獣同士の立ち回りも一任。中島さんはその期待に応えるように、シリーズ2作目『ゴジラの逆襲』(1955年)では猛獣同士のような血なまぐさい格闘シーン、シリーズ3作目『キングコング対ゴジラ』(1962年)ではプロレスの技を盛り込んだ、観ていて楽しい立ち回り、といったように、作品の方向性に合わせる柔軟性を発揮した。

 
ゴジラの演技も、作品の方向性によって変化した。エンターテインメント性が強くなるに従ってゴジラの擬人化が進み、動きに喜怒哀楽の表現が加わっていく。まず、『キングコング対ゴジラ』では、コングをノックダウンさせたゴジラが、勝ち誇ったかのような態度を取り、シリーズ4作目『モスラ対ゴジラ』(1964年)では、名古屋タワーに引っかかった尻尾が抜けなくなって慌てる。シリーズ5作目の『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)に至っては、ケンカ相手のぶざまな様子を見て、愉快そうに体をゆすって笑う仕草まで見せた。

 
ちなみに、擬人化の極みとも言える「シェー」のポーズが飛び出したのは、シリーズ6作目の『怪獣大戦争』(1965年)であるが、これは円谷監督の発案で、中島氏のものではなかったそうだ。(「シェー」についての説明は長くなるので、ここでは赤塚不二夫の漫画の登場人物がするポーズで、当時大流行した、というだけに留めておこう)。

 
シリアスなゴジラにせよ、ユーモラスなゴジラにせよ、そういった生き物がいるように見えてくるのがスゴイところだが、それは単に動きに工夫を凝らしたからではないだろう。少し気恥ずかしい言い方だが、「魂」がこもっていなければ、ただの着ぐるみが生物に見えたりはしない。中島さんは、建物を壊したり家を踏みつぶしたりする際、ゴジラの気持ちになって芝居をしていたというし、敵怪獣との立ち回りでは「こいつを倒すんだ」という気持ちを込めて演じたそうだ。たとえ怪獣であっても、演じるからにはその気持ちになって芝居をする。それが役者というものだと言ってしまえばそれまでだが、中島さんがゴジラの演技に真剣に取り組んでいたことの証でもある。

 
実は、中島さんはゴジラ以外に、キングコング(『キングコングの逆襲』1967年)や、翼竜タイプのラドン(『大空の怪獣ラドン』1956年)など、全く異なるタイプの怪獣たちも演じていた。どれも素晴らしい演技だが、中でも『ウルトラマン』第9話に登場した四足歩行怪獣のガボラは生き物らしさにあふれ、中島さんの最高傑作と言ってもいいのではないだろうか。まず、目の前に突如ウルトラマンが現れた時のリアクションがいい。前進するか後退するか決めかねたような様子で、ガボラの驚きと警戒心が見事に表現されている。また劣勢の中、半ば及び腰になって身構え、ウルトラマンが飛びかかってくると、ゴロンと横になってよけようとするところなど、「もうカンベンしてくれ」というガボラの声が聞こえてくるようだ。

 
日本のゴジラは去年、『シン・ゴジラ』で復活し、今年はアニメ映画『GODZILLA 怪獣惑星』が11月に公開されることになっている。また海外に目を転じれば、『GODZILLAゴジラ』の続編2作が、2019年以降に公開予定だ。中島さんはDVD『三大怪獣 地球最大の決戦』の特典インタビューで、ゴジラシリーズが永遠に続くことを願っていると語っていたが、日米映画界の動きを見ていると、その願いは本当に叶うかもしれないと思えてくる。もしそうなれば、中島さんの名前は永遠に語り継がれていくことになるだろう。

 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る
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