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【JVTA修了生が運営と翻訳字幕で協力】東京国際ろう映画祭が12月4日(土)に開幕 

【JVTA修了生が運営と翻訳字幕で協力】東京国際ろう映画祭が12月4日(土)に開幕 
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第3回東京国際ろう映画祭(TDF)が12月4日(土)、5日(日)、渋谷のユーロライブで開催される。この映画祭で上映されるのは、世界から集まったろう者に関する映画やろう者が制作した作品だ。JVTAは第1回から協力しており、今年も修了生が外国語作品の翻訳字幕や、映画祭の運営に携わっている。
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開幕に向け、同映画祭代表の牧原依里さんからメッセージを頂いた。牧原さんは、2016年に“聾者の音楽”をテーマにしたアートドキュメンタリー『LISTEN リッスン』を共同監督で制作。同映画祭では、ろう者当事者として作品全体の字幕チェックに携わっているほか、今年は自身が監督を務めた作品『田中家』も初上映される。
 

◆東京国際ろう映画祭代表 牧原 依里さん
代表牧原依里さん
「今回の映画祭は『異質 Otherness』がテーマです。このテーマの通り、多様多種のユニークな作品が32作品集まりました。ろう者の親を持つ聴者(CODA コーダ)が主人公の『私だけ聴こえる』『私はボリ』、年金の受給をめぐる裁判を追った、在日コリアンろう者の記録映画『オールドロングステイ』、盲ろう者当事者が演じた『フィーリング・スルー』など注目の作品ばかりです。海外×ろう映画ならではの作品が多く、字幕の複雑さにも注目です。JVTAを修了した方々の技術や表現に助けられている日々です。今回は会場上映のみならず、オンライン上映も行います。会場ではろう映画祭ならではの文化を体感いただき、オンライン上映では様々な作品をいつでもどこでもご覧できる良い機会となっています。この32作品の中からぜひあなたのお気に入りの作品を見つけてください。」
 
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※『田中家』
 

JVTAは、NPO メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)と共催で、2011年からバリアフリー講座を開講。聴こえづらい人のためにセリフに加え、音情報や話者名を入れるバリアフリー字幕、見えづらい人のために人物の動きや表情、情景描写を言葉で解説する音声ガイドを制作するスキルを指導し、これまで多くの修了生を育成してきた。このバリアフリー講座と映像翻訳科の修了生である坂本晶子さんと嶋 真希さんが今年、字幕制作と映画祭の運営に携わっている。会場で行われるイベントのサポートのほか、オンラインイベントにも登壇する。
 

◆坂本晶子さん
『私だけ聴こえる』『私はボリ』『ソニックパルス』の日本語字幕の制作
『ノーマル』『フィーリング・スルー』『二重差別』の音声ガイドの制作

私はボリ
※『私はボリ』
 

「今回字幕翻訳を担当した『私だけ聴こえる』と『私はボリ』は、2作品ともCODA(Children Of Deaf Adults)が主人公です。CODAとはろう者の親を持つ聴者のこと。自分はろう者でも聴者でもない…。2つの世界をもつ子どもたちが、戸惑いながら成長していく日々が綴られた作品です。この映画祭で上映される作品のほとんどは、手話によるセリフで物語が進行します。手話での会話劇に字幕がつくことで、手話が一つの言語であることを皆さんにも実感していただけると思います。

『私だけ聴こえる』と『私はボリ』は、手話による会話と音声による会話が混在しますが、字幕は特にフォントを変えたりカッコでくくったりせず、手話が見えている、口が動いているなど映像にある情報を頼りに、必要な部分に話者名や音情報を表示しています。また、手話を知らない人が見ても、手の動きや顔の表情でなんとなく伝わりそうな内容については、オリジナルの英語の解釈の範囲内で、できるだけその手話のイメージに近い言葉を選ぶよう、さらに子どもらしさや手話のリズムを生かすよう、心掛けました。『ソニックパルス』は翻訳の全訳をJVTA同期の山岡恵さんにお願いしました。一緒に学んだ仲間に今回も支えられています。」(坂本晶子さん)

 

「また今回、ほかの翻訳者さんたちと繰り返し議論したのは、音楽の表現でした。オリジナルの英語字幕が[LIFTING MUSIC]となっていても、さほど気分が上がるようには聴こえず、逆に[PENSIVE MUSIC]となっていても、むしろ楽しげな音楽に聴こえたり…。かといってBGMが聞こえていることを意味する♪(音符)だけを表示すると、ろう者はいったいどんな音楽が聴こえているのかが気になってしまうという指摘を受けて、大変悩みました。聴こえている情報をどこまでどんなふうに字幕で表現するのか、バリアフリー字幕制作において、常に向き合っていく課題だと改めて感じています。ろう者が選んだ“異質”な世界をぜひ映像でご覧ください。」(坂本晶子さん)
 

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※イメージ
 

嶋真希さんは、第1回からJVTA経由で日本映画にバリアフリー字幕を作成するボランティアとして参加。第2回は映像翻訳者とUDトークの文字支援者として、第3回目は映像翻訳者と運営スタッフとして携わっている。手話通訳者を目指し手話を学びながら、映画祭を支えている嶋さんが、翻訳時にも意識していることを聞いてみた。
 

◆嶋 真希さん
『ノーマル』『私たちと電車の間で』『イメージ』『私が故郷だ』の日本語字幕の制作

ノーマル
※『ノーマル』
 

「この映画祭で上映されるのは、『ろう視点で作られた作品』または『ろうにアプローチした映像作品』です。音声言語の作品とは異なる演出があるため、その演出を字幕でどう表現するか、ろう者、聴者が一緒に知恵を出しあい字幕を作成しています。特に今回は作品の演出上、音がこもっていて何を言っているのか聴き取れない状況や、日常で聴こえているいろいろな音が次々に重なっていく状況を字幕で表現しなければならないという難しいシーンがありました。また、口が動いているのに音声がない、つまり口の動きを読んでいる状況をセリフとして字幕にしなければならないという課題もありました。音で聴いたら瞬時に分かる状況を、ろう者にも瞬時に分かってもらうには、どのように字幕で表現したらいいのか、とても悩みました。みんなで作り上げた字幕を、ぜひご覧ください。」(嶋 真希さん)

私が故郷だ
※『私が故郷だ』
 

「翻訳をする上でいつも以上に気をつけていたのは、やさしい日本語を使うことです。以前、手話講座でろう者の講師から『刺身は足が早い』を手話では『刺身は腐りやすい』と表現する、と習いました。『刺身は足が早い』と日本語をそのまま手話で表しても、多くの ろう者は理解できない、と。この例えを聞いた時から、翻訳、手話を使う時にかぎらす、やさしい日本語を使うよう、心がけています。今回の翻訳では慣用句を使わずに、分かりやすい日本語を使うよう心がけました。バリアフリー字幕は、日本語の音源から日本語を書き起こす作業なので、言語の勉強は外国語ほど必要ないのかもしれません。しかし、バリアフリー字幕の利用者を理解してはじめて、利用する側が求める字幕の作成ができるのだと思います。TDFは映画を通してろう者を取り巻く手話社会やろう文化を学べる素晴らしい映画祭です。ぜひ一度、会場で、またはオンラインで、ろう者視点でセレクトした作品をご覧いただけたらと思います。」(嶋 真希さん)
 

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※公募作品は11作品 クロージングセレモニー(オンライン配信)で観客賞受賞作品を発表
 

JVTAの映像翻訳コースの修了生、鈴木純一さんは、『フィーリング・スルー』の本編とメイキング映像、『スカーレット』の翻訳字幕を手がけた。鈴木さんは、JVTAのメルマガでもお馴染みの連載コラム「戦え!シネマッハ!!!!」(アーカイブはこちら)を執筆、映画の予告編や悪役について考察している。この映画祭の運営に携わる坂本晶子さんとはJVTAで共に映像翻訳を学んだ同期生。坂本さんの依頼で2019年の第2回から、字幕制作に協力している。
 

◆鈴木純一さん
『フィーリング・スルー』の本編とメイキング映像の日本語字幕
『スカーレット』の日本語字幕

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※『フィーリング・スルー』
 

「『フィーリング・スルー』は、深夜のニューヨークで、少年が盲ろうの男性と出会い、一緒に時間を過ごす中で、お互いを理解していく物語です。本作では、聴者である少年が、盲ろうの男性にどう接すればいいのか戸惑います。今回の映画祭のテーマは「異質」です。自分の周りには、様々な人がおり、自分とは「異質」な人と出会ったら、自分はどう向き合うのか。そもそも、「異質」とは何かを問われている気がします。この作品は、監督が街で盲ろう者と出会った実体験が基になっています。メイキングでは、監督が脚本を書き、様々な人たちが関わって映画を制作していく過程が描かれます。難航するキャスティング、ろう者の俳優が演技をすること、さまざまな困難を乗り越えようとする監督やスタッフ、俳優たちの姿は、本作とは違った“ドラマ”になっています」(鈴木純一さん)
 
スカーレット
※『スカーレット』
 

「『スカーレット』はパートナーとの関係がうまくいかない男性が、ネットである“モノ”を購入します。その“モノ”は…という、エロチックなホラー(R-15指定)。坂本さんは私がホラー映画好きなのを知っていたので、この作品は鈴木に向いていると感じ、私に字幕を依頼したそうです。私も最初に観た時、なぜ依頼が来たのかすぐ分かりました。ホラー好きな方にもおすすめです」(鈴木純一さん)
 

ろう映画の字幕制作の裏側

今年は、会場での上映に加え、初のオンライン上映も導入される。遠方の方も参加できる貴重な機会だ。過去のTDFのアンコール上映や、ろう者監督特集などもオンラインで観ることができる。また、代表の牧原さんと坂本さん、嶋さんが登壇するシンポジウム「ろう映画の字幕制作の裏側」など、無料で観られる企画もある。ぜひ、皆さんもこの映画祭でろう者の映画の世界を味わってほしい。字幕で作品を伝えることの新たな発見があるはずだ。
 
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第3回東京国際ろう映画祭
会場上映:12月4日(土)、5日(日) 渋谷 ユーロライブ
オンライン上映:12月4日(土)~12日12日(日)
公式サイト:https://tidff.tokyo/
 

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