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【レインボー・リール東京が青山と渋谷で開幕】 多様性を伝える字幕づくりとは

<strong>【レインボー・リール東京が青山と渋谷で開幕】 多様性を伝える字幕づくりとは</strong>
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セクシュアル・マイノリティをテーマとするさまざまな作品を上映する映画祭、「レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜」が7月15日(土)に開幕。スパイラルホール(青山)とユーロライブ(渋谷)の2会場で、計6日間にわたり、全11プログラム21作品が上映される。JVTAは毎年字幕翻訳でこの映画祭に協力し、今年も13本の字幕をJVTAで学んだ30名以上の映像翻訳者が手がけている。また、修了生の今井祥子さんがプログラマーとして10年以上にわたり運営と多くの話題作の字幕翻訳に携わってきた。

 

修了生の前田風花さんは、2021年から3年連続でこの映画祭の字幕制作に参加。2021年には、『シカダ』と『ウィッグ』、2022年は『アグネスを語ること』、今年2023年は『マット』とドラマやドキュメンタリー作品などを担当してきた。この映画祭の魅力について前田さんは次のように話す。

 

2023年オープニング作品『孔雀』

 

「さまざまな国の映画の中に自分を見つけられることです。文化も言語も異なる、遠く離れた場所にも自分たちと同じように感じている人がいるという発見は、新鮮であると同時に安心感ももたらしてくれると思います。また『同じ映画を観るために多くの人が今この会場にいる』ということを実感できるのも、この映画祭の魅力です。」(前田風花さん)

 

今年の字幕担当作品『マット』は、ニューヨークに暮らすトランスジェンダー男性のフェーニャと、性別移行をして以来疎遠になっていた相手との交流が描かれている。セクシュアル・マイノリティをテーマにした作品の翻訳を手がけてきた中で前田さんは、「登場人物が何者であるのかを単純化しすぎてないか?」と意識することが増えたという。

※青山の映画祭会場を彩るフラッグ

 

「例えば『マット』に登場する主人公フェーニャを「ニューヨークに住むトランスジェンダー男性で家族とは疎遠になっている人物」と説明することはできますが、それだけで一人称を『俺』に決めたり、語尾を『~だ』ばかりにしたりするわけにはいかないと感じました。『僕』『私』『俺』などの自分を呼ぶ言葉も、『レズビアン』『ゲイ』『トランスジェンダー』などのセクシュアリティやジェンダーアイデンティティを表す言葉も、結局は記号でありその人の一部の説明にしかなりません。場面ごとにフェーニャが何に喜び、何に怒りを抱く人間なのかというところまで伝わるよう、“Oh my God”や“Yeah” “What?” のような会話の中で何気なく口から出る言葉には特にフェーニャらしさが出るよう気を配りました。次々に現われては消える字幕ではすぐに理解できるシンプルさが大前提です。しかし『登場人物の人間としての奥深さを余すことなく伝えたい』という気持ちを忘れずに翻訳しなければならないと思っています。」(前田風花さん)

 

2023年上映作品『マット』

 

『マット』の字幕はリーダーの前田さんほか、岡本真理子さん、小林伊吹さん、原 茉未さんの4人の翻訳者でチームを組み、一つの字幕を作り上げた。チーム翻訳では全体的な言葉の統一やトーンを合わせるなどの作業が必須となる。特に工夫したのはどんなポイントだったのだろうか。

 

「相づちや返事のセリフは特に確認し合いながら進めました。『ああ』か『うん』、『いや』か『いいや』かなどのセリフは、短くても登場人物の心情やキャラクターが出ますし、バラバラでは分かりにくくなってしまいます。このような使い分けをチームのメンバーと話し合いながら少しずつセリフを仕上げていく過程は、チーム翻訳のワクワクする部分です。“雑種犬”を意味する『マット(Mutt)』というタイトルの通り、主人公フェーニャは性別や人種、他者との関係など自分を形づくるさまざまな要素の間で揺れ動きます。性別移行だけでなく、父親や元恋人との会話の中で浮かび上がるフェーニャの変化を感じながら観ていただけると嬉しいです。」(前田風花さん)

 

2023年上映作品『クリッシー・ジュディ』

ベルリン国際映画祭をはじめ、サンダンス映画祭やシアトル国際映画祭などでも受賞が続く『マット』がいよいよ日本初公開。『マット』の上映スケジュールと詳細はこちらでご確認ください。
https://rainbowreeltokyo.com/2023web/program-jp/mutt_jp/

 

2023年上映作品『秘密を語る方法』©Invisible Thread Films

 

この映画祭ではこれまで、良質なドキュメンタリー作品が数多く上映されてきた。今年のラインナップ、『ココモ・シティ』もその一つだ。アトランタとニューヨークでセックスワーカーとして働く4人の黒人トランスジェンダー女性たちのインタビュー映像から、性労働の実態と構造的差別の存在が皮肉を交えて赤裸々に暴かれる。この作品の字幕も4人の翻訳者(寺尾みどりさん 片柳伊佐さん 西村もえさん 岡本真理子さん)がチームで作成、寺尾みどりさんにお話を聞いた。

 

2023年上映作品『ココモ・シティ』

 

寺尾さんがこの映画祭に携わるのは今回が初めてだ。翻訳者はリサーチを重ね、専門的な用語の正しい訳や差別的で不快に感じる表現がないかを常に考え、より慎重に言葉を選ぶことが求められる。

 

「ドキュメンタリー映画は事実確認や調べ物がとにかく多いので、それに割く時間と翻訳や推敲に割く時間の配分が難しかったです。与えられた時間内でいかにスピーディーに信頼できるソースにたどり着けるかの勝負ですね。性的なスラングや登場人物の属性に特有の言葉づかいの訳し方ついて特に話し合い、懸念が残るものは代案を考える上でも翻訳者同士で意見を出し合いました。」(寺尾みどりさん)

 

2023年上映作品『ヴィーナス・エフェクト©︎Christian Geisnæs

セクシュアル・マイノリティに関する作品の翻訳で大切なのは、辞書や定訳だけではなく、登場人物の想いに寄り添った言葉を選ぶことだ。

 

「個人の尊厳に関わる用語が多いと思うので、字幕のルールという制約はありつつも、できる限り英語と日本語の言葉の輪郭を近づけたいと思いました。特にLGBTQ+の文脈では一つの言葉に対して人それぞれが様々なニュアンスを持っていたり、とても短いスパンで意味合いが変化したりする印象を受けるので、それを念頭に置いて英語と日本語での使われ方の違いを意識的にリサーチしました。」(寺尾さん)

 

2023年上映作品『ローンサム』©Dean Francis

 

『ココモ・シティ』は、サンダンス映画祭2023やベルリン国際映画祭2023でも高い評価を受けた話題作。本作に登場するココ・ダ・ドール(本名ラシーダ・ウィリアムズ)は今年4月に銃殺されるという悲劇に見舞われた。翻訳者としていち早く作品に向き合った寺尾さんに、見どころを聞いた。

 

「トランス女性であり、セックスワーカーであり、黒人である。それがどんな苦悩を意味するのかを鮮明に感じられる作品です。シス女性だったら、白人だったらもっと生きやすい人生だったはず。別のキャリアを持つ夢も持てたはず。4人の黒人のトランス女性はそう語ります。黒人コミュニティー内でのトランス女性への拒絶についても話されていたりと全体的にかなり痛烈な内容ですが、強く生きざるを得ない彼女たちの姿には唯一無二の美しさがあります。また、黒人男性たちが黒人社会での男性性について言及するシーンもあり、黒人社会をジェンダーという視点で理解するキッカケにもなると思います。」(寺尾さん)

 

『ココモ・シティ』は生の声を捉えたドキュメンタリーだけにシリアスな内容だが、話の内容に合った様々なジャンルの音楽が流れているのもこの作品の魅力。通常、あまり字幕にしないBGMも歌詞対訳をしたとのこと、そのあたりにも注目してご覧ください。

 

『ココモ・シティ』の上映スケジュールと詳細はこちら
https://rainbowreeltokyo.com/2023web/program-jp/kokomo-city_jp/

 

◆第31回レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~
2023年7月15日(土)〜17日(月・祝) @スパイラルホール(スパイラル3F)
2023年7月21日(金)〜23日(日) @ユーロライブ
https://rainbowreeltokyo.com/2023web/

 

【関連動画】
・JVTAの公式YouTubeチャンネルでも同映画祭を紹介

 

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