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AI時代にも活きる、映像翻訳者の「武器」とは

AI時代にも活きる、映像翻訳者の「武器」とは

2006年の「Google翻訳」誕生以降、ニューラル機械翻訳の「DeepL」、大規模言語モデルの「ChatGPT」など、機械翻訳(Machine Translation =MT)は目覚ましい進化を遂げている。何よりも高スピードかつ低コストという特長から多方面での導入が進む一方、MTへの慎重な姿勢を崩さない分野もある。映像翻訳がその一つだ。場面に合わせて字幕の文字数を設定・改行したり、俳優の表情や映像の構図といった文字情報以外のコンテクストまでを字幕に落とし込むという機能は、いずれのMTも未だ実現できていない。

そこでJVTAは映像翻訳者の職業訓練校として、字幕制作に特化した翻訳支援型AI「Subit!」の研究開発を進めている。映像翻訳者は「Subit!」を活用することで、これまでの一から翻訳するHuman Translation(HT)案件に加え、ポストエディット(PE)も受注できるようになる。

■PEを新たなビジネスに

PEとは、映像翻訳者がMTによる訳文(MT原稿)をチェックし、誤訳の修正から表記の統一、ブラッシュアップまでを図る工程だ。編集という側面に注目されるあまり、翻訳初心者が受ける仕事と誤解されることもあるが、HT同等の技能がなければPEは務まらない。

「これまでのHTと同様、PEに求められる能力も、基本的な翻訳力、コンテクストを理解するメディアリテラシー、多様なワードチョイスという映像翻訳の3本柱です。MTの進化は映像翻訳者にとって単なる脅威ではなく、これまで培った技術を生かして仕事の幅を広げるチャンスでもあるのです」(JVTA 石井清猛)

JVTAは今夏のサマースクールで、PE体験を取り入れたセミナー「『映像翻訳者×AI』の最新事情を公開!~カギは人間の“言語編集力”。『ポストエディット』の真意を理解しよう~」を開催した。JVTA Media Translation and Accessibility Lab(翻訳室)の石井清猛、JVTA新規事業開発部門で「Subit!」の開発を担う松島朝子が登壇し、およそ160名の参加者に対し、短編映画『A Millennial Job Interview (2017)』のPEを解説した。同作では、就職面接に来たミレニアル世代の女性と、面接官であるベビーブーム世代の男性に生じた世代間ギャップがコミカルに描かれている。

■培った能力でAI時代を生き抜く

「Subit!」が訳出したMT原稿は、作品全体を通して正確性は担保されているものの、直訳調ゆえに台詞として不自然な字幕もあった。その一例が、面接官の態度を高圧的と捉えた女性の”I may have to take off today. It’s mental health day”という台詞だ。「Subit!」では「今日は精神衛生の日だから休まなきゃ」と訳されるが、ここから女性のキャラクターに合わせていかに台詞らしく訳すかがPEのポイントだ。

まず、”mental health”の言い換えとして様々な案が飛び交ったが、もっとも 適している表現として選ばれたのは「心の安定」。さらに「休まなきゃ」は「申請する」に変えることで、最も自然な訳文が出来上がる。ベースとなるMT原稿に、登場人物の表情や口調、前後の場面展開というコンテクストを読み込んで仕上げるPEは、研さんを積んだ映像翻訳者だからこそ成せる仕事でもある。

「作品を深く理解し、表現するという技術は、映像翻訳者にあってAIにはない能力です。MTの進化をやみくもに恐れるのではなく、長所と短所を理解して適切に備えれば、映像翻訳者はAI時代に突入しても長く、幅広く活躍することができるでしょう」(JVTA 石井清猛)

JVTAは昨年10月期より「戦略としてのAI翻訳」をレギュラーコースに導入した。これまでのように翻訳技術を高めながらPEにも対応できるようになることで、映像翻訳者は活躍の場を一層広げることができるだろう。

By Yukiko Takata

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