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【PFF映画祭】ロイ・アンダーソン×JVTA修了生 翻訳のポイントは?

【PFF映画祭】ロイ・アンダーソン×JVTA修了生 翻訳のポイントは?
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「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」は新しい才能の発見と育成をテーマに、1977年から続く映画祭。42回目の開催となる今年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため会場の定員を1/3に削減し、徹底した感染予防策を施した上で開催されています(開催期間:9月12日(土)~9月26日(土))。
 

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9月26日・最終日は自主映画コンペティション「PFFアワード」準グランプリ/グランプリ受賞作品上映のほか、不条理コメディの巨匠、ロイ・アンダーソン特集の目玉『さよなら、人類』が上映されます(2020年11月20日より全国順次公開『ホモサピエンスの涙』で昨年のベネチア国際映画祭銀獅子賞=最優秀監督賞を受賞)。
 


 


 

ロイ・アンダーソン特集ではJVTAの修了生が6本の作品に字幕を付けました。その内の3本『ギリアップ』『自転車を取りに』『何かが起きた』を手がけた皆さんにお話をうかがいました。
 

『ギリアップ』(日本初上映作品)
〈ストーリー〉
ウエイターとして静かな港町のホテルに雇われたよそ者の男。気難しいオーナーや美しきアンナら個性豊かな人々と共に働き始めたが、同僚に話をもちかけられ、犯罪に手を染めることに…。
 

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<字幕翻訳を手がけた福田中さん、御囲ちあきさんコメント>

●どんな作品?
『ギリアップ』は、ロイ・アンダーソン監督の作品の中でも、興行的には振るわなかったと言われていますが、今回はその理由を探りながら字幕を作っていくという、ある種の「おもしろさ」がありました。作業する中で、漫然と鑑賞しているだけでは見落としてしまいがちな細やかな描写など、感心することも多く、自分にとっては、やはり印象深い作品でした。ロングショットの多用とアップの少ない撮影手法や、様々なユニークな人物が登場する設定などには、現在のアンダーソン監督のスタイルの片鱗を垣間見ることができました。当時若かった監督が果敢に挑戦した映画だと思います。(福田さん)
 

『ギリアップ』は私にとって、字幕翻訳の醍醐味を存分に味わうことのできた作品でした。というのも、本作は全体的にセリフが少なく、あっても短いものが多かったのですが、その分、一言一言に含みの多いセリフがたくさん出てきました。原文の意味合いを、限られた文字数でいかに伝えられるかという点で、本作では特に苦労しましたが、悩んだ末に「これだ!」と思える日本語を見つけることが出来た時は非常にうれしく、その過程を楽しみながら翻訳することが出来ました。また、今回が私にとって初めての長編映画のお仕事でしたが、本作に携わらせていただけたことを、とても光栄に感じています。(御囲さん)
 

●翻訳のポイント
作品の前半の字幕を担当させていただいたのですが、主人公と並んで、頻繁に前半に登場するのがホテルの支配人です。かつての栄華を失い変わっていくホテルを嘆き、文句ばかり言っている彼が唯一褒めたのが、ホテルのお抱えのバンドの演奏でした。演奏中のバンドの連中に呼びかけるシーンのセリフ(Gentlemen…That’s a verybeautiful hymn.)は、シーンのユニークさと共に、特に印象に残っています。映画全体としては、セリフの「間」が結構あるので、話の流れが途切れないように注意しました。また、英訳や原文(スウェーデン語)が長く、字幕が収まらない部分は、映像や相手のセリフに情報を託したりして、処理に苦心しました。(福田さん)
 

映画の最後の部分で、主人公の同僚が発する“There’s no help for people like us.”というセリフが印象に残っています。映画の前半に“There’s no one to help people like us.”と言う場面が出てくるのですが、それと呼応して、このキャラクターの行動原理を表す重要なセリフだと感じました。いい表現を見つけるまで非常に悩みましたが、本作はペアで分けて作業していましたので、前半を担当された翻訳者様とも訳をすり合わせし、全体を通してキャラクターがぶれないように留意しながら、訳を考えました。(御囲さん)
 

●映像翻訳を学ぶ人に向けてメッセージ
私は、トライアルに合格するまでにかなり長い時間がかかりました。開き直って色々な訳を試してみようと、「自分自身のトライアル」をしていた時期もあります。結果は惨憺たるものでしたが、おかげで数をこなすことができたし、失敗から学ぶことができました。実際の仕事ではできない経験(冒険)でした。もちろん、私のように効率の悪い方法を取るよりも、普段から自分で色々なジャンルの映像に字幕を付けてみることをお勧めします。すでに字幕がある作品に、敢えて自分で字幕を作ってみて比較をするのがいいかもしれません。トライアルもそうですが、「訳例」と自分の訳と比較・分析できることが大事だと思います。(福田さん)
 

現在、私は映画だけでなく、ウェビナー動画やスポーツ、音楽番組、インタビューなど、本当に様々な案件に携わらせていただいています。ただ、「原文の意味を捉え、絵をイメージし、それを最もふさわしい日本語で表現する」ことを地道に繰り返すという点では、どんな素材でも同じだと感じています。まさに、JVTAの授業で教わってきたことの大切さを実感する日々です。私自身まだプロとして歩みだしたばかりですので、大きなことは何も言えませんが、常に初心を忘れずに、これからも努力し続けていきたいと思っています。(御囲さん)
 

<短編プログラム>

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『自転車を取りに』(写真上段中央)
〈ストーリー〉
学生時代に撮られた短編作品。若いカップルの朝の日常を描く。起きた時から不機嫌そうな彼女に、なぜ起こっているの? と問い続ける恋人。二人は彼の仕事の前に、自転車を取りに出かける。
 

<字幕翻訳を手がけた木村美里さんコメント>
●どんな作品?
「朝の静かで気だるい雰囲気」というキャンバスの上に、若者が抱く将来への漠然とした不安をうまく描き上げた作品だと思います。
劇中のセリフはとても少ないけれど、登場人物であるカップルが短いひと言を発するたびに、2人の間に流れる空気が濃くなったり薄くなったりする。
17分という短編映画でありながら、若い男女の心を丁寧に描いた味わい深い作品だと感じました。
 

●翻訳のポイント
私たちは日常生活で、考えながら話すことが多いですよね。言いかけてやめたり、頭をよぎった話題に飛びついたり…。今回はそうした「とりとめのない会話」が大部分を占める作品でした。 字幕としては論理的に流れるのが理想ではあるため、訳出には悩みましたね。ただ、アンダーソン監督が巧みに切り取った日常のタッチを損なわないようにする必要もあったので、バランスを意識しながら翻訳を進めました。
 

●映像翻訳を学ぶ人に向けてメッセージ
私自身も取り組んでいる課題ではありますが、簡単な言葉を侮らないことが大切だと思います。今回の『自転車を取りに』でも比較的シンプルな言葉ばかりが使われていますが、前後の流れから判断すると実は思っていた意味とは違っていた…ということもありました。知っている単語ほど油断せずに入念に調べ、翻訳に取り組むことが肝心だと思います。
 

『何かが起きた』(写真上段右)
〈ストーリー〉
スウェーデンの社会庁の出資で作られたエイズに関する教育映画。エイズをめぐるフィクションと、さまざまな言説をめぐるナレーションで構成される。
 

<字幕翻訳を手がけた増渕裕子さんコメント>
●どんな作品?
『何かが起きた』はエイズ啓発の映画です。コロナ禍で暮らす私たちにとっては共通する点も多く、30年以上たった今の時代でも共感できることが多い作品だなと感じました。1987年の作品とは思えないくらい、価値観や考え方、エイズについての理解もかなり進歩的です。
ただ、この作品はセリフが非常に少なく、その少ないセリフの中に非常に強いメッセージが込められていたので、作品の淡々とした流れを壊すことなく、監督が伝えたいメッセージを伝える作業にはかなり時間がかかりました。作品を観てエイズの啓発ということはすぐに分かりましたが、その奥には“ウイルスの責任の所在”という非常に際どいメッセージが込められていました。しかも作品の中で、はっきりとは名言していません。映像とキーワードで観客の潜在意識に訴えるという手法をとっていたので、事実関係をしっかり調べたうえで明確な言葉にはせず、作品の軸となるキーワードを紡ぎながら、物語を前に前にと動かしていきました。
翻訳が仕上がった時には、力の限りを出し切ったと思えました。改めて見直すたびに反省点は見えてきますが、今の自分にとっては十分納得のいく仕上がりです。
 

●翻訳のポイント
この作品は今から30年以上前の作品ですが、世の中のマイノリティーに対する思いやりが深く感じられました。「同性愛者の男性が/最初の感染者とされた」というセリフがありますが、このセリフにはこだわりました。観ている人に誤解のないように訳す必要があると思ったからです。この前のシーンでも言っていますが“社会のマイノリティーである同性愛者は、最初の感染者としての罪をなすりつけられた”ということを、観ている人にふと感じてもらえるような字幕になるよう意識しました。
この作品はエイズの啓発と共に、エイズに対する世の中の誤解を解くという意図もあったので、冷静でいながら優しさを感じられる言葉になるよう心掛けました。
 

●映像翻訳を学ぶ人に向けてメッセージ
学習中でも、トライアルでも、仕事でも全てに共通することですが、まず素材を受け取ったら、どんな些細なことでも当たり前と思わず、興味の目を持って事実関係を確認してください。字面だけを追っていては、英文を訳すという意味では100点満点でも、物語の向かう方向性や目的は観ている人に伝わりません。ちょっとしたことでも見過ごさずに興味の目を持って調べることです。事実関係の調査を徹底的に重ねることで、フィクションなら“作者が何を表現したいのか”、スポーツや音楽ドキュメンタリーであれば“ファン心理”を理解することができます。
トライアル合格後も勉強は続きます。些細なことにでも興味の目を持つことを習慣にして、翻訳を一生の仕事にできるよう、まずは楽しんでください。
 

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●第42回ぴあフィルムフェスティバル 
https://pff.jp/42nd/
 

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