ベルリン在住の修了生が大活躍!ニッポン・コネクション現地レポート
世界最大級の日本映画祭「ニッポン・コネクション」が今年も開催。JVTAは今年もアワードスポンサーとして参加するほか、現地で字幕翻訳ワークショップも行った。字幕翻訳ワークショップを担当したのはJVTA講師で映像翻訳ディレクターも務める麻野祥子と、修了生で翻訳者・通訳者として幅広く活躍する内藤裕子さんの2名だ。内藤さんは字幕ワークショップに加え、上映会でのステージ通訳も複数担当している。そんな内藤さんに、ニッポン・コネクションの盛り上がりと、字幕翻訳ワークショップやステージ通訳の様子をレポートしてもらった。
第26回 ニッポン・コネクション 現地レポート
Written by 内藤裕子
世界最大の日本映画祭ニッポン・コネクション(以下、ニチコネ)が、今年も6月2日~7日までドイツ・フランクフルトで開催された。今年26回目を迎えたニチコネでは、6日間で140本以上の作品が複数の会場で上映され、監督や俳優、プロデューサーなど日本からのゲストも多数参加。ニチコネの上映作品の多くは、ドイツ初上映はもとより、ヨーロッパ初上映、日本国外初上映という作品が多く、製作者との直接のQ&Aもあり、熱心な日本文化&映画ファンが毎年数多く集結する。

多様な日本の姿を伝えるラインナップ
映画祭にはニッポン・ライジングスター賞、ニッポン・シネマ賞、ニッポン・ヴィジョンズ審査員賞・観客賞、ニッポン・ドックス賞、ニッポン・ストーリーテリング賞、そして今年新たに創設されたニッポン・アニメーション・ショート賞を合わせ計7つの賞が設けられた。日本で大ヒット中の作品や話題作はもちろん、上映機会のそれほど多くないドキュメンタリーやインディー作品、実験的な作品やデビュー作などさまざまなジャンルの作品から、各受賞作が決まる。こうした多様な作品を上映することで、ニチコネは日本の姿をヨーロッパに伝えている。たとえば、今年のニッポン・ヴィジョンズ審査員賞受賞作品は、山内ケンジ監督の『アジアのユニークな国』。なんと観客賞とのW受賞だった。この“粋社会派深刻喜劇”(作品HPより)をご存じの方はあまり多くないと思うが、こうした作品が審査員からも観客からも高い評価を受けたということがうれしい。JVTAは、そんなニチコネの強力なスポンサーだ。2015年からニッポン・ヴィジョンズ審査員賞の受賞者の次回作品への字幕、ドイツとベルギーの大学生による英語字幕作成をJVTA講師がサポートする海外大学字幕プロジェクト(GUSP)、そして字幕ワークショップを無償で提供している。「日本の映像作品を海外のより多くの人へ届けたい」というJVTAとニチコネは海を越えたベストタッグと言えるだろう。

緊張の会場入り
私はこの映画祭に参加するのは今年で3年目となるが、毎年感じるのは熱量の大きさ。2万人を超える来場者、日本文化が好きすぎてドイツ各地からやってきた100名以上のボランティア運営スタッフが、6日間フランクフルト一画をニチコネカラーのピンク色で埋め尽くす。映画以外の日本文化体験も充実しており、キンツギや和食、はたまた相撲やアニメーションなどに触れられる80を超えるワークショップは、ほとんどが満員御礼だった。

今年、ピンク色のフランクフルトに到着した私はとてもとても緊張していた。まずは、JVTAの映像翻訳ディレクターでありスクール講師でもある麻野さんとともに、字幕ワークショップを実施することになっていた。私はベルリン在住なので現地までそれほどハードルは高くないが、東京からはるばる来てくださった麻野さんに感謝だ。日英映像翻訳を学んでいた頃、いつも丁寧にそしてサクサクとクラス担当してくださった麻野さん。彼女がいれば間違いなく大丈夫。ここは自信を持つことができた。しかし、私はさらに作品上映後のステージ通訳もやることになっていた。「通訳もできますよ」と映画祭スタッフにゆるい営業をした結果、6日間で8作品+授賞式という集中的なスケジュールをいただいた。これは未知の領域だった。

監督の思わぬところで笑いが
結局、通訳として初日から最終日まで緊張しっぱなしだったが、監督や俳優と観客の対話のつなぎ役がとても刺激的だったし、毎回スイッチの入る感じで脳細胞が活性化した。しかし、通訳と言っても突然出ていって通訳するわけではなく、事前に作品を見たり、登壇者と打ち合わせをしたりする。その打ち合わせで印象に残っているのが、『ホウセンカ』の木下麦監督だ。木下監督がこうこぼしていたのだ。「ヨーロッパで数回上映したのですが、いつも必ずある箇所で、こちらが意図していないのに笑いが起きてしまうんです。どうしてでしょうね」その部分を事前に教えていただき、上映スタート。するとやはり該当箇所で笑いが。字幕は間違っていないのに、なぜ。個人的には、トーンとテンポの問題なのではないかと思った。シリアスな場面で強く重たく短い音声なのに、字幕が軽くてコミカルな印象を与えてしまったのかもしれない。「こちらの意図と観客からの反応の齟齬で、字幕翻訳についてちゃんと考える機会になりました」と木下監督。『ホウセンカ』はニチコネ参加にあたり、私も何度も拝見した美しい作品だ。日本語で見た時に伝わってくる製作者の意図を、海外の人にもそのまま味わってもらえる字幕を目指したいという気持ちを新たにした。

日本の若手アーティストを育む
ニチコネは日本の次世代のアーティストの支援にも力を注いでいる。今年はニッポン・アニメーション・ショート部門が新設され、大学生など若い世代のアーティストによる作品が多数上映されたし、日本の登竜門PIAフィルムフェスティバル入選作品も毎年上映している。今年は『紅の空』(瀬川翔監督)、『宮沢さんは剥がさせないっ!』(金澤誠監督)、そして久保地穂乃監督の『僕はガタロウ』の三作品を上映。それぞれの作品には、海外大学字幕プロジェクト(GUSP)による字幕が付いている。JVTA講師との約半年に渡る字幕作りを経験したセリナ・ブロコフさんとサイモン・ピータースさんは、それぞれハインリヒ・ハイネ大学(ドイツ)とゲント大学(ベルギー)の字幕グループを代表して来場。シリアスでミステリアスな雰囲気の『紅の空』を担当したゲント大学チームのサイモンさんに、これはさぞかし訳が難しかったのではと聞くと、「最初は何が起こっているのかわからず、グループで話し合いながら理解を深めていったが、最後まで完全に理解しきったとはいえない」。難解な作品だったが、私はゲント大学チームの英訳のおかげで理解が深まった。一方、『宮沢さんは剥がさせないっ!』と『僕はガタロウ』の喜劇2作品を担当したハインリヒ・ハイネ大学のセリナさんは、「翻訳作業がとても楽しかった。大画面で観て達成感いっぱい」と満足そう。2人とも何度か来日経験があり、周囲の友人も「TikTokなどで同じ内容の投稿があっても、それが日本のコンテンツだというだけで見る」というほど日本好きが多いそう。「日本に何度も行ったし、桜などの日本の美を見るとノスタルジックに感じるほど」とセリナさん。ヨーロッパでは老若男女問わず日本への注目度はますます高まるばかりだ。

『僕はガタロウ』の久保地監督(左から2人目)と俳優の高見亮子さん(左)も登壇。
字幕ワークショップでの気づき
映画祭の終盤、字幕ワークショップには、大学生から80代の方まで幅広い年齢層の20人に参加いただき、日本映画を素材に、字幕作りを体験してもらった。字幕という限られた形式の中で、場面のどの情報を取捨選択するのか、その場面にぴったりな言葉は何かなど、グループで話し合ってもらい、その場で作った字幕を映像に合わせて見てもらった。皆さんそれぞれ楽しそうだったし、英語がそれほど得意でないという方からも「知的な作業がとても楽しかった」と喜んでいただいた。字幕の楽しさを知っていただくのを目標に定めていたので、とてもうれしいコメントだった。頑張って準備した甲斐があった!そして、参加者の皆さんの字幕作りを見ていて、字幕作りの基礎は通訳にとても役立つということを発見した。情報を全部伝えるのではなく取捨選択し、ちょうどよい強弱を付けて、話者の気持ちや意図をいかに相手に聞いてもらうか。ニチコネの大先輩通訳者にこのことを話すと、実は彼女も昔映像翻訳の仕事をされており、「私もそう思ってた!」と激しく同意いただいたので、きっと本当なんだと思う。

最後に
映画祭を通して何人もの映画製作者の方が「ニチコネは本当に温かい映画祭」だと仰っていた。最終日の授賞式の最後、運営ボランティアが全員舞台に上がり、一礼する。するとその日一番とも思える万雷の拍手が起こった。何かを作り上げる者同士の敬意みたいなものが感じられ、私は勝手に感動していた。素晴らしい作品を生み出してくださるアーティストの皆さん、この唯一無二の映画祭を運営してくださったチームの皆さん、ボランティアの皆さんに、心から感謝申し上げます。また来年もお会いできますように!

執筆者:内藤裕子
1984年生まれ、新潟県出身。JVTAの映像翻訳Web講座・日英映像翻訳科を修了。
2015年からベルリン在住、2022年からフリーランスとして字幕翻訳や通訳、コンテンツライティングなどを行う。大学では日本文学、英国の大学院では国際政治を学んだ後、フェアトレード会社やNGOなどを経て渡独。ベルリンの気ままさが性に合うのか居心地がよく、在独10年を越えた。

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