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「TUFS Cinemaイラン映画上映会」が開催 検閲下のイランで人々が詩に託した想いを読み解く

<strong>「TUFS Cinemaイラン映画上映会」が開催 検閲下のイランで人々が詩に託した想いを読み解く</strong>

7月4日(土)、東京外国語大学で「TUFS Cinemaイラン映画上映会 『捨てられたものたちの詩人』」が開催される。日本語字幕をJVTAで学んだ翻訳者5名(加藤きく美さん、鈴木詩乃さん、土方有希さん、彦坂貴美さん、松本悠里さん)がチームを組んで5つのパートに分けて制作した。主人公はイランで詩人を目指しながらも清掃員となった青年。想いを寄せる女性に匿名で手紙を送り続ける。イラン国内の検閲下で製作されたため、曖昧かつ詩的な表現が随所に用いられており、その解釈が作品理解の鍵となった。翻訳者はイラン社会に関するリサーチと作品の解釈についてチームで話し合いを重ねたという。

この作品の背景や見どころについて、翻訳者の土方有希さんと彦坂貴美さんはこう話す。

「この映画は、2005年のイラン社会を映し出しています。イランでは雇用不足が深刻で、失業者も多い時代でした。そうした社会の中で、将来の夢をあきらめざるを得ず、清掃員として働く若者たちの生き様が心を打ちます。また、人目を忍んでひっそりと暮らす詩人の姿から、言論の自由が制約された抑圧的な社会であったことが伝わってきます。」(土方有希さん)

「見どころは、希望のない中にも希望を見出して生きる主人公の姿だと思います。私たち日本人は恵まれた環境に生きていますが、外国に目を向けてみれば、明日の命の保証もない、そういう環境に生きている人々もいます。そんな中でも、この作品の主人公は、詩を愛し、愛する人を見つけ、ひたむきに生きています。作品のクライマックスで、主人公の愛は女性に伝わったのではないかと私は思っています。最後の女性の表情をぜひ見てほしいです。」(彦坂貴美さん)

冒頭のパートを担当した鈴木詩乃さんは、作品の舞台背景やテーマを観客に提示する重要な役割を担っていたため、宗教的・政治的な背景描写には最大限の配慮を尽くしたという。イランには古くから詩が深く根付いており、その音感や表現は、思わずうっとりしてしまうほど美しいと鈴木さんは振り返る。

「本作は、そうしたイラン特有の詩的な感性を駆使し、社会問題や政治的なテーマを間接的かつ秀逸に描き出しています。さらに社会に対する鋭い風刺を、視覚的な面白さを交えて軽やかに表現している点も面白く、とても魅力的な作品です。」(鈴木詩乃さん)

加藤きく美さんが担当したパートにも短い詩があった。解釈に特に悩んだのは、愛の詩の一節の「歯」という言葉だったそうだ。

「ペルシャ語の現代詩は、自由な芸術作品としてではなく、政治批判のための表現手段として使われることもあります。そのような背景を踏まえながら本作品を見ると、より深く理解できるのではないかと思います。この比喩表現は何を表しているのか、本当は何を訴えたいのかを考え、社会背景とともにイランで隠喩として使われる言葉を調べながら訳しました。」(加藤きく美さん)

「検閲下で『語らずに語る』構成にぜひ注目してほしい」と話すのは、松本悠里さんだ。直接的に語れない制約があるからこそ、詩やゴミの中の手紙といった間接的な手段を通じて、登場人物たちの愛や希望、絶望、社会への静かな怒りなどが浮かび上がってくるという。

「劇中で老詩人が語る蝶の逸話は、ギリシャの作家カザンザキスの小説『その男ゾルバ』からの引用でした。まゆの中の蝶を早く羽化させようとして息を吹きかけ、結果的に殺してしまうという話です。出典を確認したことで、この逸話が作品の中で『焦り』というテーマとどう結びつくかを意識でき、登場人物の語り口や言葉の重さを日本語に移す際の指針になりました。」(松本悠里さん)

この作品の翻訳にあたり、JVTAでは翻訳チームの特別トライアルを実施。今回は比較的納期に余裕があることや上映会単発の作品であること、調べものなど翻訳者にも学びが多い作品であることなどを理由に通常のトライアル(隔月で開催)とは別に本件限定でのトライアルを行った。合格した5名は、全体を5つのパートに分けて各自が翻訳後、全員ですべての字幕を精査し、1つの字幕に仕上げた。それぞれが重ねたリサーチ内容を共有し、5つの視点で考えた解釈の基に再校し、ワードやトーンの統一を図ることでより、字幕の精度を高めていく。一人では気づけなかったポイントをお互いに再確認できることが最大のメリットだ。

「チーム翻訳では相互チェックがあるので、なぜその言葉を選んだのか、自分の訳語を説明する必要があります。スクールでは『根拠をもって訳す』ことの大切さを学んできましたが、チーム翻訳を通して、根拠ある訳語選びをより一層意識するようになりました。」(加藤きく美さん)

「私の訳をチェックしてくださった方が、担当パートに出てくる詩の一節の出典を教えてくださいました。そのおかげで、さらに掘り下げて調べることができました。翻訳には丁寧なリサーチが欠かせないことを改めて実感しました。」(土方有希さん)

「一番苦心したのは、イランの文化や言葉を『どこまでかみ砕くか』というさじ加減です。分かりやすくしすぎると作品特有の空気感が消え、かといって説明不足では伝わらない。この難しいラインを他のメンバーと話し合い、何度もリライトを繰り返しました。物語の独自性を損なわず、かつ分かりやすくもある…その絶妙なバランスを追求して、最終的な訳に落ち着きました。」(鈴木詩乃さん)

「英語字幕自体がペルシャ語からの翻訳であるため、そこまで遡って検証し、前後の展開に矛盾が生じない表現をチームで探りました。原文をただ訳すだけでなく、作品全体の整合性を保つことの大切さを実感しました。」(松本悠里さん)

「この作品を通して、作品の美しい部分を視聴者にそのまま伝える手助けをするのが翻訳者の役割ではないかと思いました。視聴者の方々に、作品の美しさが伝わることを願っています。」(彦坂貴美さん)

この上映イベントでは、トークイベントで専門家による解説も予定されており、イラン社会を内側の視点から見ることができる貴重な機会となるはずだ。ぜひ、会場に足を運んでみてはいかがだろうか。

◆TUFS Cinemaイラン映画上映会『捨てられたものたちの詩人』
日時  2026年7月4日(土) 14:00開映 (13:40開場、16:30終了予定)
会場  東京外国語大学 アゴラ・グローバル プロメテウス・ホール
公式サイト:https://www.tufs.ac.jp/event/2026/260704_c01.html

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