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【東京国際映画祭でワールド・プレミア上映】鯨岡弘識監督の最新作『Saravah』の英語字幕秘話

<strong>【東京国際映画祭でワールド・プレミア上映】鯨岡弘識監督の最新作『Saravah』の英語字幕秘話</strong>

ドラマ『ぼくたちん家』や映画『青春ゲシュタルト崩壊』などを手がける若手実力派、鯨岡弘識監督の最新作『Saravah』が、第39回東京国際映画祭・アジアの未来部門でワールド・プレミア上映される。英語字幕はJVTAの修了生であり、現在は日英映像翻訳プログラムでも講師を務める足立リリーさんが手がけている。

『Saravah』は、天才脚本家から届いたゴーストライターの依頼から始まる物語。ゴーストライターを引き受けた男・リクを中心に、十年ぶりに集まったかつての同級生3人を軸に展開していく。

足立さんが、翻訳でこだわったのは、作品のタイトルにもなっているブラジルポルトガル語、「Saravah」という言葉だ。これは、セリフにも度々登場する重要な言葉でもある。作中では日本語の「さらば」についても言及されるため、「サラヴァ」の意味を正しく理解した上で、両者を明確に区別して表記する必要があったと足立さんは話す。この作品の翻訳にあたり今回、運命的な出逢いがあったという。

「『Saravah』という言葉について私は、日本語・英語・ブラジルポルトガル語に堪能な、ブラジル在住の方に相談しました。ただ、その人は私の『友達』ではなく、実は、私の『推し』のアーティストなのです。日本人とブラジル人のハーフで、素晴らしい感性を持ったシンガー・ソングライターです。このお仕事をいただく前から、日頃からやりとりをする仲でしたし、その人の歌詞を通して、『言葉』をとても大切にしているのは知っていました。だからこそ、ブラジルポルトガル語のニュアンスを相談するならこの人しかいない、と思いました。」(足立リリーさん)

映画の情報解禁前だったため、足立さんは作品名など具体的な内容は伏せたまま、「サラヴァ」が現地でどう使われているのか、どのようなニュアンスを持つ言葉なのかを尋ね、日本語の「さらば」とも区別しないといけない、と相談した。すると期待した通り、的確なアドバイスを得ることができ、安心して翻訳に取り組めたという。

「その『推し』と知り合ったのは、この案件のわずか一カ月前です。しかも、その時点では、その人が日本人だとは知りませんでした。自分の『推し』に仕事の相談をする日が来るとは夢にも思いませんでした(笑)。その人との出逢いも、『Saravah』との出逢いも、運命だったとしか思えません。」(足立リリーさん)

物語の核となる人物はリク、ハト、桜介の3人。彼らは同級生だが、それぞれの関係性によって、お互いへの話し方も異なる。足立さんは、“リクと桜介の軽快なやりとり”、“ハトが桜介に向ける、行間を読ませる話し方”、“リクに対するハトの苛立ちやつっけんどんな言い方”など、それぞれのセリフの背景や彼らの想いを読み解きながら、英語字幕に反映していった。

©2026 Saravah

「映像翻訳において、私が常に大切にしているのは、日本語で作品を観た私たちが感じ取ったものを、英語字幕で観る方々にも同じように感じ取ってほしい、という思いです。日本語の空気感を英訳にも落とし込むことを常に心がけています。同級生同士の会話なので、セリフの冒頭に『ああ』『まあ』『へえ』『あっ』『ふうん』といった言葉がよく出てきます。文字数制限を考えると、こうした言葉は真っ先にカットする人も多いと思います。しかし、実はこうしたあいづちや感嘆詞に、キャラクター同士の関係性が表れていると感じましたので、可能な限り英訳いたしました。」(足立リリーさん)

日常生活の中で相手との距離感が変われば、お互いの言葉遣いや態度も変わっていくものだ。足立さんは、作中のリクとマネージャーの雪入との会話にもそんな変化を感じた。物語の序盤、雪入はリクに対して、感情を感じさせない淡々とした話し方をするが、物語が進み、2人の関係性に変化が生じると、話し方も変わっていくと足立さんは話す。

「私の理想は、まるで登場人物がしゃべっているかのような英語字幕を創ることです。リクと雪入の間にある空気感の変化を英語字幕にも反映させるため、例えば、返事の『Yes』を『Yeah』に変えるなど、日本語と同じ雰囲気や空気感、2人の関係性の変化が英語でも伝わるよう工夫しました。」(足立リリーさん)

©2026 Saravah

作品の後半、切羽詰まった状況に追い込まれた面々。同級生3人とマネージャーの雪入との会話が、足立さんの大好きなシーンなのだという。

「ハトの『あ、私?』というセリフに対して、雪入が間髪入れず、苛立ちを含めて、冷たく『そうです』というやりとりがあります。雪入の絶妙なタイミングの『そうです』が最高で、毎回クスっと笑ってしまいます。英語字幕は以下のようにしました。

– Oh, me?

– Yes, you.

ここの空気感は、『Yes』だけでは絶対に再現できないと思い、このような軽快な英訳にしました。」(足立リリーさん)

豊富な翻訳経験のある足立さんは、JVTAで日英映像翻訳プログラムの講師として指導もおこなっている。実は今回、ある単語について、いつも講義で教えていることとはあえて違う訳し方をしたと明かしてくれた。

「それは、『先生』です。英語で『sensei』と表記すると、空手などの武道の先生を思い浮かべる人が多いため、漫画家や作家に対しては、『sensei』の使用を避けましょう、と講義では教えています。しかし今回は、劇中で『先生』という呼び名について語るシーンがありましたので、あえて『sensei』を使用いたしました。」(足立リリーさん)

英語字幕について、鯨岡弘識監督からJVTAにメッセージを頂いた。
「映画『Saravah』ならではの空気感やニュアンス、言葉遊びまでもを包括的に理解・表現していただき、字幕の可能性に改めて驚かされました。この度は本当にありがとうございます!」(鯨岡弘識監督)

足立さんが丁寧なリサーチや解釈を字幕に反映した「Saravah」の意味とは?ぜひ、会場で作品を観て確かめてほしい。

◆『Saravah』 公式サイト 
◆東京国際映画祭 紹介ページ

足立リリーさん

TV局で社内通訳・翻訳に携わった後、フリーランスに。ドキュメンタリー、映画、バラエティ等の日英字幕・台本に加え、さまざまな分野の翻訳を受け持つ。『スパイの妻』VR作品『金峯山寺』『奇跡の子どもたち』ドキュメンタリー番組『わ・す・れ・な・い・東日本大震災155日の記録』など多数の英語字幕を手がける。

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