これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第143回 “FURIOUS”(『フューリアス:奪う女と追う女』
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第143回“FURIOUS”(『フューリアス:奪う女と追う女』
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
予告編:『フューリアス:奪う女と追う女』 本予告
『オペラ座の怪人』の歌姫がFBI捜査官になった!
本作は、『オペラ座の怪人』(2004)の歌姫クリスティーヌことエミー・ロッサム主演のクライムドラマ。
“Furious”はDisney傘下のhuluオリジナル、NYを舞台に魔性の女シリアルキラーとトラウマを抱えるFBI捜査官が対峙する、迫真のファム・ファタール(悪女もの)・サイコスリラーなのだ!
“I get so f–king angry!”
キャサリン・グレース(ローラ・ペティクルー)は、ハロウィンの夜にイーストン元判事を彼の自宅で殺害した。彼女は死因がフェンタニルのOD(過剰摂取)であるように見せかけた。
キャサリンは妖艶な魅力でターゲットと親密になると、時間をかけてなぶり殺す。そして巧みな変装で姿をくらます。彼女の復讐は着々と進んでいた。
アリス・ブラック(エミー・ロッサム)はFBIニューヨーク支局の捜査官。最近までNYPD(NY市警)殺人課の刑事だった。アリスは恋人の刑事から酷いDVを受け、そのクズ男を糾弾して自主退職した。その後FBIに採用されたものの、コールセンターの苦情処理しか任せてもらえない。
アリスはPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えていて、時おりパニックアタックを起こす。
NYPD殺人課の刑事ダニー・ケリー(スクート・マクネイリー)はアリスの元相棒。離婚したばかりのメッツファンだ(筆者注:メッツファンは寛容と言われている)。彼はアリスの側に立ったせいで、署内で嫌がらせを受けている。
ダニーはイーストン元判事のOD事件を担当するにあたり、FBIからのアドバイスを受ける名目でアリスを犯行現場に呼び出した。旧交を温める間もなく、2人は死体や部屋の状況から、元判事の死が事故ではなく殺人だと疑う。
アリスは数年前に同様の手口で殺された密売人の事件に注目し、本件と結び付けた。また防犯カメラや隣人の証言から、容疑者の女が浮かび上がる。
アリスは調査結果をFBI性犯罪課長のノーラ・ワシントン(クインシー・タイラー・バーンステイン)に直接持ち込んだ。ノーラは当時、その密売人を少女売買の疑いで追っていた。アリスは元判事の死が少女売春絡みではないかと考え、自ら担当したいと申し出た。
やがて、アリスとキャサリンの人生は、宿命的に交錯することになる…。
“Shameless”のフィオナがFBI捜査官になった!
アリスを演じたエミー・ロッサムは、『オペラ座の怪人』で脚光を浴びて、ゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされた。メガヒットしたお下劣爆笑長寿コメディ“Shameless”(2011-2021)では、奔放で頼りになる長女フィオナを演じてスターダムに駆け上がった。筆者もファンの一人として、「おお、あのフィオナがFBI捜査官になったか!」と感無量であった。ロッサムは本作でも確かな演技で闇を抱えるアリスを熱演した。
キャサリンを演じたローラ・ペティクルーは、新進気鋭のアイリッシュ・アクターだ。復讐に燃えるサイコパスのシリアルキラーに息を吹き込み、ロッサムと互角に渡り合った。次作は世界中で大ヒットしたビデオゲームのドラマ版“Assassin’s Creed”で、主演が予定されている。
アリスに想いを寄せる元相棒ダニーを演じたスクート・マクネイリーは、地味なベテランアクター。代表作は麻薬捜査官を演じた“Narcos: Mexico”で、最近ではアクションドラマの佳作“Man on Fire”(『マイ・ボディガード』のドラマ版)に出演している。イケメンではないが、内面の優しさと強さがにじみ出るダニー役に見事にハマった。
アリスのタフなアルコール依存症の上司ノーラ役のクインシー・タイラー・バーンステインは、“Power”、“Ray Donvan”などのクライムドラマで顔なじみ。
また、キャサリンの親友で重度の障害者オールデンを演じたスティーブ・ウェイ(実際に筋ジストロフィーを患っている)の存在感は圧倒的で、作品にリアリティを与えている。
「法による正義」対「個人の復讐」!
クリエーター(兼製作総指揮兼共同脚本)のリズ・メリウェザーは、7シーズン続いた“New Girl”、昨年主要6部門でエミー賞にノミネートされた“Dying for Sex”などのコメディで名高い。今回は趣の異なるダークな犯罪スリラーを送り出してきた。
ストーリーは、デボラ・ウィンガーとテレサ・ラッセルが共演した『ブラック・ウィドー』(1987)がベース(懐かしいなあ)。だが、連邦捜査官がシリアルキラーを追うという基本設定以外はまったく別物だ。
メリウェザーは本作をフーダニット(犯人探し)としなかった。キャサリンの犯行を冒頭からオープンにして、彼女の過去、犯行動機、心理状態をじっくりと描いた。このアプローチは効果的で、キャサリンは単なる追われる犯人以上の存在となり、主役のアリスと対等になった。
次第に明らかになるキャサリンとアリスの過酷な人生。重犯罪者でありながらも社会のトップに君臨する権力者たち。2人に共通するのは、激しい怒りと闇を抱え、心の傷と戦いながら正義を求める意志の強さだ。彼女たちの人生は似通っているが、正義の立場は正反対。こうして、「法による正義」対「個人の復讐」の構図が浮かび上がり、2人の激しい心理戦が繰り広げられる。
アリスとダニーの微妙な関係も見逃せない。2人は強い絆で結ばれ、お互いに惹かれあってもいる。だがダニーにとってアリスは、愛するにはあまりにも激しく、複雑な女性。一方、アリスにとってダニーは心のオアシスで、信頼できる唯一無二の存在だ。それゆえに恋愛関係が上手くいかずに彼を失うことを恐れている。
パイロットの冒頭から漂う緊迫感は最後まで途絶えることがない。終盤はペースが上がり、ツイストの連続で予測不能。アリスとキャサリンの対峙シーンは圧巻で、ハッピーで悲しいエンディングは心に残る。
シーズン2の制作も決まった。“Furious”は、激しい怒りと闇を抱える女2人を巡る迫真のファム・ファタール・サイコスリラーなのだ!
(邦題は『フュリアス』の方がすっきりして、かつ実際の発音に近いと思うのだが…。)
原題:Furious
配信:Disney+
配信開始日:2026年7月27~8月31日
話数:8(1話 48-57分)
<今月のおまけ> 「これもお勧め、アメリカン・ドラマ!」(7月~9月)
※過去に本ブログ(<今月のおまけ>を含む)で紹介した作品の新シーズンは除きます。
●“I Will Find You”(『捜索者の血』、Netflix)
超売れっ子作家ハーラン・コーベン原作、息子殺しで服役中の父親(『アバター』のサム・ワーシントン)が脱獄して真相を追う、突っ込みどころ満載だが滅法面白い逃亡者スリラー!
●“X-MEN ‘97”(『X-MEN ‘97』 S1-2、Disney+)
けた外れの創造力と人類とミュータントに関する深い考察に満ちた、原作コミックを忠実に再現する“X-MEN: The Animated Series”(1992-1997)の続編!
●“Star City”(『スター・シティ』、Apple TV)
‘60年代、ソ連の宇宙開発責任者の金星征服を巡る夢と野望を描く迫真の歴史改変Sci-Fiドラマ!(“For All Mankind”の姉妹編)
●“Lucky”(『ラッキー』、Apple TV)
“The Queen’s Gambit”(本ブログ第74回参照)のアニャ・テイラー=ジョイ主演のリミテッドシリーズは、1千万ドルの強盗に失敗した詐欺師の父娘を活写するノンストップ・クライムスリラー!
●“Chad Powers”(『チャド・パワーズ 人生コンバート大作戦』 S1-2、Disney+)
アメフトの全米大学選手権決勝で大失態を演じてキャリアを失ったQB(『ランニング・マン』のグレン・パウエル)が、8年後に変装して地方の弱小大学のスターとなる笑いと感動のスポーツコメディ!
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。








