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ロジカルリーディング力を鍛える⑮ 辞書を引く習慣をつけよう

ロジカルリーディング力 強化コースは“プロの映像翻訳者が持つ思考プロセス”を伝授し、映像翻訳に必須の「英文解釈力」を着実にレベルアップさせることを目的としています。

 
英文読解を高度な知的活動と捉え、英文を「何となく読める」レベルから脱却し、確実な根拠に基づいて理解した内容を自分の言葉で説明できるようになるまで考え抜くトレーニングを行います。英字紙の社説やコラム、政治家のインタビューなど、深い内容の素材を訳しながら、英文を貫く論理の見出し方、筋の通った訳文の作り方を学びます。具体的にどんな講座なのか、山根克之講師が解説します。

 
<辞書を引く習慣をつけよう>
今年はスポーツの国際大会が数多く開催されています。春先のワールド・ベースボール・クラシックに始まり、夏は世界陸上、世界水泳、バスケットボールワールドカップ。現在はラグビーワールドカップがフランスで開かれています。先日(日本時間9月18日)は日本代表がイングランド代表相手に善戦したものの、敗れました。(早起きしてテレビの前で応援したのですが…)

 
その試合を伝える海外メディア(https://www.express.co.uk/sport/rugby-union/1813884/England-booed-Rugby-World-Cup-Japan)の記事の中に次の文を見つけました。解説を読む前に自分なりに訳してみてください。

 
Booed by their own fans at the Stade de Nice for their obsessive kicking – bad kicking at that – England had flirted with defeat for 56 minutes against a side who they beat 60-7 the last time they played them at a World Cup.

 
考えるポイントはいくつかありますが、今回取り上げたいのはflirt withという表現です。英和辞書を引くと、「戯れに恋をする」「いちゃつく」「面白半分に手を出す」「(危険に)わざと身をさらす」などの意味が目につきますが、どれもしっくりきません。「負けに身をさらす=負ける、負けそうになる」と考えてもよさそうですが、もう少し確実な根拠が欲しいところです。そこでもっと細かく丁寧に見ていくと、『リーダーズ英和辞典』に「もう少しで達する」という定義が見つかります。また、Merriam -Websterのサイトには「to come close to reaching or experiencing something」と書かれています。これで自信を持って「もう少しで負けそうだった」と解釈できます。全体の訳は次のような感じになるでしょう。

 
イングランド代表は執拗にキックにこだわり、しかもそのキックも功を奏さず、スタッド・ド・ニースにやって来た自国のファンからブーイングを浴びた。前回ワールドカップで対戦した際には60対7で破った日本を相手に56分までは負けてもおかしくない雰囲気が漂っていた。

 
「しかもそのキックも功を奏さず」と訳したbad kicking at thatのthatは何を指しているのか疑問に思った方もいるかもしれません。「それに対するひどいキック」と訳しても意味を成しませんよね。このような時は「ひょっとしてat thatで熟語的な定義があったりするの?まさかねぇ、でも…」と思いながら辞書を引いてみてください。ちゃんと「さらに」「しかも」という意味が載っています。

 
言葉の意味に関して少しでも疑問を持ったら、まず辞書を引いてみましょう。辞書のページを開けば、新しい世界が開けることもあるのです。

 
今回見てきたような単語の定義レベルから丁寧に考える力を身につけたい方は、ロジカルリーディング力強化コースをぜひ受講してください。
 
(Text by English Clock 主任講師 山根克之)
 

◆English Clock「ロジカルリーディング力 強化コース」
2023年10月24日より開講 無料体験レッスンを開催中
https://www.jvta.net/tyo/english-clock-orientation/

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第107回 “ONE PIECE” 

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第107回“ONE PIECE”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 

予告編:『ONE PIECE』 本予告

 

実写版『ONE PIECE』は凄かった!!!

配信直後から世界を席巻している実写版『ONE PIECE』。このNetflixによる日米英共同大作は、原作の再現性が驚くほど高い。お馴染みのヒーローたち、愛すべきヴィラン(悪役)たちが、完璧なキャストを得て、ライブアクションで躍動する。
もちろん、原作未経験でも何ら問題なし。

 

“ONE PIECE”は、今年最高のサプライズ。自由を求める若きアウトローたちの夢と冒険、希望と成長、決意と覚悟、挑戦と挫折、友情と絆が活写される、底抜けに楽しい、クールで熱いファンタジー・海洋冒険活劇なのだ!

 

“This is a world of pirates”

—ローグタウン、22年前
海賊王ゴールド・ロジャーがついに海軍に捕らえられ、処刑された。それ以降、世界中の海賊たちが、ロジャーが隠した「ひとつなぎの大秘宝」(“One Piece”)を血眼になって探し始めた。

 

—東の海(“East Blue”)、現在
モンキー・D・ルフィ(イニャキ・ゴドイ)は、いつも麦わら帽をかぶっている超楽観的な駆け出しの海賊だ。彼の夢は、敬愛する海賊‘赤髪のシャンクス’(ピーター・ガジオット)のように自分の船とクルーを持つこと。そして“One Piece”を発見し、海賊の王になるのだ。

 

ルフィは昔「ゴムゴムの実」を知らずに食べたことから、体全体がゴムのように伸びるスーパーパワーを持つ。

ある日ルフィは、海賊の雑用係だったコビー(モーガン・ディヴィス)を自由の身にしてやった。コビーの夢は海軍に入って弱い者を守ることだ。

 

ルフィは“One Piece”発見のカギとなる’偉大なる航路’(“Grand Line”)の海図を盗むために、コビーと共にシェルズタウンの海軍基地へ向かった。

 

ルフィは基地内で磔にされていたロロノア・ゾロ(新田真剣佑)を助け出す。ゾロは世界一の剣士を目指す‘海賊狩り’(賞金稼ぎ)だ。だが酒場で海兵とトラブルを起こし、基地を牛耳る海軍大佐‘斧手のモーガン’に捕らえられたのだった。

その頃、オレンジ髪の泥棒ナミ(エミリー・ラッド)も、同じ海図を求めて基地に潜んでいた。彼女は棒術の使い手で、優れた航行士でもある。

 

鉢合わせしたルフィとナミは協力し、まんまと海図を盗み出した。

 

ルフィ、ゾロ、ナミの3人は、団結して手ごわい‘斧手のモーガン’とその部隊を制圧し、船で脱出する。
だがコビーは残り、憧れの海兵となる道を選んだ。

 

こうして偶然出会った3人は、“One Piece”を求めて冒険の旅に出る。だが彼らの行く手には、海軍のみならず、破天荒な異形の海賊たちが立ちはだかる!

 

イニャキ・ゴドイはルフィそのもの!!

イニャキ・ゴドイはメキシコ出身の20歳で、これが初の主役。原作者の尾田栄一郎が一目見て惚れ込んだだけあって、明るくエネルギッシュなゴドイはルフィそのもの。麦わら帽もよく似合う。

 

ゾロを演じた新田真剣佑は千葉真一の息子。演技力はあるしLA生まれの自然な英語なので、お父さんと違って安心感がある。彼の三刀流の殺陣とマーシャルアーツは、本作の見せ場の一つだ。

 

ナミ役のエミリー・ラッドは原作のイメージとは異なるが、見事にフィットした。華がある押し出しと高い演技力は、“Mad Men”のクリスティーナ・ヘンドリックスを髣髴させる。日本のアニメ好きでもある。

 

モーガン・ディヴィスは、ルフィへの恩と職業倫理との間で悩むコビーをヴィヴィッドに演じた。オーストラリア出身で、私生活ではトランスジェンダーであることをカミングアウトしている。

 

‘赤髪のシャンクス’役のピーター・ガジオットは、“Queen of the South”で演じたヒットマンのジェームズが超カッコよかった。クールなシャンクスにぴったりだ。

 

他にも、後に‘麦わらの一味’となる2人、パチンコの名手ほら吹きウソップ(ジェイコブ・ロメロ・ギブソン)と、女好きの戦う料理人サンジ(タズ・スカイラー)が登場。

 

さらに「海賊の部」からは、体を分離して戦う‘道化のバギー’(ジェフ・ウォード)、魚人の総帥‘ノコギリのアーロン’(マッキンリー・ベルチャー三世)、史上最強の剣士‘鷹の目のミホーク’(スティーヴン・ウォード)らが参戦する。
いずれも適材適所のアクターたちが、原作キャラの雰囲気を存分に味わせてくれる。

 

Netflixの輝く星となるがいい!

ショーランナー(兼共同脚本)は、Marvelの“Luke Cage”、“Agents of S.H.I.E.L.D”等の脚本家マット・オーウェンズと、“CSI: Miami”、“Lost”などを手掛けたスティーヴン・マエダ。完成まで7年、尾田栄一郎は製作総指揮として深く関与し、撮り直しもさせたという。

 

『ONE PIECE』は‘97年の連載開始以来すでに単行本106巻が出版され、現在も継続中。漫画・アニメともに1000話を突破している。世界で累計5億部以上を売り上げた、日本が誇る冒険漫画の傑作だ。

 

本作(シーズン1)は、原作の1~11巻を圧縮してカバーする。エピソード当たりの製作費は約26億円で、“Game of Thrones”より高い!

 

原作の壮大なスケールと確固たる世界観、ユニバーサルで魅力的な登場人物たちが、忠実に再現された。特撮のさじ加減が絶妙で、やり過ぎ感なくリアリティを維持している。ストーリーとキャラは巧みに変更・省略され、ギャグは抑え目、セットは贅沢で斬新なアクションがふんだんにある。

 

ルフィは能天気に、しかし不退転の決意をもって最高の仲間を集めていく。‘麦わらの一味’は強い絆で結ばれているが、各自のコード(行動規範)は全く違う。フラッシュバックで語られる一人ひとりの過去は、いずれも味わい深く、切なく、忘れがたい。海賊といっても、彼らはピュアな義賊なのだ。

 

パイロットで一気に惹きつけ、各エピソードは加速度的に面白くなり、全8話が息つく暇なく終わる(各話ごとに代わるタイトルロゴも楽しい)。シーズンフィナーレのクライマックスは圧巻の迫力で、大団円のエンディングには胸が熱くなる。

 

“ONE PIECE”は、メイド・イン・ジャパンの漫画から初めて生まれた、空前の面白さの、世界で勝負できる実写ドラマ。自由を求める若きアウトローたちの夢と冒険、希望と成長、決意と覚悟、挑戦と挫折、友情と絆が活写される、底抜けに楽しい、クールで熱いファンタジー・海洋冒険活劇なのだ!

 

“ONE PIECE”よ、“Stranger Things”(本ブログ第32回参照)に代わるNetflixの輝く星となるがいい。

 

原題:ONE PIECE
配信:Netflix
配信開始日:2023年8月31日
話数:8(1話 49-64分)

 

<今月のおまけ> 「心に残るテレビドラマのテーマ」⑰
Title: “I’m Gonna Be King of the Pirates / We Are!”
Artist: Sonya Belousova and Giona Ostinelli
Drama: “ONE PIECE” (2023)

『ウィーアー!』(”We Are!”)はアニメ版の初代オープニングテーマ。

 

※この作品の日本語字幕をJVTAの修了生が手がけています。
翻訳者のインタビューはこちら

 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 


【2023年10月期以降の映像翻訳コース】カリキュラム改編のお知らせ

2023年10月期より東京校の映像翻訳コースにおいて、カリキュラムの一部改編を実施することになりました。プロの映像翻訳者に必要なスキルの習得や対応力に加え、フリーランサーとして活躍していくうえで、時代の変化に適した知識や技術を身につけ、実務に役立つ翻訳技能の向上を図ることを目的としています。

 
=改編の主たる理由=
・吹き替え翻訳の案件の需要増加に伴う翻訳者の吹き替えスキルの強化
・AI翻訳の捉え方、活用の仕方についての理解向上

 
=新しく加わる授業=
●英日映像翻訳
・総合コース・I:「吹き替え翻訳の基礎~リップシンク②」
「戦略としてのAI翻訳(基礎)」
「フリーランサーの仕事術A」(ビデオ受講)
 
・総合コース・II:「吹き替え翻訳の演習~リップシンク③」
「吹き替え翻訳の演習~リップシンク④」
「戦略としてのAI翻訳(基礎)」
 
・実践コース:「模擬発注リップシンク④」
「戦略としてのAI翻訳(基礎)」
 
●日英映像翻訳
・日英総合コース:「吹き替え (短編映画)」
 
・日英実践コース:「戦略としてのAI翻訳(基礎)」

 
カリキュラムの詳細はこちら:https://www.jvtacademy.com/chair/

 
日本映像翻訳アカデミー(JVTA)が掲げるミッション、「言語の習得に人生を重ね、学び、行動するすべての人を応援する」を果たすべく、今後も受講生・修了生の皆さまに寄り添いながらプロの映像翻訳者の育成及び支援に尽力し、変化し続ける社会のニーズに対応するために必要な講座やコースの企画立案、開講、運営に力を注いでいきます。

 
以上

 
【お問い合わせ】
電話 03-3517-5002
メールアドレス seminar(at)jvta.net  ※ (at) は @ に置き換えて下さい。

【プロデビューの翻訳者に聞く】映像翻訳の魅力、JVTAを選んだ理由、今後の目標…etc.

JVTAではスクールに併設された受発注部門が皆さんのデビューをサポートしています。さまざまなバックグラウンドを持つ多彩な人材が集結。映像翻訳のスキルを学んだことで、それぞれの経験を生かしたキャリアチェンジを実現してきました。トライアル合格後にOJT(On the Job Training )を終え、英日、日英の映像翻訳者としてデビューする修了生の皆さんをご紹介しています。映像翻訳の魅力や、JVTAを選んだ理由、受講中の思い出、今後の目標などを聞いてみました。

 

【英日映像翻訳】

 

◆T.Kさんさん、辻野亜沙子さん、平石麻衣さん
https://www.jvta.net/tyo/2023-9-ej-ojt/

◆合志亜希子さん、武政涼子さん、萩原恵礼さん、平松裕子さん
https://www.jvta.net/tyo/2023-8-ej-ojt/

◆小井戸亜由美さん、髙山智絵さん、茂貫牧子さん、Y.Yさん
https://www.jvta.net/tyo/2023-3-ej-ojt/

◆糸賀 恵美さん、高橋陽子さん、和田サトシさん
https://www.jvta.net/tyo/2022-8-ej-ojt/

◆西村もえさん、モドリュー克枝さん
https://www.jvta.net/tyo/2022-6-ej-ojt/

【日英映像翻訳】
 
◆佐久間結花さん、Francesca Boaraさん、山本晴美さん
https://www.jvta.net/tyo/2023-9-je-ojt/

◆Cynthia Caraturoさん、Betsy Linehan-Skillingsさん
https://www.jvta.net/tyo/2023-8-je-ojt/

◆江口正美さん、ヘイリー・スキャンロンさん、高木久理守さんさん、ローガン・ランプキンスさん
https://www.jvta.net/tyo/2023-7-je-ojt/

◆Simone Prioloさん、Adrian Godinezさん
https://www.jvta.net/tyo/2023-4-je-ojt-2/

◆Jennifer Waldmanさん、Christina Lozadaさん
https://www.jvta.net/tyo/2023-4-je-ojt

◆ダーナ・ソルタウさん
https://www.jvta.net/tyo/2023-2-je-ojt

◆Rychelle Brittainさん、ヘンダーソン仁美さん
https://www.jvta.net/tyo/2022-11-je-ojt/

◆下平里美さん、Y.Mさん
https://www.jvta.net/tyo/2022-10-je-ojt/

◆Annelies Voldersさん
https://www.jvta.net/tyo/2022-8-je-ojt

◆角脇 ジャスパー啓さん、菅井 桃子さん
https://www.jvta.net/tyo/2022-7-je-ojt2

 
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています!
◆翻訳の発注はこちら
https://jvta-group.com/
 

◆【入学をご検討中の方対象】
無料リモートオープンスクール申込受付中


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◆【映像翻訳をエンタメのロサンゼルスで学びたい方】
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【JVTAが字幕を担当】イタリアの短編映画上映会SIC@SIC2022が9月22日に開催!

9月22日(金)、イタリア文化会館ホールにて、「短編映画上映会SIC@SIC2022」が開催、イタリアの短編映画5作品が上映される。このうち、4作品の字幕をJVTAが担当している(1作品はセリフがない作品)。

 

SIC(国際批評家週間)とは、ヴェネツィア国際映画祭の独立部門の一つで、長編映画未発表のイタリア人監督による短編映画7作品によるコンペティションだ。すべての作品が世界初上映される。今回のイベントでは、昨年のSIC@SIC2022に選出された7作品から4作品、さらにコンペ外の1作品が上映される。5作品のなかに共通するのは変化や変貌が描かれていることだ。長くても約20分という短い時間の中に凝縮された各作品の魅力について字幕翻訳者に聞いた。

 

◆『アルベルティーヌ、どこ?』
Albertine, where are you?
監督:マリア・グイドーネ/2022/イタリア/フランス語・英語/ 20分

アルベルティーヌはマルセルの愛の対象であり、彼は彼女を得るためには何でもする。これは愛と所有と嫉妬の物語である。だが同時に、傲慢で不遜な自由の解放と回復の物語でもある。(公式サイトより)

「この映画は『失われた時を求めて』という20世紀初めに書かれたフランスの長編小説、およびその作者プルーストの人生が下敷きになっています。小説中の登場人物であるアルベルティーヌという女性を題材にカナダの詩人アン・カーソンが『The Albertine Workout』という詩を書き、その詩から着想を得てさらに物語を現代劇へ翻案したのがこの作品です。
描かれるのは男性から女性への愛、疑い、嫉妬、所有欲。異性愛と同性愛。やがて男女の性の境目、非現実(物語世界)と現実(作者の実人生)との境目が曖昧に揺らぎ、交錯していきます。

訳出に際しては『失われた時を求めて』のフランス語原文と既刊の日本語訳を参考にしました。原作の内容や雰囲気を尊重しつつ、原作を知らない初見の視聴者にも独立した1つの作品として理解してもらえるよう、訳語選びや文体に気を配りながら字幕を作りました。」
(字幕翻訳・足立せりなさん)

 
◆『ハッピー・バースデー』
Happy Birthday
監督:ジョルジョ・フェッレーロ/2022/イタリア/ロシア語・英語/20分

*コンペ外
2022年2月28日、モスクワ。エレクタ(ロシア人)とアニータ(アルゼンチン人)の二人の主人公は環境運動家のポッドキャストを通じてオンラインで出会う。そこで、Z世代の迷いと困難に声が与えられる。(公式サイトより)

「本作品では主人公の心の葛藤が描かれていますが、その葛藤がストレートに表されているのが鏡の中の自分と会話するシーンだと思います。世界中で起きている様々な問題の影響を被り、主人公が抱く無力感や怒り、不安が画面を超えて押し寄せてくるようでした。


また本作品はセリフのないシーンも多いのですが、描かれている感情とは相反するような映像の美しさが個人的にとても好きでした。本編の最後には作品の説明があり、この説明を読んでハッとする方も多いのではないでしょうか。


翻訳をするにあたって工夫したところは、比喩表現の訳出です。なるべく原文のままに、説明が必要だと感じた部分だけ日本語の表現を少し変えるなど、作品の雰囲気を壊さないようにバランスを考えながら訳出ました。また作品全体を通して主人公が置かれている状況を直接的に示すせりふは出てこないのですが、主人公がどんな世界にいるのかがなるべく伝わるような言葉選びを意識しました。」(字幕翻訳 小倉麻里矢さん)

 

◆『残されたものたち』
Resti
監督:フェデリコ・ファディーガ/2022/イタリア/イタリア語/13分

ある若者たちのグループに起こる出来事を描いている。彼らは休暇へと向かう旅のさなか、荒廃した場所に立ち寄り、そこで一夜を過ごすことになる。(公式サイトより)

「昔の記憶と現実世界とが、絶妙に入り交じって描かれている作品です。私はストーリー全体を理解するのに、少なくとも3回は視聴する必要がありました。あなたもきっと、夢を見ているような不思議な感覚が楽しめるでしょう。

登場するのは若者たちなので、若者らしい言葉遣いを心がけて訳出しました。話すスピードが速く、簡潔なセリフが多かったので、訳出すべき情報の取捨選択や、追加すべき情報を判断するのに苦労しました。また、短い作品ながら登場人物が多いため、お互いの関係性が視聴者にも伝わるように意識しつつ、自然なセリフになるよう字幕を作りました。字数を極限まで抑えてテンポのよい字幕になるよう心がけたので、じっくりと映像もお楽しみいただけたら幸いです。」(字幕翻訳・平岡洋子さん)

 

◆『ミス・イタリア』
Reginetta
監督:フェデリコ・ルッソット/ 2022/ イタリア/ イタリア語/ 15分

1950年代の南イタリア。リゼッタの美しさは貧困から脱出するための希望である。しかしそのために人々は、おそらくは到達しないだろう「もっと、もっと」を追い求め、残酷な行為を実行に移していく。(公式サイトより)

「本作品の登場人物は、いわゆる標準イタリア語と方言を交えて会話をしています。本編の映像には、方言の部分にイタリア語字幕がつけられていました。イタリア映画では、方言にイタリア語字幕をつけ上映されることがあります。地方色が色濃く残っている、イタリアならではのことではないでしょうか。(※)

 

本作品では、「方言」は識字率の低かった時代背景を表現するための小道具なのかもしれません。けれども、現代でもイタリアは方言の宝庫です。若者も誇らしげに方言を使います。「イタリア人」であることよりも「ミラネーゼ(ミラノっ子)」や「ロマーノ(ローマっ子)」といった、どこの出身であるかをアイデンティティにする国民性が、そこにも表れているのだと思います。地元愛にあふれるイタリアでは、方言が廃れてしまうことはきっとないでしょう。そんなイタリアという国の背景にも思いをはせて、観ていただけたらと思います。」(字幕翻訳・杉本ありさん)

 
※この作品では、イタリア語字幕が表示される箇所の日本語字幕は、縦字幕で〈〉つきで表示されている
 
◆『ノストス』
Nostos
監督:マウロ・ズィンガレッリ/2022/イタリア/台詞なし/15分

ディストピア的な世界を旅する二人。そこでは、人間とテクノロジーの関係が人間の現代、そして未来についての省察を生み出す。

 

 
昨今のイタリアで注目の5作品を堪能できる貴重な機会。お見逃しなく。

 

◆短編映画上映会SIC@SIC2022
開催日: 2023 年 9月 22 日
時間: 18:30
主催 : イタリア文化会館
入場 : 無料(公式サイトから事前予約が必要)
詳細・参加お申し込みはこちら
https://iictokyo.esteri.it/iic_tokyo/ja/gli_eventi/calendario/2023/09/proiezione-dei-corti-sic-sic.html

 

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スタントマンは耐死仕様の殺人ドライバー! カート・ラッセルin『デス・プルーフ in グラインドハウス』

【最近の私】Netflixで配信のノルウェー製ドラマ『ミステリーバス』が北欧版『世にも奇妙な物語』みたいで面白かったです。

 
俳優が似たような役を演じていると、観客から「また同じ役か」というイメージを持たれやすい。だから、俳優は普段と違った、変化球ともいえるキャラクターを演じたりする。今回は、カート・ラッセルが『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)で扮した殺人ドライバーを紹介したい。

 

『デス・プルーフ』の舞台は、テキサス。あるバーに女性グループが久々に集い、飲みながら恋愛話やいろいろな話題で盛り上がっていた。そんな彼女たちを、見つめている男がいた。この男は、スタントマン・マイク(カート・ラッセル)。自身の車のボンネットに骸骨のマークをペイントしている。数々の映画でスタントマンを務めてきたマイクは、自分がこれまで出演した作品について女性たちに語る。だが若い女性たちに「そんな映画知らな~い」と言われ、ムッとするマイク。おじさんが若い女性に自慢話をしたらフラれるような、笑える場面です。こんな感じで、映画の前半はガールズトークと、スタントマンおじさんの話が延々と続きます。だが、マイクは実は殺人鬼。バーで犠牲者となる若い女の子を探していたのだった。ここから映画は一気にシフトチェンジし、ホラー映画へと雰囲気が変わっていく。

 

マイクの愛車は、耐死仕様(デス・プルーフ)となっていて、スタントマンが車を運転して危険なアクション場面に挑む時に使うような特別車である。酔った勢いでバーを出る女性たち。マイクは愛車に乗り、暗闇で女性たちを待ち伏せていた。車を走らせながら話に夢中になっているガールズだち。そこに、反対方向からフルスピードでマイクが突っ込んでくる!女性たちは壮絶な最期を迎える。マイクも重症を負ったが、デス・プルーフ車のおかげで死は免れた。

 

ホラー映画では、殺人鬼がナイフやチェーンソーを持って殺人を繰り返す。だが本作でマイクが使うのは、特別仕様の車である。凶器を自動車にしたのが、この映画のユニークな点である。デビッド・クローネンバーグ監督の『クラッシュ』(1996年)で、自動車事故に性的興奮を覚える人物が登場していた。マイクも自身が傷ついても殺人を犯すという、変質的な面が垣間見られる。

 

カート・ラッセルは1951年マサチューセッツ州生まれ。10代から子役として映画に出演する。『ニューヨーク1997』(1981年)や『遊星からの物体X』(1982年)などのジョン・カーペンター監督作に出演。『バックドラフト』(1991年)では消防士、『デッドフォール』(1989年)では刑事など、タフな役が多い。

 

『デス・プルーフ』のクエンティン・タランティーノ監督が”物体X”“ニューヨーク”のファンで、彼を起用したという。のちの『ヘイトフル・エイト』(2015年)でも、タランティーノ監督はカートを再び起用している。カートはそれまで悪役(しかも殺人犯)を演じたことはないので、そんな意外なキャラクターを演じさせるのも、映画狂のタランティーノらしいチョイスといえる。

 

テキサスでの殺人から14カ月後、舞台はテネシー州に移る。この土地に、映画業界で働く4く人の女性たちが集まり、休暇を過ごそうとしていた。そして、ここにもマイクの姿があった。後半では、女性4人組とマイクの死闘となるが、そこからさらに意外な展開になる。その内容はここでは言えないので、未見の方はぜひ観てほしいです。

 

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Written by 鈴木 純一(すずき・じゅんいち)
映画を心の糧にして生きている男。『バタリアン』や『ターミネーター』などホラーやアクションが好きだが、『ローマの休日』も好き。
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戦え!シネマッハ!!!!
ある時は予告編を一刀両断。またある時は悪役を熱く語る。大胆な切り口に注目せよ!

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【2023.9】英日・OJT修了生を紹介します

JVTAではスクールに併設された受発注部門、メディア・トランスレーション・センター(MTC)が皆さんのデビューをサポートしています。さまざまなバックグラウンドを持つ多彩な人材が集結。映像翻訳のスキルを学んだことで、それぞれの経験を生かしたキャリアチェンジを実現してきました。今回はOJTを終え、英日の映像翻訳者としてデビューする修了生の皆さんをご紹介します。
 

◆T.Kさん(英日映像翻訳実践コース修了)
職歴:物流関連
 
【今後どんな作品を手がけたい?】
ロック音楽が好きなので、音楽や歌手にまつわるドキュメンタリーや映画、ドラマを手がけたいと思っています。また、スポーツ全般が好きなのでメジャーなスポーツのみでなく、
比較的マイナーなスポーツ(ハンドボール、クリケット)やエクストリームスポーツなどの作品にも携わりたいと思います。
 
【映像翻訳の魅力】
全文訳ではないということが一番面白く、難しい点で魅力だと思います。全ての情報を訳出できない中で、自分の調べたことや物語の展開などからどの情報を伝えるべきか考えることは他にはない面白さだと思います。また、調べものをすることや全スクリプトを読むことで作品を深く理解できることも魅力です。
 

◆辻野亜沙子さん(英日映像翻訳実践コース修了)
職歴:メーカー、特許事務所の事務職
 
【OJTを終えて】
OJTを無事終えることができてほっとしています。同時に、これからプロとしてお仕事を頂くにあたり、身が引き締まる思いです。これまで授業やOJTで学んだ事を活かし、初心を忘れず一つひとつのお仕事に向き合っていきたいと思っています。
 
【今後どんな作品を手がけたい?】
リアリティ番組やドキュメンタリーに挑戦してみたいです。ドキュメンタリーは歴史や伝記もの、自然に関するものなどの翻訳に興味があります。またエンタメ以外の分野の翻訳も経験してみたいと思っています。
 

◆平石麻衣さん(英日映像翻訳実践コース修了)
職歴:旅行会社や治験関連の会社にて勤務。現在はフリーランス字幕翻訳者。
 
【映像翻訳の魅力】
「映像翻訳は英語を訳すのではなく、登場人物の心を訳す」
映像翻訳の勉強をしてきた中で最も心に残った講師の言葉です。
作品を深く読み込んで理解しないと登場人物の心は訳せませんので、何度も映像を見て考察します。結果として、誰よりもその作品を楽しめてしまうことが映像翻訳の最大の魅力だと感じています。
 
【今後の目標】
現在は主にアニメ作品の字幕を手がけていますが、今後子供向け作品の吹き替え翻訳のお仕事もしたいです。そして、完成した作品を自分の子供たちと一緒に観ることが目標です。上の子供は字幕でも楽しめるようになってきたので、下の子供がまだ字幕を読めないうちにこの目標を達成したいと思っています。
 
★JVTAスタッフ一同、これからの活躍を期待しています!
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『Peter Barakan’s Music Film Festival 2023』が開催中! 音楽作品の字幕制作秘話を紹介

9月1日、角川シネマ有楽町で『Peter Barakan’s Music Film Festival 2023』が開幕し、ピーター・バラカン氏が選んだ音楽映画31作品が一挙上映中だ。ビリー・ホリデイ、ザ・バンド、ジョン・レノン、ザ・ローリング・ストーンズ、ビー・ジーズなど、豪華なラインナップ。このうちの2作品の字幕をJVTAの修了生、野村佳子さんと岡崎はなさんが手がけている。これまで、多くの音楽ドキュメンタリーやライブ映像の翻訳、歌詞対訳を手がけてきたお2人に、音楽作品の字幕制作秘話を聞いた。

 

◆『Dance Craze /2TONEの世界 スカ・オン・ステージ!』
字幕翻訳:野村佳子さん

Dance Craze
©︎ Chrysalis Records Limited.

【作品の見どころ】
『Dance Craze/2 Toneの世界 – スカ・オン・ステージ!』は、1980年に流行したスカ・リヴァイヴァルの熱狂を6組のバンドのライブ映像で捉えたドキュメンタリーです。スカは1950年代にジャマイカで誕生した音楽ですが、それが移民を通じてイギリスに渡り、1970年代後半にパンクと融合されて生まれたのが2トーンです。2トーンという言葉は、ザ・スペシャルズのレーベル“2トーン・レコード”から来ていて、ザ・スペシャルズのようなジャマイカ系移民と白人の人種混合バンドに由来しています。当時イギリスでは不況が続いており、不満の矛先が移民の人々に向きがちだった中、黒人も白人も一緒に踊れる音楽をという思いの上に、レーベルは設立されたのです。そういう経緯を知ると、見え方や聴こえ方がまた違ってきますよね。(野村さん)

 

【歌詞翻訳の前に社会的背景をリサーチ】
「本作の字幕は9割が歌詞だったので、訳すにあたりまず行ったのは、当時の社会的背景を詳しく知ることでした。というのも、若者たちの社会に対する不満や怒りから生まれた音楽は、何気ない日常を描いているような歌詞でも、メッセージが込められていることが多いからです。“この言葉は何かを隠喩しているのか?”と見落とさないように、でも深読みしすぎないように気をつけました。」(野村さん)

 

【言葉のトーンやカラーをバンドごとに差別化】
「今回は6組ともカラーが異なるので、それぞれのバンドの特徴をとらえることにも注力しました。2トーンの代表格であるザ・スペシャルズ、全員女性のボディスナッチャーズ、特徴的なサウンドのバッド・マナーズなど多岐にわたっているので、言葉のトーンの差別化もさりげなく意識しています。」(野村さん)

 

【歌詞とメロディーがうまく溶け込む字幕を演出】
「これはどの作品にも言えることですが、歌詞を訳す時は、聞こえてくる歌詞やメロディーに字幕がうまく溶け込めているかを重視しています。楽曲に浸りながら、リズムにノリながら、自然と字幕が頭に入ってくるか。音楽の邪魔をするような字幕は、私が観客だったら絶対にイヤなので、それだけは極力避けるようにしています。今回はスカというリズムが何よりも重要なジャンルなので、結構そこは苦戦しました。

 

劇場で観る皆さんには純粋に貴重なライブ映像を楽しんでもらいたいですね。自然と体がリズムを刻んでしまい、じっと座っているのがつらくなるはずです(笑)。また2トーン・スカならではのファッションも見逃せません。個人的にはマッドネスがオススメ。スカが好きな方、気になる方、夏の疲れをぶっ飛ばしたい方はぜひ劇場に足を運んでください。」(野村さん)

 

◆『Dread Beat and Blood/ダブ・ポエット リントン・クウェシ・ジョンスン』
字幕翻訳:岡崎はなさん

 

Dread Beat An' Blood
© 1979 The British Film Institute

【作品の見どころ】
『Dread Beat and Blood/ダブ・ポエット リントン・クウェシ・ジョンスン』は、ジャマイカ出身で11歳の時にイギリスに移住して活躍する詩人、リントン・クウェシ・ジョンソンの初期である70年代の姿を捉えたドキュメンタリー作品です。レゲエのリズムにのせて朗読するスタイルで、現在もコアなファンがいるアーティストです。歌詞は人種差別など社会的な内容が多いので、当時のイギリスの時代背景も描かれており、リサーチを重ねました。」(岡崎さん)

 

【「ブラックミュージックが好き」のアピールが多くの仕事に繋がった】
「元々、レゲエやヒップホップ、R&Bなどブラックミュージックが好きで、JVTAを修了時にアピールしたのをきっかけに、こうしたジャンルの作品の翻訳を沢山いただきました。ほとんどの作品がスクリプトなしなので、聞き取りができたのもお声がけいただいた理由かもしれません。馴染みのないジャンルに取り組む際は、まずリサーチで曲を聴き、いろいろな記事などを見てその作品に浸らないと字幕にその世界観が出せません。その点、好きなジャンルはすでにある程度の知識や世界観を知っているので楽しく取り組めます。どんなことでも好きな分野がある人は絶対にアピールしたほうがいいと思います。」(岡崎さん)。

 

【ニッチなジャンルを訳す時はリサーチが特に大切】
「この作品は、アフリカの言語と英語が融合したジャマイカン・クレオール(ジャマイカン・パトワ)で歌われています。好きなジャンルとはいえ、単語や語彙が英語とは少し違うので、聞き取りに苦労することも多々あります。このアーティストの場合は詩的で知的な作風なのでスラングなどが少なく、尺にも余裕があったので比較的訳しやすく、原音に合わせて同じ言い回しで日本語でも揃えたり、ルビをふって語感でリズム感を見せたりするなど工夫をすることができました。

 

自分に馴染みのないジャンルの時は、まずリサーチでさまざまな記事を見て知識を深めるのですが、ニッチなジャンルの場合、個人の書いたブログなどがヒットすることもあり、複数の情報を集めて裏どりに苦労することも。日本語のサイトが少ない時は英語やフランス語のサイトも利用するほか、同じジャンルの日本人アーティストの曲やインタビューをリサーチして、日本ではどのような言葉が使われているかを参考にすることもあります。」(岡崎さん)

 

【行間や曖昧さを伝える難しさ】
「歌詞の訳でいつも悩むのは、抽象的な詩をどこまで訳すかいうこと。リサーチをする中で、このことについて語っているのではないかという推測ができても、翻訳者の勝手な解釈で言い切ってはいけない。オリジナルの表現がいくつかの解釈ができるのなら、訳詞にも曖昧さを残して視聴者の理解に委ねることも大切です。これは歌詞を訳すうえで常に意識している点でもあり、難しいポイントです。実は私の母もJVTAの修了生で翻訳者なので、意見を求めることもあります。翻訳者は1人で作業することも多く、同じ翻訳者同士で客観的な意見を聞けるのは有難いですね。

 

リントン・クウェシ・ジョンスンの原点ともいえる作品を観られる貴重な機会。ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います。」(岡崎さん)

 

『Peter Barakan’s Music Film Festival 2023』では、このイベントでしか観られない貴重な作品もラインナップされている。音楽好きな人はもちろん、今後、音楽作品の翻訳に携わりたいという皆さんもどうぞお見逃しなく。字幕にも注目してほしい。

 

◆『Peter Barakan’s Music Film Festival 2023』

2023年9月1日(金)―9月21日(木)
角川シネマ有楽町
https://pbmff.jp/

 

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【2023年9月】日英・OJT修了生を紹介します

JVTAではスクールに併設された受発注部門、メディア・トランスレーション・センター(MTC)が皆さんのデビューをサポートしています。映像翻訳の仕事は映画やドラマだけではありません。特に日英映像翻訳ではマンガやゲーム、企業のPR動画など幅広いジャンルがあり、翻訳者が体験してきた職歴や趣味などを生かして活躍しています。今回はOJTを終え、日英の映像翻訳者としてデビューする修了生を紹介します。
 

◆佐久間結花さん(日英映像翻訳実践コース修了)
職歴:アパレル会社で翻訳・通訳業務、フリーランス翻訳者

 

【今後どんな作品を手がけたい?】
CommunityやCurb Your Enthusiasmなどのコメディ作品が好きで、時間があるときは常に観返しながらスラングやイディオムの研究をしています。他言語間でユーモアを伝えるのは難しいですが、コメディ作品の翻訳は今後是非挑戦してみたいジャンルです。最近ですと日本アニメ版Rick and Mortyのティーザーが公開されたので、いつか日英字幕翻訳に携わることができればと思います。

 

【今後の目標】
コロナ渦を機にカルチャーやライフスタイル系のYouTube動画を視聴するようになりました。映像作品にかかわらず、自分が好きだと感じたモノやコトの発信をどんどんしていきたいと考えているので、今後は字幕翻訳を通してアーティストやクリエイターの方とも繋がりを持っていきたいです。

 

◆Francesca Boaraさん(日英映像翻訳実践コース修了)
職歴:ゲームローカライザー、フリーランス翻訳者

 

【今後どんな作品を手がけたい?】
Being obsessed with TV shows lately, I’d really like to work on a TV drama someday. I’d also like the opportunity to work on feature films, a Ghibli film or one directed by Takeshi Kitano would be the top! During the course, I also came to love translating documentaries, because I always get to learn new things, so I’d love to have the chance to do that, too.

 

【今後の目標】
I’m looking forward to working on different media and genres as much as possible, because being a translator is a job that allows you to always learn new things.

 

◆山本晴美さん(日英映像翻訳実践コース修了)
職歴:20年銀行員で副業として経済学関連の翻訳。現在はフリーランスの翻訳・通訳・ビジネス英語講師を含む言語サービス提供者。

 

【日英翻訳の魅力】
「日英映像翻訳者を名乗るメリット」と言った方が正しいが、「研究」を口実に沢山の日本映画が見られる事。コースの始めに「映像のプロになれ」と先生に言われたが、確かに“I’m a subtitler”と名乗って小津安二郎監督や黒澤 明監督の作品を知らないなんて言えない。なので『羅生門』、『生きる』、『東京物語』等を見て、そのうちジャンルとして落ち着いた、奥の深い日本映画にはまった。自慢するが、ここ2カ月で11本の日本映画を見た。研究のために。

 

【今後どんな作品を手がけたい?】
ビジネス関連も得意だが(PR、IR関係)、エンタメ関連では自分の人生経験を生かしてヒューマンドラマ系を訳したい。結婚、子育て、親戚や同僚の間の複雑かつ微妙な人間関係。また高齢化や所得格差、ジェンダー等の社会問題にも興味がある。『PLAN 75』も衝撃的だったし、日本らしい日常を描いた是枝監督の『歩いても歩いても』、最近の『怪物』等で視聴者に日本の文化を味わいながら、作品として面白いと思うように訳せるようになりたい。

 
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明けの明星が輝く空に 第164回:ウルトラ名作探訪16 「恐怖の宇宙線」

怪獣は物語の都合上ワルモノにされるが、本能に従って行動する彼らの本質は決して「悪」ではない。反対に、人間の側に正義があるのか問われる場合もある。「恐怖の宇宙線」の主役である子どもたちにとっては、なんとウルトラマンこそワルモノであった。

 

ある日、ムシバと呼ばれる少年が、土管に怪獣の落書きを描く。彼がガヴァドンと名付けたその怪獣は翌日、現実のものとなって町に出没した。地球に異様な宇宙線が降り注いだことが原因らしい。ただその怪獣は、攻撃を受けても特に反撃はせず、やがて居眠りを始める。手をこまねいて見ているしかない科学特捜隊の面々。やがて日が暮れると、怪獣ガヴァドンは夕闇に溶けるように消えていった。

 

その夜、ムシバと友人たちが土管置き場に集まり、ガヴァドンを強そうな怪獣に描き直す。しかし、翌朝、再び出没したガヴァドンは相変わらず寝てばかり。それでも、ただいるだけで日本の経済活動はストップしてしまう。巨体から発するイビキが強風や騒音を生んでしまうからだ。3度目の出現の際、ついに戦車部隊による攻撃が始まった。ウルトラマンも登場するが、ガヴァドンへの攻撃に抗議していたムシバたちからは「帰って」という声が上がる。ウルトラマンがガヴァドンと戦う間、子どもたちはずっと口々に「殺さないでよー」、「やめてくれよー」といった声を上げ続けていた。

 

ガヴァドンは結局、ウルトラマンに抱え上げられ、空の彼方へと姿を消す。その夜、ムシバたちが空を見上げていると、ウルトラマンの声が聞こえてきた。毎年七夕の星空の中で、ガヴァドンに会えるようにしよう、というのだ。その言葉を聞いて喜ぶかと思いきや、「雨が降ったらどうなるんだよぉ」と不満げなムシバ。夜空にぼんやり浮かんだガヴァドンの目から、星が流れ落ちた。

おそらく、子どもたちに帰れと言われた特撮ヒーローは、この時のウルトラマンだけだろう。ウルトラマンのヒーロー性を否定したとも言える本作は、番組のコンセプトを覆す危険性をはらんだ作品だった。監督は、ウルトラファンなら知らぬ人はいないという鬼才、実相寺昭雄監督。脚本を書いた佐々木守氏とのコンビで撮った6本の作品は名作揃いだが、このようにヒーロー番組の王道から外れたものが多い。

 

そもそもガヴァドン自体、従来の怪獣のパロディと取ることができる。なにせ凶暴性はゼロ。攻撃されても反撃せず、寝てしまうのだから。そしてパロディ化は、科学特捜隊にも及んでいる。作戦会議でイデ隊員が、夜の間にガヴァドンの落書きを消してしまえばいいと妙案を出した場面だ。同僚のアラシ隊員は「科学特捜隊が落書きを消しに行けるか」と突っぱね、ムラマツ隊長も我々は正々堂々と戦うと大真面目に宣言するのだ。明らかにイデの意見の方が正論なのだが、ムラマツらは科特隊のあるべき姿に固執してしまっている。これは、マンネリ化した「怪獣出現→科特隊出動→攻撃」といった番組のフォーマット(常識)に対する皮肉なのだろう。

 

一般論として、常識や王道が大人のものとすれば、そこから外れるのが子どもである。作戦会議でのやりとりの後、場面が変わって夜の土管置き場。ムシバたちが集まってきていた。彼らは厳しい親の目を盗み、夜だというのに外出してきたのだ。常識的な親は子どもの安全を考えて夜の外出を禁ずるが、子どもからすればそれは束縛だ。そんな彼らにとって、絵という二次元の束縛から解き放たれたガヴァドンは、自由の象徴だったに違いない。いや、さらに言えば、ガヴァドンは子どもたち自身なのかもしれない。考えてみて欲しい。なぜガヴァドンは、日が落ちると姿を消す怪獣なのか。その設定のウラには、どんな意図があるのか。それはおそらく、夕方家に帰る子どもたちのメタファー、あるいはカリカチュアだからなのだ。

 

物語は最後に、大人と子どもの対比を描いて幕を閉じる。科特隊の面々が訪れた公園で、大勢の子どもたちがコンクリートの地面に絵を描いていた。中には怪獣の絵を描いている子もいる。再び特殊な宇宙線が降り注ぎ、第2、第3のガヴァドンが出現しないとも限らない。「自分の好きなものを描く自由は子どもたちにある」というナレーションが流れる中、困惑するハヤタ隊員(ウルトラマン)やムラマツ隊長らの姿があった。

 

「恐怖の宇宙線」におけるウルトラマンは、ムシバたちから見ればヒーローでも超人でもなく、大人たちの1人に過ぎなかった。普通なら感動的な場面になったであろう、七夕にガヴァドンと会えるようにしようと語りかけたところでも、「雨が降ったら」という“ツッコミ”を入れられてしまい、まったく立つ瀬がない。こんなふうにウルトラマンを揶揄してしまった実相寺監督は、自らの作品を「直球」ではなく「変化球」だと表現している。訳あってTBS局内で“干されていた”のだが、『ウルトラマン』で登板。番組を撮りたくてウズウズしていたのか、「恐怖の宇宙線」からは人と違ったことをしてやろうといった意気込み、自己主張のようなものが感じ取れる。そして、そんな監督の企みからは、たとえウルトラマンといえども逃れられなかったのである。

 

「恐怖の宇宙線」(『ウルトラマン』第15話)
監督:実相寺昭雄、脚本:佐々木守、特殊技術:高野宏一

 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
JVTA修了生。子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】大学の後輩に誘われ、数年ぶりに劇場で芝居を観ました。舞台の演技は映画・テレビと全然違うもんだなあと、今さら気がつきました。でも一番驚いたのはチケット代。観劇って贅沢な趣味なのだなあ。

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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る 

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