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これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第102回 “REASONABLE DOUBT”

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第102回 “REASONABLE DOUBT”
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今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

第102回“REASONABLE DOUBT”
“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
 


 

ファッショナブルでセクシーな本格リーガル・メロドラマ!
“Grey’s Anatomy”、“Private Practice”、“Scandal”(本ブログ第7回参照)、“How to Get Away with Murder”(本ブログ第12回参照)を生んだ名プロデューサーが、ションダ・ライムズだ(※)。本作はライムズの「弟子」による一作で、Huluが制作しDisney+が配信する。
 

“Reasonable Doubt”は、美貌と頭脳を兼ね揃えた黒人女性弁護士の野心と葛藤を活写する、ファッショナブルでセクシーな本格リーガル・メロドラマなのだ!
 

(※)ライムズの軽妙で真摯なエッセイ『Yes ダメな私が最高の人生を手に入れるまでの12カ月』(“Year of Yes”、2015)もお勧めだ。ドラマ制作の裏側をのぞき見できる。
 

“You’re built to win, Jax”
ジャクリーン(ジャックス)・スチュワート(エマヤツィ・コーリナルディ)は、ロサンゼルスの富裕層向け大手弁護士事務所のエースだ。彼女は美貌と頭脳と野心を武器に、唯一の黒人パートナー(共同所有権を持つ弁護士)となった。
ジャックスの夫ルイス(マッキンリー・フリーマン)はビデオゲーム・プログラマーで、2人の間にはティーンエージャーの息子と娘がいる。
 

ジャックスは郊外の大邸宅に住み、テスラに乗り、デザイナーズブランドの服で出社する。だがワーカホリックのジャックスと支配欲の強いルイスとは喧嘩が絶えず、今は別居中だ。反抗期の息子からは嫌われ、両親との関係もギクシャクしている。彼女は見た目ほど幸せではない。
 

ジャックスの事務所が、酒造大手クラウト社のCEOブレイデン・ミラー(ショーン・パトリック・トーマス)から訴訟対応の依頼を受けた。ブレイデンはある女性幹部から、レイプされたと脅されていた。事実無根だが、金で解決したいという。現在クラウト社の売却交渉が最終段階で、この時期のスキャンダルは避けたいのだ。
 

訴えた女性幹部は示談を断った。そしてテレビインタビューの前夜に、自宅で殺された。
 

警察はブレイデンを殺人容疑で逮捕した。証拠は山ほどあった。マスコミが喜ぶセレブの大事件だ。

刑事事件の専門家ジャックスが、ブレイデンの弁護を担当することになった。
 

一方、殺人罪で16年服役していたデイモン・クック(マイケル・イーリー)が仮釈放され、ジャックスの前に姿をあらわす。デイモンはジャックスの公選弁護人時代の依頼人だった。当時彼の無実を信じたジャックスは、司法取引を断って裁判に臨んだ。結果は有罪で、デイモンは25年の懲役となった。純粋で未熟だった彼女にとって、苦い経験だった。
2人は惹かれ合っていたが、デイモンは今でもジャックスを想っている。
 

ブレイデンの弁護に集中すべき大事なときに、ジャックスの心が乱れ始めた。
 

エマヤツィ・コーリナルディの一人舞台!
エマヤツィ・コーリナルディは長いキャリアを持つ実力派アクターで、代表作はリブート版“Roots”あたりか。こなれた中にケレン味たっぷりの演技を取り混ぜる技巧は、初の主演とは思えない。本作は、タフだがセクシー、ジコチューだが思いやりがあり、大胆だが繊細なジャックスを体現するコーリナルディの一人舞台だ。
 

ジャックスを取り巻く3人の男たち、—ルイス役のマッキンリー・フリーマン、ブレイデン役のショーン・パトリック・トーマス(“The District”)、デイモン役のマイケル・イーリー(“Almost Human”、“Stumptown”)が、それぞれクセのある演技でうさん臭さを競い合う。
 

またKYな調査員ダニエル役のティム・ジョー(“Pitch”)、有能だが鬱陶しいアシスタントのクリスタルを演じるアンジェラ・グローヴィーが、コミックリリーフとしてドラマのスパイスとなっている。
 

“soapy”で“seductive”な“guilty pleasure”!
ショーランナー(兼共同脚本)のラームラ・モハメッドはションダ・ライムズに師事し、“Grey’s Anatomy”の製作アシスタントを経て、“Scandal”の脚本に加わった。本作はまさにライムズ・テイストだが、法廷ドラマの側面にウェイトを置くことで独自色を出している。

尚、この作品は実在のセレブ弁護士ショーン・ホリーをモデルにしていて、同名の小説・映画とは無関係だ。
 

ジャックスはマイノリティである立場を最大限に利用し、法律を拡大解釈し、倫理的にも問題がある行動をとる。だが味方にするとこれほど頼りになる弁護士はいない。一方で、夫、息子、母親、義父、友人、元依頼人に振り回される悩める女性だ。ジャックスの複雑なキャラが、本作最大の魅力となっている。
 

舞台は嘘と欲望とマネーの渦巻く世界、描かれるのは泥沼の法廷劇と醜悪な恋愛劇。魅力的だが高慢な女性弁護士に、コントロールフリークの歪んだ性格の夫、暴力的だが臆病な前科者を絡めた湿った三角関係が展開する。そして迷走する大金持ちで節操のない殺人容疑者—
 
彼らが織りなす人間模様には程よい低俗性と強い中毒性があり、ついつい“binge-watch”してしまう。こぶしの効いた「ライムズ節」が唸っているからだ。
 

“Reasonable Doubt”は、高尚さはないが贅沢感はある、“soapy”で“seductive”な“guilty pleasure”(罪のない密かな楽しみ)。美貌と頭脳を兼ね揃えた弁護士ジャックスの野心と葛藤を活写する、ファッショナブルでセクシーな本格リーガル・メロドラマなのだ!
 

原題:Reasonable Doubt
配信:Disney+
配信開始日:2022年9月27日~11月15日
話数:9(1話 49-58分)
 

<今月のおまけ> 「My Favorite Movie Songs」 #75
Title: “The Long Goodbye”
Artist: composed by John Williams and performed by Jack Sheldon
Movie: “The Long Goodbye” (1973)

映画・原作ともハードボイルドの名作。曲はジョン・ウィリアムズの隠れた佳作。
続編の『探偵マーロウ』(“Marlowe”)は、リーアム・ニーソン主演で6月16日に公開決定!
 

写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
 
 



 

※※特報
同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
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